真・百錬の覇王と誓約の戦乙女と鉄血のオルガ   作:海色 桜斗

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Twitter上で告知してた時間より一時間以上遅れたので、初投稿です。

……申し訳ない。





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第二話「勝利の御子、覚醒」

「――頼む、我が祖国を守る為、その力、貸してくれないだろうか……!?」

 

ルーネという少女の切実な願いを聞いてから、一週間後。周防勇斗とオルガ・イツカ、三日月・オーガスの3名は《狼》の当主、ファールバウティに正式に共に戦う協力者として認められ、要塞の中の一室を自室として与えられた。しかし、最初から実力を見せたオルガと三日月とは違い、どの程度の実力かすら分からない勇斗は兵士達に中々受け入れられずにいた。

 

「はは……前途多難だな」

 

オレが元居た現代と違って、衛生面が完全に管理されているわけでない為、水や食料を口に運ぶたびに食中毒に襲われ、鍛錬に参加しては体の限界が先に来る。挙句の果てに町の人々からは『アンナル』『スコル』等と呼ばれ、馬鹿にされる始末。オレの華々しい異世界生活ライフはいきなり窮地を迎えていた。

 

「兄貴とミカさんは平然と食べたり飲んだりしてるんだけどな……」

 

「別に、普通でしょ」

 

「いや、オレからしたら全然普通じゃないんスけど……」

 

初召喚時のあの騒動の後、フェリシアによって届けられたオレが元の世界で所持していたスマートフォン。それについて説明しようとして、写真フォルダをタップして出てきた写真に映っていた少女の姿……一緒に神社に行って、この世界に来るときに離れ離れになった幼馴染みの志百家美月。あの場でオレだけがこの世界に転移に巻き込まれたなら、彼女はきっとまだあちら側の世界にいる。

 

「まぁ、何でもいいけど。今日も鍛錬、やるよ」

 

「……了解DEATH」

 

そして、もう一つ分かったことがある。それは、召喚されたはいいが、気軽に元の世界には戻れないという事。伝承を基にするなら、一ヶ月後の満月になるまで、合わせ鏡の効果は発動しない。つまり、この世界で既に用済みお払い箱なオレが幼馴染みの彼女と再会する為には、この世界で一ヶ月過ごさねばならなかったのだ。

 

「そう言えば、兄貴は?」

 

「オルガは髭のおっさんの所。次の戦いに備えて話があるんだって」

 

「流石、兄貴。出世が早くて羨ましいぜ」

 

もう、最初にこの世界に来た時の様に自分が勇者であるという夢を見てはいない。むしろ、フェリシアの言う『勝利の御子』とやらはもしかしたらオレなんかじゃなくてオルガ達なのではないか、そう思えるほどにもう全てが燃え尽きていた。

 

「じゃあ、先に行ってるから。後で必ず来てね、ユウト」

 

「……はい」

 

先に修練所へ向かうミカさんを見送り、今日も生きるために飯を喰らう。日々増えていく屈辱に耐えながら。現実世界でオレの帰りを待っているであろう幼馴染みに再会するために。

 

 

Side Change...周防勇斗 → 三日月・オーガス

 

 

「ふっ……ふっ……!」

 

修練所について間もなく、三日月は日課の筋トレに励んでいた。いつも来ている鉄華団のマークが入った年期あるジャケットと紺色のタンクトップを脱ぎ捨て、上半身を裸の状態にして懸命に寡黙に取り組んでいた。時代背景的に外でも上半身が裸というのは別に気にされるものではなく、三日月も特にそういう邪魔が入らないことに割と安心感を抱いていた。

 

「す、すげぇ……流石は白い悪魔」

 

「俺もあんながっちりした肉体、敵兵のかなり強い奴のしか見た事ねぇぜ……」

 

その様子を剣の素振りをしながら見つめる、ムスッペル隊の兵士達。勿論、訓練中に余所見をするなとルーネに思い切り叱責されていたが。それでも、見惚れずにはいられなかった。

 

「くっ……んっ……ふっ……!」

 

そして、兵士達が見ていたのは何もその身体つきだけではなかった。三日月の背中、首元にある他の人間には付いていないはずの三つの尖った物体。そう、三日月が元の世界で幼少期に受けた阿頼耶識を埋め込んだ手術跡である。

 

「あれも鍛えたら出てくるもんなのか……?」

 

「いや、もしかするとアレが白い悪魔である所以なんだろうよ、きっと」

 

一人の兵士が口にしたその推測は、正確には違うが、大体合っている。この阿頼耶識がなければ三日月は愛機のバルバトスを動かすことが出来ない。ただし、それは元の世界にいた時の話ではあるが。

 

「そこのお前達、また余所見をしているな、いい加減にしろ!」

 

「「は、はい!すみませんでした、隊長!」」

 

ルーネから二回目の叱責を受け、流石の彼等もこれ以上はマズいと思い、訓練へと戻った。話し込んでいた兵士達が避けたことにより、ルーネのいる位置から三日月の姿が見えるようになる。そこで、ルーネは初めて三日月がすぐ近くにいる事を気配だけでなく、姿で捕らえることが出来た。

 

「……(やはり、奴も此処にいたか。相手の気を感じ取れる性質も中々に厄介だな、奴の前では)」

 

ルーネは「月を喰らう狼(ハティ)」という相手の脅威を嗅覚で感じ取れる力を持つルーンの所有者だ。だからこそ、感じ取れる。《世界の破壊者》オルガ・イツカを守護する一柱《白い悪魔》三日月・オーガスに隠された研ぎ澄まされた獣のような本性を。次代の「最も強き銀狼(マーナガルム)」と呼ばれた彼女でさえも危惧する程の力を。

 

「……何?」

 

ついうっかり彼の姿を繁々と眺めすぎていた、と気づいたときにはもう遅い。その視線に気づいた三日月が痺れを切らして、ルーネに要件を問う。

 

「い、いや、すまない。何でもないんだ」

 

「ふーん……そっか」

 

唐突な質問に焦ったルーネは、何でもない、と謝罪してしまう。一方、そんな彼女の言葉を聞いた三日月は、彼女から途端に興味をなくし、再び筋トレに励み始めるのであった。

 

「……(げに恐るべきは白い悪魔、か)」

 

そんな事を思った時、彼女はふと疑問に思った。自分が聞いていた伝承では《世界の破壊者》オルガ・イツカを守護する者はあと二人いたはずであった。が、今こうしてオルガと共にいるのは、この三日月・オーガス只一人。他の二柱は何処にいるのだろうか。

 

「な、何度もすまない、三日月。少し貴殿らについて質問があるんだが、いいか?」

 

「……いいよ、答えられる範囲でだけどね」

 

彼女が勇気を振り絞って、三日月にそう声を掛けると、ほんの僅かな沈黙の後、三日月がそう答えた。彼女は安堵の息を漏らすと、伝え聞いた伝承の齟齬について質問を続けた。

 

「その、私が聞いた貴殿達の伝承には、オルガ・イツカを守護する者として貴殿以外にあと二人いたはずだ、その二人は今何処にいるのだ?」

 

「それってもしかして、シノと明弘の事?」

 

シノと明弘。彼は確かにそう口にした、という事はその名前の人物こそが残る二柱ということになる。彼女はその返された問いに力強く頷いた。

 

「それはちょっと分かんないや。多分、こっちにも来てるんだろうけど」

 

「わ、分からないのか?しかし、貴殿らは眷属であるなら魔力的なもので繋がってるのではと」

 

「眷属、とかそんな関係じゃない。俺達とオルガは、家族だ」

 

その答えを聞き、ルーネは驚いた。仮に三日月の言う通りだとすれば、自分の伝え聞いた伝承と大分齟齬が発生していたものだと理解できる。ならば、何故、彼らはそう揶揄されたのだろうか。

 

「それとさ、さっきアンタは伝承がどうとか言ってたけど。それ、誰から聞いたの」

 

三日月が先程の彼女の質問から引っ掛かった点について、彼女に尋ねる。これは当然と言えば当然だろう。伝承とは通常であれば、その世界の史実に基づくものだ。だが、その伝承に何故か異世界から来訪した自分達の事が書かれている。彼らが今まで旅してきた世界では、このようなイレギュラーは起こったことがない、これを異常と言わず何という。

 

「アストラル帝国の神官でいらっしゃる、アレクシス様だ」

 

「そっか。じゃあ、今度ソイツにあったら、間違ってるよって伝えてくれる?」

 

彼女がその人物の名を挙げた事で、その人物に指摘するよう、平然とルーネに伝える三日月。幾ら権力を持っている相手だとしても、間違っているなら指摘する。その忠告を無視するだけなら、それ以上の事はしない。逆手にとって襲い掛かってくるようなら潰す。三日月・オーガスとはそういう人間だ。

 

「そ、それは無理だ!相手は帝国の神官様だぞ!?」

 

「そっか。じゃあ、いいや。もし、俺が直接会ったら、その時に言うから」

 

この男とアレクシス様を直接合わせるわけにはいかない、と心の中でそう思ったルーネであった。例え直接的な害は与えずともそれが帝国への反逆と捉えられる気がした。もしそうなってしまえば、隣国との戦いでの勝ち負けに関わらず《狼》は滅ぶことになる。危惧するのは、当然の事だった。

 

しかし、今の自分にはこの強大な力を持つ《白い悪魔》に勝てる術はない。それは、一週間前のあの日、既に分かっていた事だ。では、どうすれば止めることが出来る?ルーネが心の中でそこまで慎重に議論を重ねた時、三日月はルーネを一瞥すると、こう言った。

 

「もしかして、此処でそういうのは駄目だったりするの?」

 

それは、いい意味で三日月らしからぬ問いだった。そう、彼等はただ単純に異世界の旅を繰り返しているわけではない。どんな世界であっても、「自分達の本当の居場所」を探して旅をする。その為ならば、例え自分達の世界で守らなくても良かった暗黙のルールや決まりみたいなものも守り切れる範囲で戦う。彼等が異世界で身に付けた、新たな戦略の一つだった。

 

「あ、あぁ。余り波風は立てないでいてくれると、助かる」

 

「そっか。今はまだその時じゃないって事だね」

 

そう発言した後、三日月はまた自己の鍛錬に戻っていった。一方のルーネはと言うと。

 

「私もまだ研鑽が足りていない、そういう事か」

 

自分が信じてきた伝承の、秘匿されてきた見えざる知識を前に、彼女は自身の不甲斐無さを改めて実感したのだった。

 

 

Side Change...三日月・オーガス→ オルガ・イツカ

 

 

「ミカは相変わらず人気者だな」

 

城の中から中庭を見渡せる窓辺に佇む男が一人。そう、彼こそこの世界で《世界の破壊者》と恐れられた人物、オルガ・イツカである。幾つもの世界を巡って得た圧倒的なカリスマ力と戦全体を指揮する力が評価され、《狼》軍が他の氏族と戦う際の作戦参謀として見事なスピード昇格を果たしていた。そして、今は次の戦に備えての作戦会議の帰り。共にこの世界に来た三日月の様子を見ていつも通りだと安心していたのだった。

 

「オルガよ。急で済まぬが、この年寄りに少しばかり時間をくれぬか?」

 

「親父……」

 

その時、オルガの後ろから現れたのは、この《狼》の現宗主であるファールバウティだった。オルガと三日月の両名は既に戦場においての実力を評価され、宗主直々の盃をも受けている。ファールバウティにとってはオルガは実の息子のような存在、オルガにとっては実の父親のような関係にまでなっていたのだ。

 

「先ずは先日の戦いでの働き、感謝せねばなるまいな」

 

「いえ、あの結果は俺だけの力じゃないっすよ。経験豊富なロプトの兄貴がいてくれたからだ」

 

「ふふ、そう謙遜せずともよい。寧ろ、お前の機転で乗り切れたものもあると他の者から聞いている」

 

親子の盃や兄弟の盃等はオルガ達が元々いた世界にもあったものだ。それ故にその盃を受けた後に背負う責任の重さを彼は十二分に知っていた。だからこそ、今自分が出来る最善の手を前線を常に支え続けるロプトと共に戦場の指揮を奮い続けていたのだ。

 

「ところで、お主と共に来た《勝利の御子(グレイブジーク)》殿だが」

 

「勇斗の事か。俺はアイツはアイツなりによくやってると思いますよ。戦いなんてもんと無縁の世界から来てんのに何とか慣れようと必死になってる。だから、俺はアイツの力にもなりたいんです」

 

三日月の他に共にこの世界に来た勇斗の事については、度々一緒に行動する事の多い三日月から報告を受けていた。彼が元居た世界と違って、全ての生活のライフラインの衛生面が完璧に保たれているわけではないのに、生きる為にそれを食べて過ごさねばならない。一週間ではまだまだ慣れには遠く、それなりの時間をかけて徐々に慣らしていかねばいけない。転生する事に慣れてしまったオルガ達にはもう味わう事の出来ない人間味のある、その欠点を抱えながら生きている勇斗があまりにも眩しかったのだ。

 

「お主がそこまで意気込んどるんじゃあ、特に心配はなさそうじゃな」

 

「えぇ。それに、アイツには磨けば光る何かがある、と感じましたんで」

 

勇斗と初めて出会った時に、オルガは既に感づいていた。戦闘面では経験の差で劣るとしても、それ以外の彼の特化した何かが今の《狼》の状況を打破する力になると。初の異世界への旅路で出会った望月冬夜。彼の神の恩恵を過剰に注がれて開花したものではなく、その個人が本来持ち合わせている固有のもの。それがいつの日か開花する日が来る。そう、オルガは読んでいた。

 

「ふむ、それはまことに興味深い話よ。して、お主には何が見えた?」

 

「まだはっきりと分かった訳じゃありません。ただ、アイツは《狼》の未来を担える存在になるかもしれない、そう思いました」

 

「成程のぉ、では、その時を今後の楽しみとしておくとしよう」

 

《狼》の宗主ファールバウティは、彼のその言葉に何処か満足げに頷くと、そのまま自室の方へ歩いて行き、窓辺には、窓の外の景色を幸せそうに眺めるオルガ一人が残された。

 

「そういやぁ、マクマードの親父は元気にしてるかな」

 

この世界で親子の盃を交わしたファールバウティを見ていて、彼は元の世界で未だ生きているであろう元の世界で親子の盃を交わした男の事を思い出していた。今の自分はこうして異世界の旅を楽しんでいるが、何せ向こうの世界には残してきたものが多すぎた。

 

「まぁ、親父のとこにはアジーさん達もいるから心配いらねぇか」

 

名前はもう忘れたが、一番の厄介所であるケツ顎の下種野郎を葬ってきたのだ。名瀬の兄貴が残していった元タービンズの面々に支えられて安泰な日々を送っている事だろう。

 

「ユージン達は無事やっていけてるよな。勿論、ライドとチャドもよ」

 

かつて鉄華団副団長として、自分とは違う位置から団員たちの世話を焼いていた盟友と、自身が打たれて殺された現場に居合わせた2人の団員の名前が浮かぶ。

 

「いや、あっちには、蒔苗の爺さんとクーデリアさんもいるんだ、きっと心配いらねぇさ」

 

オルガがそう呟くと同時に何やら中庭の方で大きな喧騒が起こり始める。仕方がねぇな、とオルガは疲労の溜まった重い腰を上げ、中庭まで歩いていく。その道中で向こうの世界に生きる彼らに届くはずのない言葉を残して。

 

「俺はまだこうして止まってねぇからよ。だから、お前らも止まるんじゃねぇぞ・・・・・・!」

 

自らが団長として最期に届けられたであろう団長命令が廊下に響き渡る。お前らの信じた《鉄華団》団長オルガ・イツカは別の世界で元気にやっているぞ、とそんな思いを込めて。

 

 

Side Change...オルガ・イツカ→ 周防勇斗

 

 

「くそっ、何でこんなことに……」

 

朝、三日月に言われた通り、修練所である中庭に勇斗が出向いたところ、彼の行く手にいきなりルーネが立ちはだかり、彼に宣戦布告をしてきたのだった。

 

「周防勇斗。一週間前は色々あって出来んかったが、今日こそお前の力、量らせてもらうぞ!」

 

三日月の襲来によって、あの後に起ころうとしていた模擬戦の決闘が、この場に万全な状態の両名が揃ったことで勃発してしまったのである。勿論、これには他の兵士達も気分が上がり、いつの間にか両名の周囲には人だかりが出来ていた。これでは容易に抜け出すことさえ叶わないだろう。

 

「何も出来ぬし、腹も据わっていない。そんなお前が果たして本当にフェリシアの言う通り勝利の御子(グレイブジーク)であるのか、それともよく似た紛い物なのか。これではっきりするはずだ」

 

因みに、これを遅らせる原因を作った当の本人である三日月は兵士達によって特等席に呼び出され、そこで黙々と様子を見守っていた。

 

「……(まぁ、幾ら俺がこの世界で弱かろうが、相手は女の子だし)」

 

戦争の概念が薄い世界で生きてきた彼は咄嗟にそう思う。だが、それは根本的に間違いである。例え、限界的な力量に男女差はあっても、ここは戦場の絶えぬ世界。力で翻弄する男に対し、洗練された技術と応用力で自分よりはるかに大きい男を討った女剣士の存在もそこまで珍しくない此処では、その常識は全く通じない。そして、何より。

 

「っ!?」

 

それは、男の方が女の限界量を越えていた時の話。幾らこの世界に来る前は父親の職業柄、剣術に相当腕があった彼ではあるが、鍛錬を毎日欠かさず行っていたわけでもなければ、その技術をぶつけ合い高め合う場があったわけでもない。つまり、筋肉量及び実力さえも彼女に劣っていたのなら、話は別である。

 

「ぐっ、ぐあぁあああああっ!?」

 

彼が彼女に切りかかる前に、既に彼女は彼の間合いに入っており、その剣は容赦なく彼の肩に鋭い一撃を加える。当然の如く、激痛が走り、その場に膝をつく。経験、鍛錬、技術。そのどれもがこの世界で彼には足りな過ぎたのだ。

 

「ふん、やはり思った通り。いや、それ以下か」

 

その程度では一兵卒としても使い物にならんな、とルーネは彼を一蹴する。そして、彼らの周りを囲っていた兵士達の殆どが興味をなくして、鍛錬に戻り始めた。

 

「お前も見ていただろう、三日月。この男はてんで使い物にならん」

 

「うん、遅いね」

 

ルーネが三日月に話を振ると、三日月も一言でバッサリと切り捨てる。だが、彼は何かを感じ取ったのか他の兵士達の様にその場から離れようとはしなかった。

 

「待てよ……もう一本だ!」

 

想定以上の攻撃を受け、未だに痛みが走る肩を抑えながら、勇斗は立ち上がった。その表情には苦痛が浮かんでいるが、瞳はまだ熱意を失っていなかった。これには、流石のルーネも驚きを隠せないといった表情で彼に再び向き直る。

 

「ほぅ、まだ痛い目を見たいか。随分と酔狂な奴だな」

 

「いいぞ、今度は貴様からかかって来い。軽く揉んでやろう」

 

そんな彼女の挑発的な態度を受けながら、勇斗は再び剣を握り、構える。流石の彼でも今の一撃を受けて、彼女との歴然の差を思い知った。侮っていたのは、彼女の方ではなく自分の方だと。まともにやり合って勝てる相手じゃない、そう気づいた。けれど、だからこそ。

 

「女の子相手に無様晒したまま終われるかよ……ッ!」

 

叫び、彼女の間合いに詰め寄り、剣を振るう。しかし、その剣戟は意図も容易く彼女に防がれてしまう。彼女は未だ冷静さを保ったまま、彼の繰り出す剣戟を捌き続ける。

 

「全くなっていないな。踏み込みが甘い、脇を閉めろ」

 

1ミリも掠ることなく、華麗に剣戟を捌いていくルーネ。更に、そこに動きが加わり、彼の重心が徐々にブレていく。

 

「どうした?只でさえ鈍い動きが、更に悪化してきているぞ」

 

おまけに動きが付いたことで彼の体力の限界が訪れようとしていた。そこからの焦りが、かえって命中精度を下げる。

 

「体力も限界のようだな。やはり、只の負け犬の遠吠えだったか」

 

「うる、せぇ……なッ!!」

 

大振りで掠めた一撃を再び勢いに乗せて彼女に向かって放つ。しかし、そんな勢い任せの一撃は。

 

「甘い」

 

彼女の太刀筋であっさりと弾き返されてしまう。そして、そのまま彼の手に持っていた剣は宙に放り出され、遠く離れた地面に転がった。

 

「ふーん……」

 

勝利を確信した彼女は、その場で溜息をつき、三日月は何時ものように火星ヤシを頬張る。が。

 

「……甘いのは、そっちだろ!!」

 

「!?」

 

「やるな、アイツ……」

 

剣を失った勇斗が彼女の間合いに素手のまま入り込み、彼女の下半身を抱きしめるように掴み、押す。三日月がそれまでの評価を改め感心する程の、相手の一瞬の隙を突いた、見事な一手だった。

 

「……あれ……?」

 

しかし、勇斗がこの短時間で思いついたこの攻略法は、残念ながら正確に決め手とはならなかった。彼が幾ら押せども彼女は一向に倒れない。そう、ここでも結局は鍛錬の差が浮き彫りになったのである。

 

「(もしかして、傍から見たら俺、かなりヤバい位置に顔を突っ込んで……)」

 

「……」

 

ゴッ、と鈍い音がして、彼は地面に倒れ伏した。散々格好つけた割に、実に格好がつかない終わり方であった。

 

 

「では、医務室へ運びますねー」

 

「ユウト様ッ、御無事ですかっ、ユウト様ー!?」

 

その後、医療班とその知らせを受けてすっ飛んできたフェリシアに介抱されながら、医務室へ運ばれていく勇斗。そして、そんな勇斗の姿を傍から見つめる男が二人。三日月・オーガスとオルガ・イツカであった。

 

「オルガ、さっきの見てた?」

 

「ちょいとばかし遠目ではあったけどな。だが、いいもんが見れた。そうは思わねぇか、ミカ?」

 

「だね」

 

もう兵士達も何処かへ去ってしまったその場所で、彼らはその光景にほんの少しの希望を見ていた。

 

「もうちょっと覚悟が据われば、中々の大物になるかもしれねぇ、だろ?」

 

「うん、ああいうのを咄嗟の機転で出せるのは、やっぱ凄いね」

 

「あぁ、これは益々成長が楽しみになってきたって感じだな」

 

「……」

 

彼の意外な一面を見た彼等と、僅かとは言え彼に不意を突かれてしまったルーネ。この機転の利く柔軟な発想こそが彼がその後、《狼》の新たな宗主として君臨する日の最初の兆候であった事を、その場にいた彼等だけが知っていた。

 

                                                                    第二話・完

 

 

 

 

~次回予告~

 

噂の《勝利の御子(グレイブジーク)》として、その片鱗を見せ始めた勇斗。そして、その世界で再び一ヶ月の時が経った時、彼は再び元いたの世界へ戻れるのか。それとも……

 

 

次回、「真・百錬の覇王と誓約の戦乙女と鉄血のオルガ」第3話「二人の兄貴」

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ。

 

 

 




この話で出てきたガンダムフレーム乗りの二人も後々登場させることを考えてます。

わぉ、三日月だけでもアレなのに超過剰戦力。ご期待ください。

……ノルマ少ないのは、ご愛敬。

※アンケートの詳細、決定いたしました。此方をご参照下さい。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=250720&uid=50159

今後の展開について

  • 動画本編辺りまで、早よ
  • このまま主人公の掘り下げで
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