エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第2話 出会い

人生ではじめて耳にする声を聞き、本能的に使い方のわかるスキルを取得した俺はあっけにとられ固まってしまう。

ゴブリン達が逃げ出しているがそんなものに構っている余裕はない。

 

取得条件はゴブリンの睾丸をつぶしてから殺した事……だろうか。

突然のスキル取得に驚きを隠せずにいた。

 

俺だけがよく知る木々で囲まれた安全地帯に移動したことで少し冷静になる。

 

スキル。

 

俺はスキルを手に入れたのだ。

正直に言おう。

俺は年甲斐もなくワクワクしている。

 

若いときはスキルに憧れ、ギルドの公開している先人たちの取得条件一覧を眺めては試行錯誤を繰り返していたこともあった。

 

だが特定の敵を一撃で倒す、○○を複数回採取するなどといったものばかりで、金玉をつぶす……というのは聞いたことがない。

厳密には部位破壊が条件になるのだろうが、それにしたってニッチすぎる。

スキル取得条件をギルドに伝えるだけでそれなりに金が出るのは間違いない。

 

取得条件で達成可能な条件を一つ一つ試しては落胆していた頃を思い出しながら、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

体の奥に意識を集中させる事で使い方がわかるというので、俺もやってみる。

 

……発動させるには願うだけ、効果は永続。

そこまでが直感的にわかるが、肝心の効果がわからない。

例外はあるものの、取得条件の厳しさや発動させるための難易度と、スキルの威力は比例する。

 

俺が手に入れたのは、リスクが少ないスキルのため強力なスキルではないのかもしれない。

攻撃系というより補助系か、強化系と言ったところか。

あるいはまったくの役立たずスキルかも知れない。

 

だが、それでも夢にまで見たスキルだ。

 

「……ふぅ」

 

俺は一度深呼吸して自分自身をおちつかせると、スキルを発動する。

スキルの発動と共に光に包まれ肉体が変化していく。

そしてその瞬間、俺は思い出した。

前世でのTSの意味を。

 

身長が縮む。

筋骨隆々だった肉体はほっそりと、柔らかく作り変えられる。

髪の色は薄いピンク色に染まり、肩にかからない程度の長さまで伸びていく。

 

「まっ…… 止めっ……」

 

声が途中からでなくなる。

声帯も変化しているのだろう。

合わなくなったズボンは脱げ落ち、ブカブカの上着と鎧だけが残った。

俺の身体が書き換えられていく。

アタシの中身もそうだ。

 

……アタシ?

いや、俺は俺だ。

アタシの、いや俺の意識は俺のものだ。

うっかりしていると意識まで書き換えられそうな中、ただじっと耐える。

 

……とりあえず変化が終わったようだ。

重くなった鎧を脱ぎ、肌着のみになる。

身体をまさぐると、あるはずのモノがなく、筋肉の代わりに脂肪でできた胸があった。

 

「なんてこった……」

 

『TS』

性転換するスキル。

大体の創作物では男が美少女になる。

 

アタシ…… いや、俺の前世知識が確かなら、俺は間違いなく美少女だ。

鏡がないので確かめることはできないが。

 

だがそれ以上に問題なのは今の格好だろう。

体格が変わっており、困った事に鎧がブカブカだ。

これじゃあ着けて戦うことなんてできやしない。

取り合えず、肌着は大丈夫だ。

縮んだ身長を補うように胸が出ている。

少し袖が長いが気にはしない。

 

膝あて、鎧の類はサイズが違いすぎてダメだ。

ズボンは紐をキツく縛ることで対処する。

ブーツもぶかぶかだが、ないよりマシだろう。

 

寝ている最中、山賊にでも襲われた貴族のような恰好だがまあいい。

 

装備することのできない鎧はおいていく。

この森は奥に行かない限り、ほぼ初心者向けの魔物しか出ない。

日帰りで学生の腕試しに使われるような場所のため、そもそも安全地帯を探すことすら稀だろう。

……俺みたいにやけっぱちになって夜通し戦うようなアホか、あるいは奥から出てきたはぐれ魔物に襲われない限りは。

 

したがってこの安全地帯に人はほとんど来ないし、実際ここにいて他の誰ともあったこともない。

 

なら、ここに鎧は置いておいて後で取りに来るべきか。

武器を持ってみると、変化前よりやや重たく感じる。

肉体の変化に伴い俺の力が弱くなったようだ。

 

……やばいな、体に慣れるまではしばらく注意の必要がありそうだ。

近くにゴブリンくらいしか居ないのが幸いだな。

 

相手はゴブリンとはいえ、流石に素手で戦うわけにはいかない。

億劫だが身の丈に合わない大剣を肩にかついで、木々に囲まれた安全地帯を抜け出す。

 

「きゃああぁぁぁ!!!」

 

しばらく歩くと崖下の方から女性の悲鳴が聞こえた。

森の奥ならともかく、この辺りは雑魚しかいない。

初心者でも女は同ランクの男より強いのが普通だ。

なにか余程の異常事態が起きているのだろうか。

 

冒険者相互扶助の精神に基づき助けに向かう。

急いで崖に駆け寄ると、ゴブリンの群れが見える。

いや、ゴブリンだけではない。その集団の中には巨大な豚の顔をした魔物がいた。

 

オークだ。しかも手には棍棒のような太い枝を持っている。

ルーキーたちが見かけたら戦わずに逃げろと厳命されている相手だ。

コイツは森の奥を住処としていて、この浅い所に出てくるのは非常に珍しい。

 

 

そこには転んだ金髪の女がいた。

服装から察するに神官だろうか。

神官は攻撃より回復、補助を専門としているのが特徴だ。

 

だがおかしいな?

神官は必ずパーティを組むはずだ。

なぜ神官が一人でこんなところにいるのか。

 

彼女の服は半分破られており、胸が見え隠れしている。

 

崖の高さは身長の三倍くらいか。

……まあ大丈夫だろ。

とりあえず飛び降りるか。

 

落ちる先は地面ではなくゴブリンの頭だ。

ゴブリンをクッションにしつつ、女に襲いかかっていたゴブリンの頭を同時に剣でかち割る。

 

いきなり空からの登場に敵も女も困惑して動きを止めていた。

 

「大丈夫か?」

「あなたは……? お願いです! 助けてください!!」

「分かった。質問は後でな」

 

オークは驚いたようにじっと見つめていたが、それから気持の悪い顔を向けて歩いてきた。

汚い布で覆われた股間は異様に膨らんでいて、アタシ…… 俺の体を見て欲情しているようだ。

 

「ひっ!」

 

気持ち悪い。

その視線に本能的に恐怖してしまい小さな声をあげる。

そうか。女から見た男のゲスな目線というのはこう感じるのか。

 

「テメェ! アタシ相手にクソみてえな目を…… いや違うアタシじゃない…… 俺……」

 

一瞬、アタシ、……俺の迷いを感じ取ったオークは何を勘違いしたのか笑いながら向かってくる。

弱っている獲物は放っておいても構わないというわけか。

ゴブリンどももオークに合わせるように俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

自分のアイデンティティが混乱状態にあった俺はゴブリンの一撃をマトモに食らってしまう。

 

「っ痛…… ああ、もう俺だろうがアタシだろうがどっちでもいいや! てめーらは殺す!」

 

一撃を食らって数歩後ずさる。

今はアタシでも、俺でも、どちらでもいい事だ。

大事なのは目の前のこいつ等は敵で、殺す対象って事だ。

 

ゲヒゲヒとオークの不愉快な笑い声が耳に障る中、アタシは魔物を殺す体制に入る。

剣を大振りに数回振るい、近くのゴブリン達を薙ぎ払うと、オークに向けて袈裟懸けに切り付けた。

 

「っ!?」

 

普段ならオークなんて一撃のはずだった。

だが、アタシの一撃は豚野郎の脂肪に阻まれて途中で剣が止まってしまう。

浅く切りつけただけだ。

 

慌ててオークに蹴りを入れ、その反動で後ろに飛ぶ。

距離をとって様子を見てみるが、蹴りも効いていないみたいだ。

 

「クソったれが」

 

身体が小さくなった事であらゆる攻撃の威力が落ちている。マズい。

 

オークは自分が有利だと悟ったのだろう。

見せつけるように手に持った棍棒を振り回してくる。

振り回す棍棒に近くのゴブリンがぶつかり吹き飛ぶが気にした様子もない。

所詮は魔物か。

 

「やめてぇ!」

 

再び女から叫び声が聞こえる。

女の方を見ると、一匹のゴブリンが神官服を剥ごうとしていた。

 

「ちぃっ!」

 

ゴブリンのくそったれめ。

剥ぎ取り用のナイフを背嚢のポケットから取り出し、敵へと投げつける。

ナイフが頭に突き刺さると、ゴブリンは血の泡を吹いて倒れた。

 

残るはオークだけだ。

オークに視線を戻すと、オークの棍棒が腹へめがけて向かってくる所だった。

 

「がっ……! ひゅ……」

 

その一撃が脇腹に響き、声にならない声を上げる。

気がつけば吹き飛ばされて後ろの木に叩きつけられていた。

 

……マズい、意識が一瞬飛んでいた。

あばら骨も折れてるかも知れない。

 

ゴブリンに気を取られているのが仇になった。武器も落としてしまっている。

 

「………… …………っ!」

 

女が声をかけてくれているがすまん。

今のアタシにはよく聞こえないんだ。

神官らしく神にでも祈っといてくれ。

 

立てないながらもかろうじて顔を上げると、フゴフゴと汚い笑い声を上げながらアタシに向かってくる。

布に隠れて見えないが、オークの股間がそそり立っている事にアタシは本能的な恐怖を覚えた。

 

何か、何か武器を。

アイツを破壊できる武器を!

なにかないのか!

 

アタシの焦りを気にすることすらせず、オークは悠然と歩いてくる。

 

「く、来るな来るな来るなあっ!」

 

辺りの石ころを投げつけながら後ずさるも、オークは笑いながら眼の前まで来た。

 

 




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