エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜 作:SHノーマル
8-X2-127
「この二つの噂話は研究の結果、どちらも真実を元にした話ではないかと言われております」
この時、封印したと呼ばれる存在がリッちゃんではないかとアタリをつけていたらしい。
もし本当に危険な存在であった場合を踏まえ、領主の館へ招き入れるわけにもいかない。
そのためリッちゃんの実力と人となりを含めて確認するために手合わせを行おうとしたのであった。
「それであのような対応を……。手紙に書いてあったはずなのにおかしいと思いましたわ」
「ええ……。ですが本当に……、くくっ、本当に手紙どおりの面白い方だとは思いませんでしたので失礼をいたしました」
てっきり演技をしているだけだと思っていました、と笑いを噛み殺しながらも執事は門扉を開き、招き入れる準備をする。
「おまたせいたしました。私共真祖の一族は皆様を歓迎いたします。私は執事のジョルジュ」
「私エルフの一族も皆様を歓迎いたしますわ。私はエルフの長として皆を取りまとめております、セフィーヌと申します」
エルフの長と吸血鬼の執事が二人とも頭を下げてくる。
「そして古きエルフの始祖メイ様。歓迎と共に末永く友好を……」
「いえ、それはお断りします」
「な、何故!?」
「主人に対して弓引いた者と仲良くするわけ無いでしょう」
冷たく言い放つメイにエルフ達は右往左往する。
「そんなどうか!」
「ま、まさかそこで籠城をそのまま!? どうか出てきて下さいませ!!」
慌てふためくエルフメイド達を見て、軽くため息をつくメイ。
「ほらほら、メイ。僕は大丈夫だから許してあげてよ」
「……まったく、しょうがないですね。次は容赦しませんよ?」
そう言うとメイはスキルを解いたようだ。
そこで館の扉が開いて新たな人物が現れた。
「それは私から伝えるべきであろうな。始めまして始祖の方々よ。そしていきなりの非礼をお詫びする。私はマグラ・ドラクート。ここの当主をやっている。お見知りおきを」
館から出てきたのは恰幅のいい男だ。
「お父様!」
「我が娘フィールよ。此度は良くやってくれた。まさか本当に古き友人を見つける事になろうとはな。ジョルジュよ、下がれ」
「はっ!」
執事が身を引き、男爵の後方へ移動する。
男爵は改めてメイ達の方に向き直ると、ゆっくりとお辞儀をした。
「この度は古き魔族の方々に失礼をしたこと、お詫び申し上げます」
「矢の前菜のあとは、主人との会合でしょうか? 私たちも好みがありますのでメインディッシュをお断りさせていただく場合もございますが?」
主人に矢を射掛けられた事で、まだメイは怒っているようだ。
「これは手厳しいご回答。謝罪として我らの秘密をお伝えしましょう」
男爵は静かに語った。
「この館の真の当主にして始祖ダルクール様は存命であり、永き時をお待ちになっております」
メイ達は館の一室に案内される。
そこでは、一人の幼い少年が氷の中で眠りについていた。
「ああ! ダー君だ! 僕だよ! 元魔王で元父親のリッ……、あれ?」
氷の中の少年に声をかけるが目を覚ます様子はない。
「まさか始祖が生きていたなど……存じませんでしたわ。お父様はこれを隠していらっしゃったのですか?」
「流石に幼いフィールに伝えることではなかったからね。今回もまた成果が得られず戻ってくるなら教えていたよ」
優しく諭すようにフィールと話をする男爵。
後の言葉は執事が引き継いだ。
「ダルクール様は自らの秘術によって仮死状態となっております。私達も話をしたことはございません」
始祖であるダルクールは寿命が残り少なくなった時、生みの親の片割れであるリッちゃんに会いたいと自らを仮死状態のまま保管することを選択した。
いつか封印が解ける時に一目でも会いたいという希望に胸を託しての事だった。
「これはダルクール様が暗記していた封印の魔法を当時の者達が再現したものと聞いています。ただ完全ではなかったようですので、氷魔法も併せて用いたとか」
封印の魔法に対する解説を聞きながら、リッちゃんはゆっくりと魔法を調べていく。
「あー……うん。空間魔法での封印に似てるけど……。完全に再現できてなくて僅かに時間の干渉を受けてるね。肉体の劣化が少しでも遅くなるように氷魔法で覆って……その氷にも空間魔法を使ったのかな?」
「一瞬で見抜くとは流石、元魔王様です。私達では解除しようにも時間を要した事でしょう。申し訳ありませんがコチラを解除していただいても?」
「任せてよ!」
リッちゃんは男爵に快諾すると、術式を解除し始める。
「解除の前に一つだけ。我々吸血鬼一族は長寿ですが、それでも限界はあります。始祖ダルクールは死ぬ間際に自らの時を止めたといいます。……おそらく解除後はそう長くないかと」
「……そうなんだ。うん、分かったよ」
リッちゃんはゆっくりと頷くと解除の手続きを進めていく。
やがて少年の覆っていた氷が砕け散ると、少年はゆっくりと目を開く。
「ん……誰じゃ? 儂を起こしたという事は……メイ姉さんが見つかったのか? そうでないなら解き放つのはまだ早い。出直すがいい」
そう言って二度寝をしようとする少年。
「始祖ダルクール様。あなたの希望通りメイ様とリッちゃん様を見つけ、お連れいたしました」
「わかったわかった。貴様らの戯言はようわかった。魔王ファウスト様の封印、そうそうすぐに解けるわけがないだろうて。また封印を頼む」
「自分の子孫のことぐらい信じろよ。つか寝てるから一瞬に感じてるだけじゃないのか?」
カリンの言動に対して苛立ったのか、眠そうな顔をしかめてリッちゃんの方向を見る少年。
寝ぼけ眼だったその目は大きく開かれる。
「リッちゃん様とメイ様、本当にお見えになっております」
「リッちゃんで良いよ! 久しぶりだねダー君」
「お、お父様……。まさか本物で……? それにメイ姉さんも……」
「もうお父さんじゃないよ。お母さんだよ! ……待たせたね、我が愛する息子、ダルクール」
「と言うことは……ファウストお姉さまから聞いていた通り、性別の壁を乗り越えられたのですね! おめでとうございます」
二人の会話に周りの人間は疑問を覚えたようだが二人とも気にする様子はない。
少年の姿をした始祖ダルクールは一礼をするとこれまでの事を語りだす。
「実に……実に永い時でした。ファウスト様が暴走し、魔王と名乗ってから数年、私はこの一帯を人の領地として治めてきました」
その他、領主としての気苦労やその後の日常などを訥々と語っていく。
その様子をリッちゃんは慈しむように黙って聞いていた。
「ファーちゃんはなんで暴走しちゃったんだろうね」
「それは……分かりかねます。部屋で一人泣いていたかと思えば急に笑い出したり、精神が不安定になっていたように思います」
ファウストが魔王と呼ばれるようになって、僅かな時間だがダルクールは共に生活していた。
何故魔王ファウストがダルクールを封印、処刑しなかったのか。
それは本人にも分からないそうだ。
「ですがファウスト様は、最後にこうおっしゃいました。『私が私でなくなる前に私の元を離れなさい』と」
ダルクールの話によれば、その後すぐに魔法で飛ばされて、気がつけばこの近くにいたらしい。
「でも、ダー君に出会えて良かったよ。」
「はい、最後の時に出会えて嬉しく思います」
「話はさっき聞いたけど……すぐに逝ってしまうの?」
悲しそうに尋ねるリッちゃんに対して、ダルクールは小さく頷く。
吸血鬼は外部から血を経由して魔力を補充する。
吸血鬼にとって魔力は肉体を構成する重要な要素だ。
「私も永き時を生きた影響で、魔力の循環に影響が出始めました。永く生きていた弊害ですね」
ダルクールに限らずすべての吸血鬼は、魔力を入れ替える事で永遠の若さを保ち、長寿を実現していた。
しかし寿命は永遠ではない。
自身に変換しきれなかった魔力が少しずつ、長い時を経て毒のように体を蝕んでいた。
その事をリッちゃんに伝えると、少し考えるように唸ってから答えを返す。
「そっか……。じゃあ君を作った最初の材料でなら他の人の変換しきれなかった魔力を洗い流せるかもね」
「最初の材料……?」
「そう。僕の魔力だよ。はい、どうぞ」
リッちゃんが指を差し出すと、そこにダルクールの目が釘付けとなる。
「おお……。で、ですが我が子孫たちの前でそのようなはしたない……」
「もう! 前はよくせがんできてたのに……、ダー君は遠慮せずに飲みなよ! 命がかかってるんでしょ」
「そ、それでは……いただきます」
そっと指に口に噛み付くと、美味しそうに血を啜るダルクール。
「はぁ……。なんとも甘美なる味……。偉大なる御方の血を再び舐め取れる日が来るとは……。あぁ……」
「よしよし。ダー君は良い子だねえ」
「お父様……。いえお母さまぁ……」
見た目は幼い少年のため一見違和感はないが、アルマとカリンの二人は、息を荒げて指をしゃぶるダルクールを見てうわあ……と小さく呟いていた。
「なあフィール、あれ本当にご先祖様なのか?」
「ああ素敵、私もカリンの……。え? ええ、私のご先祖で間違いないと思いますが……どうかしまして?」
「ああ、悪い。間違いなくフィールのご先祖様だな」
ヨダレを拭いているフィールを見て、カリンはツッコむのを止めた。
「ふふ……。力が滾りおる。これならもう少しだけ生き延びられそうじゃ」
「さて、そろそろ本題に入っても?」
一通り落ち着いた頃を見計らって男爵はダルクールに尋ねる。
「うむ。皆のもの失礼した。懐かしの再会にワシも歓喜しておった。しかし何故このようにエルフも含め皆集まっておるのか?」
「はい、実は今魔族を支配する魔王と――」
セフィーヌとリッちゃん、そしてメイが説明をしてくれる。
封印から解放、冒険に至るまでの経緯、そして魔王ファウストの事を。