ようこそエロゲーの教室へ   作:Monburan

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キモくてヤバイやつ

 

 

「さて、帰るか」

 

 

 朝比奈先輩の背中を見送った俺は再び帰路へつこうとしていた。しかし思わぬ収穫だ、まさか入学初日から2年との繋がりが出来るとはな。

 朝比奈先輩がこのエロゲーでどのような立場かはわからんが、攻略してこちらの味方になればかなり動きやすくなる。

 ……だが、モブって攻略できるのか? 

 エロゲーでは攻略対象にスポットが当てられるが、ここはエロゲーと言えどもリアル。

 モブの攻略ルートも存在してればいいんだが……

 俺は朝比奈先輩の事を考えながら寮へ帰るべく歩いた。

 だが教えてくれ

 

 

『寮はどこにあるんだ?』

 

 

 俺は知らないぞ、一度も行ったことないしな。

 だがその疑問はすぐに解決した。

 既に多くの生徒が俺と同じように帰路へついていたからだ。この流れに乗れば辿り着けるだろう。

 しばらく歩くと学生寮が見えてきた。

 寮の数は一つだけ、そこに男女関係なく生徒が入っていく。つまりは男女共用。これでサプライズなエロシーンが日常茶飯事に展開できるという事か、悪くないだろう。

 俺は寮に入ると1階のフロント女性に声をかけた。

 

「すみません、今日入学したエロ芸夢と言いますが俺の部屋はどこでしょうか?」

「エロ芸夢くんですね。少々お待ちください……。はい、こちらのカードキーをお使いください。部屋番号も記載されています。それと、寮生活についてのマニュアルをお渡し致しますのでお部屋に戻ったらお読みください」

 

 俺は軽く会釈し、カードキーとマニュアルの紙を持ってエレベーターへと向かい部屋へ入った。

 僅か八畳ほどの1ルーム。

 軽く部屋を物色すると、冷蔵庫や洗濯機に小さなテレビ、それにベッドと勉強用の机と椅子が置いてある。

 

「ここが俺の部屋か」

 

まずは生きていく上で必要最低限の生活用品が必要。何かって? そろそろわかってきただろ。

 もはや言葉は必要ない。

 

『そう、エロゲーだ』

 

 俺はフロント女性から貰ったマニュアルを机の上に乗せて読んだ。

 

『電気・ガス代無料』

『高校生にそぐわない恋愛の禁止』

 

 電気やガス代の無料はでかいな。使い放題とは素晴らしい待遇だ。

 そして問題は次の文章、『高校生にそぐわない恋愛の禁止』おそらく男女共用のこの寮にも寮長のような存在がいるのだろう。そいつに見つかれば何かしらの処罰を受けるに違いない。逆に言えば寮長の目をかいくぐって秘密裏に密会を繰り返し、友好を深めて攻略しろと言うことだ。

 場合によっては寮長からの指示で動き、こちらの情報を渡しているスパイが生徒の中に存在している可能性もある。まずは慎重に行動し、やつらの監視をかいくぐる術を手に入れる事が先決だろう。

 

「さて、飯と日用品を買いにいくか」

 

 俺は部屋を出て近くのコンビニへと向かった。

 コンビニには数多くの生徒がいたがそのほとんどが1年生のようにも見えた。誰もがどこか挙動不審でいてまた、カードによる慣れない決済方法に戸惑っていたからだ。

 しかしその戸惑いはすぐ俺にも訪れた。

 

「なんだこれは?」

 

 俺の目の前には一部の食料品や日用品が『無料』と書かれて置かれていた。注意書きで1ヶ月3点までとは書かれているが、寮では電気もガスも無料、コンビニでは無料の商品か。

 つまりこのエロゲーは……

 

『イージーモードだ』

 

 おそらくだが本来エロゲーとして登場人物やエロシーンに注力した結果、こういうところまで設定が回らなかったのだろう。だが俺にとっては好都合。ここは甘えさせてもらうとしよう。

 俺は無料品と幾つかの生活用品、それと自販機でコンドームを購入して部屋に戻った───

 

 

 

 ようやく長い一日を終えた俺はベッドに寝転がり天井を見つめる。

 今日は色々な事があった。

 転移して櫛田に出会い、ここが学園物のエロゲーだと気付き、教室で数人の友人を作り、朝比奈先輩と交流を持てた。そして家賃も光熱費もかからない部屋に住みつき、無料の食品を食らう。

「だがわからないこともある」

 俺は起き上がりベッドに座り直す。

 まずは俺のこの能力を使いこなせるようにしなくては始まらない。

 

『選択肢の発動条件』

 

 実は大体の見当がついてる。こういうのは何かしらの行動がトリガーとなり引き起こされる事が多い。櫛田の時と朝比奈先輩の時で共通して起こった現象、おそらくだが……

 

「相手に触れる事だ」

 

 俺が今日触れたのは櫛田の寄りかかってきた時と、朝比奈先輩の髪飾りを渡すときに触れた手の2回だけ。攻略対象にしか効果がないという線も考えたが、俺の勘では朝比奈なずなは攻略対象ではない。重要な位置取りかどうかはわからんがおそらくモブの分類だ。

 間違いはないだろうが、今からそれを検証しに行くとしよう。俺は須藤に電話をして部屋番号を聞くとすぐに歩き始めた。

 

「早い段階で須藤と連絡先を交換しておいたことが功を成したな」

 

 俺が部屋をノックすると須藤はだらしない格好でドアを開ける。

 

「おう、エロ。どうしたんだよ、いきなり部屋を見せてくれなんてよ」

「急に悪いな須藤。自分の部屋と他の部屋が同じかどうか見たかったんだ」

「そういう事か! ほら入れよ」

「ああ、邪魔する」

 

 俺はどや顔で須藤の肩に手をおいた。

 俺の推測が合っているならばここで選択肢が発動するはずだ! 

 

「どうだ、同じか?」

「ああ、どうやら他の部屋も同じようだな。ありがとう須藤、また明日な」

 

『……発動しなかった』

 

 なせだ? 違ったのか? 発動条件は相手に触れる事じゃないのか? 

 ならなんだ? 

 他に思い当たることなどな……

 

『あった』

 

 それも二つ……

 まず一つ目を試しにいこう。

俺はフロントに向かい、受付の女性に声をかける。

 

「すみません。カードキーの調子が悪いのですが」

「えっ、先ほど渡したばかりですよね? 少し見せてもらってもいいですか?」

 

『女にしか選択肢は出現しない』

 

 まずはこの可能性を試す。

 俺は手を伸ばしてきた女性の手にカードキーを渡しながら触れた。

 選択肢は……

 

「特に異常はないようですが……。お時間を頂ければ交換することもできますがどうしますか?」

「いえ、俺の勘違いかもしれません。また何かあればお願いします」

 

『違った』

 

 ならばこれで決まりだろう。

 おそらく相手に触れるというトリガー自体に間違いはないはずだ。

 つまりこの選択肢には

 

『回数制限がある』

 

 一日2回か……。よくある話だ、翌日にはリセットされてまた使用可能になる。

 これが知れただけで十分。

 明日からは主人公探しに没頭してやるぜ! 

 

「フハハハハハハハハ」

「あ、あの、すみません。手を離して欲しいんですけど……」 

 

 そして俺は部屋に帰り眠りについた。今度あの受付嬢の名前を聞こうと、固く決意しながら───

 

 

 

 

 

 眩しい日差しがカーテンを通り越して俺へと降り注ぐ。どうやら昨日は受付嬢の事を考えながらぐっすりと眠れたようだ。しかし受付嬢にまで名前が用意されているのだろうか……

 よくゲームなんかでは村人Aや村人Bなど、あまり重要性のないキャラは固有名を持たない事が多々ある。昨日の受付嬢が受付Aだったとして俺はどうしたらいい? 

 受付Aさんと呼ぶのか? 

 いや、それはない。

 ならば俺が名前をつけよう。

 俺が名付け親になることで主従関係が芽生え俺専属の受付嬢に転身する可能性もあるしな。

 今のうちに名前を考えておこう。

 だが俺が名前の準備をしてフロントにいくと既に彼女はいなく、受付Bへ交代した後だった。悔しい気持ちを抱えながらも踵を返すことなく俺は学校へと向かった。

 

「そういえば結局昨日は朝比奈先輩からメールが返ってこなかったな」

 

 俺は歩きながら携帯を確認する。

 やはりメールの返信はきていない。

 

「もう一度送っておくか……」

 

 俺はもう一度、朝比奈先輩にメールを送信する。

 

『大切な相談があります。お会いできませんか?』

 

 ひとまずはこれでいいだろう……

 あとは朝比奈先輩と会って二年にいるであろう主人公について情報を集めていけばいい。俺が教室に入ると昨日と同様に周りは誰もいなく、ぽっかりと空いた空間に俺だけが座る。

 教室の中央付近には早くから登校していたのか数人が固まって楽しそうに会話をしていた。そんな光景を少し羨ましく眺めていると、一人の男が俺の机の前まで歩みを進めてきた。

 

「やあ、エロくん。おはよう、急に話しかけてしまってごめん。実は昨日の放課後に残っている人で自己紹介をしたんだけど、エロくんはすぐに帰ってしまったから声をかけられなかったんだ。僕の名前は平田洋介。同じクラスメイトとしてこれからよろしくね」

「ああ、俺はエロ芸夢こちらこそよろしくな。平田」

 

 その男はとても低姿勢な態度で、爽やかなイケメンを顔だけではなく言葉でも表現したような……。そんな華やかさを持って俺に話しかけてきた。

 こんなモブが存在するか? 

 いや、しない。

 こいつは確実にこのエロゲーの中で何かしらの重要な使命を帯びている人間だ。平田といい、高円寺といい、このクラスには女子も含めて重要そうな人物が多い。この先、二年の主人公によりこのクラスが何かしらの形で狙われてその結果、表舞台へと姿を表す役回りなのかもしれないな。それならばこのDクラスのモブの少なさにも納得がいく。

 俺は平田を見ながらこのエロゲー世界においての1年Dクラスに与えられた重要性を再確認した。その後、始業のチャイムを迎えて俺たちは初めての授業を受けて、昼を迎える。

 

「エロ、食堂いこうぜ!」

「ああ、食堂か、楽しみだな」

「池と山内も連れてこうぜ!」

「そうだな誘ってみよう」

 

 俺たちの誘いに池と山内も承諾し4人で食堂へと向かう。そこで俺はコンビニに引き続き無料のものを発見した。

 

「……山菜定食か」

「おいエロ、それ食うのか? あんま美味そうじゃねえぞ」

「いや、気になって見てただけだ」

 

 結局俺は普通の定食を頼み席へと座り、須藤たちと昼をすませ教室へと向かう。

 だがその途中、俺は足を止めた。

 いや、正確には彼らの声が俺の足を止めさせた。

 

「南雲はいいよなぁ、あいつ女をとっかえひっかえにしてるらしいぞ」

「おい、声がでけえよ。聞かれたらどうするんだ……」

 

 南雲? 女をとっかえひっかえ? 

 俺は須藤たちに先に教室へ戻るよう伝えて、彼らの会話を聞こうとした。だがそれ以降、彼らは南雲についての話をしなかった。

 

「……南雲か少し調べてみる必要があるな」

 

『ブゥゥゥブゥゥゥ』

 俺の携帯のバイブが鳴る。

 ポケットに手を入れ携帯を取り出すと一通のメールが届いていた。

 

『今日の夜22時、寮の裏手に来て』

 

 朝比奈先輩からのメール

 夜の22時。そんな夜遅くに男を寮の裏手に呼び出す理由……

 例えそれが俺から会いたいと送ったメールの返信であったとしても、期待せずにはいられない。

 俺はポケットに入れたコンドームを穴があくほど強く握りしめ、夜の訪れを待った───

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は来た。

 外は既に暗闇。

 街灯の明かりだけが頼りのこの時間。

 俺は穴のあいたコンドームを片手に飛び出した。

 だが俺が寮の裏手につくと朝比奈先輩と、制服を着崩したチャラそうな金髪の男が待ち構えていた。

 

「よう、お前がエロか?」

 

 金髪の男はフランクに話しかけてきた。

 

「はい、1年Dクラスのエロ芸夢です」

「俺は2年Aクラスの南雲雅だ」

 

 ……南雲? おそらく女をとっかえひっかえしてるという噂の南雲だろう。

 朝比奈先輩とはどういう関係なんだ? 

 

「南雲先輩がどうしてここに?」

 

俺の問いに南雲雅ではなく朝比奈先輩が口を開いた。

 

「雅にエロくんのこと話したら会ってみたいってさ~」

「そうですか。どんなご要件ですか南雲先輩」

「要件なんかないさ、ただ朝比奈が一年にヤバイやつがいるって言うから見てみたくてな」

 

 なるほど。俺が思っていた以上に朝比奈なずなの好感度が高かったと言うことか? 

 俺が頼む前に南雲雅と引き合わせようと動いていたのか。

 

「見て、どうでしたか?」

「さぁ、どうなんだろうな」

 

 南雲ははぐらかすように答えた。

 こいつが主人公なのか? 

 女をとっかえひっかえしてるイケメン。

 朝比奈先輩が俺のために動いてくれたんだ、主人公の可能性が高いな。本来主人公はもっと平凡な見立てで実は凄かったり、凄くはないが運だけで乗り越えるようなタイプが多いんだが、イケメンの主人公がいない訳じゃない。まだ情報が足りないが可能性としては十分考えれるだろう。

 俺が南雲雅という男について考えていると南雲が話を切り出した。

 

「おまえはこの学校をどう思う?」

「どう、ですか。随分と抽象的な質問ですね」

「そうだな、聞き方を変えようか。入学してみて何か感じたことはあるか?」

(朝比奈が1年にキモくてヤバイやつがいると言うからどんなヤツか興味本位で来てみたが、この質問に見当違いな答えをするようならこいつに価値はないな)

 

 南雲は何を言ってるんだ? 

 感じたこと……。ああ監視カメラのことか? 

 あと毎月10万ポイントじゃ女を買うのには足りなすぎることだな。金貯まるまでどんだけ節約させる気だ。

 

「まず監視カメラが多いですね」

「そうかもな、何故だと思う?」

(監視カメラには気付いたか。だが気付くだけなら然程難しくもない。問題はそれを見てどう考えたか……)

 

「ヤるならバレないようにヤれって事かと」

「……なかなか物騒なやつだな」

(殺るならバレないように殺れ、か。あながち間違いでもない。この学校は実力至上主義の学校だ。優秀な奴ほど上へ、そうでないやつはとことん下へ。こいつの弱肉強食の考え方は正しい)

 

「そうでしょうか? むしろ当然のことかと思いますが、それにバレたら恥ずかしいですよね?」

 

 自分がヤってるとこカメラに撮られるなんて最悪だからな。

 

「そうか、恥ずかしいか」

(バレない事が当たり前。バレるような行為そのものがこいつにとって恥と言うことか。かなり強気な発言だが平然と言ってきやがる)

 

「あとはポイントですね。10万ポイント貰ってクラスはみんな喜んでましたが、俺としては全然足りない。来月以降の事も考えて必要最低限なものを買い、残りは節約してます」

 

 このままじゃ女も買えないからな。今月は必要最低限のエロゲーとアイテムしか買わない予定だ。

 

「そうか。ポイントについても気が付いたか」

(おい、ちょっと待て。まだ入学二日目だぞ……。もう節約生活を始めてるのか? この学校はクラスポイントと呼ばれるものが存在し毎月変動する。それによって毎月の貰える金額も変動する事に、こいつはたったの二日で気付いたのか? 少なくとも何かしらの違和感は感じているんだろう、得体の知れないやつだ。朝比奈の言った通り、キモくてヤバイやつかもな……)

 

「それと南雲先輩は女をとっかえひっかえしてるとか……」

「だとしたら何だ?」

「素晴らしいです。俺は南雲先輩の活動を支持します」

 

 やはりとっかえひっかえしていた情報は正しいようだな。これで南雲雅が主人公である可能性が更に上がった。

 まずは仲間になって飽きた女を全て俺に回してもらおう。そして南雲が油断したところで主人公の座を奪い取る。

 

「わかった。それは覚えておこう」

(こいつ、俺が生徒会副会長としてこれから会長を目指し、学校に革命を起こそうとしている事を知っていたのか? どちらにしろ、こいつを野放しにしておくのは危険だな……。だがなぜこいつがDクラスなんだ? この学校では入学時にAクラスが優秀な生徒を、そしてDクラスになる程、問題児や劣等生が集まる仕組みだ。力を隠してるのか?)

 

「俺が感じたのはこのくらいです」

「もう1つ聞きたい事が増えた、なんでおまえは力を隠している?」

 

 ……なんだと? 

 なぜ南雲が『選択肢』の存在を知ってるんだ。

 主人公としての力なのか? 

 南雲はどこまで俺の事を知っているんだ……

 今は朝比奈先輩がいるから気を遣って遠回しに『力』と言う言葉を使ったのか。

 やはり南雲とは敵対せずにいた方がいいな。

 

「隠した方が都合がいいからです」

 

 俺は選択肢が見えるんだ、とか言っても引かれて終わるだけだ。最悪触れることすら出来なくなって選択肢が出せなくなる恐れすらある。

 

「否定しないんだな」

「隠してるのは本当ですから」

「そうか……」

(やはり敢えて力を隠しているか。その方が立ち回るのに都合がいいと。入学して二日目でこの用心深さに情報網、そして殺る事への心構え、全てにおいてヤバいやつだ……。ちょうど1年の駒が欲しいところでもあった。とりあえず朝比奈を監視につけて様子を見つつ、何処かで動かしてみるか……)

 

「話は終わりですか? 南雲先輩」

「そうだな、今日はここまでにしよう。これから困ったことがあれば朝比奈に頼れ。朝比奈もこいつの相談を受けてやれ」

「はいは~い」

 

 ふむ、仲間になるなら朝比奈先輩くらい落としてみろと言うことか? 

 俺の実力を計るつもりだな、望むところだ。

 俺は朝比奈先輩にこれからの関係を祝し、手を伸ばして握手を迫る。

 朝比奈先輩は戸惑いながらも握手をした。

 

『ピロン』

 

 あ、忘れてた……

 

 

『朝比奈先輩を名字で呼ぶ』

『朝比奈先輩を名前で呼ぶ』

 

 

「よろしく、なずな」

「おい」

「すみませんでした」

 

 

 

『朝比奈先輩を名前で呼ぶルートに進みます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラアアアアアア!!」

 

 部屋に戻った俺は筋トレをした。

 有り余るパワーを発散する方法は他になかった。

 朝比奈先輩とヤれる、そう信じた。

 だが俺のコンドームは使用されることもなく穴があいた。この怒りを何処にぶつけるか。

 その答えが筋トレだった。

 俺の右手は未だかつてない速さで動かされる。

 そのあまりの速さに俺の肩、二の腕、握力、その全てが悲鳴をあげる。

 

 

『だがここで止める者などいない』

 

 

 寸止め? いや、ダメだ。

 時は一刻を争う。

 

 それに……。実はもう限界なんだ。

 すまんな、右手の感覚がない……

 

 最も苦しいとき、自分の限界を超えたとき、今まで100回しか上がらなかった腕が101回目を迎えたその瞬間。

 筋肉は過去の自分を凌駕し大きくなるのだ。

 そして俺もその時を迎えた。ついに限界を超えたのだ。今日一日中悶々とした中で溜め続けた俺の生命力が一気に解放される……

 

 訪れる快感、そして虚無。

 役目を終えた右手が誇らしげに力を失っていく。

 俺は満身創痍の中、カレンダーへと目を向けた。

 

 

 

 

 

『明日は左手の筋トレの日だ』

 

 

 

 

 

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