貝追崎の要塞跡を脱出し、夜見島遊園へとやってきた三上脩と阿部倉司は、開けっ放しとなっていた正門から中へ入り、時計塔や噴水がある広場まで進んだ。周囲に屍人の気配はない。園内に意識を飛ばせばいくつかの視点が見つかったが、どれも離れた場所にいるようだ。阿部は広場を見回し、隅の方にベンチとスタンド式の灰皿を見つけると。
「先生、ちょっと休憩しようぜ」
そう言って、ポケットを探りながら歩いて行った。煙草を取り出し、一本咥える。だが、ライターが見つからないのか、ジャケットとジーンズのポケットを探った後、「先生、火、持ってねぇ?」と訊いてきた。
「私はたばこは吸わないんだ」
三上がそう答えると、阿部は「マジかよ……ツイてねぇな」と肩を落とし、咥えていた煙草を箱に戻した。どうやらライターを落としたようだ。
三上は遊園地を見回す。三上は弱視であり、完全に目が見えないわけではない。ぼんやりとではあるが、闇の中にコーヒーカップや観覧車などの遊具が見える。
それらの光景が、三上の子供の頃の記憶と繋がった。
――脩、こっちよ。
姉の声がよみがえる。七つの門と七つの鍵、そして、巫女が舞い踊る歌。
そうだ。私はあの時、姉がうたう歌に従って、石碑を解放していった。
だが、三つ解放したところで。
――ごめん、脩。やっぱり、やめよう?
姉は、突然中断したのだ。
石碑の絵を七つ合わせれば宝物がもらえる――姉はそう言っていた。だから、四歳の子供には少々困難な作業も、宝物をもらうためにやってのけたのだ。いや、正確に言うならば、脩自身は宝物が欲しかったわけではない。宝物を手に入れて、姉にプレゼントしたかった。姉を喜ばせたかったのだ。
だが、姉は。
――ううん、いいの。お姉ちゃん、もう宝物を見つけたから。脩のおかげだよ?
笑ってそう言ったのだ。
あの時、姉が何を見つけたのか。それは判らない。脩が訊いても、姉は微笑むだけで何も答えてはくれなかった。
そして脩は、姉に手を引かれ、家に帰った。
あのまま石碑を解放していけば、なにが手に入ったのだろう? いまでも、
阿部がいる方向からは、場違いに陽気な電子音が鳴っていた。正門のそばに子供向けパンダカーが置いてあったのだが、それに乗って遊んでいるのかもしれない。
「すまない阿部君、手伝ってくれ」
三上は、視線を動かすことなく阿部に言う。
「いいけど、今度は何するんだ、先生?」
「七つの門と、七つの鍵を解放する」
「……七つの門と、七つの鍵?」
「行こう。まずはあそこだ」
三上は、小さな丘の上にあるコーヒーカップの遊具を指さした。
そこに、鎖で空中に繋ぎ止められた石碑があるはずだ。