エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第93話 宿敵との再会

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「よお、婆さん。久しぶりだな?」

「なんだいお嬢ちゃん。あたしゃアンタのような小娘は知らないよ。タカるなら相手を見てタカリな」

 

こんなに可愛いアタシをそこいらのチンピラと同じ扱いするとはなかなか面白い婆さんだ。

 

「おいおい、一年たって忘れちまったか? 盗賊と一緒に悪魔を仕掛けておいて笑えること言うなあ。コッチは死ぬトコだったぞ」

「悪魔……? 盗賊……? んんっ!? げっ!」

 

げっ、とは失礼な婆だ。

アタシを見て『げっ』て叫ぶ奴は大抵ロクデナシなんだよ。

 

「あの時もう一人いただろ? そいつは何処だ?」

「アレはあたしが雇った護衛さね。盗賊との交渉に一人で乗り込むバカがいるかい」

 

なるほど。

じゃあ今は正真正銘一人なんだな。

 

「さて、ここであったが百年目……と言いたいところだが、婆さんが協力してくれるなら考えんでもないぜ」

「あの時はこっちだって仕事だったんだよ。勘弁しておくれ。お前さん達が悪魔を倒したせいで契約が切れて大変なんだ」

 

そうか。

婆さんは悪魔を二度と呼び出せないのか。

それは好都合だな。

 

「契約を大切するのは勝手だが、話が通じるアタシとの約束も大事にして欲しいもんだな。魔力も宝石も渡さないけどな?」

「その言い方……。あんた他にも悪魔かなにかに出会ったね?」

「へえ? 分かるのか? ちょっと爵位持ちのキレイな女精霊と熱く踊ってな」

 

まあ一方的に遊ばれただけだが、それを詳しく説明してやる必要もないだろう。

 

「精霊に性別なんてないよ。悪魔も同じさね。爵位持ちは本人達の気まぐれでそれっぽい姿にはなってるだけさね。アイツら男女の違いすら理解してないんじゃないかい?」

 

言われてみると、首が取れなければ人間は死なないぐらいの雑な扱いだったな。

細かい違いまで理解してる気がしない。

 

「……かもな。だが今はそんな事どうだっていい。アタシ達に雇われるって話だったよな」

 

所詮は戦いの場での軽口だ。

本気で雇われるとは思っちゃいない。

 

だが個人的な恨みがあるからな。

ぶっ飛ばす口実にするだけさ。

 

「……悪いが先約があるんでね、アンタの依頼はその後受ける事になるよ」

「ほう? アタシとの約束は反故にするってか?」

 

その台詞を聞いたババアはため息をつく。

 

「……それはないね。信じるかどうかは自由だけどね。あたしはあの後報酬で貰った召喚石で呼び出した悪魔とね、『一度言った約束は破れない』というルールを契約に課せられたのさ」

「なんだそりゃ?」

 

予想してたのと違う、意外な反応だ。

話を詳しく聞く。

 

なんでも悪魔は魔力や宝石以外にも様々な契約を交わすらしい。

この婆さんが悪魔と契約する際に取り交わしたのは、契約において嘘やごまかしを封じる、契約の絶対遵守だそうだ。

 

もし裏切れば体が魔力に分解されて悪魔の供物になるとか。

流石悪魔だな。えげつない。

 

……もしまた敵になるなら約束を破らざるを得ないように仕向けてやろう。

 

「何か悪どいことを考えていないかい?」

「いや敵が出てきた時の対処法を考えてるだけさ」

「……別にいいけどね。生きて帰ってきたらちゃんと契約を守ってやるさね」

「ちなみになんの仕事だ?」

「開拓村の先にある砦の陣地防衛さね。敵さんが騒がしくてね。しばらくそっちで守り役さね」

 

へえ、なんか近々トラブルがあるのかね。

まあいいさ。アタシ達には関係ないだろ。

こっちはサクッと攻め込むだけだ。

 

「本来なら召喚石を手に入れて手駒を増やすはずだったのに、アンタ達のせいで手駒を失ってしまったよ。大赤字さ。どうしてくれるんだい」

 

知った事かよ。

 

「とりあえずまだこの街にいるんだろ? 婆さんの名前を教えてくれ」

「前にも名乗らなかったかい? まあいいさ。私の名前はサモだよ」

「そうか、じゃあ戻って来たらお願いするぜ」

 

結局婆さんとはそのまま別れた。

砦の防衛にあたるならアタシたちが撤退する時に役に立ってくれるかもしれないしな。

 

とりあえず一発ぶん殴りたいが下手に戦力を削っておくのは作戦上良くない。

一応エリーとリッちゃんには婆さんのことを話しておいた。

 

「悪魔との契約かあ。僕も昔は、悪魔とか精霊を呼び出したことがあったけど万が一があっても良いように空間魔法でがんじがらめにして呼び出してたなあ」

「いきなり物騒な話だな、結局契約はやらなかったのか?」

「やったよ。体の一部をそのまま下さいってお願いしたんだ」

 

は?

いきなりリッちゃんがサイコパスな発言しだしたぞ?

 

「あ、その表情、またなにか誤解してる? 爵位持ちとの契約ってさ、悪魔や精霊にできることなら割と自由がきくんだよ。だから、契約はできないけど魔力で出来た肉体を下さいってお願いしたんだ。それを肉体に組み込めば女の子になれるかと思って」

 

なんでも一ヶ月くらいかけて書いた魔法陣で、断れば遠くに飛ばして隠れるように準備を整えて契約をお願いしてたらしい。

 

用意周到だな。

確かに悪魔や精霊はこっちの魔力に応じた時間制限があるから上手く行くだろうが……。

 

「……結果は、いやいいや。どうせろくなことになってないんだろう」

「大丈夫だよ! 結局自分の身体に組み込むことは失敗したけど、ファーちゃんの素体として有効活用したからね!」

「うん、サイコだわ」

 

ファーちゃんって事は初代魔王かよ。

精霊や悪魔の素体ベースとかおとぎ話の火力の原因はそれかよ。

というか研究者モードのリッちゃんはマッドサイエンティスト入ってるな。

一般と常識が乖離しすぎてる。

 

かわいい生き物と一つになりたいとか言って肉体を接合したりしないよな?

 

「話してるとこ悪いけど、ここが国の管理してる宿だよー」

 

そうこうしてるうちに宿場についた。

……見た目は廃屋のように非常にボロっちいが、中身は小奇麗だ。

 

「へえ、王国の偽装か?」

「ん? あ、違うのよ! 土地柄、修理する人がなかなか高くてさ、最低限の修理だけしてあとは放置してるんだ」

 

なんだよ。

アタシの感心を返してほしい。

 

「それじゃ早速だけど、作戦会議をするよー」

「早いな。少しは休ませてくれてもいいんだぜ?」

「大丈夫大丈夫。実際の決行までには時間あるからゆっくり休めるよ」

「準備は……王国側も、ある」

 

そういや王国との連携した案件だったな。

サクッと行って暴れて終わりが一番楽なんだがな。

 

「分かっちゃいたがめんどくさい案件だ」

「まあ大筋は前に話したとおりだよー」

 

取り出したのは地図だ。

書かれているのはこちらの村、砦、そして敵の砦の位置だな。

 

「ここの砦から出てー、敵陣を回り込んだココが弱くなってるから入って――」

 

どのルートから進んで攻めるかを打ち合わせして行く。

よく調べてるな。

多分だが『ラストダンサー』のメンバー、何度もココに来ているんだろう。

 

目的達成の最低条件は勇者ちゃんに暴れまわってもらい、生きて帰ってくること。

あわよくば敵司令官の排除まで行うのが理想だそうだ。

 

作戦が上手く行ったらそのまま狼煙をあげて、こちらの砦に待機させている味方兵力を動かすらしい。

 

「しかし、そんなに上手く行くか?」

「それがねー、この時期って何故かちょくちょく相手から攻めてくるみたいなんだ。とは言ってもあんまり積極的じゃないみたいで小競り合いで終わるんだけどね」

「うまく……行けば……不意打ち、できる」

 

なるほど。

王国側としては少数精鋭の奇襲部隊としてカウントしてるってわけか。

 

ただ、王国の動きに関してはポリーナ達も詳しく教えられていないそうだ。

 

……万が一捕まった時の保険だろうな。

 

「というわけだよ。リュクシーちゃん、分かったかな?」

「分かったのです、 隠れて、暴れる、たおす、逃げるなのです!」

「僕達はリューちゃんの確保、撤収だね! 任せてよ!」

「私の回収はリッちゃん達に任せたのです!」

 

しかし短期間で随分と仲良くなったな。

まあ仲が良いのはいい事だ。

 

「でも少しは囚われてみたいのですよ。『くっ、殺すのです! 私が秘密を喋ると思うのですか!』とかやってみたいのです。」

「あ、それ分かる! 『僕がどうなっても仲間だけは裏切れない!』とかやりたいよね」

「さすがリッちゃんなのです!」

 

マッハで堕ちてる未来しか見えないだろ、それ。

そういうのは可哀想なことになるフラグだからやめておけ。

 

 

それからアタシたちは決行の日まで村を見て回ったり、訓練をしたりして過ごした。

 

意外だったのは村に都会とも違う活気があることだ。

てっきり暗く陰鬱な雰囲気が漂ってると思ってたぜ。

 

「ヒャッハアアア! 魔物も魔族も関係ねえ! 百人切りだあ!」

「よっしゃよっしゃよっしゃ! フルハウス! アタイの勝ちだよ! さあ金出しな!」

「おいそこの坊や、一回いくらだい? 天国をみせてあげるよ?」

 

今のここも酒場ですらないただの露店の一つだ。

娯楽と呼べるようなものは賭け事に加えて酒と異性くらいだが、毎日を生きようと必死になっているのが伝わってくる。

 

「おい嬢ちゃんたち、暇なのか? よかったら俺と楽しもうぜ?」

「悪いがアタシ達はそういう事はやってなくてな」

 

まあ、こういう手合いが声をかけてくるのがウザったいが。

 

「なんだよ、俺じゃ不満ってのか?」

「そもそもそういう事を生業にしてねえんだ」

「……ちっ、ツれねえなあ」

 

冒険者タグを見せると男はさっさと去っていってしまった。

ああいう手合には冒険者タグを見せるに限るぜ。

 

しかしこの街の奴らは何かと金払いがいい。

 

まあ戦場の最前線だ。

金をあの世にまでは持っていけないなら使い切って稼いだほうがいいか。

金払いがいいから商売人も喜んで取引をしにくる。

 

街とは違う、熱く燃えるような活気だ。

 

「ああ! 負けたのです! 次は取り返すのですよ」

 

……その熱気の中に勇者ちゃんがいた。

 

「おい、またやってるのか」

「あ、マリーにエリー、おはようなのです。ここでひと稼ぎして皆にプレゼントするのですよ。前に助けてくれたお礼なのです」

「気持ちは嬉しいがむしろ貸しが増えそうだから勘弁してくれ」

「と、賭博場にお金を預けているだけなのです。今引き出そうと頑張っているのですよ。そうです、ここは銀行なのです!」

 

そんな手間と金のかかる銀行があるか。

なんでギャンブルの借りをギャンブルで返そうとするんだ。

 

「あのな、ギャンブルに勝てるのはメンタルに一本芯の通った奴らだけだ。勇者ちゃんのシフォンケーキのようなふわふわメンタルじゃまず無理だ」

「い、今から身につければいいのですよ! そうなのです、鋼の芯が一本入ったシフォンケーキになるのです!」

 

それはクレームで返品される欠陥商品だ。

まったくギャンブル中毒者ってのは自分に対して夢を見ているから困る。

とりあえず近くを歩いていたポリーナに勇者ちゃんの身柄は引き渡しておいた。

 

「どこに行っても騒がしい街だな」

「活気があるのは良い事です。皆さん命を燃やしてるって感じがしますね」

「少し暑苦しくてなあ。どこか静かなところへ行きたいな」

「そうですね……〈探知〉 唯一、向こうの方は人が少ないですね」

 

エリーの魔法で人が少ないところを探し、そこで涼む。

アタシみたいな平和主義者はのんびりゆったりするのが好きなんだ。

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