エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜 作:SHノーマル
第116話 戦の前
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魔族の進行が始まってから三日。
男爵領は荒らされているらしく、避難民が流れ込んで来ている。
難民は子爵領の外れにある村の方へ送られるらしい。
戦闘向きじゃない冒険者は避難民の誘導に当たっている。
そしてアタシ達は――。
「くそっ、人間め! 何故分かった!?」
「ウチには幸運の女神様がついてるんでな。当て感でなんとかできるんだよ。ファイアローズ」
「ふ、ふざけ……うぎゃあああ!」
先行して偵察に来た奴らを倒している。
今回の防衛に伴って依頼を追加で受けたからな。
依頼人は宰相だ。諸々の奇襲に必要な罠を仕掛けてほしいとのことだ。
その依頼をこなすついでに魔族の斥候やらを見つけてぶっ叩いている。
「ふう。これで辺りの魔族は倒したね」
「隠蔽の魔法やスキルを使ってると探すのが億劫だな」
「エリーのスキルで大まかな位置は当てられるんだけどねえ」
「細かいところは難しいですね……。リッちゃんの魔法で一度館まで戻りましょうか?」
今回の戦いではリッちゃんが作った転移門の簡易版、通称簡易ポータルを用意して貰っている。
いつも使ってる転移門みたいに細かい設定はできない。
さらに一方通行で一回使うと壊れる。ただし製作コストが低いのが特徴だ。
すぐに壊れるから敵に再利用される心配もない。
この戦場で常時野営するのはリスクが高いし、なによりまだ本番戦じゃないからな。
敵の本隊が来た時に疲れて戦えませんじゃ話にならない。
行きと帰りで簡易ポータルと罠を設置、偵察して敵がいたら狩る、一通り簡易ポータルの設置が終わったら撤退して休養を繰り返している。
「宰相さんの依頼もほぼ終わったし、後は待つだけだねえ」
「ああ。だけど油断は禁物だぜリッちゃん。一回は裏をかかれたからな」
魔族をナメてると痛い目にあう。
王国の諜報部隊をうまく騙してすり抜けて軍を展開出来るんだからな。
まあ宰相のおっさんいわく、アタシ達が獣人の里で体験したあの瓶詰めにするスキル持ちの影響が大きいみたいだけどな。
「さて、そろそろ撤退――」
「マリー! 遠くに大量の反応があります。おそらくは魔族かと」
エリーが警告を発してくれる。
……ついに来たか。
「僕たちも見つかっちゃってるかな……」
「どうだろうな。軍で使う探索魔法は遠くまで届くが精度が荒いみたいだからな」
少数精鋭で動いてる奴らは捉えにくいと宰相のオッサンから聞いた。
その弱点を埋めるために斥候を使うとか。
まあ少なくとも斥候を倒してる存在には気がついてるだろうな。
「よし。宰相のオッサンからの依頼もそろそろ良いだろ。一回帰還だな」
「オッケー。じゃあ後は迎え討つだけだね」
アタシ達は一度館に移動する。
出迎えてくれたのはメイだ。
「お帰りなさいませ」
「おう、ついに敵が見えるところまで来たぞ」
「メイもそろそろ準備をしていた方がいいね」
「ついに……ですか。承知いたしました。お姉様との戦いの際には私が全力でお守りしましょう」
メイのスキルは防御のスキルだと言うことをリッちゃんから聞いている。
正直どこまでできるか分からないが……。
ファウストの超攻撃対策の切り札になるらしいから期待してるぜ。
「まあ、魔王の姿は確認できてないみたいだし、すぐに戦う事はないだろうさ。ところでアイツはどうした?」
「アイツ……? ポン子さんなら訓練中ですが」
訓練?
一体何の訓練をしてるんだ?
頭はもう手遅れだとして……何を訓練するんだ?
「あ、マリーさーん! 助けてください! あのメイドさん鬼です、外道です!」
「私はエルフですが」
「ひいっ! 居たあ!」
おお……。
ポン子にトラウマが植え付けられてる……。
凄いな。
あいつ何をやらかしても決して懲りない鋼色の鉛メンタルだと思ってたが……。
まさか直してるのは性根か!?
「良くやったぞ。メイには特別に給金を出さないとな」
「ちょっと! なんで私じゃなくメイさんなんですか!」
「胸に手を当ててよく考えてみような?」
「……少しも心当たりがありませんが」
「そういう所だ」
問題に気が付かないことが一番の問題なんだ。
自分に絶対の自信を持つのは良い事だがそれが今の現状に繋がってることを理解しろ。
「いずれは夜のお世話も出来るようにしますので少々お待ちください」
いや、そこまではいらねーよ。
エリーだけで十分間に合ってる。
「それよりついに魔族が来た。アタシ達はこれから準備をして他の冒険者に合流する」
「それでは早速ギルドに伝えてきます! そしてそのままギルドの支援に移ります!」
「ああ、頼んだぞポン子。……やけに動きが早いな」
あっという間に去って行ってしまった。
いきなり真面目に働きだすとはどういう風の吹き回しだ?
なにかの病気ならギルドに行くより先に治療を受けて欲しい。
「さきほど館を汚した罰として部屋の隅から隅まで清掃を申し付けた所でしたので。大義名分を得たと喜んでいるのでしょう」
「それは悪い事をしたな」
メイがきっちり躾をしている最中に甘やかすような事をしてしまった。
体が動かなくなるまで働かせてから送り出すんだった。
アタシもまだまだ甘いな。
「マリー、王国とギルドに通信がおわったよ」
「おう。ありがとなリッちゃん」
エリーとリッちゃんには魔導具で通信をしてもらっていた。
とは言ってもほとんど一方通行の通信だ。
宰相は忙しくて取り次げないが、代理の奴が受け取っているらしい。
「それで、例の宰相の作戦ですが、先に人を送っておきたいとの連絡がありました」
「分かったぜ。じゃあリッちゃんはその人達を迎えに行ってくれ」
リッちゃんの転移門なら一足飛びだからな。
転移門の細かい調整も必要だろうし、向こうの魔法使いがいてもリッちゃんなら専門知識で色々と話もできるだろう。
リッちゃんが王都に行くのを見届けると、アタシ達は先に戦場へ向かう。
「マリー! 久しぶりなのですよ」
「あらあら、元気にしてた?」
会ったのは『ラストダンサー』のリーダー、ポリーナと勇者ちゃんだ。
魔王軍が来るということで、簡易ポータルのテストも兼ねて事前に王都から転移させた奴らだ。
リッちゃんの魔法が大活躍だな。
宰相からはこれで軍隊を一気に移動させて叩こうという案も出た。
だが一度に運べる人数が五人から十人程度と少なかったり、魔力などの関係で一日に作成できる転移門に限りがあったため、王都から呼んだのは『ラストダンサー』と、勇者ちゃんだけだ。
一応、他にも腕の立つ冒険者をかき集めて送ってくれるらしいので、一方通行の簡易ポータルを王国にいくつか作っている。
「お前らもうすぐ奴らが来るぞ! 気を引き締めていけ!」
聞き慣れた声がして、あたりを見回すとおやっさんが指揮を取っている。
「おやっさん、こんな所でもギルドの指導か? ご苦労さんだな」
「おう、マリーじゃねえか。なんせこの街が始まって以来の危機だからな。民間からも義勇兵を募って働いてもらってるぜ」
おやっさんが親指で奥にいるやつらを指差してくる。
「あ、マリーさんだ!」
「え、嘘っ! 本物!? じゃああっちがエリーちゃん!?」
「わー! おじさん初めて見ちゃったヨ」
おお……なんというか……一般人だ。
見た目も筋肉の付き方も戦い向けじゃない。
「コイツらは基本的に戦闘と言うより後方支援がメインだな。俺達みたいなのは前に出て戦うから安心しろ」
「おやっさんも戦うのか? 引退して大分経ってるだろ」
「ふん、これでも元B級冒険者だ。若い奴らには負けねえよ」
おやっさんがニヤリと笑う。
まだ腕は鈍って無いみたいだな。
「……とはいえ雑務も掛け持ちだから俺自身はそこまで仕掛けられない。万が一の予備兵だと思え」
「それはしょうがないな。こんなに人数も増えてるし大丈夫か? 指揮が混乱したりとかスパイとかいたらたまんねえぞ?」
「それか……。特にスパイだが、ちょっと困ったことになってな」
やっぱりいたか。
炙り出すのが大変だろうにどうするんだ?
「最初はこっちの兵士に紛れて事を起こそうとしてたみたいだが、子爵の兵士達が訓練で死んだフリの練習をしているのについてこれなくてな……。すぐに見つけて誘導、捕縛した」
死んだふりの訓練ってなんだよ。
ちゃんと戦う訓練しろ。
死んだふりとかそら置いてかれるわ。
子爵の兵士達は頭大丈夫か?
「魔王のスキルのせいでなかなか取り調べが進まないが……恐らくもういないと見ていい」
「本当だな? 後ろからブッ刺されるのはごめんだぜ?」
「そこは俺達が見張って叩き潰せるようにするさ。戦いの際に注意する点として奴らは敵の入った瓶を持っている」
瓶?
ああ、前に魔族が使ってた奴だな。
やっぱり小さくして運んでいたか。
「瓶は見つけたらそのまま焼いたり割ってしまえ。中にいる奴らはそれだけでほぼ瀕死だ」
詳しく話を聞くと、小さくなっている間は見た目通り耐久力が低いらしく、焼けばそのまま死ぬし、割れば元の大きさに戻るものの、瓶の破片で全身を切り裂かれるリスクがあるらしい。
思っていたより弱点のあるスキルだな。
便利だが運用に気を使うタイプのスキルだ。
「じゃあアタシが奇襲をかける時、見かけたら壊しといてやるよ」
「たしか遊撃隊として撹乱するんだったか……。だがそのために深追いは止めておけよ?」
「任せとけって。こっちは奇襲がメインだ。そのためのエキスパートがいるからな。瓶はあくまでもついでさ」
荷物運びから空間魔法で転移までなんでもこなせる凄いやつがいるからな。
リッちゃんっていうんだが。
宰相の作戦から目を逸らさせるためにも南方向を中心に嫌がらせを……。
「マリーちゃんにエリーちゃん、来てたんだね」
そこで見慣れた顔が現れる。
酒場の女将さんだ。