「ふむ、さすがに誰もいないか」
いつもより一時間早い登校。教室は全て空席。俺は全ての窓を全開に開き解放感を味わう。
「……ふぅ、教室に監視カメラがなければ走り回りたいくらいの気分だ」
なぜ早く登校したか、誰しも一度くらい経験があるはずだ。最初は少しドキドキした。それは小学生の頃、きっと初めてだったからだろう。
朝も少し早めに学校へ向かい、少しだけ自分が偉くなったようにすら感じた。だがそれは勘違いだった。面倒だと思うまでに時間はかからなかった。その日が嫌いにさえなった。
だが今日は違う、楽しみで仕方ない。なぜ意識が変わったのか、それは思考の変化。ただ号令をかけ、黒板を消し、先生の雑用をしてたあの頃。だが今は違う。隣の女と接点を持ち、協同作業を行い、苦楽を共にする。もはや結婚。
俺は黒板の右下に二人の名前を刻む。今日という日を祝しながら……
『エロ芸夢・佐倉愛里』
教室で待つこと30分、ようやく一人目のクラスメイトが姿を表した。
「やあ、早いね。エロくん」
「ああ、少し早めに目が覚めてな」
一人目は平田、もはや予想通り過ぎて驚きもない。優等生を絵に描いたようなヤツだからな。
「エロくん、平田くん、おはよぉ!」
「おはよう、櫛田」
「おはよう、櫛田さん」
そして櫛田。久々だ、最近は話す機会もなかったしな。それから続々と席が埋まっていく。
気がつけばいつも通りぽっかり空いた空間が誕生する。俺は今か今かと佐倉の登校を待つ……
『きたか』
冴えない顔、メガネ。そして冴える太もも、おっぱい。アンバランスな見た目と体、まるでパズルのピースを無理矢理繋げたかのようだ。
それを俺がハメ直す、正しい位置へ矯正する。
そこから始まるエロストーリー。
まずは日直であることを意識させる。
「佐倉、おはよう。俺たち日直みたいだな、今日はよろしく頼む」
「あ、はい。よろしくお願いします……」
どこか憂鬱そうな佐倉。
まあ、無理もない。日直は佐倉のような極度の人見知りには辛い日だろう。ここは優しさアピールと行こう。
「佐倉、もしかして号令をかけるのが嫌か?」
「は、はい。人前で声を出すのは苦手で……」
「なら俺が号令を担当しよう」
「えっ、そ、それはダメだよ。エロくんに悪いし……」
「気にすることはない。誰しも得手、不得手があるものだ。いつか佐倉の得意な事で返してくれればいい」
「あ、ありがとう。じゃあお願いします」
「ああ、まかせろ」
『起立、気を付け、礼、着席』
1時間目、教室に俺の声が響き渡る。勇ましい声、貫禄のある声。初めて俺の声を聞くヤツもいるだろう。だからこそ手は抜かない、今は俺が教室の支配者。いつもの騒がしい教室が急に真面目な雰囲気に変わる。その光景に教師までもが一瞬の動揺を見せた。
「で、では授業を始める。今日は12ページから……」
俺は役目を終え眠りにつく。そして教室にいつもの騒がしさが戻るのだ。
一時間目が終わると同時に俺は黒板へ歩きだした。授業で使用したこいつを綺麗にするのも日直の仕事。後から佐倉もついてくる。
俺が左、佐倉が右から黒板消しを片手にチョークの文字を消していく。身長153センチ程の佐倉が必死に足の爪先を立て、手を伸ばしながら黒板上段に書かれた文字を消そうとする。
際立つ太もも、強調されるおっぱい。
『素晴らしい』
気付けばお互い黒板半分近くまで作業を進め、譲り合いの精神が働く。俺はそれを無視して佐倉の領域へと踏み込む。
「あとは俺がやるからいいぞ」
「あ、ありがとう。お願いします」
佐倉を甘やかす。まずは俺に対する警戒心を解かねば話にならん。少しずつ、少しずつ、俺に頼るように誘導していけばいい。そしていつか、俺無しでは生きていけない体にしてやる───
同じ作業を何度も繰り返せば、お互いの行動も理解するようになり効率化されてくる。5時間目が終わった頃、既に自分の役割を把握した俺と佐倉は、ロボットのように正確無比な作業を行えるようになっていた。それでもミスはつきもの、俺たちはロボットではない。
「……あっ」
「どうした?」
「う、うぅん。なんでもない……」
なんでもなくはない。黒板消しのチョークの粉が佐倉の腰辺りの制服を汚していた。俺はすかさずポケットからハンカチを差し出す。
「制服が汚れてるな、これを使え」
「わ、悪いよ。大丈夫だから……」
「いいから使え」
「……ありがとう、洗って返します」
首尾は上々。これだけやれば好感度の上昇は間違いない。この程度の先が読めるイベントであれば選択肢すら必要ないな。
『ブゥゥゥ、ブゥゥゥ』
メール? 誰からだ。
『ちょっと話がある。今日部屋行っていい?』
なずな先輩からのメール。断る理由がない、だが俺は成長した。どうせまた南雲の同伴なんだろ?
『南雲先輩も一緒ですか?』
『私1人だけど』
『ありがとうございます』
ついに二人きり。
今度こそなずな先輩とヤれる。俺は学校が終わると急いで部屋へ戻り、沖谷の時と同様に出迎えの準備をした───
「やっほ~きたよ~」
「いらっしゃいませ、なずな先輩」
相変わらずラフな格好のなずな先輩。男の部屋に上がるというのに一切の戸惑いなくカーペットに座り込む。
「飲み物は何になさいますか? オススメはキャラメルマキアート、またはベリー&ベリーホワイトモカとレアチーズケーキのセット……」
「君の部屋いつから喫茶店になったの? 普通にお茶とか紅茶でいいんだけど……」
「どうぞ」
準備は万端。既にシャワーも済ませ、部屋には静かなBGM。なずな先輩の準備次第でいつでも始める事ができる。準備が整ったのかなずな先輩が口を開く。
「エロ君さ、3年Aクラスの橘先輩って知ってる?」
橘先輩? おそらくこの前、生徒会室で会った人だな。
「生徒会役員でお団子ヘアーの橘先輩なら先日知り合いました」
「そう、その人。雅が生徒会副会長なのは知ってたっけ? なんか橘先輩がエロ君のこと怖がってたみたいで、何したのか聞いてこいってさ」
南雲は生徒会副会長だったのか……
さすが主人公だけあって有能だな。つまり順当に行けば来年は会長。既に南雲の天下取りへの道は始まってるのか。しかし橘先輩が怖がってるというのはなぜだ? 印刷物のことは謝ったはずなんだが……
「それほどの事はしてません。少し事故で印刷物を吹き飛ばしただけです。それもちゃんと謝りましたし」
「そっか~なら勘違いなのかな。生徒会長とは会ったの?」
「はい、生徒会長とは友好関係を結べました」
「へぇ~それはすごいかも。堀北会長って雅にとって、卒業までに越えたい壁みたいな人らしくていつも張り合ってるから」
なるほど。南雲にとって堀北会長はライバル的な立ち位置なのか。これはいい情報が聞けた。
「そうでしたか。では本題に入りましょう」
「んっ? 本題って何?」
「今日この部屋に来た理由です」
「さっき終わったけど?」
終わっただと? まだ始まってすらないだろ。
こうなれば選択肢に頼る他ない……
「なずな先輩、ちょっと手相を見せてもらえませんか?」
「いいけど、占いとかできるの?」
「はい、実はかなり得意なので見せてください」
「まぁ、それなら。はい……」
『ピコン』
頭の中に選択肢が表示される。
もはやこいつに頼るしかない。
これがダメなら俺の野望は潰える……
『占いをしない』
『占いをする(なずな先輩の手相は生命線が長く100才近くまで生きます。恋愛は中学時代に付き合った経験が1人。Hの経験は0人。将来20代前半で結婚し子供は2人です)』
もはや有能を通り越して未来予知してきた。こいつすごいな……
だが今回は助かった、とりあえずこれを伝えよう。
「手相を見る限り、なずな先輩の手相は生命線が長く100才近くまで生きます。恋愛は中学時代に付き合った経験が1人。Hの経験は0人。将来20代前半で結婚し子供は2人できます」
「コワッ……」
「どうでしたか?」
「君がヤバイやつだと再認識した」
『よかったらヤらせてくれませ「無理」』
「惜しかった……」
「惜しくないよ、全然無理だから。そもそもベットの四隅にティッシュ箱ある時点で無理だよ」
「足りないですか?」
「足りすぎなんだよ」
足りすぎなのか……
初めて言われた。
減らせばヤらせてくれるのか?
「減らしても無理だよ?」
「まだ何も言ってません」
「顔に書いてた。あと、占い結果は誰にも話さないで……」
つまり弱味を一つ握ったということか。これ以上粘ってもヤらせてくれなそうだし、今日はこれで良しとするか……
「わかりました。二人だけの秘密にしておきましょう」
『占いをするルートへ進みました』
その日、クラスの空気が違った。
それは朝の時点で形として現れていた。いつもぽっかりと、穴が空いたように俺だけがいる空間。その日だけは男子が既に登校していた。
入学して一週間。待ちに待ったプール授業の日である。
「いやあ、プールの日だと思うと目が冴えちゃってなあ」
「池、気持ちはわかるが落ち着け。まずは目的をはっきりさせておこう」
「そうだよな、今日の目的は女の子のおっぱいランキングを作成することだ。そして強力な助っ人がいるんだ。おーい、博士!」
「フフッ、呼んだ?」
「こいつは外村だ。通称、博士。見学席から女の子のおっぱいの大きさを測ってくれるんだ」
「そうか、博士。大変重要な仕事だがよろしく頼む」
「エロ殿、まかせるでござる。拙者が責任を持ってその大役こなしてみせるでござるよ」
「ふむ、池。なかなか見所のあるやつを仲間に加えたな」
「だろう? 博士はオタクだけど、機械とか詳しいし何気にすげえんだよ。あっ、チャットグループにも招待しといたからな」
「ああ、わかった。山内も今日は学校来たんだな。須藤はまだ部活の朝練か」
「そらな。今日来ないでいつ来るんだって話だぜ!」
「そうだな、プールの授業が待ち遠しいぜ……」
そして迎えたプールの時間。俺たちは急いでプールの建物へと移動し更衣室へと入る。しかし俺には一つだけ、このエロゲー世界に来てから気にかけている事がある……
まずは更衣室でそれを確認せねばなるまい───
『包茎』それは皮。
このエロゲー世界において俺が見たちんぽは沖谷の一本のみ。だがヤツは違った、それは当然だろう。あのでかさ、皮など置いてきぼりだ。
だが他のヤツはどうなんだ?
ここはエロゲーの世界、もしかすると全員が完全体かもしれない。
何が言いたいかって?
そう、つまりは……
『この世界に包茎は俺だけ』
天然記念物。新たな希望。誰もが成し遂げられなかった包茎という名の進化。だが、いきなりそんなヤツが現れたら混乱は必死。俺はパンツの中に手を入れて皮を剥く。そして、何食わぬ顔で水着に着替える。
まずは周りを見渡す、どいつもこいつも完全体。やはり包茎はいないのか? それともお前らも背伸びして皮を剥いてるのか?
わからん、何もわからん。
俺はどうしたらいい。
この先、包茎という事実を隠しながらひっそりと暮らしていくのか? それとも包茎であることを自ら告白し時の人となるのか?
しかしその時、俺の大切な思考を妨げる程の重大な事件が起こった……
「おい、沖谷! 何脱ごうとしてんだよ!?」
急に響き渡る池の声にみんなが振り返り、俺は声の方へ駆け寄った。
「沖谷、お前なにしてんだ?」
「え、えっと、上の服を脱ごうとしたら池くんがいきなり怒って……」
「ふむ、なるほど。沖谷の裸は刺激が強すぎるからな」
「じゃぁ僕はどうしたら……」
「おい、池。確か女子はスク水だったよな?」
「あ、ああ。そうだけど、それがどうしたんだ?」
「ならば沖谷もスク水なら問題あるまい」
「も、問題しかないよ!」
「だがそれが嫌となると、沖谷の胸を男に晒すことになるがいいのか?」
「お、男同士だし、僕は全員大丈夫だよ……?」
「そうか、沖谷はこういってるがお前らはどう思う?」
「僕は沖谷くんの意思も尊重すべきだと思うよ」
「そうだな。俺も平田の意見に賛成だ」
「だがよー。平田もエロも沖谷の可愛さはわかるだろ? やっぱりスク水の方がいいんじゃねえか」
「確かに池くんの言うことにも一理あるね。それじゃあ多数決で決めるっていうのはどうかな? 今からここにいる男子で多数決をとってその結果でスク水にするか、しないかを決めよう。沖谷くんもそれで納得してくれないかな?」
「わ、わかったよ。多数決なら、仕方ないし……」
「なら、俺が多数決を取ろう。沖谷がスク水を着た方がいいと思うヤツは挙手!」
そして始まったプール授業。
「なあ、沖谷」
「……なにかな、エロくん」
「お前、スク水似合うな」
『全員一致のスク水だった』