エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第120話 期間

アタシ達はリッちゃんの魔法陣で移動を終えて戻ってくる。

簡易ポータルが閉じる直前、爆発音と熱波が少し流れ込んできた。

 

多分だが霧を見て第二波の攻撃をしたんだろう。

おかげで霧もアタシ達が元気だった痕跡も跡形もなく吹き飛ばしてくれたはずだ。

 

こっちも戦略を少し練り直す必要がある。

……空を飛ぶ奴らがいるなら安易な突撃は考えねえとな。

 

敵陣の中央ばっかり攻めたのはアタシ達が転移魔法を隠してそこにいるフリをするためでもあったワケだが、そろそろ場所を変えても良いかも知れない。

ポータルはまだいくつもあるからな。

 

「まあいいや。攻め続けると集中力が切れるからな。一時休憩してからだな」

 

とりあえず休憩を兼ねて陣地で休むか。

とはいえ戦闘中だからな。

即席で建てられた物見台……櫓で様子を見てからにするか。

 

「やあマリー。君もここで支援しに来てくれたのかい?」

 

櫓には普段よりはるかに大きな弓を構えたイケメンがいた。

上に上がったのはアタシとエリーだけだ。

 

「何やってんだ? 魔族の女でもたらしこむために遠くから見てるのか?」

 

まったく、これだからイケメンは。

ナンパは勝手だが家庭内に修羅場を持ち帰るなよ。

 

「違うよ。僕は高くから偵察してるんだ。そしてこの矢で……」

 

イケメンが矢に文書をくくりつけて放つと、音が響く。

音の鳴る矢か。

そのまま矢は味方の所に落ちていき、味方の陣地に落ちた。

 

「これで味方に敵の状況を知らせるってわけさ」

「なんでそんな面倒な事を。魔法で……そうか。長距離で通信できる魔法使いがいないんだな?」

「一応、使い手はいるよ。けど……領地を超えたやり取りだと暗号とかの諸々が共有しきれなくてね」

 

知らない者同士で即興の暗号を使うよりは弓で連絡を届けたほうが確実みたいだね、とイケメンが続ける。

 

連合軍だと領地ごとに暗号も違うからあえて原始的な方法も使って伝達ミスを防ぐ、という事らしい。

色々と考えてんなあ。

 

「ん? 最初に配られた魔導具の通信は良いのか?」

「あれは戦闘してる人達が連携するための物だよ。僕のはもう少し広範囲の連携用だね」

 

まあ現場で即興のやり取り限定なら対策されるより早く行動に移れるか。

 

「状況を伝えつつ、場合によっては僕がこの魔法の弓で敵を討つこともあるってわけさ」

 

イケメンが弓を見せてくる。

 

どうやらこの弓、ギルドが所有する魔道具の類らしい

風魔法の支援で弓の射程と威力が高められているとか。

なるほど、イケメンのスキル『精密射撃』と合わせて狙撃手兼通信役ってわけか。

 

「ちなみに今はどんな状況だ?」

「あー……。えっと、まずは経緯から説明しようか。最初は魔族が集団で空から来たかな。数は数百くらいで少なかったけど空だと僕以外はなかなか反撃が難しくてね」

 

一応、弓矢隊や魔法部隊が攻撃したりスキル持ちが空中戦を仕掛けて追い払ったが結構大変だったらしい。

 

しかしこいつサラッと僕以外は、とか言いやがった。顔以外も自慢しやがって。

 

「その後は味方が崩れた所に魔族が集団で魔法を打ってきたんだ」

「おいおい。やべーじゃねえか。……その割に味方は平気そうだな?」

「それがね、A級冒険者のリーダーだったかな? 彼女と王国の勇者が敵の攻撃を返して逆に魔族がダメージを受けてたよ」

 

今ここにいるA級だと……『ラストダンサー』のメンバーか。

そうか、確かにポリーナと勇者ちゃんならそのままカウンターを決められる。

即席の部隊でどうなるかと思ってたが、足止めできたようで良かった。

 

「あとは魔族が〈変身〉して突撃をしてこようとしてたんだけど、王国の勇者が魔族を変身前の姿に戻して魔法をバンバン打ってたから勢いが削がれたみたいだね」

 

たしかに勇者ちゃんのスキルなら〈変身〉を元に戻せるな。

『ラストダンサー』と合わせて一旦魔法を全部吸収、そこから広範囲で魔法攻撃っトコか。

 

「て事は今は膠着状態で睨み合いか……? いや武器のぶつかる音が聞こえるな? 魔族の奴らは次に何をしてきたんだ?」

「ああ、あれは『オーガキラー』のリーダーを筆頭に『攻めるなら今だ!』とか言って冒険者達が突撃をしてね……」

 

イケメンが遠い目をしている。

あー……気持ちは分かるぜ。

 

あの馬鹿、自分達が守る側だって理解してんのか?

……理解してないだろうなあ。

 

まあ数で押し潰されるよりは定期的に攻めて押し返すのが理想だけどよ……。

 

「でも彼女達のお陰で、被害は敵の方が多いみたいだね。味方に少しでも疲労や怪我が見えたらA級冒険者の人……ストルスさんだっけ? 彼がスキルで即座に転移させて陣地に戻してるよ」

 

てことは細目のおっさんだな。

アイツのスキル万能だからな。

男にしておくのが惜しいくらいだ。

 

「こっちはしっかり陣地構築ができてるのが強いね。兵士達の土魔法は凄いよ」

 

確かに目の前にはいくつかの防御壁が築かれ、即席の陣地だとは思えない。

回り込みされないような分厚い陣地に加えて、守りに特化した兵士達がガッチリ敵を押し留めている。

 

イケメンの説明で事情が分かった。

要するに攻めたけど手痛い反撃を食らったお陰で今はまだ相手も様子見の状態って所か。

 

「それで後は合間を見つけて僕がこうやって……」

 

イケメンが弓を構える。

 

――その瞬間、喧騒が消えて弓の軋む音だけになったかのような錯覚を覚える。

 

しばらく弓を引き絞って集中していたようだが、イケメンが目を見開くと同時に弦から手を離すと、矢が物凄い勢いで飛んでいく。

 

その矢は敵陣に向かって突き進んでいった。

 

「こうして、指導者らしき魔族がいたら文字通り一矢報いてるってわけさ」

 

遠くの方で混乱めいた声が聞こえる。

……この距離からピンポイントで敵を捉えたのか。

凄えな。これが父親になる男の力か。

 

「この距離でも届く……いや当てられるのか?」

「ん? まあね。一応遠視の魔道具も借りているからね。この距離ならちょっとくらい魔法で邪魔されても狙えるかな?」

 

イケメン曰く、スキルもそれなりに成長していて風魔法なんかの単調な防御なら抜けられるらしい。

魔法の風は言うほど単調じゃねえと思うけどな。

 

コイツ、魔道具を使った超長距離射撃とスキル『精密射撃』の相性が良すぎる。

今この瞬間だけならB級にも届くぞ。

 

スキルが地味だと思ってたがやべえ。

これでイケメンじゃなかったら完璧だったのにな。

 

「とりあえず状況は分かったぜ。アタシも殴りこんで――」

「駄目ですよマリー。気が付かないウチに疲れは溜まるものです」

 

後ろからハグされてしまった。

エリーに止められたらなら仕方ないな。

戦いが本格化すると休めなくなるし仕方ないな、うん。

 

ついでだから二の腕をぷにゅぷにゅしとこう。

うん、スベスベで柔らかい。

 

「マリー達はこっそり魔族の方に潜り込んで色々と動いてるんだよね? なら前線は大丈夫だよ。僕たちに任せて休んでて」

「おう、女魔族のハートを頑張って射止めてくれ。家庭内がドロドロの修羅場になったら嫁さんと子供は引き受けるからな」

「いや僕は浮気はしないからね? コリンや生まれてくる娘のためにもね」

 

なにノロけてんだコイツ。

つか生まれてくるの娘かよ。

そこまで分かってるのか。

 

アタシ達はリッちゃんと合流するためイケメンと分かれてギルドの簡易出張所に向かう。

事実上の作戦本部だな。

 

「あ! マリーさん! お元気でしたか!?」

「おう、ポン子じゃねえか。どうしてここにいるんだ?」

「後ろで仕事を早めに終えてだらけていたら手伝いでもして来いと言われまして……前線に送られたんです!」

 

完全に自業自得じゃねーか。

今が大変な時期だって分かってんのか?

 

「それで、その……もしよかったら皆さんの館に戻らせてもらえないかなと思いまして」

「悪いなポン子。ウチの館四人用なんだ」

「この間まで私住み込みで働いてましたよね!?」

「ポン子……。分かってくれ。お前は追放だ。心苦しく……はないが仕方ないんだ」

 

ギルドもこんな状況だと人手不足だろうからな。

ポン子の手も借りたいんだろう。

嬉し涙を飲んで返品してやるさ。

 

「後悔しますよ! 後から帰ってきてくれと頼まれても遅いですからね!」 

 

いらねえよ。

ウチは間に合ってんだ。

ポン子はいらないから借金だけ返してくれ。

 

……いや待てよ?

 

「よし分かった。館に戻っていろ。来客が来たらちゃんともてなせよ?」

「え? ええ!? 良いんですか? ……何か企んでます?」

「企んでねえよ。ほら、お化け達への手紙も書いてやる。それともここの最前線で――」

「いえ! 早速行ってきます!」

 

早えな。

まあコッチとしても都合がいいか。

アイツは放っておいて天幕に入ろう。

 

「あ、マリーお帰り。戦いはどんな感じ?」

「今の所こっちが押してるな。一時的なもんだと思うが」

 

出迎えてくれたのはリッちゃんだ。

中にはおやっさん、ギルドマスターやらがせわしなく動いている。

 

「そっか。じゃあまた後ろの方に行って引っ掻き回さないとね」

「ああ、だが次の決行は夜だな。気が緩みまくってる後方に奇襲をかけようと思う。そっちはどうだ?」

「ん? うん! 僕は元気だよ!」

 

元気があっていい事だ。

だけど聞きたかったのはそっちじゃない。

王都の軍団がいつここに到着するかってことだ。

 

「王都からは三日目には部隊が到着するようです」

 

アタシの意を汲み取ってくれたメイが代わりに回答してくれる。

三日ならなんとか粘れそうだな。

 

思ってるより時間がかかるかと思ったが全体の進軍速度も早い。

王国も色々と急ぎで整えてるんだな。

 

勝負は三日目だな。

それまではなんとか引っ掻き回して見せるぜ。

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