エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第127話 魔重鏖殺

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気がつけば一瞬のうちに兵士達を覆うようなドーム状の空間……結界で戦場が覆われていた。

 

アタシ達のいる街の壁まではギリギリ届いていない。

 

「マリー……。このままだと兵士の皆さんが……」

「ああ、分かってる。ちょいと助けてやるさ」

 

流石に悪魔相手じゃ分が悪い。

アタシ達が支援して……。

 

「よしっ行くぞ――」

「あ、待ってマリー! その壁は――」

「リッちゃんも早く……なんだこの壁は!?」

 

空間の中に入ろうとしたが、押し戻されるようにはじき出されてしまう。

油を塗ったゴム鞠見たいな奇妙な感触だ。

 

「これは悪魔が暴走しても閉じ込めるために術式に組み込まれた空間魔法だよ。これの中からだと術者が指定した人以外は逃げられないし中に入れない……」

 

リッちゃんが少し悔しそうに言う。

……て事は、あの兵士達は中の悪魔を倒すまで出られないのか?

 

「フェフェ……。これが召喚さ。悪魔も精霊も暴走されると大変なことになるからね。」

 

近くにいた婆さんが説明をしてくれる。確か……『パンナコッタ』のロア婆さんだな。

 

そういえばアタシが前に戦った時も同じように空の色が変わってたな。

あのときアタシ達は閉じた空間の中にいたってわけか。

 

「じゃあ兵士さんたちを助ける方法は――」

 

『パンナコッタ』の婆さんとリッちゃんが首を横にふる。

 

「……発動したら条件が満たされるまで破れないよ」

「今の所、兵士達が悪魔と戦って勝つ事くらいだね……。アレを見てみな」

 

婆さんが指さした方には黒い影のようなモノが見える。

影は少しずつ形を作っていき、次第に悪魔の形へと変化していく。

 

前に戦った……ネームレスとかいう悪魔か。

いや、他にもいるな。

 

「僧侶級に騎士級が二体ずつ、それに要塞級も……」

「恐らくだけどね、左右の端でもいくつか悪魔を召喚してるはずさ」

「召喚魔法の空間隔絶は悪魔を中心に範囲を覆うからね。召喚された数の分だけこの隔絶空間が広がってるのかな」

 

リッちゃんと婆さんが説明をしてくれる。

確かに悪魔の空間はアタシ達の城を覆うというよりも左右に広がって兵士達を覆う形になっているな。

 

……つまり悪魔がそれだけ広く沢山湧いてるってことかよ。

 

逃げても無駄だと理解しているのか、兵士達は誰一人逃げようとしない。

逆にガッチリと守りを固めているようだ。

 

そのまま悪魔とぶつかり……反撃することなくひたすらに攻撃を受け続けている。

 

「ねえ! このままだと兵士たちがみんなやられちまうよ!」

「落ち着け! 確かフーディだったな。この街の兵士達もスキルを使っている。それを信じろ」

 

慌てるフーディをおやっさんがなだめる。

だが、その一方で兵士たちは次々に悪魔の攻撃を受けている。

本当に大丈夫なのか?

 

数十分が経過した。

ひたすら防戦一方でただ耐えているだけの兵士達を悪魔がひたすら殴りつけている。

 

これじゃあ勝負にすらなっていない。

悪魔の攻撃で一人、また一人と倒れていくのが見える。

 

くそっ、見てるだけしか出来ねえのかよ……。

ムカついて結界を切りつけるが、傷一つつきそうもない。

 

「落ち着けマリー。味方を信じろ」

 

信じるってよお。

いくらおやっさんの言葉とはいえ、眼の前で倒れてるのに何を信じろって言うんだ。

 

さらに一時間くらいが経っただろうか。

……兵士達が一人残らず倒れ、悪魔達以外に動くものがいなくなる。

悪魔達は動く者がいなくなったのを確認すると少しずつ姿を消していき、最後には結界も消滅した。

 

……もう誰も動く者はいない。

いや、奥の方で魔族たちが再び動き始めている。

 

「……見事だ! 続けて第二波で街を落とせ! 〈変身〉せよ!」

 

魔道具が敵の声を拾うようになった。

そうか、結界で声が聞き取れなくなっていたか。

結界が無くなったから声も邪魔されなくなったんだな。

 

遠くで魔族たちが〈変身〉して近づいてくるのが見える。

……百は超えているな。数が多い。

いくら強い冒険者が集まってると言っても一つのチームで足止めできるのはせいぜいニ、三体くらいだ。

 

「おい……。おやっさん、これからどうするんだ……?」

「このまま引きつけて防ぐ、そう言われているが……しかし……」

 

おやっさんも迷っているな。

 

進軍速度から言って、〈変身〉した奴らが先に壁に到達する。

あとから普通の魔族兵たちも来るだろう。

 

このままだと街が囲まれる。

こんなん、いくらなんでもアタシ達だけじゃどうにもならないぞ。

一体誰だ、こんな指示を出したのは。

 

「これで良いのだ。問題はない」

 

ん? なんだこのおっさん。

いきなり出てきて偉そうだな。

アチコチパッチワークをしたみすぼらしい服のくせに変に偉そうな髭しやがって。

 

「悪いが物乞いにやる物はないんだ。他所に行ってくれ」

「おい馬鹿! このお方は――」

 

おやっさんが話を途中で中断し、慌てて片膝をつく。

なんだ? このホームレスはおやっさんの知り合いか?

 

「ドゥーケット子爵! どうしてこちらへ?」

「楽にせよ。わが領地が危機に陥り、戦っている者をねぎらいに来た」

 

このおっさんがドゥーケット子爵かよ。

服装が庶民より酷いぞ。

お、ギルドマスターがこっちへ来た。

 

「子爵。勝手に出歩かれては我々も護衛が……」

「護衛など金がかかるだけだ。このようにみすぼらしい我を襲う者などそうおるまい」

 

自分でも服装が分かってるなら着替えろ。

……クソっ、そうこうしてる間にも敵が近づいて来やがった。

 

「悪いが子爵だろうとすっこんでてくれ。アタシはアイツらからアンタ達を守らなきゃならねえんだ」

 

アタシは親指で迫りくる敵を指差す。

悪いがホームレス貴族に構ってる暇はない。

おやっさんが目で口調を咎めてくる。

悪いがアタシはそんな器用な言葉遣いできねえよ。

 

「アイツらと戦うのはアタシ達だ。貴族は引っ込んで――」

「そうはいかぬ。我もこの街にいる兵を指揮する総司令官としての役目があるのでな」

 

子爵はアタシの口ぶりに怒る様子もなく、淡々とそういった。

お前が指揮官かよ。

 

そこでどっかの冒険者が異議をとなえる。

 

「私達も兵士達のように壁になりたくはないんだが……」

「そこを議論するには時間が惜しい。安心せよ。どの道、我と冒険者達は一蓮托生。生き残る策を伝える」

 

あっさりと流された。

確かに時間はないが、アホ貴族のアホな作戦に巻き込まれるのはゴメンだぞ。

 

「子爵はこう見えても戦略、戦術に理解の深い方だ。この街に建てられた陣地構築も子爵が考案したものだ」

 

おやっさんがフォローを入れてくる。

あの陣地構築をねえ……。

確かに防御に特化して奇襲もやりにくそうな堅実な陣地だったけどよ……。

 

「まあ……。アタシはおやっさんが言うなら何も言わないぜ」

「感謝する。それでは壁まで引き付けてくれ。冒険者達は守りに――」

 

そこでどっかの冒険者チームが再び不満の声を上げる。

 

「おいおい、数が足りねえよ。あれだけの数、俺達だけじゃ囲まれて潰されるぜ?」

「……最後まで聞くがよい。時間の無駄が過ぎるぞ」

 

子爵はため息をつくと、壁の下を指差す。

 

「即席だが味方は補充され、一部は門を出ている。彼らと合流して戦うがいい」

 

指差すほうを見ると、ガラの悪い奴らが何人か外に出ていた。

……色街の奴らじゃねえか。

ダンの他に……オネエ組長もいるな。

見たことない奴が大半だが、知ってる奴もチラホラいる。

 

「あらー。ドゥーケットちゃん、こんなところまで来たのね。ちゃーんと活躍するから報酬よろしくねえ」

 

オネエ組長はウインクしたあとに手を振ってくる。

おい、戦う前に味方に精神攻撃するのは止めろ。

 

しかし、アイツらは魔族だが……戦いは苦手じゃないのか?

もう敵が迫ってきてるぞ?

 

「おい、お前ら早く逃げ……」

「行くわよ〜〈変身〉!」

 

味方の魔族たちが次々と変化していく。

……みんな隠れ魔族なのか。

だから〈変身〉ができる、と。

いや、一部ダンのように変身してない奴もいるな。

 

だが変身してない奴らも怯む様子はない。

近づいて来る魔族と味方の魔族、それぞれが派手にぶつかる。

 

「始めまして〜」

「グルル……オアァァッ!」

「あら〜。純度の低い魔石を使ってるのねえ。それじゃあ十全に力を発揮できないわよ〜。……オラァッ!」

 

醜い豚のような姿のオネエ組長は、デカい豚に変身して迫りくる魔族を蹴り飛ばした。

 

前に弱いとか聞いた気がするが……強いじゃねえか。

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