一樹守と仲たがいをし、彼の元を去った岸田百合は、瓜生ヶ森の中を一人歩いていた。雨は降り続き、月明かりさえ無い森の中は、か弱い少女が一人で歩くには危険だ。正面から屍霊が近づいてきた。屍霊は光を苦手とし、シェルター代わりに人間の死体に憑りつく。近くに死体が無い場合、手っ取り早く死体を得るために人を襲う。鈍器で殴るかライトの光を当てれば簡単に消滅するが、百合は、武器はおろかライトさえ持っていなかった。屍霊は、格好の獲物を見つけたと思ったのだろうか、歓喜するような高い声を上げ近づいて来る。
百合は、右足を上げると、ヒールの高いブーツで、思いっきり屍霊を踏みつけた。そして、煙草の火を消すかのごとく踏みにじる。屍霊は、車に轢かれたガマガエルのような悲鳴を上げ、消滅した。
その背後に別の屍霊が迫る。百合は振り向きざまに回し蹴りを叩き込んだ。ばん、と、小さな爆発音とともに、屍霊は霧散した。
――まったく、次から次へと、
胸の内で悪態をつく百合。こんな雑魚共に構ってはいられない。早く一樹守に代わる『
百合は、南の空を照らしている光の元へ向かっていた。そこになにがあるのかは判らないが、人間は羽虫のごとく光の元へ集まる習性がある。百合は光が苦手だが、人間を連れ帰るためならば仕方がない。百合は先を急いだ。
そこには、大きな船があった。
百合は
フェリーの中の気配を探る。多くの気配を感じたが、そのほとんどが屍人、あるいは屍霊だった。だが、その中にひとつだけ、屍霊とは違う別の気配があった。誰? 気配を探り続ける。それは、人間とも違う気配だった。
しかし。
その気配は、自分たちとも違う気がした。似ているようにも思うが、まったく異なるようにも思う。何かがおかしい。かなり異質な感じがする。これは、放っておけない。正体を探らなければ。
百合は、船へと向かう。
船体には、平仮名で『ぶらいとうぃん』と書かれていた。