エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:聖璧ノーマル

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第105話 兄

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獣っ娘たちの部屋へ着いた。

 

「おいお前ら。待たせたな。今帰って……」

「なー、宰相さんいいだろ?」

「そうですよ。一生のお願いですから!」

「ううむ、しかしのう」

 

……そこに宰相のオッサンがいた。

獣っ娘達がなにかおねだりをしているな。

それは金になるから良いとして……。

 

「おいオッサン。こんな所で油売ってないで魔王の対策しろ」

「おやマリーか。もちろん対策はするとも。だがその前に伝え忘れておったことがあってのう。待っていたのじゃよ。捕まえた魔族じゃが……」

「マリー姉さんからもお願いして下さい! 宰相さんの体から知り合いの匂いがするんです」

 

そこでルルリラが横槍を入れてくる。

 

「とはいってものう……。捕えたのは魔族じゃ。勘違いではないかの」

 

なんでも宰相はさっきまで捉えていた魔族を尋問していたそうだが、その匂いが知り合いに酷似しているらしい。

……これはそろそろバレそうだ。放置しても良いが先に教えたほうが良さそうだな。

いらない疑いをかけられたくない。

 

「おい、ロリ……宰相のオッサン。分かっちゃいると思うがアタシたちは今は魔王と何の関係もない、そうだよな?」

「なんじゃいきなり……。それは正式な記録として残っておる。魔王と相対した実績もある。何を今更……」

 

「お前ら、元の姿に戻っていいぞ」

「え? はい! 〈解放〉です」

「〈解放〉これが本当の姿にゃん! ……じゃん」

 

ちびっこ二人がロリコンにその姿をさらす。

ロリコンは口を開けて固まっていた。

……さすがにショックだったか?

 

「すまねえな。こいつ等も魔族だ。一応、アタシの従者って事になってる。もちろん魔王とは何の関係も……」

「これは天使じゃ……。天使達がここにおる」

「オッサン、大丈夫か? 頭のことだぞ? ……いやすまねえ。聞くだけ無駄だな」

 

ここにいるのは天使じゃなくて魔族だ。

つか魔族との因縁はどうしたんだよ。

ロリっ子なら見境なしか。

 

「しかしそうか……。知り合いの匂いのう……。よし、牢屋まで案内しよう。ついてくるが良い」

 

おや、ロリコンが宰相モードになったな。

やっぱり仕事に関すると真面目だな。

 

「そうそう。後で君達の毛を撫でさせてくれんかのう」

 

やっぱりまだ駄目だわ。

 

 

「獣の男よ。面会じゃぞ」

「ルガル兄!」

「ルガルの兄ちゃんじゃにゃ……ないかよ。なんでここにいるじゃん?」

「ルルリラ! それにウルルも! どうしてここに!? それに……そいつらは一体……?」

 

やっぱり知り合いかよ。

つかお前の兄かよ。

お前の兄ちゃん魔王軍で横領してたぞ。

 

「アタシはこいつ等の主人だ。ああ、勘違いするなよ? 便宜上そうなってるだけだ」

「どうして魔王軍にいるの? ルガ兄のスキル『喰ワズ家来』ならどこだって働けるのに」

「……入ってから教えられたんだ。まさか魔王軍だなんてな。抜け出すことも出来ないから適当に仕事をして気がついたら最前線さ。流石に戦いたくないから上手くごまかしてたんだが……」

 

言葉を区切りアタシの方を見る。

そうか、アタシ達が攻めてきたから本格的に戦わざるを得なかったってわけか。

悪いな、こっちも命賭けだったんだ。

 

「このまま魔王軍に仕えるつもりか」

「ふん、人間よ。我らは決して屈することなどない」

 

なんだコイツ?

いきなり態度を変えやがった。

喧嘩なら買うぞ?

 

「本当にルガ兄は私達の仲間にならないの……?」

「…俺達魔王軍は魔王様によって呪いを受けている。人間への仲間になるにはその呪いが解かれない限り友好的に話すことすら難しいんだ」

 

なんだよ。アタシに喧嘩売ってたわけじゃないのか。

うっかり焼くところだったぜ。

だが、だいぶガバガバな呪いだな。

 

「呪い……?」

「ああ、魔王は有能なスキル持ちを見つけて急所……俺の場合は心臓だな。そこに呪いをかけている。裏切れば即死さ。それが魔王様のスキル……『人身ショウ悪苦』だ」

 

その後も駄目兄貴が呪いについて説明をしてくれる。

大体一年に一回、魔王は呪いをかけ直しにくる。

呪いは急所を覆うように展開され、急所そのものは何の呪いもかかっていないという状態のようだ。

 

ある程度放置して時間が経過した場合、あるいは人間と友好的な態度を取った場合に呪いが発動し呪いをかけた部位を圧縮してつぶすらしい。

 

呪いが解けたと言う例は聞いたことがないそうだ。

 

「死んでバラバラになった奴にだって呪いが発動してるのを見たことがある。心臓を取り替えない限り生き延びるのは不可能だろうな。そして俺は今回魔王に会えていない。意味は分かるよな」

「そんな……酷いじゃんよ!」

「気にするな。どうせ持って一ヶ月だ」

 

「真偽判定の魔道具に反応なし……真実のようじゃの」

 

ちびっ子たちが悲痛な顔をする。

また魔王のせいで身内が泣くのか。

 

……気に食わねえな。

 

「おい、アタシと賭けしようぜ、狼男の兄ちゃんよ。アタシが呪いを解けたら仲間になりな」

「……人間め、何をいっている? 俺を助けようと言うのか? 馬鹿馬鹿しい。貴様らの手は借りぬ」

 

「運が悪けりゃ死ぬだけさ。どっちみち、このままだと死ぬから分の悪い賭けじゃ無いだろ?」

「……もしも賭けに負けるようなら覚えていろ」

 

よし、本人もやる気みたいだな。

秘中の秘を使うぜ。

 

「エリー、オッサン。そしてひよっ子達は出ていってくれ。アタシの裏技をつかう」

「マリー、私はここにいますよ。困ったときは支援が必要でしょう」

「わ、私もここに居させてください! たとえ失敗しても最後まで一緒にいたいんです!」

 

おっさんとウルルは部屋から追い出したが、エリーはともかく、ルルリラは頑として譲らなかった。

しょうがないか。肉親だもんな。

結局折れて残って貰っている。

 

「今から無理やり呪いを解く。かなりキツいが我慢してくれ。ルルリラ、今から見せるのはアタシのスキルだ。決して誰かに言うんじゃないぞ」

 

そう強く伝えるとルルリラは黙って頷いた。

よしよし、いい子だ。

 

「一体何をする気だ……?」

「なーに、時間にして数分くらいさ。ちょっと冷えるがな。あと姿形が変わる可能性もあるが、なるべく近い形に戻せるはずだぜ、多分な」

「人間よ。どうせ死ぬ身だ。失敗しても……いや、失敗するとどうなるか覚えているがいい」

 

よしよし、その意気だ。

 

「まずはこれを飲みな。嫌がっても飲ませるから大人しく飲んどけ。痛みを快楽に変える薬を薄めたもんだ」

 

薄めることで効果時間も少なくなるがまあいい。

万が一意識があった場合の痛みを軽減させることが狙いだからな。

 

「飲んだな。次に冷やして心臓を潰す。準備はいいか」

「な!? 貴様何を……」

「おい暴れるな。エリー、縛るから幻覚と魅了で無力化してくれ」

「おい、やめ……」

 

エリーの魔法で、狼兄貴は完全に沈黙する。

さあ、こっからだ。

 

「行くぜ……」

「マリー姉……。だ、大丈夫なんでしょうか」

「安心しろ……とは言えねえな。だが分の悪い賭けじゃないぜ」

 

アタシは狼兄貴を今まで以上にガッチリ縛り付け、氷魔法で冷やしていく。

 

「くがっ!? おい、貴様! 何を……」

「起きたか。もう少し冷やすから待ってろ。アタシが仲間になるかと聞いたら『はい』と答えるんだ」

 

成長したアタシなら数分でなんとかなるとはいえ、医学の知識なんてないからな。

万が一があると困るから仮死状態に近くしておくのさ。

 

知識があれば風魔法と水魔法で疑似心臓を作ることもできたかもしれないが……。

ないものは仕方ない。

 

まあ限界まで冷やした方が、心臓が止まっても助かる確率は上がるはずさ。

とはいえこれは賭けだ。

万全を期して――。

 

スキル発動。

よし、今だ。

 

「ルガル……だったか? アタシ達の仲間になりな」

「分かっ……た……。な、る……」

 

ベコン、という小さな音とともに、心臓の部分がヘコんだ。

よし、こっからだ。

 

「治療成功だ。……どうだ、気分は?」

「ふえぇ……何これ……」

「ル、ルガ兄が幼女……に……。これがマリー姉のスキル……」 

 

狼兄貴がなると答えた瞬間、呪いが発動して胸に拳サイズのヘコミができたのは驚いた。

だが、アタシのスキルでそのヘコみもない。

キレイなもんだ。

 

「これで大丈夫のはずだ。改めて聞くが、人間の仲間になるか?」

「だ、誰があんたたちの……いや、あたい……俺がやった賭けだったな。魔王を裏切り仲間になろう」

 

……よし、呪いは発動しないな。

何度も発動する類のものじゃないようだ。

もし発動したら、もう一回凍らせる必要があったぜ。

 

アタシのスキルは口外厳禁だと伝えて姿を戻してやる。

……前よりイケメンになってるな。

 

「ルガ……兄?」

「お、おう我が妹ルルリラよ……お兄ちゃんだ……」

「……違う! ルガ兄じゃない! 匂いが別人になってる! 貴方誰ですか! ガルルッ!」

 

おい、ペットの病院から久々に帰ってきた奴に対するようなアクションを取るんじゃない。

正真正銘お前の兄ちゃんだ。

ついでに幼女だ。

少しくらい臭くなっても大目に見てやってくれ。

 

「悪いなルルリラ。匂いだけはどうすることも出来なかった。コイツはお前の兄ちゃんで間違いない」

「うう……。本当にルガ兄ですか……?」

「お、おい。本当だよ。ほらルルリラが八歳のときオネショしたのとか覚えて――」

「この人やっぱり他人です」

「ルルリラーーッ!」

 

命は助かったが兄妹関係にヒビが入ってしまったようだ。

ただまあ乙女の恥ずかしい秘密を他人の前でバラす奴は他人でいいか。

 

 

その後宰相とウルルに成功した事を伝える。

ウルルもルルリラ同様に混乱してたがなんとか宥めた。

あいつ等、顔だけじゃなく匂いでも嗅ぎ分けてたんだな。

 

宰相達にはアタシの秘策が成功し、味方になった事を話す。

 

だがアタシのスキルの事は徹底して秘密にした。

ロリコンのオッサンが幼女になりたいとか言っても困るしな。

 

本当ならスキルの片鱗すら知られたくなかったが、ルルリラの悲しい顔を見る方がムカつくから仕方ない。

 

獣の兄ちゃんは宰相に預けた。

次の戦いでは裏からスキルで支援して貰うらしい。

 

宰相は王様やら他の貴族、大臣たちと議論して攻めるか守るか決めるそうだ。

 

アタシ達は館に戻り、王国とギルドの指示を待つ事になった。

館ではメイとリッちゃんが出迎えてくれる。

 

「マリー。僕とメイは次の戦い、二人で出るよ」

「私は戦いは苦手ですが……。今回はそうも言っていられません。ファウストお姉さまの安寧のため、全力を尽くす所存です」

「ああ、頼む。だがあんまり気張るなよ。戦いは先だからな」

「大丈夫だよ。それはファーちゃんも望んで無いだろうからね。あの子は笑うのが好きだったんだ。だから僕たちはあの子が望んでいるように笑っていくさ!」

 

リッちゃんもまだ少し表情は暗い。

だがショックからは立ち直ったようだな。

 

 

戦いまで四ヶ月。

あらゆる作戦を模索して、あるいは仲間を集めて日常を、そして笑顔を取り戻すぜ。

 




第七章はこれで完結となります。
一度書き溜めますのでしばらくお待ちください。
※次回投稿の目標は1月頭くらいですが最後はちょっと詰めたいので少し前後するかもしれません。

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