エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第135話 魔王戦

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しかし、いきなり変身しやがったか。

そういうのは最後まで取っておいて欲しいもんだ。

魔王がもったいぶってるウチに殺るつもりだったがそうもいかなくなったな。

 

「余とて先代の魔王を下して名を勝ち取った身。弱いなどと思わぬ事だ」

「へえ。そんなに自信たっぷりでも封印とやらは解けなかったのか?」

 

軽く探りを入れながら煽ってみると、魔王は軽く眉間にシワを刻んだ。

 

「死人形が死の際に封じた封印を解けたものはない。重要な物を巨大な魔力をによって封じたのだ。当然である」

「へえ? それを解放してどうしようってんだ?」

「……余も喋りが過ぎたようだ。これ以上語る必要もあるまい。受けよ〈ベノムカッター〉」

 

魔王が杖を振るうと、どす黒い紫色をした水の刃が飛んでくる。

……話はここまでか。

 

「悪いがマトモに受ける気は無いぜ」

 

アタシが地面を隆起させて壁を作り、刃を阻む。

そこまで威力がある魔法じゃないみたいだな。

 

……ん? なんだ? 腐った肉のような匂いがするが……。

壁を戻すと、今弾いた魔法が液体になって土を侵食していた。

これが匂いの原因か。

 

「この程度は防いでもらわねば困る。さもなくば次の手に繋がらぬ」

「なにを……? っ! マズい!」

 

視界がボヤケて霞む。

しまった、これは毒だ。

この匂いも毒が蒸発したものか。

 

まずいな。少し毒を吸い込んでしまった。

 

「【……魔の毒は光の力にて浄化されん】〈アンチポイズン〉」

 

エリーが魔法で解毒をしてくれた。

……助かった。

 

前に『ラストダンサー』と一緒に戦った経験から魔法毒の対策を学んでいたが、ここで役立つとはな。

 

「一服盛るとはよくもやってくれたな。お返しに――。」

 

アタシが反撃しようとした瞬間、身体から力が抜け、アタシは地面に倒れてしまう。

 

「マリー! そんな! 毒は確かに取り除いたはず……」

「おち……つくんだ。毒じゃ……ない。アタシは……大丈夫だ」

「〈カオスフィールド〉。余の攻撃はすでに終えた。反撃する暇など与えぬ」

 

これは……なんの魔法だ?

いつ魔法を使った?

どんな効果だ?

……何も分からないのは初めてだ。

 

「いま回復します。〈ヒール〉」

「ああ頼……。う、ああああっ! 待てエリー。なにか……、何かがおかしい!」

 

身体が焼け、皮膚が裂ける。

なんでアタシはエリーの回復魔法でダメージを受けているんだ。

 

アタシはなんとか立ち上がると、魔王に向き直る。

 

「仲間を救おうとして傷つける。実に滑稽な喜劇だ。楽しませて貰ったぞ」

「何を……しやがった!」

「語らぬ。理解せぬまま死ぬがいい〈デッド・ボム〉」

 

ゾンビ共がやってきて周りを取り囲み始めると、その体が膨らみだす。

なんでエリーの魔法の中で動ける?

 

くそっ、爆発する気か。

一人一人飛ばしてたんじゃ間に合わな――。

 

「終わりだ」

 

ゾンビ共が派手な音を立てて爆発する。

 

 

「これで一人片付いたな。さて後は――」

「馬鹿な事言ってるんじゃねえよ。サンダーローズ!」

「何っ! ……空中に逃げたのか」

 

雷をお返しに落としてやるが、防がれてしまったか。

 

魔王の言うとおりだ。

爆発する瞬間、土魔法をカタパルトにしてアタシとエリーを空中に打ち上げた。

 

そして、空中高くに逃げた事でタネが少し分かったぜ。

 

「エリー! 今だ!」

「はいっ! 【内なる力を引き出しその身を癒やし尽くせ】〈ハイ・ヒール〉」

 

エリーが上位の回復魔法をつかう。

ただし、使うのはアタシじゃない。

狙うのは魔王だ。

 

魔王に回復魔法を使うと、魔王の体にひび割れのようなものが入り、そこからわずかに血を流す。

 

「む……。気がついたようだな。褒めてやろう」

 

ちょっとした賭けだったが、やっぱり効果があったか。

空中に飛んだとき力が急速に戻ってきたからな。

 

それに地面の方を見てみたら変な霧みたいなのがうっすらと周囲を覆っていた。

いつの間に魔法を唱えたのか知らねえが、アレが魔王の魔法なんだろう。

 

「回復魔法や身体強化魔法の効果反転……後は聖魔法もそうだな? 下らねえ手品でアタシをオトそうなんて百年早えんだよ」

 

さっきまで力が抜けていたのは身体強化魔法の効果が反転して弱体化していたんだろう。

そのギャップに身体がついていかなかっただけだ。

 

しかし気がつかなかったらちょっとまずかった。

爆発でダメージを受けたところでエリーが回復魔法を使う可能性もあったかもしれねえ。

 

……いや、コイツはそれを望んでたのかもな。

 

「エリー、コイツの魔法範囲から離れて周りのゾンビ共を攻撃してくれ」

「分りました。アレを使いますか?」

「……まだ駄目だ。ファウストがこっちに来られたら潰される」

 

エリーが精霊の召喚をするか聞いてくる。

あのウザい奴を呼び出すなんてやりたくないが、魔王とファウスト両方を相手したらそれどころじゃないからな。

 

こっちも無事じゃすまない。

魔王がもしファウストと二人で攻めて来た時の時間稼ぎとして使う。

ファウストを抑え込んでる間に魔王を倒すのが前提の苦肉の策だ。

 

リッちゃん達の方を見ると、ファウストの攻撃を受けながらもメイが守り、リッちゃんが話しかけ、時には攻撃を仕掛けている所だった。

 

「ほら、ファーちゃん、この魔法は黒龍と戦ったときに使った魔法だよ」

「お姉さま。貴方が何かを壊すたび、私が修復した事を覚えておいでですか?」

 

リッちゃん達が話しかけるたび、ファウストは動きを止めて苦しそうにしている。

魔法が効いているというよりも、忘れてしまったものを思い出せないもどかしさに悶えているようだ。

 

「揺れてはいるが……まだかかるか。仕方ない、少し手伝ってやろう」

「てめえ、何をする気だ」

 

何をするつもりか知らねえが、邪魔はさせねえよ。

アタシが斬りかかろうとすると、アンデッドの一体が立ちふさがった。

 

「邪魔だ……ん?」

「【昏き……肉の……】」

 

コイツ、呪文を詠唱してやがる。

アンデッドが魔法を使えるのか?

いや、違うな。

 

「お前、詠唱を他の奴にやらせてんのか?」

「ほう……。呪文を唱えている死人形を見つけたか?」

「ちっ!」

 

余裕ぶりやがって。

これ以上詠唱させる訳にはいかない。

さっさとアンデッドの首をはねる。

さっさと魔王を倒さねえとな。

 

「無駄だ。貴様が人形の首をいくつか落としたところで結果は変わらぬ〈アンデッド・ブースト〉」

 

魔王の使った魔法は強化魔法のようだ。

ファウストの攻撃が一層強くなる。

 

「うわっ! 攻撃が急に……メイは大丈夫!?」

「大丈夫です。この程度ならば……まだ凌げます!」

 

あれじゃあメイもそう簡単にスキルを解除できない。

なんとかフォローしたいが……。

まずは謎を解かねえとな。

 

首を飛ばしたアンデッドは詠唱を止めた。

だが魔王の魔法は中断されなかった。

多分だが複数の奴に一つの魔法を詠唱させているのか?

 

だとすると魔法の中断はできないな。

それなら――。

 

「やっぱりお前を狙うしかねえな!」

「下郎の弄する策などその程度か」

 

アタシは再び魔王に向かって突撃する。

 

「ファイアローズ!」

「無駄だ。〈ベノムカッター〉」

 

生み出された毒の刃がアタシの炎と混ざって相殺される。

相手の刃は蒸発し消えている。

……毒の霧でアタシを攻撃するつもりか。

 

「そう何度も同じ手が通じるかよ!」

 

アタシは風魔法で霧を押し返す。

流石の魔王も自分の毒は食らうのか口元を覆った。

 

「むっ……。小賢しい真似を……」

「手が塞がってるぜ?」

「何!? 毒の中を進んで……?」

 

“原初の力”で剣をつくり、思い切り振り抜いてやると、魔王の手が落ちた。

魔王が杖で殴りかかってきたがアタシはそのまま回避、数歩離れて着地する。

 

悪いがこっちは風を操れるんでな。

毒をかき分けながらアンタの腕を斬りつけるくらいはできるのさ。

 

「余の身体に傷をつけたか。下郎にしては見事よ」

「余裕ぶってるが眉間にシワ寄せてちゃ台無しだぜ?」

 

魔王もアタシを警戒したのか、距離を大きく取ってアンデッド達の中に入る。

突っ込みたいがソンビ共が邪魔だな。

さて……魔王はどうする気だ?

 

魔王が近くのゾンビを捕まえると、腕をもぎ取った。

その腕をそのまま無くなった腕の代わりに傷口に取り付けると魔法を唱える。

すると、アンデッドの腕が魔王の手のサイズになっていく。

 

「〈デッドコピー〉。死人形の身体を我が身と取り替える魔法よ」

「おいおい……そんな技反則だろ」

 

もう傷口が塞がったのか手を自由に曲げ伸ばししている。

……こっちも多少傷を負う覚悟でガンガン攻めるか一撃で殺らないと殺し切れそうにないな。

 

「さて、一応動かせはするが馴染むまで少しかかる。余興として余の奥義を見せてやろう」

 

魔王の気配がヤバくなってくる。

それに応じるようにして周囲のゾンビ共が複数の呪文を一斉に詠唱し始めた。

 

なにかどデカい技を使うつもりか?

万が一に備えてエリーを守れる位置に移動する。

 

「エリー、もしも相手がなにかやってきたら回避と防御をするぞ」

「分かりました……一応回復します〈ハイ・ヒール〉」

 

エリーが回復してくれる。

よしっ、これで体は大丈夫だな。

 

「光栄に思うがいい。【根源に奉納するは個の力。矮小な力で進む傲慢を深淵の内へと誘い吸い尽くせ】〈マジックイーター・プリミティブ〉」

 

魔王の頭上、空中に黒い穴が生まれる。

特に攻撃が来る様子はないが……。

 

試してみるか。

 

「ファイアロー……。魔法が出ない!?」

 

魔力があの黒い穴に流れて……いや、逃げているのか?

 

「貴様の魔法の性質は聞いている。借り物の魔法ではなく自前の魔力を用いるのだろう?〈カオスブレード〉」 

 

魔王が会話の途中に魔法を使ってくる。

魔王の周囲がグニャグニャ歪んでアタシに向かってくる。

なんかヤバそうだ。

 

アタシが避けると、アタシのいた場所の地面が一気にズタズタに切り裂かれた。

……そんなに早くないがヤバい魔法だな。

 

「そしてこの魔法は、貴様のような魔法だけを封じる。〈マジックイーター・プリミティブ〉」

 

再びアタシの魔法を封じるためだけ魔法を唱えられた。

……持続時間はそんなに長くないのか。

 

「駄目押しだ〈カオスブレード〉」

 

反撃しようとすると、すぐに魔法が飛んできてがなんとか躱す。

こんなん連続で唱えられてちゃ、おちおち会話も返せねえ。

 

ひたすら降ってくる攻撃を躱す。

 

回避しきれない分はアタシは刃を使って"原初の力"で剣を作り出し、盾替わりにした。

……これは吸われないみたいだな。

 

「ふむ。それは原初の力そのものらしいな。貴様の実力を評し、余に服従を誓うなら生命は助けてやろう」

 

魔王の連続魔法攻撃がやっと止まった。

これで打ち止めか。

 

「悪いが女を傷つけるような奴はお断りだぜ。アタシの魔法を封じるための魔法なんてどっから見つけてきやがった?」

「別に貴様が最初ではない。貴様の魔法は古の勇者が使っていた魔法だ。その対策としての魔法など覚えるだけ無駄な魔法だと思っていたが、なかなか役に立つ」

 

何……?

 

「太古の勇者? そんなモン神話の時代の話だろ? どっから仕入れて来やがった?」

「王には天啓が下りるものだ。……こちらは準備が終わった。これ以上話すだけ無駄だな」

 

何だ?

急に魔王からの圧が高まって……?

 

「死人形共がそれぞれ魔法の詠唱ができる。そこから推測すればこの攻撃も防げたはずだが……手遅れだな」

「まさか……集団魔法か!?」

 

今までの雑談も、使っていた魔法も全て目くらましで……本命はこの魔法か!?

 

「死人形となりてもしばらくは身体に魔力を有する。故に動かし、時に爆破できるというもの。ならば死人形の所有者に魔力を操れぬ道理はない。〈インフィニティ・カオスブレード〉」

 

先ほど魔王が使っていた魔法を数百回は重ねたような量と密度を持った攻撃が迫ってくる。

 

ヤバい。アタシが魔法を使えない状態じゃあのワケ分からない攻撃を防ぎきれない。

 

くそっ! せめてエリーだけでも……。

 

「マリー!」

「エリー! 伏せろ!」

 

数百、数千の刃が周囲の地面を、アタシ達を斬りつけていく。

 

アタシは“練気”で刃を作って盾にするが、攻撃の範囲と数が多すぎる。

 

マズい、防ぎきれない。

このままじゃ――。

 

 

 

――えていますか?

 

 

 

……痛みで目が覚める。

一瞬、意識が飛んでいた。

誰かの声が聞こえた氣がするが……誰だ?

 

まあいい。戦闘中に痛みを感じるなんてアタシもまだまだ……。

 

……戦闘?

 

そうだ!

 

「エリー!」

「私は……大丈夫……です……よ」

 

どうやら生きているようだ。

よかった。

 

声がした方を見るとエリーがいた。

……下半身と片手を失った状態で。

 

「私も少しだけマリーを見習ってみました……」

「おいエリー! いい! 今は安静にしていろ!」

 

アタシは慌ててスキルを発動させる。

念の為回復薬も追加だ。

 

「エリー! ちょっと待ってろ。今すぐに……」

「マリーも……、酷い怪我……ですよ。片手と片足が……」

 

アタシの事はどうでも良いんだ。

このままだとエリーが死ぬ。

 

辺りを見回すと、周囲のアンデッドや地面ごと斬りつけられたのか、地面ごと抉り取られてすり潰されたようになっていた。

 

「……何故生きている? 二人で身を守ったからか……? しかし……」

 

アタシの周囲が不思議な空間で守られているのに気づく。

これは魔法……? いや、それだけじゃない。これは……。

 

「私も……少しだけならエリーの使う魔法が使えたようですね……」

 

エリーが使った“練気”の……いや、エリーの手がアタシの武器に触れている。

"原初の力"を使った壁か。咄嗟に出せたんだな。

 

「私は大丈夫……です。身体が変化しているのが分かります。〈ヒール〉」

 

エリーが回復魔法をかけてくれたお陰で、ボロボロで動かなくなった足が動くようになる。

 

「……ありがとう。エリーのお陰だ」

「ふふ、マリーが無事で良かった……。スキルも発動してくれたみたいですね……。体が完全になるまで少しだけ、休みます」

 

そうか。エリーの『絶対運』でアタシを守ったから奇跡的にアタシを逸れて……。

自分よりアタシを優先したのか……。 

 

「後は任せて、安心して休んでてくれ 

さっきの魔法で周りの雑魚もまとめて吹き飛んだ。しばらくは安泰だろう。

 

アタシは魔王にスキルで治るのが見られないように土魔法でエリーを覆い隠した。

 

……魔法も使えるようになっているな。

さっきの集団魔法に集中したから魔法封じは使えなかったのか。

 

「……まあよい。その様子では貴様もまともに戦えまい。時は満ちた。余の死人形の封印が解ける様を見ながら絶望せよ」

 

魔王の言葉につられてリッちゃん達をみる。

そこではファウストの身体が怪しく光っていた。

 

「さあ、なんの秘密を封じた? 魔力だけではあるまい。千年もの封印だ、相応の価値があるモノを封じたのだろう?」

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