エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第14話 スキル『TS』は意外と強い

アタシたちは助けに来てくれた衛兵隊に事後処理を引き継ぎ、街まで戻ってきた。

コリンが吹き飛ばした盗賊のなかに、まだ息のある奴がいたらしく、ソイツから事情を聞くらしい。

 

 

今は宿屋だ。

医者に宿屋まで来てもらっている。

ベッドに寝ているエリーを見せるためだ。

コリンとイケメンも一緒についてきている。

 

「エリーさんは、『腐れ毒』を受けています」

 

腐れ毒。

ある湿地帯の魔物から取れる、解毒魔法が効かない特殊毒だ。

 

「身体は回復魔法で治療しましたが、中の毒は未だにエリーさんを苦しませています。 ……おそらく持って三日。それまでに挨拶を済ませて下さい。」

 

コリンが慰めようと抱きしめてくれる。

 

死の別れだと。

ふざけるな!

 

一瞬激昂するが医者に当たっても仕方ない。

怒りを押さえ込み、コリンとジクアの二人に声をかける。

 

「すまねえが、二人だけにしてくれないか」

「マリー……。なにかあったら言ってね」

「大丈夫だ。三日後までには連絡する」

 

 

二人には帰って貰った。

今アタシは、鎮痛剤を打ちベッドで眠るエリーと共にいる。

 

「エリー。お前とはまだ出会ってから一ヶ月も経ってねえんだよな」

 

深い呼吸だけが聞こえる。

返事はない。

 

「不思議なもんだ。まるで十年ぐらい一緒にいるような気分だぜ。」

 

アタシは天井を見ながら、呟くように喋る。

 

「……アタシはアンタが気に入っている。今までの仲間とはソリがあわなくてよ、自分から離れていったのが殆どだ。だがエリー、アンタとは長く続けていけそうだと、そう思ってた。いや、今もそう思ってる」

「私もです。マリー」

 

視線を下ろすと、エリーが弱々しくも笑っていた。

起き上がって見つめてくる。

 

「……起こしちまったな。すまん」

「良いんですよ。私は、このままだと長くないのでしょう?」

 

一瞬言葉に詰まる。

どうしようか迷ったが医者の言うことそのまま伝える事に決めた。

 

「……ああ、もって三日だそうだ」

「やはりそうですか。でもマリー、安心して下さい。私のスキル『絶対運』が助かるという選択も、死ぬという選択も選べると言っています」

 

ああ、そうか。

 

やはりか。

 

これで確信した。

おそらく、いや確実にアタシはエリーを助けられる。

 

「マリーはなんとなく分かっているのでは?」

「ああ、もしかしたらそうかも知れないってのは考えてた。マリーのスキルは運命に干渉するスキルだ。それが誰かを庇って死ぬのは考えにくい。だが……」

 

アタシはひと呼吸置く。

とても言いづらい事だ。

 

「アタシのスキル『TS』は性別を転換させる能力だ。スキルを発動すると過去の古傷すら消して、まったく新しい肉体にしてしまう。そしてソレは他人にも使える」

 

エリーからの返答はない。

ここからが本題だ。

 

「これは推測だが、アタシのスキルはアタシが無意識に考えている理想の姿に書き換える力じゃないかと思ってる。そして、ソレは精神にも作用する可能性がある」

「つまり、私が私でなくなる可能性があると?」

「流石だな。スキルの力でエリーをアタシ自身の都合のいい存在に書き換えてしまう可能性があるって事だ」

 

そう、エリーという人格を破壊する可能性。

自分一人ならば何ら問題ないこの力も他人に適用させようとなると話が違ってくる。

もちろんアタシがスキルを勘違いしている可能性もあるが……

 

「そんな事ですか、構いませんよ」

「おい、そんなに軽々しく決める話じゃ……」

「いいえ。マリー、貴方は私の大切な友人です。大切な友人の理想の友人になれる、とても素敵な事じゃありませんか」

「エリー……」

 

エリーの決意は固かった。

 

アタシはスキルを発動させる準備に入る。

と言っても発動させるために身体の一部を触るだけだ。

 

今回は効果が実際あるかどうか確認するため、傷口のあった背中を見せて貰いながらスキルを発動させる。

傷口は魔法の力で完全に塞がれていたが、毒のせいで傷口のあった箇所が暗い紫色に変色していた。

 

スキルが発動して身体が大きくなると服が破れたりするかもしれないので服は脱いでもらい、前はシーツを被ってもらった。

 

アタシはエリーの背中を見ながら声をかける。

 

「本当はこっそり実験してから人には試す予定だったんだ。まさか実践でいきなり使うなんてな」

「ふふふ。マリーの初めてをいただけるんですね。では、私も――」

 

唇が塞がれた。

アタシはエリーにキスをされている。

永遠のような一瞬の時間を経て、互いの唇が離れた。

 

「私という人間がもし消えてしまったら、私の初めてを捧げる人がいなくなってしまいます。ですからマリー、貴方に捧げました」

「バッ、バカ! 女同士でそんな……」

「構いませんよ。これから私はあなたのものです」

 

そう言いながら頬を染めるエリー。

アタシの顔も多分熱くなっている。

 

「あ、もしも私が私のままだったら返して下さいね」

「はっ、バーカ。もう俺……アタシのもんだ。返さねーよ。むしろもっとくれ」

「そうですか。でしたらスキルの発動後も、マリーがまだ友達だと言って頂けるならもっと差し上げますね」

「ああ、安心しろ。アタシ達は友達だ。それにスキルが再発動できれば男なのは一瞬だけで、女にも戻れる……はず、だ」

 

正直初めての事ばかりで、あまり自信はない。

くそっ、あまりにもケースが少なすぎる。

 

アタシは覚悟を決めてエリーの背中に回り込むと、手を当ててスキルを発動させる。

 

「んっ……」

 

 

それとともに少しずつ変色していた皮膚の色が戻っていく。

アタシの頃と比べて変化がゆっくりだ。

他人にやるとここまで時間がかかるのか。

それとも毒の作用を取り除いているからだろうか。

 

およそ、十分ほどの時間が経過して、スキルの発動は完了した。

背中の毒々しい色は消えている。

 

エリーの髪色は金から銀髪に変化している。

身体は大きくなると思っていたが、逆に少しだけ小さくなってしまった。

 

変化が完了する。

 

「エリー? 終わったぞ」

 

彼が振り向くと、そこにはわずかにエリーの面影を残した銀髪の少年の姿があった。

アタシは美しいその少年の顔に少し顔を赤らめてしまう。

 

「……どうでしょうかマリー? なにか“僕”……あ、いえ私の姿おかしくないですか? 」

「あ、ああ……。“僕”でいい。変に話し方を戻そうとすると混乱するぞ、毒も抜けたみたいだな」

 

少年の声は変声前のそれだ。

元のエリーに近い声質をしている。

 

アタシは少年エリーに鏡を渡す。

 

「これは……。子供ですね」

「ああ、美少年だな」

「マリーの好みって年下だったんですか?」

「……そうなのか? アタシも今知ったぞ」

 

可愛いとは思うが好みとは少し違うような……?

無邪気に首を傾げるな。

 

「……マリー姉さん」

「んっ! な、なんだ!?」

「ふふっ、呼んだだけです。お姉ちゃん」

 

エリーがいたずらっぽく声をかけてくる。

 

「まあ、冗談はさておきありがとうございます。マリーのお陰で助かりました。性格も多分破壊されてないと思います。 ……破壊されてないですよね?」

「ん? ああ、大丈夫だ」

 

少しいたずらっぽくなってる気がするが大丈夫だ。

ただ、視線が男の子のそれだな。

そんなに気になるか、アタシの胸。

 

「じ、じゃあもう一回『TS』スキルを使おう。 エリーの姿かどうか確かめないと困るしな」

 

とりあえずこのままだと色々マズい。

強引にもう一度スキルを使うことにした。

 

「……確かにそうですね。マリー、お願いします」

 

スキルを発動させてしばらく待つと、見慣れたエリーの姿になった。

……なんだか肌のツヤ、張りが良くなっている。

なんというか、今まで以上に美人だ。

 

だがアタシみたいにぶっ飛んだ姿にはならなかったらしい。

元々が美形だからかな。

それともアタシの理想の女性って事…… か?

いや、これはおそらくアタシじゃなくてエリーの……

 

「ありがとうございます。マリー。 ……しかしこの姿が落ち着きますね。 その、男の子の姿だとちょっと浮ついた気持ちになってしまって……」

 

エリーの顔が真っ赤だ。

ああ、十代の男はムラムラしやすいからな。

伝わって来たぞ。色々とな。

 

……ちょっとアタシも恥ずかしかった。

 

「もし万が一また男に変身するときは名前どうしましょう? そのままエリーだとちょっとまずいですね。」

「それじゃあ、アタシが男だったときの名前から一文字やるよ。エリクでどうだ?」

 

すると、凄く嬉しそうに笑顔になる。

よほど気に入ったのだろうか。

 

「エリクですか。良いですね! マリー…… じゃなかったアレクから名前を貰ってエリク。嬉しいです!」

「おう」

「ありがとうございます。マリーお姉ちゃん!!」

「んっ! き、気にするな」

 

不意打ちで笑顔でお姉ちゃん呼びするな。

今の姿でも……いや、今の姿のほうがアタシに効く。

 

「たまにお姉ちゃん呼びするのもいいですね」

 

……ボソっと呟くな。

まあいいけど。

 

「というわけでマリー姉さん、色々教えて下さいね」

「……ああ、教えてやるよエリー。無事でなによりだ。だから、『俺』にもっとくれ」

 

「エリー! それにマリーも!」

「ご心配おかけしました。私は元気です!」

「コリンもイケメンも世話かけたな」

 

流石に当日に治ったと伝えるのはマズい気がしたので、二日目に『幌馬車』に会いにいった。

それまではずっと宿屋で引きこもりだ。

 

コリンが感極まって泣いている。

 

「良くあの状態から……。無事でなによりだよ」

「エリーのスキルは幸運系だ。それが上手く作用してくれたんだろうな」

 

嘘は言っていない。

 

「しかし無事で良かった……パーッとお祝いしましょ! あ、エリーが大丈夫ならだけど」

「はい、私は大丈夫です!」

「よし! 決まりね! 支払いは『幌馬車』に任せなさい!!」

 

 

 

「じゃあ来月にはE級に上がる冒険者、マリー&エリーの復活を祝って!」

 

「「「乾杯!!」」」

 

店のあちこちから歓声が上がる。

そう、アタシ達は盗賊退治の活動が認められてE級の条件を満たした。あとは一ヶ月待機してるだけでいい。

顔もよく知らない酒場の冒険者たちから声をかけてもらっている。

 

 

「病気治ったんだ、おめでとー」

「馬鹿、盗賊団に毒塗られたんだよ」

「あの子誰? 可愛いね」

「エリーさんサイコー!!」

 

いつの間にか出来たファンの声から無関心な奴らの声まで様々だ。

 

「マリーちゃーん、踏んでくれぇ!」

「エリーの肌ツヤが良くなっている……? まさか、美容系スキル持ち……? クソッ『写真家』はまだか!?」

 

なんでアタシのファンもいるんだ。しかもアブノーマルな奴。

 

あと盗撮家なら路地裏で寝てるよ。

お前も隣で寝かせてやるから安心しろ。

 

 

宴会は激しく盛り上がる。

ポツポツと人がいなくなり、なんともなしに酒場での馬鹿騒ぎがお開きになると、二人で宿に戻ってきた。

 

引きこもっていた間、宿屋では暇だったのでエリーと二人で『TS』スキルの検証ばっかりしていた部屋だ。

 

色々調べて分かった事は、スキルの力で一部分だけ肉体を変化させる事が出来たり、ささいな傷や消耗した体力も再生できるとかそんなんだ。

 

回復は時間がかかるから戦いながらでは使えないが、上手く運用を考えてやれば強力だ。

 

一部だけ変化させるのは……腕だけとか一部分を男に戻したところで、全身の筋肉がアンバランスになるだけなので戦闘では意味がなかった。

 

あとはエリーが男でも魔法が使えたくらいか。

ただ女のときの方が魔法の威力が圧倒的に上だったので、しばらく使うことは無いだろう。

 

他にもエリーは基礎魔法の威力が増えて、魔力の支払いを増やす事で短縮詠唱が可能になったらしい。

詳しくは知らん。

 

こうして考えると男状態のメリットがほぼないな。

 

一緒のベッドでエリーと手を絡める。

こうしていると何故か安心する。

そうだ、アタシのスキルの感想を聞いてみよう。

 

「なあ、エリー。アタシのスキルってさ」

「変則的ですけど回復もできて、攻撃も強化されています。強い部類に入ると思いますよ」

 

以心伝心、言いたいことが伝わったようだ。

アタシはエリーと唇を重ねる。

 

そうだな、アタシのスキル『TS』は意外と強い。




ここまでお読みいただきありがとうございます。
第一部 完 となります。
第二部 来週から投稿できそうですのでしばらくお待ち下さい。

※間違って一瞬だけ第二部の予約投稿文を出してしまいました。
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