エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第137話 神話から今へ

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魔王と精霊はともに語りだす。

互いの視点からかつて起きた出来事を。

 

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世界であらゆる動物、魔物、そして最初の人が生まれてから幾千万の月日が流れた頃。

ある時、人は己を認識し自我に目覚めた。

 

人が自己を認識する事で一つの奇跡が起きる。

己とその他を区別できるようになった人は、自らの内側に別の力がある事を知った。

 

想いの強さによって変動する力、それを人は心と呼んだ。

 

その力は伝播し、一部の動物や魔物、そして後に悪魔や精霊と呼ばれる存在まで心を持つようになる。

 

それは今までの光と闇の交わりから生まれるという法則とはまったく別の創造。

根源そのものの力。

 

人以外はその力を上手く使う事ができなかったが、この奇跡を人も精霊も悪魔も共に喜びあった。

 

最初の数千年は穏やかに進む。

それは文明も持たない人と精霊、悪魔が共に歩む時代。

 

ある時、人は精霊や悪魔が操る力、根源の力を利用する法則を見出し、その術を学ぶ。

それが文明の始まりであった。

 

人はその術を発展させ、文明を進めていく。

その中で人々に格差が生まれ、新たに力を得た事で失う事に対する恐れが生まれた。

 

人は恐怖する。

これまで身近であった『死』を。

安息な眠りをもたらす『闇』を。

 

人は賛美する。

退屈な日常という『生』を。

己を駆り立てていた『光』を。

 

人々はやがて、光を尊び闇を嫌うようになった。

 

嫌っていた彼らを『魔』と呼び、しかし

彼らの持つ術は有用な物が多かったためそのまま利用し続け、いつしかその術には魔法と名付けられた。

 

魔と名付けられ、心を得ていた彼らは悲しみに暮れた。

 

更に月日が流れ、悪魔と精霊達はついに人間たちとの共生をやめる。

人の心から派生した悪癖である執着心が、彼らにとっても精霊達にとっても悪しきものであり、互いに干渉し続ける事は良くないと判断した上での事だった。

 

しかし悪魔や精霊達も心に目覚めていた事で思わぬ事が起こる。

太古の時代なら起きなかったであろう、互いの意思と意思のぶつかり合い。

 

人から距離を置くに伴い、悪魔はその性質から混沌と破壊を求め、精霊達はその性質から秩序と創造を求めた。

 

自我を持つ前なら創造と破壊を交互に、あるいは同時に発生させながら調和させていっただろう。

しかし自我を得た精霊と悪魔は真逆の性質を持つが故に議論は平行線をたどる。

 

当然のごとく人は混沌と破壊を忌み嫌い、反発する。

人は戦って決める事を提案した。

 

それは受け入れられ、神代の戦いが始まる。

人と精霊が共に協力しあい『悪魔』と名付けた存在と戦う時代。

 

永き戦いの末、人々は悪魔達を追い詰めた。

 

悪魔の王……魔王は存在を失う前に人々に呪いをかける。

それは魔法を封じる魔法。

 

根源との繋がりを絶ち、悪魔や精霊が使う術に制限をかけ、心の力を封じるための呪いであった。

 

精霊の王は秩序を維持するためにいくつかの祝福をかける。

その一つが魔王の呪いからの保護であった。

 

しかし魔王の呪いは強力であり、祝福により女性達は守られたが、男達は魔法の力を失ってしまった。

 

呪いは世代を経ても変わることなく続いていく。

 

それまで魔物と戦っていたのは男達であった。

しかし男達が戦う力を奪われたため、戦う者達が不足していた。

このままでは男達は愚か、人が生きていくのも危うい。

 

そう考えた精霊王は人々を導くため、己の存在と引き換えにして新たな祝福をいくつか与えていった。

 

こうして世代を経るにつれ呪いと祝福は混ざりあい、一つの特性として認識されるようになる。

 

男は魔法が使えず、女は魔法を使える。

 

精霊や悪魔は肉体としての存在を失い、石に宿る事で必要に応じて契約を行い、力や魔法の知恵を与えるに留まった。

 

こうして神代の時代から人の時代へと移り変わったのである。

 

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「と言うわけで、私は永い時を得て復活した訳だ」

「色々と分からねえな……。そもそもなぜ女に呪いをかけなかった?」

「かけたとも。だけど女性はほんの僅かに『光』の方に性質が傾いていてね。おかげで、私の呪いが進行する前に精霊王の祝福で守られたのさ」

 

悪魔が言うには女は子供を宿す性質上、創造の特性を内にもつ。

男は逆で破壊と相性が良かったそうだ。

 

「そして元々男達が使っていた魔法というのは基礎魔法を軸にして倒した相手から魔法を吸収し、己の魔力を変化させる方法……。つまり君が使う魔法だったのだよ」

「何……? どこでアタシの魔法を見た?」

 

アタシはまだ魔法を使ってねーぞ?

見る機会なんて無いはずだ。

 

「ああ、それは彼女……魔王デルラの内側から、彼女の目を通して見ていたから知っているよ」

 

内側から……?

石になっても見えていたって事か?

しかもアタシの魔法まで理解して……だと?

 

「おそらく君の魔法を知るものはいないだろう。植物のように永い寿命と、人に近い知性で当時のことを伝承しているなら別だがね」

「魔王デルラがアタシ向けの魔法を封じを使えたのもお前が教えた影響か?」

 

魔王はそれがどうした、と言わんばかりの顔をしている。

やっぱりお前が魔王デルラに知識を伝えていたのか。

 

「まあそんなところだね。正確には天啓のようにして伝えたのだが……まあ些細な違いか」

「我ら精霊や悪魔達が無意識下に影響を与えるのを逆手に取ったわけじゃな……。今じゃ!」

 

その時、悪魔の足元が水柱が飛び出し、悪魔に直撃する。

……精霊が奇襲攻撃を仕掛けたのか。

 

「いきなりだねえ。まあ私はもう少し話をしたいんだ。私は気にしないからどんどん仕掛けるといいよ」

「やはりこの程度ではかすり傷にしかならぬか……」

 

精霊の一撃がほぼ効いていない、だと?

マズイ、アレが通じないならアタシ達には悪魔相手に通せる攻撃がない。

 

「もちろん精神攻撃も効かないよ? 逆に私が君たちを狂わせてもいいが……石になっているときに散々やったからね。それは止めておこう」

「ちょっと待って……。もしかして……。ファーちゃんが暴走したのも!」

 

リッちゃんが叫ぶ。

それに対して悪魔は首を傾げた。

 

「うん? 誰のことかな?」

 

誰か知らねえだと?

ふざけやがって。

 

「てめえが魔力を吸うために執着してた女の子だよ! ファイアローズ!」

 

アタシが炎を放つが、これっぽっちも気にした様子がない。

ほんの僅かに黒い霧が出た以外はダメージをほとんど与えられてないようだ。

 

アタシのセリフで魔王はなにかを思い出したように頷く。

 

「ああ、あの子か……。うん、あの子の心に優しく囁いたんだ。あの子が愛しい人を傷つけるように、ね。最強と呼ばれた彼女が壊れていくのは面白い余興だったよ」

「……そう。ファーちゃんがおかしくなったのは君のせいなんだね。……よくもっ! 〈炎蛇陣〉!」

 

リッちゃんが攻撃を仕掛けるが、やはりわずかに黒い霧を吹き出しただけで意にも介さない。

 

……まずいな。

 

「一応、聞くが……何故そんな事をした?」

「相変わらず人は好奇心旺盛だね。何故って……それが私だからだよ? 私は破壊や混沌を司る。その性質に基づいて破壊と混沌を撒き散らすだけさ」

 

これは君たちのいうところの本能と同じだね、と悪魔が微笑みながら言う。

一緒にするんじゃねえ。

 

だけど分かった。

よく分かったよ、お前は敵だ。

 

精霊が苦々しい顔で悪魔を見る。

 

「下らぬ。結局の所、自らの性質を自制することなく暴れまわっておるだけではないか」

「それこそが私の性質だからね」

 

忌々しそうに精霊が悪魔をなじる。

……悪魔の奴、嬉しそうにしやがって。

 

「お主の未熟さにこそ、人がお前を恐れ拒絶した理由があるという事が分からぬか……」

「……人は関係ないよ。私の心が混沌という性質の上に芽生えている限り自制は不可能な事だね。それとも拒絶した人々のために本能と相反する感情を育てろと?」

 

精霊が小さく舌打ちする。

精霊と悪魔は互いに相容れないみたいだな。

魔王が初めて一歩を踏み出す。

 

「さて、そろそろ良いかな? 十分時間は与えたし、絶望を撒き散らしてくれ」

「……マリーよ。我ではこやつに勝てぬ。だが全力で足掻いてみよう。その間になにか知恵を絞るといい」

「無茶苦茶だぜ……」

 

……さっきの一撃から薄々分かってはいたが、現実を突きつけられるとキツい。

足掻くにしたって実力差がありすぎる。

 

今なら分かる。

コイツからヤバさが伝わって来ないんじゃなくて、ヤバさをアタシが見極められてないんだ。

 

「ふふふ。私の作ったこの空間は時の流れが狂っている。外はほとんど時間が経過していないはずだ。無限に遊ぶといい」

 

時間まで操れる……いや、魔王の性質からいって時間の法則そのものを狂わせているのか。

 

「アタシ達だけを潰すために時を止めるとか、魔王の癖にずいぶんとセコい事をするな?」

「駆け寄ってきた人々の前で、英雄がいきなり挽肉になったら恐怖するだろう? 世の中に混沌と恐怖を撒き散らす一歩としてはなかなかに良い演出じゃないかな?」

 

ちっ、どう足掻いても死ぬまで解除してくれそうにねえな。

 

「マリー、僕は戦うよ」

「ええ。私も戦います」

「防御は任せて下さい」

「ああ、三人共よろしく頼――」

 

アタシ達が武器を構えようとした瞬間、メイの体がズタズタに千切れ、吹き飛んだ。

 

「メイ!」

 

エリーとリッちゃんがメイに駆け寄る。

……一体何をした?

 

「悪いが君のスキルは面倒臭そうだ。防御に徹されては私も無駄に消耗しそうだからね」

「う……うぅっ……」

「おや? 死んでいないね? なにか小細工をしてるのかな?」

「てめえ……。アタシの仲間に何をした!?」

 

魔王は答えない。

代わりにその疑問に答えたのは精霊だ。

 

「混沌の力で攻撃する時は空間が歪む。霧を作るのでそれで見極めるといい」

 

精霊が薄っすらと霧で空間を覆うと、アチコチに歪みがあるのに気がつく。

……数が多い。頭上だけで数十は歪みがあるぞ。

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