エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第102話 魔王

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「待たせたな。それじゃ早速だが逃げるぞ」

 

魔族達の野郎、なんでアタシ達を完全にほっぽりだして全員砦に向かって土下座してるんだ?

なんかの宗教か?

まあいい。逃げ終えてから考えないとな。

 

アタシたちは味方がいる砦の方向に向かって全力で駆け出す。

もう敵もいないからな、強化魔法をかけて全力疾走だ。

 

「マリーちゃん!」

「わかってるポリーナ! 近づいて来てるんだな!」

 

魔法を使わなくても感覚で分かるくらいヤバい奴だ。

マズイな。予想以上に移動速度が早い。

 

「砦まではもう少し、もう眼の前だからから急いで!」

 

そこで後ろから凄まじい獣の咆哮が聞こえた。

走りながら後ろを見る。

 

「ドラゴンだと……?」

 

空を飛んでいるのは三匹の竜種。

竜ってのは初めて見たが、あんなにヤバい雰囲気をまとってるのか?

 

「待って。上に誰か乗っているよ」

 

見ると、三匹の竜のうち、最も大きな一匹の上に人が乗っている。

 

「ふむ……。砦を落とし、軍一つ潰した者がこんな小娘達とはな」

 

ヤバいのはアイツか。

だがアタシ達がやった事を知っているだと?

 

「なんだお前? 砦の事なんて知らねえな。一体誰から聞いたんだ?」

「ふむ……とぼける腹か。まあ良い」

 

少しだけ高度を落としたソイツは真っ黒なマントに見を包んで背中に大きな棺桶を背負っていた。

頭には二本の角が渦を巻いている。

角がなけりゃ妙齢の美女で通ったかもな。

 

「初めに名乗っておこう。余は魔族の王。クメール。貴様ら人間が魔王などと称しているのは余の事である」

「その魔王様がなんの用事だよ」

 

こいつはヤバイ。

全身から死の気配がする。

だがコイツ……。言葉にできねえが……なんかおかしいぞ?

 

「ふむ、自己紹介も返さぬか。まあ良い。誰に聞いたか、との質問に答えてやろう。こ奴らだ」

 

三匹の竜のうち、後ろのほうにいた竜が足に捕まえていた何かを落とした。

こいつらは……砦で戦った奴らの死体か?

 

「ァ……ウゥ、ア……」

 

落とされてから少しして死体が動き出すと、呻き声を上げながら立ち上がった。

……ゾンビか!

 

「……随分と悪趣味だな」

「魔王は代々ネクロマンサーとしての死霊魔法を嗜んでおる。たいした魔力も持たぬ死者から真実を割り出すことなど容易い」

 

死の気配はコイツの魔法に原因があったのか。

 

……コイツに捕まっているうちに、魔族の奴らも追いついてきやがった。

ヤバいな。

 

「魔王様! 何故……い、いえ、何でもありません! 予定より大分お日にちが早いようですが、今年は巡幸の予定を繰り上げられたのですか?」

「貴様らが余に媚びへつらうため、いそいそと小競り合いを続けるのを眺めに、な」

「お戯れを……。我々はこうして犠牲の上に戦いを……」

「くどい」

 

魔王が手を振るう。

すると魔族が会話を途中で止め……。

いや、喋っていた魔族が崩れ落ちた。

攻撃か?

 

「厭戦の気が高まっていること、余が知らぬとでも思ったか」

 

……魔王の問いかけに誰も声を発しない。敵も、アタシ達もだ。

 

「今まではそれでもよかった。裏で敵を崩す策を練っていたからな。だが愚か者どもはことごとく失敗し逃げ帰ってきた」

 

だんだんと魔王の語気が荒くなる。

コイツらが身内で争ってる間に逃げたいが……、少しでも動くと気配がこっちに向きそうだ。

 

「そして今回、貴様らの士気向上を兼ねて早めに来てみれば、砦を落とされ奪還の部隊も土くれで覆われた扉ごときに四苦八苦する体たらく! たかが小娘ごときにこ

こまでしてやられておる!」

 

ああ、あの嫌がらせを片付けている最中に魔王が来たのか。

さっきの轟音はそれでか。

災難だったな。

 

「あ……、ま、魔王様! どうかご慈悲を!」

「ならぬ。我ら魔王軍は混沌と恐怖を生むためにある。貴様らは不運にも余の視察中に失態を起こした。諦めて命を供物として捧げるが良い」

 

旋回していた二匹の竜が口を開け、空気を吸い込む。

大きく開けた口の奥から僅かに光が漏れ出た次の瞬間、灼熱の炎がそれぞれの口から吹き出し、残ってた魔族達を一気に焼き払った。

 

「さてこちらの用は済んだ。人間よ、余は自ら力を振るうのを好まぬ。投降せよ。竜の息吹で楽に殺してやる」

 

やべえ。

……だが、舐められる訳には行かねえな!

 

「魔王だか阿呆だか知らねえが、もっと嬉しくなるような提案を持ってきな」

「ふむ、ならば竜の咆哮にて朽ちるが良い」

 

二匹の竜が再び口を開ける。

そして閃光が口の奥から漏れ始め――

 

「任せてマリーちゃん!」

 

竜の口から吐き出される炎はアタシ達を焼き払うことなくそのままポリーナの右手に集まって行く。

スキルを発動させたのか。

 

「喰らいなさい! 魔王! 〈火炎球〉」

「むっ……」

 

ポリーナが即興で呪文を唱え、巨大な火炎球を放った。

そのまま竜二匹の熱を火炎球に集めていたのか。

火球はそのまま魔王に直進して爆発し、一帯を土埃で覆い隠した。

 

「今だよ! 砦へ!」

「ああ、急ぐぞ!」

 

ポリーナの掛け声とともにアタシ達は全力で砦へ向けて駆け出す。

流石にこれ以上は限界だ。

アタシ達も魔力不足と疲労でヤバい。

 

砦の眼の前まで到着するとの兵士達が騒がしい。

 

「おいお前ら! 人間みたいだが、あれは何だ!? 何が起こっている!?」

「説明は後だ。さっきの狼煙は届いてるだろう?」

「狼煙……? あれか! 今門を……」

「駄目だ! ……門は開けなくていいからロープを垂らしてくれ。アタシ達はそれで十分だ。まだ戦いは終わっていないしな」

 

ローブを使って砦へ速攻で登る。

エリーとリっちゃんはアタシが担いで往復した。

全員が登り終える頃、丁度土埃が晴れて姿が見えてきた所か。

 

魔王は無傷だった。

いや魔王だけは、って言った方が正確か。

 

三匹の竜のうち、二匹が焼け焦げて倒れている。

残ったもう一匹もダメージを受けているようだ。

……盾にしやがったな。

 

「な、なんだいアイツは!? 竜種を三匹も従えるなんて!?」

 

自軍の砦に登ると見たことある婆さんが叫んでいた。

アイツはちょっとした有名人だよ。

 

「婆さん久しぶりだな。会えて嬉しいぜ」

「お、お前は……! なんだいアレは!?」

「本人いわく魔王だとよ。悪いが約束を果たしてくれ。依頼内容は魔王の撃破だ」

「な!? 無茶言うんじゃないよ!」

 

魔王、という単語で砦がザワつく。

まあ下っ端と戦ってたらいきなりボスが顔出すなんて思わねーよな、普通。

 

混乱をまとめたのは一人の兵士だ。

 

「落ち着け! うろたえるな! まさか、本当に現れるとは……。しかもこんなに早く……」

 

このオッサンが纏め役だな。

 

「おいオッサン。アタシ達は任務達成でいいか? 希望通り砦を落として魔王を引きずり出したぞ?」

「例の冒険者か……。話は『ラストダンサー』の細い目をした彼から聞いているよ。本当に魔王が現れるとは思わなかったが……」

 

どうやら任務内容を知ってる奴だったらしいな。よかった。手間が省けた。

 

「話が早いぜ。任務達成だな。それじゃアタシ達は失礼するぜ」

「おいおい!? あんなものを放置していくのか!」

 

あんなもんだから放置していくんだろう。

明らかにヤバイもんはむしろ触ると危険だからな。

 

「……言っておくが任務達成の連絡は私達の誰かがする。もし砦の誰も残らないようなら連絡は届かないぞ?」

「ひっでえな。ついでに戦わせようってか?」

「無茶を言っているのは知っている。だが任務を達成しても魔物を連れて町まで入ってきたら罰則を受けるのは当然だろ?」

 

魔物じゃねえよ、魔王だよ。

ちょっと似てるかもしれねえが別モンだ。

それに相手はまだ外だ。

 

だが、そうやってゴタゴタ揉めてる暇もねえな。

 

「面白い技であった。褒めてつかわす」

 

気がつけば魔王は傷ついたドラゴンの上に乗りながら砦の上部、あたしたちの目の前まで上昇していた。

……早いな。手負いなのにここまで一気に昇るか。

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