SIREN2(サイレン2)/小説   作:ドラ麦茶

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第五十八話 『虚無』 三沢岳明 夜見島/第1砲台跡 13:00:27

 逃亡した部下の永井頼人を探す三沢岳明は、島北部にある要塞跡の丘の上で、大の字になって横たわっていた。じっと、空を見つめる。島へ上陸したときから、空はずっと厚い雲に覆われていた。だが、昼前から時折雲が途切れるようになった。その雲の切れ間から、逆さまに浮かぶ夜見島が見えている。それは、空に巨大な鏡があり、島全体を写したかのような光景だ。

 

「あっち側は遠いな……」

 

 空を見つめながらつぶやく三沢。あの空に浮かぶ夜見島を見た瞬間、三沢は、あれこそが現実の夜見島であることを悟った。より正確に言うならば、それよりもさらに前、森の中に座礁した大型フェリーを探索中、山の頂に建つ鉄塔を見たときから、今いるここが現実の夜見島ではない可能性を考えていた。鉄塔の先は、雲の輪の中に吸い込まれるようにして消えている。あの鉄塔の先に現実の夜見島があることに、三沢は早くから気がついていたのだ。だから、あの鉄塔を登れば、この異界から脱出できるはずだ。

 

 しかし、状況がそれを許さない。屍人共が行く手を阻み、部下は逃亡した。常用していた薬も切れ、気分は落ち込む一方だ。あらゆることがうまく回らない。何か行動を起こすたびに事態が悪化しているように思う。全てが悪い方向へ進んでいるのだ。それはまるで、島から脱出しようとする三沢を、地の底から伸びてきた手が掴み、留めようとしているかのようだ。

 

 

 

 

 

 

 遠くで、銃声が聞こえた。

 

 反射的に起き上がる。小銃を持ち、周囲を見回した。敵の気配はない。銃声はかなり遠かったから、三沢を狙ったものではないだろう。とは言え、いつまでもここに寝転がっているのは危険だ。行動するたびに事態が悪化するとはいえ、何もしないわけにはいかない。まずは永井を探さなければ。三沢は周囲を警戒しながら、丘の南へ移動した。

 

 南側は三メートルほどの高さの擁壁となっており、東西へ繋がる道を見下ろすことができた。東に行けば、要塞地下の電気設備を管理する電灯所があり、西にはトンネルがあって、他の地域へ通じている。

 

 身体が震え、擁壁の上にいる三沢を見上げる視点が見えた。敵に見つかった。電灯所側の道を見ると、全身に黒い布を巻きつけ、ぼろぼろの蝙蝠(こうもり)傘を持った青白い顔の化物が、にやにや笑いながらこちらを見上げていた。屍人ではなかった。少し前から、あのにやけ顔の化物の姿を見ることが多くなっている。

 

 あれは、早朝六時頃――三沢が社宅の屋上で屍人たちと戦っていた時間だった。島の北東部から再びサイレンが鳴り響き、これまでにないほど邪悪な気配が島を包み込んだ。それ以降、島は、屍人に変わりあの黒い布を巻きつけた化物がうろついている。正体は判らないが、屍人よりも頭が良く、人の言葉を喋り、言葉で惑わそうともする。ただ、極端に光に弱く、ライトを向けると悶え苦しむという弱点もある。屍人よりもさらに闇の存在――闇人とでも呼ぶべきだろうか。

 

 三沢に気付いた闇人は、「おお、醜い人間のくせに、良い殻だねぇ」と言いながら、走って向かって来た。もっとも、擁壁は一人でよじ登れる高さではないし、相手の武器は蝙蝠傘だけだ。三沢は銃を構え、容赦なく撃ち殺した。

 

 再び身体が震える。今度は背後から三沢に迫る視点が見えた。同時に、ぱらら、と銃声が聞こえ、足元の土が何ヶ所か弾け飛ぶ。背後から銃撃された。三沢は振り返ると同時に引き金を引く。機関式拳銃を持った闇人だったが、その姿を確認するとほぼ同時に倒していた。

 

 銃口を下げ、幻視で周囲を探る。地下や浜辺側など、多くの闇人の気配があった。闇人以外の気配はない。この地域にはヤツらしかいないようだ。ならば、もうここに用は無い。早く永井を探さなければ。三沢は擁壁を飛び降りると、西方面へ走り、トンネルへ向かった。

 

 

 

 

 

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