『私は寄生虫』
一人では生きていくことの出来ない弱い生き物。服を脱ぎ、脇腹の古傷を見るたびにおぞましい過去が蘇る。いじめられていた過去、いじめなんて言葉だけでは物足りない程に……
どうして私なの? 私じゃなきゃダメだったの? どうして、どうして、どうして……
意味のない言葉、過去は変えられない。そしてこの先も変わらなくていい。私は、この苦痛になれてしまった……
もう青春なんていらない、友達だっていらない。大切なのは、自分自身を守ること。その為に出来ることなら何でもする。私は寄生虫。一人では生きていくことの出来ない、弱い生き物だから……
『俺は寄生虫』
一人では女も落とすことの出来ない弱い生き物。服を脱ぎ、ちんぽを見るたびおぞましい過去が蘇る。未使用だった過去、使わなかったなんて言葉だけでは物足りない程に……
どうしてダメなんだ? 俺だからダメなのか? 入れたい、出したい、卒業したい……
誰もヤらせてくれない。一人きりのオナニー。きっとこの先もオナニー。俺は、この快感になれてしまった……
だからこそ感じたい、体験してみたい。大切なのは、自分自身で満足しないこと。その為に出来ることなら何でもする。俺は寄生虫。一人では女も落とすことの出来ない、弱い生き物だから……
あれから一週間が経った。堀北のことは一度諦めて、俺は新たなる目的を遂行するため忙しい日々をを過ごしている。そしてそれは、昼休みとて例外ではない。
「さあ、並べ! おいそこ、列を乱すな。一列に並ぶんだ!」
「エ、エロくん。今日もやるのかい? そろそろみんな飽きてきたんじゃないかな」
「平田、女子を甘く見るな。お前の人気は未だ継続中。これしきで挫けてるようでは先が持たんぞ」
平田を教壇に立たせ、女子を一列に並ばせる。そわそわする女子、疲れ果てた平田。全ては計画通り。これで俺のハーレム生活は成ったと言っても過言ではない。
そう、あれは遡ること3日前。攻略がおぼつかない現状に焦りを覚えた俺は、次なる行動に向け舵を切りだしたのだ───
「女が足りん」
いや、もちろん女はたくさんいる。だが俺の周りにはいない、あまりに不公平。それに対して平田。この前のプール授業以来、今までに増して人気が出てやがる。平田と仲良くして女子との距離を埋める作戦も、成功してはいるんだろうがなにぶん効力が弱い。平田との距離を更に詰めねばならん……
理想としては俺を介さなくては平田と話せないほどの距離感。言わばマネージャー。女子どもに俺と言う存在価値を大きく意識付ける必要がある。何が有効的か、平田の側近として活動しそれを女子に認識させるイベント……
『そう、握手会だ』
よくアイドルが握手会を催す。平田もうちのクラスにとってアイドル、そして女子はファン。需要と供給のバランスは問題ない。後は握手したついでに1つくらい好きな質問をさせてやろう、それで女子は満足するはずだ。会話と握手できるチャンスがただで訪れるんだからな……
問題は平田をどうやって持ち上げるか。だがこれには自信がある。平田がただのモブでないと勘づいてからというもの、ずっとあいつを見てきた。そして気付いた。あいつの弱みは周りの人間。自分自身を差し置いて、いつも周りを優先しやがる。損するタイプ、それは長所であり短所。
早速俺は、席を立ち行動に移る。
『Dクラスを人質にとればいい』
「なあ、平田。話がある」
「なんだい、エロくん」
「大切な話でな、ここでは話せない。場所を変えてもいいか?」
俺の真剣な表情に平田も何かを察したのか、緊張の雰囲気を漂わせる。だが平田が断ることなどありえん。こいつはそういう男。確認の為に聞いただけで、答えは聞く前から決まってる。
「わかったよ、ついていくね」
「ああ、校舎裏にいく。ついてこい」
少し威圧的な俺の言葉に臆することなく平田はついてくる。無言のまま校舎裏に辿り着き、先に口を開いたのは俺だった。
「なぜ呼び出されたかわかるか?」
「うぅん、わかんないよ。大切な話なんだよね?」
「ああ、そうだ。そして今確信した。お前は何もわかってない」
「……それは、どういう意味なのかな?」
「平田、お前は優しい男だ。常に周りに目を配り、自分の事よりも周囲の調和を第一とするその姿勢。尊敬にすら値する」
「エロくん、君はなにを……」
「だが、だからこそ気づかなかった。いや、今も気づいていない。お前の周りを取り巻く重大な問題に」
「重大な、問題……」
「そうだ。お前は……モテ過ぎなんだ」
「えっ?」
「モテ過ぎなんだ」
「えっと、聞こえてはいるよ。そんな事はないと思うけど……。仮にそうだと仮定して、どうしてそれが重大な問題なのかな」
「1から説明しよう。まず、お前を取り巻く女子だ。今や数多くの女子がお前を狙ってる。言わば戦争だ。当然外面は争いなどせずに仲良しごっこを続けているだろうが、内心は違う。お前という男を手に入れる為に様々な策略や、時には陰湿な行為が行われる。そして少しずつ、少しずつ、人間関係に亀裂が入る。当然お前は気がつかないだろう。平田に気づかれてしまえば、付き合うどころか嫌われるだろうからな。第三者であり、お前とも仲が良い俺だからこそ気づけることもある」
平田は驚き、口に手を当て目を閉じながら考える。俺の言葉について考えているんだろう。だが、答えなど出ないはずだ。お前は知らないことだからな、そしてそんな事実もない。ただ、その可能性だけは捨てきれるものではない……
「確かに、その可能性はあるね。エロくんの言う通り、長期的な事を考えると好ましくない結果だ……」
「ようやくわかってきたようだな。次に男子だ。クラスの中でお前だけがモテる状態が続けばどう思う? もちろん、外面は争いなどせずに仲良しごっこを続けるだろう。言っても仕方のないこと、自分が惨めになるだけだ。せいぜい陰で平田の悪口を言う程度だ。だが、内心にたまり続ける怒りと嫌悪は徐々に増していく。この先、お前という男がクラスに存在することで男子間にはぎくしゃくした重たい空気が流れることになる。そんな事を誰が望む?」
平田は再び強く目を閉じながら考える。さすがに言い過ぎだろうとは思いながらも、その可能性を自分の存在のせいで引き起こす現実を、こいつは許容できない。
「……僕は、どうすればいいんだ」
「ようやくわかったようだな。この状況が続けば最悪Dクラスは……」
「崩壊……」
平田が青ざめた顔をしながら答えを導き出した。そんなことで崩壊してはたまったもんじゃない。だがこいつは自分で言葉に出した。言霊とは時に、自分の深層意識に強い影響力を及ぼすものだ。こいつはもう、崩壊の可能性を否定できない。
「だが、安心しろ。すぐにそうなる訳でもない、今からなら間に合う。そして、その為に俺がいる」
「……エロくん、僕はどうしたらいいんだい?」
「ああ、お前が今やるべき事は……」
「やるべき、事は……」
「握手会だ」
そして今に至る訳だ。あれから3日経ったがそれらしい問題点もなく順調に進んでいる。平田の精神について多少の心配はあるがそれは些細な問題。平田を見れば今日も笑顔絶やさずアイドルをしている。実に良い傾向だ。
この調子で握手会を続けていけば俺の知名度はうなぎ登り。そのうち握手会にも飽きて平田への興味も薄れていくだろう。本当は平田に彼女ができるというのが一番いい展開のはずだ。一人の女を犠牲にして、その他大勢を得る作戦。
だが、そう易々と平田が付き合うとは思えん。誰か一人を選ぶとかしなそうだしな……
「平田、そろそろ昼休みも終わりだ。もう、質問は答えなくていい。握手したら終わってくれ」
『え────!!』
「みんなごめんね。そろそろ昼休みも終わりだし質問は終わりにしようか」
『は────い!!!』
なんだ、この差は……
言ってることは同じはずなんだが、俺だけ悪者扱い。早く優しくて可愛い彼女がほしい……
「ねぇ、ちょっといい?」
「なんだ、軽井沢か……」
「失礼だし、なんだとは何よ」
「何のようだ?」
「ちょっと話あるから、放課後あけといて」
「まさか、お前……」
「違う」
「そうか」
「じゃぁ、そういうことだから」
軽井沢恵。ちょっと絡みにくいギャル系の女。そしておそらくモブ。主人公の南雲にはなずな先輩がいる。そのなずな先輩ですら、おそらくモブ。同ジャンルの、しかも1年である軽井沢が攻略対象の可能性は極めて低い。もはやなずな先輩の下位互換としか思えん。
それに年上のなずな先輩ならまだしも、軽井沢に魅力を感じない。ヤらせてくれるなら受け入れるがそれ以外は却下だ。彼女になんかしても余計な面倒が増えるだけだからな。何の用かは知らんが、期待は薄そうだ……
「それで、何の用なんだ?」
放課後にカフェのパレットで二人きり。端から見ればカップルと見られてもおかしくない光景。
「平田くんの握手会ってあんたの仕業?」
「俺は平田の意思を尊重しただけだ」
「平田くんの意思って何よ?」
「それは言えん。個人的な話だ」
「あっそ。はっきり言って迷惑なんだけど?」
「なぜ軽井沢に迷惑がかかる」
「それこそ個人的な話だし」
らちがあかん。こいつは何の為に呼び出したんだ? 訳わからんときは選択肢に限るな。俺は席を立ち上がる。
「話がないなら帰るぞ」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
軽井沢が帰ろうとする俺の腕を掴む。
『ピコン』
頭の中に表示される選択肢。俺は席に座り直し、選択肢とにらめっこを始める。
『軽井沢のいじめられていた過去に触れる』
『軽井沢の誰にもバラされたくない、いじめられていた過去には触れない』
よしっ、有能だ。しかも選ばない選択肢にまで情報を入れてくるとは、なんて最高なヤツなんだ。
しかしまたいじめか。沖谷の時といい、このエロゲーではいじめが流行ってるのか?
とりあえず過去に触れてみるか。
「なあ、軽井沢」
「なによ?」
「お前、いじめられてただろ」
「なっ!?」
効果は抜群。驚きの余りに言葉も出せず、一瞬の不自然な間が俺の言葉に確かな信憑性を与える。
「意味わかんない、帰る」
「バラすぞ」
「はっ?」
「帰れば、クラスの全員にお前がいじめられていたことをバラす。それでもいいなら帰れ」
「何なのよ……」
諦めて席に座る軽井沢。別にこいつの過去になど興味はない。だが、邪魔されるのは困る。
「結局、お前はなぜ俺を呼び出したんだ」
「言ったでしょ、迷惑だって」
「なぜ迷惑なんだ」
「それは……」
「話にならん。お前の反応を見れば、いじめられていた事など容易に想像できる。言わないならバラすぞ」
「……私が平田くんと付き合いたいからよ」
なんだと? つまりこいつは平田が好きだから握手会をやめろと言ってるのか? さすがにそれは幼稚過ぎる気もするが……
「つまり平田が好きってことか?」
「別に、好きとか嫌いとかの問題じゃないし」
「……なんだと?」
「変だと思う? でしょうね、あんたみたいにいじめられたことのない奴に私の気持ちなんてわかんない」
まるで全てを諦めたような、それでいて揺るぎない決意を秘めている顔。その顔をみてようやくわかった。俺と同じだったからだ。こいつも寄生虫。平田というクラスの中心人物に寄生することで、自分の居場所を必死に作ろうとする寄生虫……
だが、それならば話は別だ。
「わかるさ。俺も寄生虫だからな」
「……えっ?」
「別にいじめられてたとかじゃない。だからお前の気持ちが全てわかるとはいわんし、わかってもいない。だが、わかる事もある。俺は、お前とは違う種類の寄生虫だ」
「違う、種類……」
「そうだ。おそらくお前は平田と付き合うことで自分の居場所を作り、いじめから身を守るつもりなんだろ?」
「わかってんじゃん……」
「俺も似たようなもんだが少し違う。俺の場合は平田と仲良くなることで自分の居場所を作り、女にモテる事だ」
「違う種類じゃん」
「そうだ、だが種類こそ違えど俺らは同じ寄生虫。目的が同じならば協力も可能だ」
「目的は、平田くんに寄生すること……」
「ああ、二匹でならやれることも増える。お互いの利害は一致してるはずだ」
「……わかった。私は平田くんと付き合って居場所を手に入れる。あんたは平田くんと仲良くなって女を手に入れる。これでいい?」
俺は黒い笑みを浮かべて頷く。軽井沢が指に髪を巻き付けながらにやつく。そう、これでいい。俺らは寄生虫。一人では生きていくことの出来ない、弱い生き物なんだ───
さっそく翌日、軽井沢は平田に告白した。もちろん、入念な打ち合わせを行った上でだ。平田が断れないようにいじめられていた過去を明かし、情に訴えかける作戦。
もし失敗しても、女子の暴動を鎮めるのに軽井沢の力が必要だ。とか適当なことを言って付き合わせるつもりだったが、思いのほか平田はすぐにOKを出した。
これで平田に彼女ができた。クラスで一番モテる男の消失。行き場を失くした女子の感情は俺に注がれるはず。何もかも計算通り、自分の才能が恐ろしい……
「あのさ~エロくん。平田くんの握手会ってもうやんないの?」
「ああ、佐藤か。もうやらんぞ。平田には彼女が出来たからな」
「えぇぇぇ!? うそ、平田くん彼女できたの?」
「なんだ、知らなかったのか。軽井沢と付き合ったらしいぞ。すぐクラス中に広まるだろうな」
「そうなんだ、教えてくれてありがとう!」
これですぐに広まるだろう。女子は噂好きだし、軽井沢も隠さずどんどん表に出していくはずだ。その方が居場所も作りやすいしな……
俺らは暇さえあれば平田の横にいく。右に軽井沢、左に俺。将棋で例えるならば飛車と角。常に横にいて動くこともなく、王の逃道をただただ塞ぐ。王手されても助けることなく逃亡し、挙げ句の果てに敵に奪われ反旗を翻す。
『命を大事に』これが二人の合言葉。
「平田、これでDクラスに平和が訪れた。よく頑張ってくれたな」
「エロくん、こちらこそありがとう。エロくんのおかげで最悪の事態を事前に回避することができたよ」
「気にすることはない。それにこれからは軽井沢もいる。3人で助け合って生きていこう」
「それそれ~エロくん良いこというじゃん!」
「うん、そうだね。軽井沢さんも改めてこれからよろしくね」
頼むぞ、平田。これからもお前の力が必要だ。俺がこのエロゲーを攻略するその日まで、お前には頑張ってもらわねば困る。
『命を、大事にな』
二人に寄生される平田くんでした!
そういえば、そろそろ雪が降りそうです。今年は転ばないように気を付けたいと思います。みなさんも痛いので気を付けてくださいね!