デイリー建造って、なんかやる気しないよね。
そんな私しか理解できないであろう事を思いながら、目の前からノロノロと飛び立っていくデイリー建造33号34号35号の3機を、岩場に転がっている真っ赤な四角錐である私は見送る。
丸みを帯びた体に羽のようなものを羽ばたかせた彼らが必死に飛ぶ姿はどこか風流を感じる。
おそらく彼らは後六時間後ほど飛んだ後、一瞬で叩き落とされてしまうだろう。
まぁ、彼らは最小限の資材で作ったし、彼らにコミュニケーション機能があるわけでもなく、いうならば私の排泄物のようなもの、つまりは
ただ、壊されるとわかっているものを作ってこうやって毎日出撃させるのはなんというか・・・・虚無である。
とは言ってもだ。『巣』から「使命を果たせ。怠業は許されない。使命を果たさない個体には死を」みたいな感覚の念波が送られて来るため、デイリー建造は行わなければならないから仕方がないのだ。
そのため私は、毎日毎日建造を、仕事をしっかりと行う。
休日なしの連日仕事まみれ
ひどい上司だ。休暇をくれ
まぁ、実際私はなんとなくでしか『巣』の念波の内容がわからないため、『巣』が本当にそんな意味の念波を送っているのかは判断つかない
だが私が意思を持ち始めて1回だけ1日何も建造しないで体の修復と資材ために時間を費やしたことがある。その時に『巣』から殺意のこもった念波が送られて来たためサボったら本気で殺されるのは察することができた。
私に回す殺意があるのならその殺意を『敵』に向けてほしいものだ。
というか、そもそも同胞に殺意を向けるようになった原因は、どこかの土地で『敵』と交流を持った同胞がいたのが原因らしい
いい迷惑である。
そんなことを考えながら私は、今日もボリボリとこの絶海の孤島で地面を食って資材を貯める。
ゆっくりと沈みゆく太陽
日中受けた日差しの熱を発し続ける岩場
少し離れたところに墜落している飛行機の残骸
そして岩場に転がっている大きなヒビが入った『私』のコア
今日もまた、夕方まで資材の採掘を行い、夕方になるとノルマである1日3回建造を行い、
この一ヶ月間何も変わらない風景と習慣。
端的に言って、虚無である。
どこからか聞こえる波の音がさらに私の虚無感を強調する。
虚無感が強調されるというのはどこかおかしい表現かもしれないが、虚無感が強調されるのだ。わかってくれ。
私の体が動くなら、この海の向こうの敵に突撃かましてさっさと仕事を終えてこの虚無感から脱出して帰りたいものだ。
というか、私が何故こんなことになっているのか考えても、まさに複雑怪奇であり、何が複雑怪奇というと、本当に最初から複雑怪奇なのである。
最初に私が意識を持ち、気がつくと私は、私のコアはこの岩場にゴミのように転がっていたのだ。
前後の記憶など何一つなく、分かるのは5つの情報のみ
1つ、少し離れた場所に航空機の残骸があり、それ以外は一面岩場しか見えず、今私がいるここは絶海の孤島であること。
2つ、私のコアは全壊ギリギリの状態で動くと壊れるかもしれず、コアが壊れたら私は死ぬ事。
3つ、私は再生能力を持つがなぜか発動しない事。
4つ、私は使命がある事。
5つ、私の能力のこと。
それを理解した時は焦ったものだった
ここはどこだ、私は誰だなんて、なんて事を考えたり、なぜ体が治らないの自身の体を精査したりした。
結局それらの事をいくら考えようが分からずじまいだった。
唯一分かったといえば、私はこうやって一人で考えることが好きなことだろうか?
そんな初期状態を確認して1日経った頃に、『巣』から念波が来た。
その時は驚いたものだ。
一応『巣』が私の上司のようなものであることは感覚でわかったが、それでも驚いた。
念波に驚いたのではない、念波の内容に驚いた。
念波の内容は一言。
「使命を果たせ」
・・・・
・・・・・・この状態の私に働けと?
瀕死の状態の私に繰り出される『仕事』の催促。
私は全力で抗議した。文字通り死に物狂いだ。
だが、私が救援要請をしようが、行動不能である事を伝えようが、『巣』はまるで私の言葉が理解できないのか、送られて来る念波の感覚はどれも同じ「使命をはたせ」の一言。
本当に非道な上司だ。動けないって言ってんだろ。
もしこの時私に腕と足があるならば駄々っ子のように転がり泣き喚いていただろう。
まぁそんな妄想や文句が頭に思い浮かんでも、私がやるべき使命は変わらないし『巣』からの命令も変わらない。
しかも、サボろうとしたら救助目的ではなく私を殺しに同胞を差し向けて来そうであった。
そんな戦力があるのなら『敵』に向けてほしいものだ。
とはいっても、外道上司は命令を撤回することはない。
だから私は、私の『能力』を使い使命を遂行することにした。
私を私たりえるものとしている、私の『能力』
それは、『私のコアの周りにある物質を吸収し、それを元にその資材量に見合った『同胞モドキ』を作ることができる』というもの。
しかも摂取した資材の量の数十倍の大きさのものを建造できるのだ
それに使用する資材の質や量が多ければ多いほど強い『同胞モドキ』を建造することができるかもしれないのだ
・・・とは言っても、私のコアは動けば死ぬ状態で岩場に落ちており、今の私はコアの周りにある岩しか食うことができない。
それどころかコアがボロボロなのが理由なのか、摂取量が微々たるものであり、1日の回収量が雀の涙。
チリも積もれば山となるという言葉を信じて資材を貯めようにも、『巣』の催促を満たすためには建造を1日3回以上行ない、3機以上の編成で『敵』に襲撃を行わなければならず、3機の生産コストで1日の回収量にロスが生じる。
よって、1日資材を掘っても最終的に残る資材はそこまで多くはない。
はい、クソである。
せめて目の前にある岩とは比べ物にならないほど質の高い物質。つまりは私から少し離れた位置に転がっている飛行機の残骸である金属を回収できれば、毎日岩だけを少しずつ食うというこの寂れた生活から卒業できるはずだ。それどころか夢の『大型建造』を行うことができるかもしれない。
だがそれができない。できないのだ。
その理由はいたって簡単である。
動くことができないからだ。
ならば金属を持ってこれる回収能力のある『同胞もどき』を作れないのか
それもまた、現状ではできる可能性が限りなく低い。
それは私の能力の最大の欠点
『私の能力で建造される『同胞もどき』の種類はランダムであること。』
が理由だ。
この欠点がひどい。
何がひどいってランダムなのだ。運なのだ。ギャンブルなのだ。
しかもランダムとは言っても、どうやら種類によって建造される確率が違うらしく、『よく建造される同胞もどき』、『希少な同胞もどき』がいるのはデイリー建造で確認済みだ。
今日作ったデイリー建造33号〜35号はそこそこの飛行能力とそこそこの連射力を持った射撃武装を持った小型飛行型。
最小資材で作ったデイリー建造の8割がこれである。
もちろん彼らに回収能力はなく、それどころか一度出撃すれば空中で停滞もできない。それどころか繊細な飛行能力などないため下手に瓦礫に近づくと飛行ミスして事故って私に特攻を仕掛けて私が死ぬ可能性すらある。
つまり今の所デイリー建造で作られる『同胞もどき』では私の前に飛行機の残骸を運ぶことは不可能なのである。
ならば建造資材を増やし残骸を移動させる能力を持つ『同胞もどき』を建造すればいいとなるかもしれないが、そもそもどのぐらい建造資材を増やせば、どれくらいのレベルの『同胞もどき』が作れるのか見当もつかない
最初の頃にチビチビと資材を増やしながら色々試した結果、無駄に資材を散らすことになった。
一週間の間デイリー建造資材を2倍に増やした時のことは思い出したくない。ろくな『同胞もどき』ができず最終日に見覚えしかない『同胞もどき』が建造された時は、私に腕があったら怒りのまま腕を床に叩きつけていたであろう。
そんなことがあってから、私は資材に余裕が出るまでは不用意に資材を消費する事を避け、黙々と毎日最低値建造を3回行なっている。
時々心が折れそうになるが私には希望がある。
それは、最初の建造の時に最低値の建造で回収機能を持った『希少な同胞もどき』を建造しているという事実だ。
今思えばあれは奇跡の産物だったであろう。何故あの時の私はまた作れるなら今出撃させていいやという思いつきの元、あれを戦場に出してしまったのだろうか・・・・本当に悔やみ一ヶ月前の私を殴りたくなる。
だが、確率は限りなく低い最低値の建造で『希少な同胞もどき』を作成したことは事実だ。
ということは建造資材を最低値の10倍に建造資材を増やしたらあの奇跡を故意に起こせるかもしれないのだ。
だから私は今、使用する建造資材が、最低値の10倍資材量で行うの建造を最低10回以上は回すために、資材の貯蓄を始めている。
最低値の10倍使ったらおそらく10倍の確率で出現してくれるはず
そんな夢を叶えるために
そのために私は今この『いつも通り』な習慣を行い、それによって応じる虚無感に勝たなければならない
なんてそんな事を考えていると
そんなデイリー建造で作られた、
水平線に沈む太陽に向かって飛ぶ
ちなみに今までの
どのように
なぜなら『敵』の姿を私は見たことはないからだ。
いや、見たことがあるかもしれないが、私の記憶はこの絶海の孤島に転がってからの記憶しかないため、忘れてしまっているのかもしれない。
そう私は忘れているのだろう。
私がなんなんのか、『敵』はどんな姿なのか、『巣』は何のために戦っているのか
多くのことを私は忘れてしまっているのだろう。
だから私は気になる。
おそらく私をこんな風にした相手であり、私の使命である倒すべき『敵』である者たちはどんな姿をしているのだろうか。
そんな独白をしながら思考を切り替え、再び岩堀り作業を再開しようとして、ふと疑問に思った。
私は考えるのが好きだ。だがなぜ、誰も聞いているわけがないのに、誰に記しているわけでもないのに、私はこう言った誰かに語りかけるような思考してしまうのだろう?
なぜかそんな疑問が頭を過ぎさり・・・・・・・
私は資源採取を再開することにした。
どうせ考えてもわからないのだ。まずは目の前のことから行っていこう。
それにしてもこの一ヶ月で割と資材もたまって来た。
そろそろ、資材の放出どきなのかもしれない。
そう思うと気分が高揚してくるのがわかる
やっと虚無感漂う『いつも通り』をやめれるのだ。
近いうちに来る『いつも通り』ではない資材代大放出の建造祭り
それを考えると本当に・・・・本当に
楽しみだ。
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「准尉、今日も手早く片付いたようだな」
ストライカーユニットの稼動音しか聞こえない真っ暗な夜。
今日も敵機を撃墜し、その余韻と共に夜の空に身を委ねていた私の耳に声が入って来た。
上官殿の声だ
上官殿の声は女性にしては少し低い声。
上官殿はこの声があまり好きではないといっていたが、静かな場所で突然耳元から上官殿の声を聞くと背筋がぞわぞわして軽く気持ちよくなってしまう。
曹長が上官殿の声をハスキーボイスと言っていたが、それならばハスキーボイスは何と甘美な声なのだろうか。
この声を聞くだけで疲れが抜けていく
そんなハスキーボイスを持つ上官殿が女たらしだった場合、数多のウィッチたちはみんな上官殿の声で乙女心を撃ち抜かれていたに違いない。
なぜなら私がそうだからだ。
そんなことを私は考えながら通信機を起動する。
「はい、今日も遠距離からの狙撃で三機撃墜しました」
そうかそうか、と嬉しそうに相槌する上官殿の声が聞こえる。
彼女が通信機越しに笑顔で頷いているのが容易に妄想できる。
ああ、かっこいい。
それにしてもどうやら、報告を聞いて今日も出撃準備をしていたらしい。
まぁ今日も彼女が来る前に私が全部叩き落としたから今日も上官殿の仕事はなかったわけだが・・・・
「それで?今日も敵の内訳は一緒か」
「はい。昨日と一緒・・・いやいつもと一緒でした」
そう私は返事をする。
再び聞こえる上官殿の相槌の声。
その声質から、彼女が通信越しに眉間にしわを寄せるのが容易に妄想できる。
ああ、かっこいい。
まぁ、かっこいいのが当然なのは置いておいて、上官殿がこんな質問をして来たのは『変化』を求めてなのだろう。現に上官殿の声がどこか疲れているような気がする。
「いつもと一緒・・・・か」
「はい、いつもと一緒です」
どこか落胆した上官殿の声に私は同意した。
今日こそは何かしらの変化があるかもしれないという期待もあったのかもしれない。
だが結果はいつもと変わらなかった
そういつもと変わらなかったのだ
私たちの基地が守護するこの地域はネウロイが出現する確率はかなり低い。
出現したとしても小型が多く、大型ネウロイなんて出現したことすらない。
そもそも、上の将官達もこの基地を重要視していない。
なにやらこの基地は、政治屋の方々によるお金の話し合いの結果できたものらしく、軍事的価値はあまりないらしい。
というかぶっちゃけると、天下り先のようなものだと上官殿が基地司令を見ながらそう言っていた。
一介の兵士である私にとってはそれはどうでもいいことであった。
姉のような立派なウィッチになる。それが目標である私にとって政治ごとは興味がない。
まぁそんな胡散臭いこの基地は、割と安全であったという理由からか、兵士になったばかりのルーキーのウィッチが軍に慣れるために送られることが多い基地となっている。
私もその一人。
ナイトウィッチの才能があった私はこの基地で修行に励むことになった。
今、私たちの基地にいるウィッチは上官殿と私と曹長の3人
熟練のウィッチである上官殿と私と同時期にやって来た同じくルーキーの曹長。
私と曹長は上官殿との熱烈な行為(訓練)で腕を磨き、少しずつ力を蓄えていった。
そして一ヶ月前、ルーキーに毛が生えた程度の実力を私が手に入れた頃、夜間警備中の私は、夜の海上で基地がある方角に向かって飛んでくる3機のネウロイと遭遇した。
その時の私は、焦り、基地に報告した後に愚かにも一人で敵に向かってしまった。
今思えばバカのことをしたと思う。
結果的に言えば、私は十数分と言う長い時間をかけ2機を倒し、残りの性能がいい1機は基地から慌てて救援に来てくれた上官殿が瞬殺してくれた。
「なぜ一人で戦おうとした!」と上官殿から鬼の形相で怒られたのを一ヶ月たった今でも覚えている。かっこいい。
その後そうやって上官殿は怒った後「単独戦闘で2機撃墜なんて大手柄だな」だなんて褒めてくれたのを今でも覚えている。かっこいい
そうして私と上官殿は仲良く基地に帰ったわけなのだが・・・
その時の敵が今もなお私たちの基地を悩ましている。
通称『定期便ネウロイ』
いつからか基地のみんなからそう呼ばれるようになったあいつらの名称
3機編成の『小型ネウロイ』たち。
戦闘能力はかなり低く、拳銃程度の射撃武装しか装備しておらず、飛行速度もかなり遅く狙撃の的である。
時折、性能が高いのがいるがそれでもそこまでの力はない。
つまりこれらの能力から、このネウロイの脅威度はかなり低い、現に最初に遭遇した時は、ルーキーに毛が生えた程度しかない力量でありしかもそれに加えて焦っている私ですら2機撃墜し、その時一緒にいた性能がいい1機は上官殿のようなベテランなら瞬殺できるレベルだった。
だがこいつらの脅威はそこではない
問題は初発見の次の日から起こった。
また私は夜間警備中に同じ場所で敵機を発見したのだ。
すぐさま報告、上官殿が出撃し、上官殿と二人で撃破。瞬殺であった。
「一度あることは二度もあるのか」と上官殿が笑っていたのを覚えている。
「じゃあ三度目もあるかもしれませんね!」と次の日曹長が笑いながらいい、私がその頬を引っ張って不吉な事を言わないでくださいと注意したのを覚えている。
そして次の日、また奴らが現れた。
すぐさま報告、今度は曹長が援軍としてやって来た。そして撃破。瞬殺である。
その時に初撃破だと喜んでいる曹長の顔を覚えている。
だが私は流石に、何かおかしいと皆が気付き始めた。
そして次の日、また奴らが現れた
その次の日も、次の日も、次の日も、次の日も、次の日も
私たちは、まるで一つの習慣のように奴らを倒した。
その過程でわかったことがいくつかある。
それは奴らが、毎日同じ時間に、同じ進路で現れる事。
そのことからいつしか、基地内で奴らのことを『定期便ネウロイ』
と呼び出すものが現れた。
今ではすっかり通称となっている。
そんな『定期便ネウロイ』はまだわからないことが山積みだ
なぜこうも定期的に飛んでくるのか、なぜ毎回同じ進路なのか、
わからないことが多すぎる。
上官殿が基地司令にこの状況がおかしい事を陳述しても、司令の楽観的な主観と被害が0であることから取り合ってもくれないらしい。
なぜ、誰がどう見てもおかしいのに司令は何も行動せず、上官殿の意見をフイにしているのは私にはわからない。
そして、そんな司令に準じる周りもだ。わけがわからない。
上官殿はそれでも諦めず、定期的に司令に陳述しているのを見る。
今ではよく見る光景となり、私たちの基地の当たり前となって来ている。
そう、当たり前となって来ているのだ。
毎日、「定期便」が出現することも
それを私が発見して報告することも
私が、「定期便」を撃墜することも
いつからだろうか、私の敵機発見の報告で基地が緊張しなくなったのは
皆、リラックスして自らのやるべき仕事をやっている。
いつからだろうか、撃墜したネウロイの事を曹長から聞かれなくなったのは
曹長は『定期便』を特訓相手として見始めている。
いつからだろうか、私が『定期便』を倒すためだけに狙撃銃を夜間警備の際に持ち出すようになったのは。
いつも同じ進路に現れ遅い速度で移動するため、狙撃しやすく、おかげで発見から撃破時間まで5分を切るようになった。
いつからだろうか、私が自身の撃墜数を数えなくなったのは
毎日3機増えるのだ。数える必要がない。
いつだろうか、私が最後に休暇をとったのは・・・
大丈夫だ。わたしはまだ
「・・・尉。准尉!」
愛しのハスキーボイスが耳を貫く
「は、はい!何でしょう上官殿」
慌てて返事を行うとともにあたりを見渡す。
すると、視界の先に月明かり以外のあかりが見える
基地が見えて来たのだ。いつのまにかここまで帰って来ていた。
「いや、こちらから話しかけても反応がなかったから心配してな」
そう言った私を気遣う上官殿の声が聞こえる。
ああ、幸せだ。だが心配をかけさせてしまって申し訳がない。
いつもなら、上官殿の声を聞き逃すはずがないのに・・・・・・・少し気が緩んでいるのかもしれない。
「そ、それは、申し訳ございません。すこしボーっとしていました」
「・・・うん。・・・・・・やはり無理していないか准尉?」
私は少し息を飲む。また上官殿に心配されてしまった。
上官殿は部下の私を心配してくれている。優しい方だ。
ここで私がハイと言えば、ウィッチの増援要請をまた司令に提出するだろう。
私は上官殿が今、司令や司令の周りの人間たちから厄介な目で見られていることを知っている。
これ以上私の事で上官殿が司令から、上官殿の上司から悪い目で見られるのは堪え難い。
これは私が我慢すればいいだけのことだから。
それに『定期便』は弱い
私が多少疲れていても、負けることはない。
私はそう考え、力一杯声を出し元気を出す。
「いえ、それは大丈夫です上官殿。毎日しっかり眠っておりますし、それに今の私の出撃は深夜のみ。それ以外は休養しておりますので全然大丈夫です」
「だが・・・・・・・・」
「大丈夫ですよ。安心してください」
そう、安心してください
いつもと一緒ですから。
*准尉
年齢:14歳
少し世間知らずのところがある、ナイトウィッチ
あまり自分から喋らず、いつもゆったりとした喋り方とどんな人間に対しても敬語で話すその姿勢から、大人しく可愛らしい花のような少女と基地の仲間たちから思われている。