エリー×マリー 〜スキル『TS』が意外と強い〜   作:聖璧ノーマル

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第五~七部のあらすじは第七部終了後にまとめて行います。


第六章 王都裁判編
第75話 王都への依頼


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「さて、どうしたもんかね……」

 

アタシは今、ひとつの紙きれとにらめっこをしている。

リッちゃんやエリーも起きてきたので朝から起きた事の顛末を話したところだ。

 

「朝っぱらからそんな事があったんだね」

「ああ、リッちゃんやエリーは寝てて気づかなかったかもしれねえが、手強いやつだった」

「私としたことが失敗でした……」

 

いや、アタシの魔法以外は音らしい音も立てていないし距離も離れてる。

挙げ句の果てに雨が音をかき消していたからな。

気が付かなくてもしょうがない。

 

むしろ二人が寝ててくれて助かった。

転移で後衛から狙われてたら、かなりキツい戦いになった気がする。

 

「ああいう奴とはあんまり戦いたくねえな、コッチの強みが潰される」

「マリーがそういうなんて珍しいね」

 

スキルも肉体も鍛え上げられてる奴は隙がないからな。

単純に強いやつほど厄介だ。

正面から全力勝負はキライじゃねぇが、コッチも手札を見せる必要があるし、なるべくやりたくない。

 

「しかし『ラストダンサー』か……。A級の中でもトップを争うチームじゃねえか」

 

『ラストダンサー』は王都を四人で活動しているチームだ。

斥候、前衛、後衛のバランスが良く、穴が無いと聞くが噂に違わぬってやつだな。

 

「たしか、『ラストダンサー』のメンバーは冒険者の一人がこの街の出身者だったはずだ。駆け出しだった頃に一度だけ見たことがある」

「へぇ、強かったの?」

「かなり、な」

 

炎や氷を纏い、大剣を振り回しながら敵をなぎ払う姿は今でも覚えてる。

ああいう戦いがしたいと子供ながらに思ったもんだ。

 

まあすぐに王都に行ってしまったから話したことすらないが。

 

「どうしたもんかな、ひよっこ達の世話もあるしな」

「なんで王都に来てほしいって話ししてたの?」

「それが、結局手紙ひとつ渡してきただけなんだよな」

 

あの野郎、詳しくはこちらに書いてある、また一週間後に来るとだけ言い残して転移で消えやがった。

 

一応、渡された手紙を読んでみるが、要するにある人物の護衛を二週間ほど頼みたいとのことだ。

 

誰を護衛するのか名前すら書いていない。

時期が来たら詳細を説明するとだけ書かれている。

 

こんなんじゃ判断できねえよ。

 

「どっちにしてもアタシ達で決めるのは危険だな。おやっさんとも相談だ」

 

おやっさんも人手不足でヒーヒー言っててひよっ子を育ててるわけだしな。

受けるにしても行きと帰りで一ヶ月は不在になるし、話は通しておいたほうがいいだろう。

 

おっと、噂をすればひよっ子達が起きてきたようだ。

 

「うう、辛い……」

「皆様おはようですわ……。うぅ、気持ちが悪い……」

「おはようマリー姉……先生。頭がイタイから、今日はお休みでもいいですかぁ?」

 

三人ともボロボロだな。

まあ、予定通りか。

 

「無理して先生と呼ばなくていいぞ。好きな呼び方でいい。それはそれとして今日の訓練は無理してでも決行するからな」

 

「えぇー……、辛い……」

「鬼ですわ、ウップ」

「うぅ……」

 

絶不調の環境で不慣れな所に突っ込んで死ぬ冒険者は多いからな。

理解させるためにわざわざガッツリ飲ませたんだ。

 

まあ、アタシも今日は朝から来客に刺されたり殴り返したりと朝から忙しかった。

少し軽めにしとくさ。

 

 

翌日。

アタシ達はギルドに来ている。

おやっさんに進捗の報告と王都への話をしないとな。

 

今日のひよっ子訓練はメイが請け負ってくれるというので任せた。

 

したがって久々に『エリーマリー』のメンバーだけだな。

 

「――っつー訳で、ひよっ子達は冒険者兼アタシの従者として振る舞ってもらうぜ?」

「まさか全員魔族だったとはな……。マリー、オメェなんか悪いモンでも憑いてんのか?」

「こっちにいるのは幸運の女神だけさ。ツいてんだよ」

 

まあ正確には『絶対運』のスキルを持つ女神だけどな。

 

「従者の契約は構わねえ。コッチとしても助かる」

「おう、貸しにしとくぞ」

「しかし新米達のためにわざわざ泥をかぶるのか。昔から一人で動いてた頃と比べると大分変わったな」

「へっ、なんも変わんねーよ」

 

アタシはアタシだ。

ひよっ子共を見捨てるのも気が引けるだけさ。

 

「それよりもう一つの本題だ。王都への誘いだがアタシ達だけで決めるわけにも行かねえからな」

「ふーむ。しばらく不在か。コッチも人手不足だから依頼を受けて欲しかったが……まあ一ヶ月くらいならいいだろう」

 

よし、おやっさんの言質はとったぜ。

これで受けるも拒否するも自由だな。

 

「だが名前を明かさないってのが少し引っかかる。貴族絡みだと厄介だ」

 

貴族絡みは面倒くさいからな。

普段は冒険者を見かけると距離を取る奴らだが、利用できそうだと判断すると距離を詰めてくる。

 

「確かに、もう少し判断材料がほしいな。……エリーはどう思う?」

「そうですね……。行くと厄介事に巻き込まれますが、行かないと後々取り返しがつかない事になる、ような気がします。スキルがそう言っています」

 

エリーがそこまで言うのは珍しいな。

 

「え!? エリーってスキル持ってたんだ!」

「そういえばリッちゃんに話したことなかったな。運が良くなるスキルだ。レアなモノをよく引き当てるぞ。ついでに派生して選択の結果がなんとなく分かる」

 

まあ副作用で不運の方のレアを呼び込む事もあるけど、細かい事だ。

そこまで話さなくても良いだろう。

 

その話を聞いておやっさんが唸る。

 

「う、む……。しょうがない。お前ら王都に行ってこい。コッチはなんとかしてみる」

「おやっさんのトコは大丈夫か?」

「一応、『オーガキラー』もいるからな。ある程度の事が起きても対処できるだろう。向こうの新米育成もそれなりに上手く行っている」

 

意外だ。

『オーガキラー』なら新人をうっかり潰すと思っていたぞ。

ひよっ子達を棍棒変わりの武器に、とかの物理的な感じで。

 

きっと『幌馬車』が頑張っているんだな。

そうに違いない。

『オーガキラー』に育成なんてできるわけないからな。

 

「マリー達の新米共はどうだ? 魔族ならオークの一匹くらいは倒せるか?」

「この間百体くらいいたオークの群れに放り込んだら五人だけでなんとかしてたぜ、魔族の姿で、全力を出す前提だけどな」

 

まさか撃退できるとは思ってなかった。

たいしたもんだ。

……何故かおやっさんがドン引きしている。

 

「マリーよお、今更だがいくら何でもソイツは新米共にはキツすぎやしねえか? 武器もマトモに使えてねえんだろ?」

「大丈夫だ。魔族の姿に戻ってるならアイツらはソコソコ強い」

 

実際、戦ってみたらそれなりの強さだったし。

 

「まあ指導してるのはマリーだからな。別に構わねえが……」

「あとは適当な依頼をこなして経験を積めばなんとかなるだろ。なんか依頼はあるか?」

 

「だったら腕試しも兼ねて魔物討伐系の仕事を回してみるか。それで成果が出ればコッチも助かる」

 

それならカリン達が良いかもな。

全員スキル持ちだし、カリンのスキルなら多少のトラブルも超えられる。

獣人ズは魔法が上手く発動しなかったりと色々不安定なトコがあるからな。

 

つかカリン達も獣人ズも、それぞれパーティーの申請させたほうがいいな。

名前を考えてもらうか。

 

「よし、じゃあヒヨッ子たちには話をつけておくぜ。その成果を見てから王都に出るか決める」

「おう、そうしてくれると助かる」

 

これで大体の方向性は決まったな。

 

「ところでおやっさん。ポン子はどうした?」

「先方が気に入ってな。しばらくカジノで預かりたいと依頼が来た。しばらく戻って来ないな」

 

あのポン子をねぇ。

奇特な奴もいるもんだ。


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