エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第109話 里の長

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「――と言うわけで、アタシはお前んトコの獣っ娘を使用人として預かってるのさ」

「そんな事情があったとは……。すまなかった」

 

とりあえずひよっ子として獣っ娘達が来たことから経緯を説明してやった。

なんとか納得してくれたようだな。

 

「同じ魔族で吸血鬼の奴らは西……。こっからだと南西の方にあるところに住んでるらしいな」

「そんな所に吸血鬼やエルフがいたのか。あそこは人間族の街くらいしか認識していなかったぞ」

「ん?街があるのか?」

「ああ、だがそこにあるのは人間の街だ。交通の便は悪く、見るものも少ないが数百年前からそこそこの発展はしていると聞く」

 

へえ。じゃあ魔族が潜伏しているのかもな。

しかしおっさん、色々と詳しいな。

意外と情報収集してるのか。

 

「いやしかし二人とも帰ってきてくれて良かった。最近色々とキナ臭かったからな。族長も喜ぶぞ」

 

なんか気になる発言が出たな。

 

「キナ臭いってのはどういう意味だ?」

「最近はこの森が色々と騒がしい。この間も誰かが侵入しようとしていた。今回もその類かと思って村のスキル持ちに追い出してもらおうと思ったんだが……」

 

それがアタシ達だったと。

さっきから魔物やらが襲いかかってきてたのはスキル持ちのせいか。

 

アタシたちは愛と平和の使者だから勘違いも甚だしいとして、少し気になるな。

もしも敵なら鉄拳制裁をしないとな。

 

「そいつの姿や格好は見たのか?」

「いや、だが複数の者が侵入しようとしていることは間違いない。……これ以上こんなところで話すのも無駄だな。里へ来るがいい」

 

相手の詳細は分からなかったが仕方ないか。

やっと案内してくれる気になったようだし、おいおい情報を聞こう。

 

 

里は森を抜けた先にあった。

建物はそこらへんの木を伐採して作ったのかほぼ木造だ。

屋根は藁ぶき? いや茅葺き屋根ってやつか?

初めて見たからよく分からんな。

 

畑のそばの水路は川魚が泳いでいる。

 

のどかな場所だな。

都会の喧騒に疲れたときはゆっくりしたい場所だ。

今度はリッちゃんと一緒に来よう。

そしていつでもワープできるようにして貰おう。

 

「ついて来い」

 

時折、畑仕事をしている住人の視線がこちらに向かう。

人間がココにいるのは珍しいんだろうな。

 

獣人と一口に言っても様々だな。

耳だけが獣の耳をしている奴から、ほぼ二足歩行しているだけの獣の姿をした奴まで色々と種類が豊富だ。

 

エリーが手を振ると、手を振り返してくれた。

アタシも手を振っとこう。

おや、ウルル達より更に幼いちびっ子達がコッチへ来たな。

 

「ウルルちゃんにルルリラちゃんだ!」

「あっ、久しぶりだねー」

「おう! お前ら元気だったか?」

「うん元気! 一緒に遊ぼー?」

「『わるいあくまとひかりのかみ』のお話読んでー」

 

なんか獣っ娘がさらにちっちゃい獣っ子達にたかられている。

 

ウルルとルルリラがこっちの方を伺ってきたので頷いてやる。

おう、久しぶりの帰郷だろうし遊んでこい。

 

アタシたちは大人の話をするからな。

遊び終わったら来るんだぞ。

 

「……って、ルルリラは行かないのか?」

「私はお母さんに挨拶をしてから遊びに行きます!」

 

挨拶か。

親思いで良い子だ。

 

やがてこぢんまりとした建物の前で黒豹のおっさんは足を止める。

 

「ここにあるのが族長の家だ。ここで話をしよう」

 

本当に族長の家か?

こぢんまりして、ちょっと火をつけたらよく焼けそうだぞ。

 

扉を開くと、一人の女性が飛び出してきた。

 

「ルルリラ! 帰ってきたのね!」

「あ! お母さん! ただいま!」

「もう! 突然お菓子作りの旅に出ますとか言って外に行っちゃうから心配していたわ」

 

ルルリラ、お前族長の娘だったのか。

結構重要な地位なんじゃないのか?

よく連れ戻されなかったな。

 

ん? ちょっと待てよ?

てことは前にあった兄とやらは族長の息子って事か?

 

おっ、ルルリラの母親がこっちを見て挨拶をしてくる。

よく見ると大人になったルルリラみたいだな。名前知らないし母リラでいいか。

 

「えっと……初めまして、でいいのかしら? その匂いは人間ですよね?」

「ああ、アタシがマリーでこっちがエリーだ」

「まあまあ……。その匂いからするとウルルちゃんも一緒なの? 近くにいるのかしら?」

「ララの子供達と遊びに行っちゃった。私も行ってくるね」

「まあ……しばらくぶりに帰ってきたのにこの子ったら……ちゃんと帰ってくるのよ」

「大丈夫! しばらくはここにいるから!」

 

簡単に挨拶を済ませるとさっさと出ていってしまう。

なんというか、家出した割には軽いな。

 

「外の人は驚くかもしれませんけど……私達獣人は近くの村まで行くのが大人の証明なんです。あの子達はちょっとだけ大人になるのが早かっただけですわ」

 

ん、表情に出ていたか。

だが説明してくれて助かる。

 

「でもしばらく戻ってこなかったから心配してたんですよ。あの年くらいだと万が一もありますから」

「だがお前達が面倒を見てくれるという事で助かった。さあ座ってくれ」

 

勘違いして襲い掛かってきたくせによく言うぜ。

黒豹のオッサンに進められるままアタシ達は座る。

中もこぢんまりとしているな。

 

「今お茶を入れますね」

「おう、最高級のお茶を頼むぜ」

「んー、ごめんなさいね。ウチには裏庭で取れたハーブティーしかないの」

 

淹れてくれたのはカモミールに柑橘系を混ぜたハーブティーだ。

なんだ、十分じゃないか。

ありがたくいただくぜ。

 

「しかし、族長の家という割には小さいんだな。こういうモンは威厳とかも兼ねてでっかくするもんだと思ってたぜ」

「人間の領地ならそうかもしれないわ。でも、ここの里はかなり大きいけど資源には限りがあるの」

 

黒豹のおっさんが説明を補足してくれる。

どうしても多少なりとも節約が必要となる以上、族長が率先して規範となっているらしい。

 

村の長として小さな家に住むのが代々の習わしだそうだ。

ただし、もしも今回みたいに外からお客さんが来るなら大きくしないと行けないかも、とは呟いていた。

 

……アタシ達の存在は里に影響を与える異分子なんだな。

 

「里が貧しいなら里から出ていったりはしないのか?」

「ええと、人間さん達の貧しさとはちょっと意味合いが違うけど、貧しいと言う訳ではないの。食べ物には困らないし、住むところも困ることはないわ。贅沢をしちゃうとちょっと不足するだけ」

 

里では着飾ったりなどの贅沢する事は難しいが、生活という点では不自由しないそうだ。

ただし沢山の兄弟姉妹がいる場合は森を抜け出て、そのままひっそり都会に住み着くこともあるとか。

 

……獣人が珍しいとか吸血っ娘が言ってたが、魔族として集団で見かけることが無いのと、人間社会に溶け込んでるせいなのかもな。

 

「でもルルリラやウルルちゃんが外へ行ったときは驚いたのよ。まだ子供だから悪い人に攫われてたりしないかなって」

「気持ちは分かるが外の過酷な環境の方を心配しろよ」

 

いっちゃなんだが外は子供二人にはキツイぞ。

魔物は多いし寒いしで、アタシでも冬にここへ来るのは遠慮したい。

 

「なに、あやつらは里の子だ。真冬を除けば生き延びる術は教えてある」

 

黒豹の、おっさんが補足してくる。

そう言われてみたら確かに会った時から戦闘の心得はあったな。

 

「しかし、アンタが族長でいいんだよな? 旦那さんとかはいないのか?」

「人の国では一夫一妻だと聞いている。だが、ここでは祭りなどその時々に応じて子供を作り、時には番(つがい)となって村の子供として育てるのだ」

 

母リラに質問したが、質問が帰ってきたのは黒豹のオッサンの方だ。

 

なんでも里をまとめる族長は母リラで間違いなく、跡継ぎとなる子供は沢山いるが旦那さんはいないらしい。

ある意味で原始の名残を残してるんだな。

 

他にも利害の関係でいくつか里を区域分けして暮らしているなどの情報を教えてくれた。

 

「でも好き合う者同士で優先して作ったり、場合によっては一緒に住んだりするの。もちろん住まなくても里の皆で育てるから大丈夫だけど……ねっ?」

 

黒豹のおっさんにしなだれかかってくる母リラに対してバツが悪そうに顔をしかめていた。

顔色は分からないが……つまりそういう仲と。

 

「ゴホン! そんな事より! いい加減に本題を話して貰おうか? ここに人間族が来るというのはかなり珍しい。うちの娘達を連れてくるためにここへ来たわけじゃないだろ?」

 

そうだな。

のどか過ぎて忘れていたが、ちゃんと本題については話合わないとな。

 

「ああ、本題だな。実は――」

 

アタシはギルドや王国の存在、そして前回の冒険で何が起こったかをかいつまんで話す。

 

「魔王が……」

「ああ、今回引きこもりの魔王が珍しく出てくると宣言しやがった。そこで力を貸して欲しいってのがギルドからの依頼だ」

 

 

「お話は分かりました。ですが……これは私一人で決めていい話題ではありませんわ。氏族の者を集めて決議を取りたいと思います。皆に伝えてきて貰えないかしら?」

 

黒豹のおっさんに頼む母リラ。

オッサンは頷くと一度身支度をするといい、立ち上がった。

 

「こんにちにゃ〜。……コホン、こんにちはじゃんよ」

 

そこでウルルが戻ってきた。

どうでもいいが地元だとそんな言葉使いになるんだな。

別にアタシたちに気を使って言葉遣いを直さなくていいぞ。

むしろそのままがいい。

 

「さ、俺はママ……お袋のほうに挨拶してくるじゃんよ」

「うむ、では一緒に帰ろうか」

「親父と一緒は嫌だから先に帰るにゃ!」

 

反抗期か。

微笑ましいなあ。中年の男は臭いもんな。

 

……いやお前ちょっと待て。母親がいるのか?

さっきの話の流れからてっきりウルルと姉妹かと思ってたぞ。

 

母リラを見ると口に人差し指立てて内緒ですよ、とか呟いてる。

 

……かなり複雑な人間……いや魔族関係だな。

深く追求したらドロドロしたモノを見てしまいそうだ。

気づかなかった事にしよう。

 

とりあえず黒豹は敵だな。

あんな面してとんでもねえ奴だ。

 

「マリー姉? どうしたにゃ……じゃんよ」

「いや、最悪お前の親父を倒さなければいけないと思ってな。許せ」

「にゃんで!? い、一応俺の親父だしちょっとは手加減してほしいじゃんよ」

 

よしよし、なら半殺しくらいにしとくか。

 

 

夜になると人が数人集まってきた。

氏族の長とやらだろうか。

ルルリラも帰ってきたが遊び疲れたのかすぐに眠ってしまった。

 

「噂は外に出た者から報告であったが……ついに来たか」

「初代魔王は我々を創造して下さった方です。そのような方と手を合わせるなど……」

「しかし今の魔王とはなんの関係も……」

「そもそも我々が攻撃に参加する事でかえって魔王の怒りを買い、攻撃の対象となる可能性も考えられますな」

 

氏族を集めて相談すると言っていたから薄々予想はしていたが、なかなか面倒な話になりそうだ。

長引かない事を祈ろう。

 

待ってる間は暇だから、アタシたちは紹介された温泉に浸かりながら待っている。

 

温かくて体が溶けそうな、いい湯だ。もし体が溶けたらエリーと一つに混ざり合おう。

……暇だしリッちゃんに連絡をしてみるか。

 

「ちょっとリッちゃんとやり取りしてみるぜ。そっちはどうだ、と」

「すぐに返信が来ましたね。えっと……ダー君に、会った、よ、ですか……。ダー君ってどなたでしょうか?」

「……さあ? とりあえずコッチは温泉が気持ちいいと伝えとくか」

 

なんか知らない間に知らない奴と仲良くなってるな。

まあ仲がいいのは良いことだ。

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