エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜 作:SHノーマル
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すぐに準備を終えると、それぞれが位置につく。
「実際のチームプレイは相手がいないと練習が難しくてな、助かるぜ」
「礼には及ばないのです。……一応先に言っておくのですよ。私はいきなりスキルを使わせてもらうのです。その方が欠点もすぐ分かるのですよ」
「なら、アタシ達も全力でイカせてもらうぜ?」
あえて手の内をさらすか。
……これは模擬戦闘というより、勇者のスキル披露の場だな。
「それでは両者……始め!」
細目の合図で戦いが始まる。
いきなり全力でスキルブッパするんなら容赦はしねえ。
こっちも全開だ。
「【太陽の光、月の明かり、星の灯火。一つに纏まり降り注ぎ、肉体の全を引き出せ】〈全体強化〉」
「いっくよ!〈火炎陣〉」
エリー肉体能力をすべて強化して貰い、リッちゃんが放った炎の魔法に乗じて、突撃する。
「いきなりだがハデにいくぜ? しっかり避けろよ?」
「ご忠告ありがとうなのです。ですが回避の必要はないのですよ」
「何言って……。っ!? 炎が、消える?」
本来ならリッちゃんの炎を目くらましとして、アタシは手に力を溜めた炎、鳳仙花をぶっ放す予定だった。
だが、リッちゃんが放った魔法は霧散して消えてしまう。
「目眩し失敗か!」
一旦迂回するために空中に足場を作って方向転換して……。
何だ? 魔法の出力が弱いぞ?
いや、それだけじゃない。
エリーから受けた支援の魔法も効果がなくなっている。
「凄いのです。私のスキル範囲内なのに魔法が使える人は初めてなのです」
「これが……『吸魔』のスキルか!」
「駄目だマリー! こっちは魔法が発動しない!」
「私も……詠唱しても消えてしまいます!」
後ろからエリーとリッちゃんの声が聞こえる。
随分と範囲が広いな。
アタシも魔法が出せるには出せるが、通常より圧倒的に威力が弱い。
と言うか体から僅かに離れると消えてしまう。
アタシの魔法まで効果があんのかよ。
初めてだぞこんなん。
「ずいぶん厄介だな。そのスキル」
「これこそが『吸魔』の力、そのイチなのですよ。魔力が絡んでる事象から魔力を吸収して、私が好きに扱えるのです。直接触れば体内の魔力も奪えるのですよ」
それはそれは……。
随分と厄介なスキルだな!
「だが、アタシの技は消しきれないみてーだ」
「これは初めてなのです。スキルなのですか?」
「かもな!」
空を飛び回るのは一瞬だけ空気の塊が残ればいいから問題ないとして、問題は攻撃の方だ。
……まぁ試しにとりあえずやるだけやってみるか
勇者ちゃんからの攻撃もないようなので一気に距離を詰めて一撃を食らわせてやる。
「略式・鳳仙花!」
……だが、魔法は発動せずに霧散してしまう。
「ひゃん! い、いきなりどこを触ってるのですか!」
「お、おう。すまねえ……」
うっかり変なトコを触っちまったぜ。
勇者ちゃんはどうでもいいが後でエリーに謝らないとな。
しかし、ちょっとくらいダメージを与えられるかと思ったんだが……。
発動しないのは予想外だった。
……これ、ものすごくアタシと相性悪くねーか?
まあいい。
魔法が使えないなら肉弾戦で押し切る!
アタシは再び踏み込んで二本の刃で左右から切りつけてやる。
「甘いのです!」
そういうと勇者はわずかに後ろに引き、二本の刃が交わる一点に剣を差し込み攻撃を受け止めた。
「アタシの攻撃を見切るとはやるじゃねえか」
「ふふん。剣術もそれなりに仕込まれてるのですよ」
だがこの程度なら力で押し切って……なんだ?
コイツ、何かおかしいぞ?
アタシがこういうことを言うのもなんだが、コイツの力は女に出せる力じゃない。
アタシのは悪魔や魔族を倒して身体強化された分も上乗せされている一撃だ。
だが、勇者はアタシの一撃に怯む事なく押し返してくる。
身体強化の魔法でもかけたのか?
「お前、なんでそんなに力があるんだ?」
「私のスキルは魔法を吸収しているのですよ。その力で身体を強化をしているのです」
「……無詠唱か!」
なんて奴だ。
アタシの十八番を真似しやがって。
「ちょっと違うのです。詠唱はあなた達が既にやっているのです。元々あなた達が使った魔法を使っているだけなのですよ」
「つまり……魔法をパクったってわけかよ」
「そうともいえるのです。相手が魔法を使っているならそのまま使えるのですよ」
つっても敵も味方も大体が身体強化の魔法なんて使ってるだろ。
そのまま味方にかけた魔法で自分を重ねがけして強化するとかずるい。
「これこそが私のスキルそのニなのです。そしてこの力、刮目せよなのです!」
そう言うと、勇者ちゃんは手を高く掲げる。
するとその手から炎の蛇が生み出され、空を飛んでいく。
……リッちゃんが使っていた魔法だ。
「このように相手の魔法を貯めておくことも、一気に放つ事もできるのです。……マリーの魔法は魔族が体内で使っている魔力のように、霧散してしまいましたが」
体内で使っている魔力……か。
まあ基礎魔法と同じようなもんだろうしな。
……まてよ。
「もしかして魔族の〈変身〉も打ち破れるのか?」
「直接触る事で破るだけならできるのです。ですがマリーの魔法と同じように使うことはできないのですよ」
詳しく聞いてみたところ、魔力であればなんでも吸収することができるが、魔族の〈変身〉を発動しようとすると魔力が霧散して不発になるらしい。
……なるほど、魔族の厄介な〈変身〉を打ち破れるのなら対魔族攻略の切り札になるのか。
アタシの刃でも魔力を散らして変身を邪魔する事はできる。
だけど既に変身した身体は戻せないからな。
「リュクシーちゃんのスキルは私のスキルとよく似てるんだよねー。だから私達のパーティーが訓練の参考として呼ばれたんだけど」
後ろから声をかけてくるのはポリーナだ。
確かに熱を吸収して放つスキル、魔法を吸収して放つスキル、どちらも対象は違うが確かに似ている。
「凄まじい力だが……どんな副作用があるんだ?」
「弱点は……このスキルを三分使用するごとに、三時間……。最大で十時間は、立つことすら……できなくなっちゃう事、なの、です……」
そう言うと勇者ちゃんは地面にヘタりこんだ。
なるほど、これが副作用か。
「そこも私と似てるんだよね。私のは使いすぎると自分の体温まで放出しちゃうだけだけど」
「このように荷物となった勇者を回収して、陣地へと戻すのが役目である」
「ちなみにこの状態でも魔法が使えなくなる効果はある程度持続してて、うっかり触っちゃダメなんだよねー」
「回復魔法も……効かない、触ると、使えなく、なる」
なんじゃそりゃ。
運び出す味方も魔法が使えなくなるとが迂闊に触れないぞ?
お荷物になった勇者運びが必要じゃねえか。
……それがアタシ達かあ。
「これで分かったと思うけど、リュクシーちゃんを暴れさせた後どうやって撤退するかが肝になってくるんだよー」
「ただしのただし、それは普通ならのこと。拙者のスキルがあれば移動は苦労しないのである」
「ストルスは応用が利くからねー。ストルスをサポートをしてくれる人達が必要なんだ」
ポリーナがこちらを期待するように見ている。
……分かってるよ。
「仮にアタシ達がその役目をやるとして、もし敵と戦うならその時点で詰みだぞ」
「そこは私達がなんとかするよー。じゃないと任務失敗だもんね」
「スキルの副作用を改善できないのか?」
「く、訓練でも、無理。改善、しなかった……」
「それでリュクシーちゃん、ふさぎ込んでたのよね。気晴らしにカジノを進めてみたんだけどまさかあんなにハマるとはねー」
ハマるとはねー、じゃねえよ。
堂々と戦犯発言しやがって。
まあいい、今は勇者ちゃんで色々試してみる方が優先だ。
「とにかくこの状態で何ができてナニができないか、色々と試させて貰うぜ」
「構わない、のですよ……」
よし、勇者らしくていい根性だ。
アタシ達3人でガッツリ魔法を使ってイジり倒してやるから覚悟しろ。