エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:SHノーマル

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第41話 暗い影

「オッサン」

「分かっている。相手の策にみすみす乗るほど馬鹿ではない」

「くふふ、こうなった妾の勝ちは揺るぎない。召喚魔法が使えなくともな。此度の行為は妾の優しさだという事を証明してやろう」

 

魔族の女は空中に浮いたまま、呪文を唱えだす。

……この距離、厳しいな。

 

「【黒き闇の昏い槍よ。敵を射抜け】〈黒影槍〉」

「ちぃっ!」

 

攻撃が届かない高い所から唱えられた呪文は、足元に浮かぶ影から複数の黒い槍が飛び出してくる。

 

骨野郎が使った魔法と見た目は同じだが、その数は倍以上に多い。

アタシとおっさんは必死で回避する。

避けられない槍は刃で受けた。

 

「オッサン! なにか方法は、良い方法ないか!」

「俺は長距離での攻撃なぞ持ち合わせていない!」

 

くそっ、役に立たねえ。

このままじゃジリ貧だ。

 

「くふふふ、楽しくなってきたのう」

「てめえは殺す!」

 

私は風魔法で空気の塊を作り、それを足場に駆け上がる。

 

「なにっ!」

「ファイアローズ!」

「くっ、影よ! 喰らえ!」

 

再び地面から伸びてきた影が炎を飲み込み、半獣魔族へ向かうアタシを阻む。

 

「くく、影よ、吐き出せ」

 

てめー、アタシの炎で反撃する気だな。

そいつは無理だぜ?

 

影からアタシが生み出した炎が飛び出す。

だが、吐き出された炎は一瞬で消えてしまう。

残念だがアタシは遠距離魔法を使えねーんだ。

 

「何っ!?」

「アタシの魔法は特別なんだよ、サンダーローズ!」

「うぐぁあああっ!!」

 

雷の一撃を当ててやる。

体勢を崩しやがった。それなりに効いたらしいな。

 

 

半獣魔族の野郎、慌ててアタシから距離を取りやがる。

……体が再生しているな。

前に戦ったアイツと同じか。理性があるだけ厄介だな。

 

「おのれ、おのれぇ! 影よ! 暴れろ!」

 

半獣魔族がそう叫ぶと、影から槍が飛び出して激しく回転する。

さっきの影魔法をスキルで再現できたのか。

 

「まだじゃ! 【昏き闇よ、闇夜に笑うは漆黒の炎、爆ぜてその身を犯せ】〈黒炎瀑布〉」

 

半獣魔族魔族の手に黒い炎が生み出される。

そして、その炎を上へ放り投げた。

投げられた炎は空中で爆発、飛散して降り注ぐ。

いくつかの炎の欠片がアタシの体に降りかかってしまう。

 

「どうじゃ! これは呪いの炎! 早く治さないと命に関わるぞ? もっともそのような機会は与えないがの?」

 

くそっ、確かに炎がかかった部分が黒く染まっている。

ジワジワと責め立てるような痛みが走るな。

これが広がって行くと厄介だ。

 

この炎を躱そうとしたせいで、アタシは地面まで落ちてしまう。

なめた真似してくれるぜ。

 

「今だ、影よ! 突き刺せ!」

「まずっ……!」

 

 

地面に影の生み出した槍がアタシに向かってくる。

クソっ!数が多くて躱しきれねぇ。

何本か食らっちまう。

 

……だが、その瞬間、誰かに吹き飛ばされる。

お陰でアタシを貫く攻撃は回避できた。

 

地面を転がりながら体勢を立て直す。

振り返って見てみるとオッサンがいた。

オッサンが突き飛ばしたのか。

 

代わりに受けるはずだった何本かを食らっている。

 

「おい、マリーとやら」

「なんだ、オッサン」

「約束は果たしたぞ」

 

約束?

なんかあったか?

 

「庇ってやると言ったはずだ」

 

ああそうか。

最初に会った時の口約束を守ろうとしたのか。

ムダに律儀なオッサンだ。

 

「ありがとよ、お陰で傷つかずにすんだぜ」

「ふん、未来ある冒険者がこんな所で朽ちるのが勿体無いと思っただけだ。お前たちの鋭い戦いと緩い雰囲気は見ていて嫌いではない」

 

憮然とした態度だが、オッサン照れてるな?

オッサンもアタシたちのファンクラブに入っていいぞ。

 

「オッサン、ついでに頼みがある。こいつはアタシが引受けるから、アイツが作った扉から仲間の所に合流してくれ」

 

「……それならば、俺がこの場を引き受けよう」

「お断りだね。攻撃手段のないオッサンじゃ犬死にするだけだ」

 

髭オッサンも分かってるのか苦々しく舌打ちするだけだ。

 

「逆に向こうの悪魔共はアタシよりオッサンのほうが相性がいい」

「だが、それではお前が……」

 

「死ぬ気はねえよ。こっちにだって考えくらいあるさ。さっさとアタシ達の仲間を庇いに行ってくれ。約束、守ってくれるんだろ?」

 

そう言うとアタシは顎でエリー達のいる向こう側を指さした。

 

「……クソッ、口の減らない野郎だ。勝てよ」

「当然だ、アタシはああいう見下して来るやつが大嫌いだからな」

 

オッサンは武器を構えると、エリー達のいる所へと駆け出した。

 

「なんじゃ? せっかく罵り合ったり庇い合う喜劇のどちらかが見れると思ったのに、つまらんのう」

「へっ、残念だがこっから先は有料だ。見たけりゃ命で払いな」

「減らず口を叩きおって……。数々の無礼、その死をもって償うがよい」

 

影が私に向かって攻撃を仕掛けてくる。

まずはこの影からなんとかしねえとな。

「ファイヤーローズ! サンダーローズ!」

「無駄じゃ。影よ喰らえ」

 

ちっ、炎と雷も吸い込まれたか。

やはり空中に出るのが一番だな。

 

「【昏き闇よ、闇夜に笑うは……】」

「後ろでブツブツ唱えてんじゃねえよ。根暗な女はモテねぇぞ?」

 

アタシは空中を蹴る。

両手にはそれぞれ、雷と炎の魔法を用意している。

空中を駆け上がりながら一気に羽を切りつけた。

 

「華火」

 

傷口から雷と炎が派手に散る。

宙に浮かぶことができなくなったのか半獣魔族は地面へと落ちていった。

 

「ぐぬうううっ!」

「アンタ接近戦で戦うタイプじゃないな、色々とお粗末だぜ」

 

 

アタシは水魔法で水を作ってぶっかけてやった。

次に、氷魔法で凍らせる。

 

「がぁっ!」

「たまには熱も冷まさねえとな? 逝っちまいな! サンダーローズ!」

 

全身が凍って動けなくなったところに、再び雷の一撃を食らわせてやる。

 

だがまだだ!

氷の魔法を何層にも、何層にも重ねてやる。

名付けて――

 

「アイス……ピオニー」

 

地面に、巨大な氷の牡丹が咲いた。

 

「どうだ、キレイだろ」

 

……疲れた。

 

一気にいくつもの魔法を重ねた疲れからか、流石に息切れしている。

回復させないように氷漬けにしてみたが、効果はあったか……?

 

動きはない。

まあ良いさ、氷ごと砕いてやる。

アタシは雷の魔法を放とうと構えた。

 

その瞬間、影がアタシを食らう。

 

「しまった!」

 

……真っ暗で何も見えない。

武器も喰われる前に落としてしまったか。

あるいは武器だけ吐き出されたのか。

手には何も持っていない。

 

どうやって出ればいいんだ?

すると、遠くから氷が砕ける音がした。

外の音だけは聞こえるのか。

 

「よくも、よくもやってくれたのう。ダンジョンから力を得ていなければ危うく死ぬところじゃったぞ。影よ! そやつを砕け!」

 

掛け声とともに、影が私を押し潰そうとしてくる。

まるで獣の口の中で咀嚼されるように、何度も上下左右から叩きつけられた。

 

「ぐっ!、がっ…… ゲホッ……!」

 

マズい、このままじゃ嬲り殺される。

右手も、右足も、他にも何箇所か骨が折れたようだ。

 

そう言えば、半獣魔族の奴が騒いでいた攻撃があったな……

一か八か、さっき見たばっかりの魔法を試してみるか。

 

「見様見真似だが、喰らいな!」

 

手から出た光が影を照らすと、闇は固まったように動かなくなる。

やがて闇がヒビ割れ、アタシは光に吸い込まれた。

……気がつけば半獣魔族の目の前に飛び出している。

 

さあ、反撃だ。

本当なら悪魔みたいに光を収束させてレーザーにするつもりがうまく行かなかったな。

まあ外に出られたからいいさ。

 

「何……? おぬし、何故……?」

「やっぱりその影、闇魔法に近いな。消すことはできなかったみてえだが、対処法は見つかったぜ」

「くそ、馬鹿な……。何故、影の中で魔法が使える!?」

 

その口ぶりからするに、一度影に取り込まれたら中では魔法が使えなくなるみたいだな?

 

「言っただろ。アタシの魔法は特別なのさ」

「おのれ! ボロボロの分際で! 妾の任務を失敗させ、挙げ句の果てに愚弄するか!」

 

水と空気で壁を作り攻撃を防ごうとするが、そんなのは意に介さないとばかりに殴りつけてくる。

 

 

氷もぶつけてみたが一瞬で再生される。

クソッ、やっぱり生半可な攻撃じゃ駄目か。

もうちょっと隙を見せてくれれば……

 

「ふはは! どうじゃ! 妾をなめた事、後悔するがいい!」

 

ババアが、接近戦できねえくせに安易に近づいてんじゃねえぞ?

 

「……よ」

「ん? どうした? 命乞いか?」

「香水くせえんだよ!!」

 

アタシは、大声で叫ぶ。

音魔法で声を増幅してやった上で、だ。

爆音に動きが硬直したな?

 

……ここだ。

アタシは殴りかかろうとしていた拳に抱きつく。

 

「何のまねじゃ!? 離せ!」

「おう、何度も殴り付けなくたって離れてやるよ。その腕輪も飼い主の元に戻れて喜んでるだろうさ」

 

「なに!? ……なんの真似だこれは!?」

「プレゼントだよ。お前の使いっぱしりから貰ったのさ」

 

ポケットに入りっぱなしだったんだ。

ちよっと呪われてるらしいが、別に良いよな?

 

すると半獣魔族の体に髑髏のような模様が浮かび上がり、声を発する。

 

「おお……おお……。我が主のため……最後の攻撃を受けるがいい」

「貴様はワスケトか!? ば、馬鹿者! 妾こそが主であるぞ! 妾の事が分からんか!」

「そいつはもう死んでるんだ。最後の思いがその腕輪に詰まってたんだろ。親としてしっかり受け取ってやんな」

 

全身を覆う髑髏から血が吹き出す。

えげつねえ呪いだな。

 

だがそれらはすぐに修復される。

ダンジョンの魔力で無理やり回復しているのか。

 

そして再び髑髏から血が吹き出す。

 

「おのれえ! 作られたモノが作りしモノに刃向かうか! オノれ、お……ノレ、ぬあああ!」

 

……高い回復力と合わさって酷い事になってやがるな。

だが、思った以上に隙を作ることに成功したみたいだぜ。

ここがラストチャンスだ。

 

「……なんでさっきから反撃しなかったと思う? ずっと準備をしてたんだぜ」

 

アタシは熱で白く輝く左手を見せつける。

爆発がこっちに来ないように、ムダに力が逃げないように、水魔法で手の周囲を覆ってやる。

 

「親子で絡み合ってないで、さっさと逝っちまって楽になりな」

 

アタシは呪いで再生と破壊を繰り返すババアの心臓部分へ手を当てた。

これが、アタシの必殺技だ。

 

「これでおしまいだ。必殺、鳳仙花!」

 

 

極限まで圧縮した複数の炎魔法が、心臓で爆ぜた。

 

「おお……。オノ……レ……! オノレエエエェェッッ!!!」

 

圧縮された炎は体内で幾度も爆発を繰り返す。

その爆発は逃げ場をなくし幾度も体を焼き払う。

やがて体が耐え切れなくなったのか、全身から火を吹きだすと、背中から火が吹き出し、最後には体が弾け飛んだ。

 

……体もカケラだけでは再生できないらしいな。

 

「これで幕引きだ。最後に子供の愛情を受け取れてよかったな」

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