『友達いるのか?』
そんなことを聞かれたことがある。
答えは覚えていない。いや、覚えていないのではない。答えなかった、それが答えだ。
だから代わりにこう聞き返した。
『友達は必要なのか?』
答えは返ってこなかった。聞くことではないからだろう。俺が必要だと思えば必要、不要と思えば不要なのだ。友達とは何か、何処からが友達なのか、何の為の友達なのか。答えは人それぞれなのかもしれない。
だが、今同じことを聞かれたら答えるだろう。
『いるさ』
それは必要という意味。一人では手が足りん。右を向きながら左は向けない。俺ひとりでは攻略が難しい女も存在するだろう。所詮俺は主人公ではない。だが諦めない、その為の友達だ────
プール授業から一週間が経過した。戦況は膠着状態。堀北とも上手くいかん。綾小路に頼んで堀北と話して見るものの、会話は続かんし触れることもできん。それにプール以降、なぜか佐倉ともあまり会話できてない。右を向いても左を向いてもダメ。だが諦めかけていたその時、ついに光が差した……
それが本日という訳だ。
「エロくん、ちょっといいかなっ?」
「なんだ、櫛田」
「エロくんって最近、堀北さんとよく話してるよね? 私ね、堀北さんと友達になりたいんだっ」
「ふむ、それで?」
「……協力、してもらえないかな?」
それもアリだな……
この一週間、櫛田も俺と同様で堀北に何度も話しかけていた。だがそのことごとくを蹴散らされ、お世辞にも友好が進んでいるとは言えん。
なぜわざわざ堀北と友達になりたいのか、その答えは櫛田の社交性にあるんだろう。入学してからこの僅かな日数で、こいつは男女含めほとんどの生徒と仲良くなった。おそらくコンプリート願望だ。そして最後の砦が堀北。
ならばこの執着心も頷ける。
「作戦はあるのか?」
「うんっ、考えてはいるよ!」
「なるほど。協力しよう」
「ありがとう! じゃぁ放課後、堀北さんをパレットに誘ってほしいんだけどいいかな? そこでエロくんと堀北さんが注文してたら偶然私もパレットに来てたっていう展開で!」
パレットか。学校内でも人気のカフェだったな。そもそも誘えるくらいなら俺もこんなに悩んでないのだが……
しかし請け負った以上今さらキャンセルもできん。櫛田の好感度にも関わるしな、ここは綾小路に相談しよう。
「わかった、ただ俺だけでは荷が重い。もう一人助っ人を用意してもいいか?」
「ちなみに助っ人って誰かな?」
「綾小路だ」
「綾小路くんか、堀北さんともよく話してるし大歓迎だよ」
「そうか。正直、綾小路の方が堀北とは仲が良いからな」
「うんっ、よろしくね」
この一週間、女子とは全く友好を深められなかった俺だが男子は別だ。
その中でも綾小路、あいつとは話す機会も増えた。外野から見れば俺と綾小路は間違いなく友達として認識されているだろう。
「そういう訳だ、綾小路」
「どういう訳だよ……」
「今日の放課後、堀北と3人でパレットに向かう。誘うのはまかせた、俺は援護する」
「なんでオレが……。これで最後だからな?」
「ああ、今回でダメなら堀北は当分諦める。昼飯奢るから頑張ってくれ」
小さく頷く綾小路。
こいつ何だかんだ言って手伝ってくれんだよな、いいヤツだ。最近は綾小路がツンデレ攻略対象にすら見えてくる。綾小路が女なら良かったのに…… そんなことすら考える。いや、待てよ? 実は女じゃないよな?
俺が現実逃避してると平田が近寄ってきた、今日は来訪者が多い日らしい。
「エロくん、ちょっといいかな?」
「ああ、どうした?」
「堀北さんのことなんだけど、どうにかならないかな?」
「どうにかとは、性格の話か?」
「うん。もう少し他のみんなとも仲良くするように伝えてほしいんだ」
「なぜ平田がそんなことを気にするんだ。もしかして好きなのか?」
「うぅん、違うんだ。ちょっと女子から意見が出ててね。それに、僕にはもう……」
こいつにも色々なしがらみがあるようだな、苦労の耐えないヤツだ。たぶん早死にするに違いない。今度、得意の手相占いをしてやろう。
だが平田の好感度は上げておいたほうがいい。今やクラスの中心人物で女子からもモテモテ。こいつと仲良くしてるだけで俺にもモテ期が到来するはずだ。
「わかった、兄弟。俺にまかせろ」
「ありがとう、エロくん。兄弟じゃないけどね」
「そんなことはない、俺たちはすぐ兄弟になるさ」
『そう、穴兄弟にな!!』
そして放課後。櫛田に平田と、今日はやけに堀北関連の話が続いた。根拠はないがイケそうな気がする。俺は堀北の席に向かう、それを見た綾小路が仕掛ける。
「なあ、堀北。今日、放課後暇か?」
「時間を持て余している暇はないわね。寮に戻って明日の準備もあるし」
明日の準備って、帰ってオナって寝るだけだろ。負けるな綾小路、もうひと押しだ。
「少し付き合ってほしいんだが」
「……何が狙い?」
「オレが誘うと狙いがあるように思えるのか?」
「突然誘われれば、疑問に感じるのは普通の流れじゃないかしら。具体的な用件があるようなら、話くらい聞いても構わないけど?」
やはり一筋縄ではいかんな。そろそろ俺の援護の時間だ。偶然を装いながら堀北の席へと近づく。
「よお、堀北。今日も可愛いな」
「はぁ……。エロくん、またあなたの差し金ね」
「聞いてくれ、堀北。学校にカフェがあるだろ? あそこにどうしても行きたいんだよ。けど、男子禁制な感じがして俺と綾小路だけじゃ入りにくいんだ」
「それで私に白羽の矢がたったわけね……」
「頼む、少しだけでいいんだ。もちろん奢るしな!」
「確かに女子の比率が多かった記憶はあるけれど、男子も利用してるはずよ?」
堀北の抵抗が激しいな、こいつは何でもかんでも論破しようとするから厄介だ。ここは綾小路に任せよう……。俺は綾小路に視線を送る。
「なあ、堀北。でも一人で行ってるやつは少ないんじゃないか? オレも遠目にしか見たことはないが殆んど女友達か彼女連れだったはずだぞ」
「……確かに、そうかもしれないわね。綾小路くんの意見にも一理あるわ」
さすが綾小路。なんかわからんがこいつの言葉には時々恐ろしい程の説得力があんだよな。頼りになるヤツだ、後は俺に任せろ。
「なっ、頼むよ。堀北!」
「……わかったわ。確かに男子だけで利用しにくいと言う話は本当のようだし。ただ、あまり長い時間は無理よ。それでいい?」
「ああ、すぐ終わるからな」
ミッションクリア。後は櫛田に任せれば自ずといい方向に進むはずだ。堀北と櫛田の両方と仲良くなれる、まさに一石二鳥。
『フハハハハハハハ』
おい待て、綾小路。しれっと帰ろうとするな。
お前は油断するとすぐいなくなるからな。今日こそは逃がさんぞ。こっちは毎回、昼飯奢ってるんだ。もう少し働いていけ。
『ピロン』
くそっ、しまった。綾小路を引き留めるのに手を出しちまった。だがここでどんな選択肢がある? 綾小路関連の選択肢が出るのか? せめて無駄にならない選択肢をくれ……
「カフェに行く」
「カフェに行かない」
行くって言ってんだろ! 聞かれる前から決まってんだよ。ちくしょう、完全な無駄打ちだ……
『カフェに行くルートへ進みます』
早速3人で移動し校舎1Fにあるカフェ、パレットに到着した。だが、相変わらず混んでるな。堀北を誘う口実ではあったが、確かに男だけでは近寄り難い雰囲気だ。
「凄い人数ね……」
「ああ、予想以上だ。席が空いてるといいんだが」
「あそこ、空いてるぞ?」
「どこだ?」
「あそこだ」
「あそこだと?」
「あ~あそこだ」
「あそこ、あそこ、うるさいのだけど」
綾小路が奥の席を指差す。お前どんだけ目がいいんだ、本当に地球人か? 綾小路に誘導され席をとり注文に向かう。無事ドリンクを受け取り席へ戻ると隣の席には櫛田が座っていた。
「あ、堀北さん偶然だね! それに、エロくんと綾小路くんまで」
「おう、櫛田。偶然だな」
「……よう」
「堀北さんたちもカフェとか来るんだね! 良かったら一緒に……」
「私帰るわ」
「お、おい。まだ来たばかりだぞ?」
「櫛田さんがいるなら私は必要ないはずよ?」
「なぜそうなる」
「わからないの?」
「……妬いてる?」
「は?」
「ごめんなさい」
「それに……。気に入らないわね。何がしたいの?」
それは俺に対してではない。櫛田を睨みながら堀北は発する。
「や、やだな。偶然だよ?」
「そうかしら? 今あなたの座っている席、さっきまでDクラスの生徒が座っていたわ。私たちは放課後になって寄り道をせずに真っ直ぐここまで来たのよ? 彼女たちがどんなに急いだとしても、せいぜい到着して1分か2分。まだ帰るには早すぎる。違う?」
始まった。この状態になった堀北を倒せるのは綾小路くらいなもんだ。当の本人は気に入ったのかカフェを満喫してやがるし、万策尽きたな……
「え、えーっと……」
「悪い、堀北。ちょっと根回しした」
「でしょうね。最初から少しおかしいとは思っていたし」
「堀北さん、私と友達になってください!」
なんだと? 櫛田のヤツこの空気の中で正面突破だと。肝が座ってやがるな、大したヤツだ。
「何度も言ってると思うけど、私のことは放っておいてほしいの。クラスにも迷惑をかけるつもりはないわ。今までちゃんと伝えなかった私にも落ち度がある。だから今回の件は責めない。だけど次に同じことをしたら、その時は容赦しないから覚えておいて」
堀北が足早に去っていく。櫛田はその後ろ姿が見えなくなると、笑顔で俺に顔を向けてきた。
「ごめんねっ、エロくん。それに綾小路くんも。私のせいで堀北さんに嫌われるような真似、手伝わせちゃった……」
「いや、オレは別に……」
「気にするな、櫛田。俺も綾小路も気にしてない。むしろ悪かったな、何のフォローも出来んかった」
「うぅん、そんなことないよっ。ここまでしてもらっただけでも十分。また今度、チャレンジしてみるよっ!」
こいつのコンプリート精神は凄まじいな。俺もこんなとこで躓いている場合ではない、せめて最低限の結果は残さねばな。
「そうか、ならば俺らは同じ目的を共にする仲間だ。これからは桔梗と呼ばせてくれ」
「うんっ、わかったよ。エロくん、これからもよろしくねっ!」
俺と桔梗は固い握手で結ばれる。綾小路が少し羨ましそうにこっちを見ている。
『ピロン』
くそっ、しまった。またやっちまった……
だが、こいつは二回に一回くらい有能な選択肢をくれる。ここで桔梗関連の有能選択肢が出る可能性は高い。
『櫛田を名前で呼ぶ』
『櫛田を名前で呼ばない』
もう嫌だ……
『櫛田を名前で呼ぶルートへ進みます』
寒くなってきてお布団が恋しい季節です。みなさんも暖かく過ごしてくださいね!