ようこそエロゲーの教室へ   作:Monburan

7 / 13
プールと言えばポロリ

 

 

「しかし見事な作りだ」

 

 

 プールの大きさは50メートル。澄んだ水に新品のように綺麗な環境。本日が完成初日だと言われても疑わないだろう。

 つまりこのエロゲーではプールに相当な力を入れているという事だ。これは今日のイベントにも期待が持てる。見学席には博士がカメラと双眼鏡を持って待機中、抜かりはない。

 誰かのポロリ、あるいは滑って転んだ拍子に胸を揉む。何が起こるかはわからんが、問題はそのチャンスを俺が物に出来るかどうかだ。常に集中し女子の仕草、行動、一挙一動に注視する必要がある……

 

 

「沖谷は男、沖谷は男、沖谷は男」

「おい、うるさいぞ池。俺は今、集中してるんだ。あっちいけ」

「待ってくれエロ。沖谷を見てると変な気分になるんだ、助けてくれ」

「それは正常だ、諦めろ」

「ご、ごめんね。池くん。僕に出来ることならなんでもするから……」

「やめとけ、沖谷。これ以上、池を苦しめるな」

 

 内股で指を合わせながら上目遣いで池を見つめる沖谷。内股で股間を押さえながら色目遣いで沖谷を見る池。

 こいつらに構っていては行動できん、俺は忙しいんだ。まだ女子は着替え中で誰もいない。沖谷たちから距離をとり、何人かの男子に目を向ける。

 それにしても改めてみると……

 

 

『凄い筋肉だ』

 

 

 高円寺、どうやったら高校生でそんな体つきになる。須藤も体育会系だけあってすごいな。平田も引き締まってる。あとは綾小路。グループチャット仲間だし、この前少し話もした。綾小路もなかなかの体だ。

 それに比べて俺はいたって普通。腹筋は割れてないし包茎だ。頭脳とテクニックで戦うしかあるまい。

 俺が男子のポテンシャルを計っているとついにその時は訪れた。

 

「うわ~凄いね、大きいよ!」

 

 櫛田を先頭に女子が次々と姿を現す。

 その言葉、そっくりそのまま返そう。抜群のプロポーションに大きな胸が男子の視線を釘付けにする。歩く度に揺れる胸、ぴっちりと体に食い込むスク水。

 ようやくエロゲーの本領発揮。今だけは女子全員が攻略対象に見える。

 だが、数が少ないな……

 

「なあ、櫛田。女子の数が少なくないか?」

「う、うんっ。実は半分くらいの女子が見学なんだ……」

「なぜだ?」

「なんかね。男子が朝からキモいし、目がぎらついて怖いからだって……」

「ふむ、なるほど」

「あと、おっぱいランキングとか最悪だって……」

「なぜそれを知ってる」

「えっ、普通にクラスで話してたしみんな知ってるよ?」

 

 

『なんてことだ……』

 

 

 情報規制がまるでなってない。こちらの作戦は女子に全て筒抜けだったということか……

 池を見ると股間を押さえながらうずくまっている。山内もあまりの衝撃に瞑想を始める。そんな状況を嘲笑うかのように櫛田の隣にいた女が声をあげた。

 

 

「無様ね」

 

 

 黒のロングに引き締まった体、目つきのきついクール系な女子。ここ数日でクラスメイトの名前は一通り覚えた。行動についても大まかな傾向だけは把握した。誰が攻略対象か定かでない以上、それは必須の事とも言える。

 

「お前は、堀北だな」

「ええ、そうよ」

 

 堀北鈴音。容姿だけを見るならば攻略対象足り得る女だ。だがこの堀北という女はとにかく社交性がない。こいつが誰かと話してる姿をほとんど見たことがない、せいぜい隣の席の綾小路とたまに話すくらいだ。ツンデレ攻略対象の可能性もあるが、席も遠い上デレるまで時間を要する可能性を憂慮し放置していたが……

 

「無様とはずいぶんな言い様だな」

「私は正しいことを口にしたまでよ」

 

 やはりツンツン、先は長そうだ。それだけ口にするとすぐに堀北は歩き去った。とりあえず言葉を交わせただけ良しとするか。

 

「なあ、エロ。佐倉も長谷部もいないぞ……」

「ああ、いないな。どうやら佐倉も見学組のようだ」

「くそお、長谷部のおっぱい見たかったのによお……」

 

 見学席に目を向けるとそこに長谷部はいた。おそらくDクラスで最も胸の大きい女。期待していたが見学ならば打つ手なし。今は他の女をおかずにするしかあるまい。

 だがそれさえも一人のマッチョに邪魔される。

 

 

「よーし、お前ら集合しろ! 見学者は16人か。随分と多いようだが、まぁいいだろう。早速だが準備体操をしたら実力がみたい、泳いでもらうぞ!」

 

 

 ぞろぞろと適当に集まる。どうやら授業が始まるらしい。だが、実力だと? 

 プール授業は女子と戯れるだけのボーナスイベントではないのか? 

 一部の男子が不満の声をあげる。

 

「俺泳げないし、別に無理して泳げるようにならなくてもいいですよ」

「そうはいかん。今どれだけ苦手でも構わんが、克服はさせる。泳げるようになっておけば必ずあとで役に立つ!! 必ずな!!!」

 

 なんだこの意味深な言い方は……

 もはやNPCのイベント告知としか思えん。よくあるパターンならば海イベント。

 エロゲーである以上どこかで必ずと言って良いほど訪れる。最悪、イベント時に一定以上の水泳能力を保有していなければ誰かが溺れて死ぬ。あるいはサメに喰われる。そこで攻略不能の女子が現れてバッドエンドの可能性もある……

 学校の行事か、それとも友人と遊びに行った先で起こるのか現時点ではわからんが、誰が巻き込まれるかわからん以上、少なくとも今は全員が真面目に授業を受けるべきだ。

 

「おいお前ら、先生がこう言ってるんだ。必ず役に立つなら泳げるように特訓すべきだろう。俺も協力するから頑張れ」

「うん、エロくんの言う通りだね。苦手な人は僕も手伝うから一緒に頑張ろう」

 

 さすが平田だ。良いところで合いの手をいれてくる。かくいう俺も水泳が得意ではない。だが、やらなければいけない事もある。今がそれだ。このままではヒロイン攻略どころかゲーム終了の危機だからな。

 

「では、早速だがこれから競争をする! 男女別50M自由型だ。1位になった生徒には、俺から特別ボーナス5000ポイントを支給しよう。一番遅かったやつには逆に補習があるから覚悟しろよ」

 

 早速すぎんだよ、このマッチョが。泳げないヤツいんのにいきなり50M自由型とか無理だろ。殺す気か。これだからNPCは困るんだ。

 

「マッチョ先生すみません。泳げない人もいるのでまずは泳ぎ方や、全集中して呼吸法を教えるべきではないでしょうか?」

「では、早速だがこれから競争をする! 男女別50M自由型だ。1位になった生徒には、俺から特別ボーナス5000ポイントを支給しよう。一番遅かったやつには逆に補習があるから覚悟しろよ」

 

 おい、マッチョ。同じことを繰り返すな。お前やっぱNPCだろ。

 これ以上言っても時間の無駄だと悟った俺たちは、諦めて準備体操をした後にプールに入り、軽く体を動かし競争に備える。

 

「うむ、とりあえずほとんどの者は泳げるようだな。女子は人数が少ないから、5人を二組に分けて、一番タイムの早かった生徒の優勝にする。男子はタイムの早かった上位5人で決勝をやる」

 

 一応、泳げるかどうかの確認はしていたようだな。泳げない者を除いた男子17人と女子10人で競争が行われる。まずは女子からのスタートだ。

 

「櫛田ちゃん、櫛田ちゃん、櫛田ちゃん、櫛田ちゃん。はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「うるさいぞ、池。お前いつから櫛田のファンになったんだ」

「エロ! さっきの胸みただろ!? 櫛田ちゃんは前から優しいし、いいなと思ってたんだよ。これからは櫛田ちゃん一筋でいくぜ!」

「そうか、頑張ってくれ」

 

 だが、櫛田の人気は池だけに留まらないようだ。男子の殆どの視線が櫛田へ集まる。顔だけで言うならば堀北も負けてない。だが、人付き合いを嫌う点が災いし人気は低めだ。

 男子の視線を胸と尻に浴びて、女子の競争が始まる。第一レースの5人には堀北がいる。まずはお手並み拝見といこう。

 堀北はスタートから危なげない泳ぎ、申し分ない運動能力を披露する。

 

『おおおおおお』

 

 男子からも驚きの歓声があがる。それもそうだ、おそらく俺よりも速い。タイムは28秒ほど。これといったサービスショットもなく淡々とレースを終える。

 そして第二レース。櫛田の出番。

 男子からの黄色い声援。それに手を振り返し答える櫛田。股間を抑える男子。

 櫛田が手を振るだけでほとんどの男が戦闘不能。恐るべき能力だ。しかし第二レースは呆気ない展開に終わる。

 水泳部の小野寺の圧勝。タイムは26秒。櫛田は31秒の好タイムを出すも及ばず、女子の優勝は小野寺に決まる。

 そしてすぐに男子の競争が始まる。第一レースに配属された俺は須藤や綾小路と同じレースだ。

 

「綾小路、自信の程はどうなんだ?」

「まぁ、ビリにはならないな」

「そうか、今はそれで十分だろうな」

「あぁ、オレは競い合うのが嫌いなんだ。事なかれ主義だからな」

 

『それでは男子のレースを開始する!』

 

 ゆっくりと話をする暇もなくレースが始まる。俺と綾小路は同じくらいのスピードで競争を終えて3位と4位。速くもないし、遅くもない。言わば普通のタイム。そして1位は須藤。25秒を切る凄まじいタイムだ。

 

「須藤はさすがに運動部だけあって速いな」

「おお、エロ。体を動かすことなら任せろ。このくらい朝飯前だぜ!」

「あ~やだやだ、運動神経抜群なヤツって」

 

 池が妬むように冗談を吐きながら須藤を肘でつつく。そんな俺らをよそに女子の歓声が響いた。

 

『きゃ──!!!』

 

 ……平田か。第二レースの平田がスタート位置に立つ。細マッチョの爽やかイケメン。女子に人気なのは理解できる。

 だが、理解できる事と受け入れることはまた別。俺たち3人はまるで親の敵を見るかの如く平田へときつい視線を向ける。

 そんな視線に気づく事なく華麗な泳ぎで1位をもぎ取る平田。タイムは26秒13、須藤の方が速い。これなら須藤が決勝で見返してくれるだろう。

 泳ぎ終わってプールサイドに戻る平田へ女子から惜しみない拍手が送られる。だが、その拍手に勘違いしたAV男優が声をあげた。

 

「拍手をありがとう、レディ達。私を見ていたまえ。真の実力者が泳げば、どうなるのかを」

 

 何を勘違いしたらそうなる……

 自分への拍手だと勘違いした高円寺がスタート台へ足をかける。

 

「なあ、エロ。なんで高円寺のヤツだけブーメランパンツなんだ?」

「知らん」

 

 第一レーンにブーメランパンツの高円寺が立つ。強調される股間に女子が目を背ける。

 

「エロくん、僕も行ってくるね」

「ああ、沖谷。がんばれ」

 

 第二レーンにスク水の沖谷が立つ。強調される股間に女子が目を背ける。

 異次元の戦い。いつポロリが起きてもおかしくない。沖谷など泳いだ衝撃で横からちんぽがはみ出るかもしれん。

 

「沖谷ボーイ。なかなかいい物を持っているではないか」

「こ、高円寺くん。ありがとう、ぼ、僕は男だからね」

「私は勝負などに興味はないが負けるのは好きじゃないんでねぇ」

 

 二人の戦いを見守る女子、早く終わってほしい男子。そんなポロリは求めてない。俺らの思いが通じたのかすぐにレースが始まる。

 だがその瞬間空気が静まり返る。

 

『23秒22だと……』

 

 マッチョが呟く。誰もが唖然とした。高円寺はまるでお手本のような無駄のないフォームに、その持ち前の筋肉を最大限に生かした圧巻のクロールでゴールした。

 ……こいつは、予想以上だな。

 高円寺はこのエロゲーで重要なキャラ。おそらく主人公にとって敵役に近いポジションだと考えている。しかし、このポテンシャル。

 南雲はこいつに勝てるのか? 

 根こそぎ女を奪い取られる未来しか見えん。だがここはエロゲー。必ず攻略するための道筋が用意されているはずだ……

 それとも高円寺と手を組んで南雲を倒し、俺たちが早々に主人公たるポジションでゲームを進めるという選択肢もあるのだろうか……

 結局、決勝でも高円寺に誰も勝つことが出来ず、男子のプール優勝は高円寺に決まった───

 

 

 

 

 

 競争が終われば自由時間。泳いで良し。眺めて良し。シコって良し。全ては自由。俺はこの時間を有効に使うべく、全体の行動を確認する。

 平田に群がる女子、櫛田に群がる男子。プールサイドで綾小路と話す堀北。見学席には割れたメガネと粉々のカメラ。隣にはスク水の男。

 そしてプールサイドのビーチチェアで横になる高円寺……

 

 

『よし、決めた』

 

 

 接触せねばなにもわからん。本来であればせっかくのプール時間だ、女を攻略したい。だがそれ以上に、目の前の脅威を放ってはおけん。

 

「沖谷、いくぞ」

「う、うん。何処にいくの?」

「高円寺のところだ」

「高円寺くん? 仲良いの?」

「いや、初めて話す。だからこそ行くんだ」

「そ、そーなんだ。よくわからないけど、わかったよ」

「そういえばさっき高円寺と話してたよな? 何を話してたんだ?」

「なんか、勝負に興味はないけど負けたくはないって言ってたよ?」

「なるほど、負けず嫌いか」

 

 高円寺は腕を頭に組み、ビーチチェアで仰向けに寝ていた。起きてるのか寝てるのかわからん顔だ。

 

「よお、高円寺。寝てるのか?」

「起きているさ。私に何か用かね?」

「女の話をしに来た」

「それは実に興味深い話だ。だが私は男にしろ女にしろ、年上にしか興味がないのでねぇ」

「つまり1年には手を出さないと?」

「それは私の気分次第だが、興味はないねぇ」

「なるほど、よくわかった。時間を取らせて悪かったな」

「フッ、気にすることはないさ。今日は気分がいいからね」

「そうか。またな、高円寺」

「アデュー。エロボーイ」

 

 

 年上にしか興味がないか……

 完全な主人公キラーじゃねえか。南雲は大変だな。だが、一年の女子に対して高円寺が動かないことがわかった。これはでかい、同級生ハーレムはすぐ目の前だぜ。

 

 

「フハハハハハハハ」

「ね、ねぇ、エロくん。外村くんが見学席に見当たらないんだけど大丈夫かな?」

「沖谷、作戦に犠牲はつきものだ。博士のことは忘れろ。それが男と言うものだ」

「そ、そっか。それが男……」

 

 

そしてその夜。俺は一年女子の攻略に向け動き始めた。こういう時は友達を介して知り合うのが一番。その為のグループチャットだしな。

 

『綾小路ちょっといいか?』

綾小路『なんだ?』

『綾小路って堀北と仲良いよな?』

綾小路『いや、普通だぞ。席が近いからたまに話すくらいだ』

『それを仲が良いと言うんだ。綾小路には俺と堀北の仲を取り持つ仲介人になってもらいたい』

池『おい、エロ。どういうことだよ、抜け駆けは許さないぞ!』

『池、お前には櫛田がいるだろ。浮気したら嫌われるぞ』

池『そ、それもそうだな』

山内『おい、エロ。俺は許さないぞ!』

『山内、お前は好きな女とかいないのか?』

山内『ん?俺か?最近じゃ佐倉が俺のこと好きだと思うんだよな。よく目が合うしよ』

『そうか、今度それとなく山内はいいヤツだと伝えておこう』

山内『おお!頼むぜエロ!!』

『そういう訳だ、綾小路』

綾小路『俺にメリットがないんだが……』

『綾小路、俺たちは友達だ。メリットなど二の次。困っていたら助けるのが友達と言うものだ』

綾小路『そういうものか……』

『そういうものだ』

綾小路『わかった。詳細が決まったら教えてくれ』

『助かる、やはり持つべきものは友達だな』

外村『誰か拙者の身を案じて欲しいでござる……』

 

 

 

俺は携帯を閉じて明日からの作戦を考える。待ってろ、堀北。俺がお前を攻略して正しきツンデレキャラに戻してやろう。

 

 

 

 

 

 『それから一週間が経過した』

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。