デモンスレイヤー【鬼滅×忍殺】   作:hynobius

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(前回までのあらすじ:突然の十二鬼月の襲撃によってドラゴン・ドージョーは壊滅した。九死に一生を得たフジキドは、師の言葉を頼りに鬼殺隊の最終選別が行われるという藤襲山を目指す)


「レック・ザ・ロングタイム・オブセッション」
#1


月の光を受けて、無数の藤の花が揺らめいている。(…まるでユーレイの手みたい)神秘的と評する者もいるだろう光景だが、今の真菰にはどうにも気味の悪い連想を禁じ得なかった。緊張なんて柄でもないのに。そうひとりごち、息を深く吸う。噎せ返るような薫りが胸の奥まで染み込んできた。

 

藤襲山はその名通り、麓から中腹まで季節を問わず藤の花に覆われる。その藤の花が途切れるあたり、やや開けた広場の片隅に真菰は佇んでいた。これからこの場所で、鬼殺隊入隊のための最終選別が行われる。厳しい修行を乗り越えてきた真菰だが、聊か不安を感じるのも無理はなかった。

 

鬼の嫌う藤の花に囲まれて、この山は天然の牢獄と化している。故に鬼殺隊は長らくここを最終選別の場としてきた。生かして捕らえた鬼をこの山に放ち、隊士候補たちがその中で生き残れるかどうかを試す。少なからぬ数が命を落とす、危険な試練である。

 

真菰の指は、知らぬうちに「厄除の面」を撫ぜていた。右頬に花模様があしらわれた狐の面。育手である鱗滝が、選別に赴く弟子のお守りに送ってくれた品だ。触れていると不思議と安らぐ心地がした。こんなところで臆病風に吹かれてはいられない。必ず帰ると約束したのだ。

 

広場に段々と人が集まってくる。真菰と変わらぬ年頃の子供達だが、いずれも刀を携えている。入隊志願者だ。思い思いの場所で選抜の開始を待つ姿は、じきに二十人ほどにまで増えた。そろそろ選抜が始まろうかという刻限。志願者ももういないかと思われた頃合いに、更に一人の男が姿を現す。

 

その男の姿を見て、入隊志願者たちはかすかにざわめく。首から下をボロキレめいた赤黒の装束で包んだ、剣呑な目つきの男。身の丈は六尺ほど。年も明らかに成人などとうに超えている。そして何よりも、染みついた血の匂い、イクサの気配が真菰の肌を粟立たせる。

 

男の視線が手近にいた少年を捉えた。「アイエッ!?」「藤襲山というのはここで合っているか」「アッハイ」「そうか」「…その、選抜を受けるので?」「違う」男はごく短く会話を済ませ、身をすくませる少年には目もくれず広場の片隅へと向かいメディテーションの姿勢を取った。

 

この赤黒装束の男こそ、デモンスレイヤー=フジキド・ケンジに他ならぬ。彼は実際疲労の極にあり、早急な休息を必要としていた。鬼殺隊とコンタクトをとるため秘境の地、岡山県から駆けてきた負担は今やピークに達している。加えて道中で遭遇し、交戦した鬼による負傷も軽視できぬ。

 

夜道で通行人を待ち受けていたその鬼は特殊な血鬼術や異形の類こそ無かったが、古代ローマより伝わるという武術を操る油断ならぬ敵であった。心臓を抉り抜き首を刎ねて殺したが、無傷とはいかない。僅かでも休息し、回復しておくべし。フジキドは呼吸を深めた。

 

ふと、真菰の耳朶を穏やかな声が撫でた。「皆。今夜はよく集まってくれたね」いつの間にそこにいたのか。その人の声は、初対面であるはずの真菰にすらどこか懐かしい響きを感じさせた。あるいは、父母がいたらこのようだっただろうかなどと思ってしまうほどに。

 

彼こそ鬼殺隊を束ねる「お館様」だと、言われずともわかった。周りの志願者たちもそうだろう、皆一様に首を垂れる。産屋敷耀哉は微笑みとともに口を開いた。「最終選別を始める前に、少し待ってもらってもいいかな?私の客人のようだからね」その視線の先には、赤黒装束の男。

 

「ドーモ」既にアグラを解き立ち上がっていた男は、奥ゆかしくアイサツした。「フジキド・ケンジです」「鬼殺隊当主、産屋敷耀哉だ。そうか、君が…道場の件は烏から聞いているよ。大変だったね」耀哉は目を伏せる。フジキドの師、ゲンドーソーの死を悼んでいるのか。

 

「君には一度私の屋敷に来てもらいたい。疲れもあるだろう、ゆっくりと休んでくれ」「…感謝する」耀哉は静かに礼をしたフジキドから、入隊志願者たちの方へと向き直る。「さて、待たせて済まなかったね。それでは、最終選抜を始めるとしよう」その言葉に、真菰は今一度刀を握りしめた。

 

耀哉の口から語られた試験の内容は、既に聞いていたものと変わらなかった。生き残ること、それが唯一の合格基準だ。静かに呼吸を整えて開始の合図を待つ真菰の視界で、赤黒の影が動いた。「どうかしたのかな、藤木戸君」耀哉の眼前で、フジキドは射殺さんばかりの眼光を放っている。

 

「これが真実、鬼殺隊の選抜か」低い問いかけに、耀哉は静かに首肯する。「何人死ぬ。鬼の口に子供らを投げ込んで祈るのが、オヌシのやり方か」「五人帰れば多い方だろうね。…とても悲しい事だよ。子供たちを失うのは、いつでも辛いものだ」耀哉の声は、あくまで穏やかだ。

 

フジキドは耀哉の瞳の中に、確かに悲しみと悔恨の色を見た。それと同時に、言葉如きでは決して揺らがぬだろう狂気の色も。フジキドは静かに瞑目した。「…私はデモンスレイヤーだ」押し殺すような呟き。「鬼は殺す。オヌシの飼い犬であろうと関係ない。全て殺す」

 

ただそれだけを告げて、フジキドは藤の花無き暗がりへと消えていく。その背を見送った耀哉は、ここまでを茫然と見守っていた志願者たちに声をかけた。「さあ、選抜を始めようか。行ってらっしゃい。無事を祈っている」その声に背中を押されたように、志願者は一人また一人と動き出した。

 

真菰の指はまた、厄除の面を撫ぜていた。鬼の口に投げ込まれる、確かにその通りかも知れない。だが、隊士になると己で決めたのだ。この程度、生きて帰ってみせねば。顔を上げる。もはや藤の花にユーレイの姿は見えぬ。真菰は、暗闇の中へ一歩を踏み出した。

 

「期待しているよ、藤木戸君。君は運命を変える兆しかもしれない」最後の一人を見送り、耀哉が呟く。彼のニューロンに去来する産屋敷家に伝わる鬼殺隊の歴史、そこに時折血の染みめいて浮かぶ赤黒の影。「鬼舞辻を私の代で討ち果たすことが出来るかもしれない。だから見せておくれ…」

 

「…『奈落』。君の力を」

 

(「レック・ザ・ロングタイム・オブセッション」#1 おわり。#2へ続く)

 




次話が投稿されなかった場合、ミラーシェード=サン及び冨岡義勇がケジメしてお詫び致します
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