SIREN2(サイレン2)/小説   作:ドラ麦茶

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第十八話 『感応』 岸田百合 夜見島/瓜生ヶ森 1:40:07

 一樹守と仲たがいをし、彼の元を去った岸田百合は、瓜生ヶ森の中を一人歩いていた。雨は降り続き、月明かりさえ無い森の中は、か弱い少女が一人で歩くには危険だ。正面から屍霊が近づいてきた。屍霊は光を苦手とし、シェルター代わりに人間の死体に憑りつく。近くに死体が無い場合、手っ取り早く死体を得るために人を襲う。鈍器で殴るかライトの光を当てれば簡単に消滅するが、百合は、武器はおろかライトさえ持っていなかった。屍霊は、格好の獲物を見つけたと思ったのだろうか、歓喜するような高い声を上げ近づいて来る。

 

 百合は、右足を上げると、ヒールの高いブーツで、思いっきり屍霊を踏みつけた。そして、煙草の火を消すかのごとく踏みにじる。屍霊は、車に轢かれたガマガエルのような悲鳴を上げ、消滅した。

 

 その背後に別の屍霊が迫る。百合は振り向きざまに回し蹴りを叩き込んだ。ばん、と、小さな爆発音とともに、屍霊は霧散した。

 

 ――まったく、次から次へと、鬱陶(うっとう)しいわね。

 

 胸の内で悪態をつく百合。こんな雑魚共に構ってはいられない。早く一樹守に代わる『()()()()()()』を見つけなければ。朝が来る前に、なんとしても、母を迎えないといけないから。この近くに、別の人間の男の気配を感じる。赤い津波の前に出会ったあの二人組の男か。それとも、別の誰かか。誰でもいい。男であれば、『オリーブの葉』としての役割を果たせるのだから。

 

 百合は、南の空を照らしている光の元へ向かっていた。そこになにがあるのかは判らないが、人間は羽虫のごとく光の元へ集まる習性がある。百合は光が苦手だが、人間を連れ帰るためならば仕方がない。百合は先を急いだ。

 

 そこには、大きな船があった。

 

 百合は()()()()()へ来てまだ二年ほどしか経っていない。知識が豊富だとは言えないが、船というものが海や川などの水の上を移動するものだということは知っていた。しかし、今いるこの一帯に水辺は無い。どうやって現れたのだろう? 母が取り込んだのだろうか? それにしては妙な感じがする。これほど大きな物を取り込むならそれなりに大きな力が必要なのだが、この船には母の力を感じない。自然に現れたか、()()()()が取り込んだかだ。

 

 フェリーの中の気配を探る。多くの気配を感じたが、そのほとんどが屍人、あるいは屍霊だった。だが、その中にひとつだけ、屍霊とは違う別の気配があった。誰? 気配を探り続ける。それは、人間とも違う気配だった。()()()だろうか? 百合の母は、百合が生まれるよりも前から何度も鳩を飛ばしていた。そのうちの誰かが帰還したのかもしれない。

 

 しかし。

 

 その気配は、自分たちとも違う気がした。似ているようにも思うが、まったく異なるようにも思う。何かがおかしい。かなり異質な感じがする。これは、放っておけない。正体を探らなければ。

 

 百合は、船へと向かう。

 

 船体には、平仮名で『ぶらいとうぃん』と書かれていた。

 

 

 

 

 

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