ネウロイ+デイリー建造   作:haguruma03

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建造とは計画的に行うのが理想である

私はそんな1人しかいない寂しさを紛らわすための無為な独白を思考しながら金属を摂取する。

孤独や退屈は毒なのだ。無言で作業していたら心を病む。

まぁ、私に心なんてものがあるのかはわからないが。

 

 

かなたに見える太陽がゆっくりと傾いていくのがわかる。そろそろ夕暮れ時だ。

つまりはいつものデイリー建造の時間が来たというわけだ。

 

 

 

さてはて、私は晴れて先日、夥しい数の岩を消費して触手のついた同胞モドキを作り出すことができた。

 

ついに作り出した運搬機能を持ち合わせた同胞もどきが私の目の前に飛行機の残骸の一部を持ってきてもらった時には感動し、金属を吸収した時は岩とは比べ物にならないほどの資材効率の旨さに歓喜したものだ。

今思い出してもいい思い出である。

 

そんな私の希望であるこの触手のついた彼には「イカ君」と言う名前を付けていつも傍に置いてあり、必要な時に必要な分だけ、私の前に飛行機の残骸を拾って来てもらう仕事をしてもらっている。

 

そんな、このイカ君は私の一番のお気に入りだ

 

イカ君とは名付けているものの姿はカブトムシにイカの触手をつけた様な奇怪な姿をしているためイカ君というよりカブトムシ君の方が正確かもしれない。

だが、彼の存在意義は触手の存在が十割を占めているためイカ君と命名している。

一応触手以外に特殊能力が一つあるが、それは正直荷物運びにおいて役に立たないため意味がない。

 

ちなみにイカ君の戦闘能力はゴミである。

まぁ、苦労して作ったイカくんをわざわざデイリー建造くん(うんこマン)のように出撃させることはないからそこのところは考えなくても良い。

というかイカくんに愛着が湧いているので、そもそも出撃させたくない。

 

そんなこんなでこうやって私は金属を手に入れ、金属を吸収しているのだが、そもそもの『巣』からの命令と私の使命は金属を食うことではない。

ここからはるか先、日が沈む方向の彼方にいる『敵』を倒す事だ。

 

たしかに金属を食う事で今までのようなデイリー建造くん(うんこマン)とは比べ物にならない強さの同胞モドキを作れるし、今までのデイリー建造くん(うんこマン)を作るにしても金属を使えばごく少量の金属で大量のデイリー建造くん(うんこマン)を作る事も可能だ。

つまり戦力を今まで以上に作り出す事が可能であり、本格的に敵と戦闘することができるようになったのだ。

 

現在より敵と本格的に戦争を始める!と言いたいところだが、私は記憶喪失なのだ。

一応ある程度の記憶があるが、それは最低限の情報しか持っていない事と同じであり、それに持っている情報が完全に正しいのか確かめることもできない。

しかも何の記憶を失っているか分からない状態。

もしかしたら知っていなければ不味い事すら忘れている可能性がある。

 

唯一の救いといえば、敵を倒さなければならないという使命は『巣』がそれを望んでいる事を私に念波してくれるおかげで間違ってはいない事を確信できる事だろうか?

 

とまぁ、そんな感じでつまり私は敵のことを一切知らないのだ。

どんな形で、どんな攻撃をして来て、どのぐらいの勢力なのかすら知らない。

 

知っているのはただ毎日送り出すデイリー建造くん(うんこマン)が毎日撃墜されている事実のみ。

デイリー建造くん(うんこマン)達には出発の時に敵撃破後帰還の命令をしているため、今まで帰って来なかったと言う事はそういうことなのだろう。

 

デイリー建造くん(うんこマン)たちはどのようにやられているのだろうか?

彼らを倒している『敵』はどのようにデイリー建造くん(うんこマン)を倒しているのだろうか?

 

もしかしたらデイリー建造くん(うんこマン)を倒すのに精一杯な弱者なのかもしれない。

もしかしたらデイリー建造くん(うんこマン)など幾百来ても楽に倒せるような強者なのかもしれない。

 

だからこそ、どれほどの戦力を送ればいいのか知らなければならない。

 

計画性なしに建造して正体不明の敵に向かわせても酷いしっぺ返しをくらう可能性があるのだ。

というか確実にひどい目にあう予感がする。

 

しかし、敵の情報が必要とは言ってもだ、私が生み出す同胞モドキに私の視覚や聴覚は同期することは出来ず、録画や録音機能をつけることもできない。

モドキにはある程度の命令はセッティングできるが、それは事前に設定しておかなければならず、私の近くに帰還しない限り命令の上書きはできない。

 

つまり、モドキが出発したら祈るしか私にはできないのだ。

 

私が直接見ればいいかもしれないが、私の体は相変わらずひび割れている。

ある程度直ったが、どうも飛行機の残骸では私の体を治すことは不可能らしい

 

手元にある金属を全て使えばコアを治すことは可能なのかもしれないが確実ではない。

もしそれで失敗した場合、手元の資材は岩のみとなり、建造状況が金属を手に入れる前に逆戻り。

いや、手元に金属がなくなる以上前よりもひどいことになる。

 

そうなってしまったら、下手したら役立たずの烙印の元、『巣』から抹殺(クビ)を言い渡される可能性すら出てくるだろう。

 

そんな博打打ちたくはない。

 

 

戦闘を見る事も聞く事もできない。

ならばどうやって敵の強さを知るのか。

ならやることは一つ

 

威力偵察だ

 

多数のモドキ部隊を作り敵と戦闘させ一定数撃墜した、または一定数撃墜された場合撤退する事を事前に命令しておき、帰ってきたモドキの損害で敵の大まかな強さを確認する。

 

これを行う場合、作らなければならないのは、いつものデイリー建造くん(うんこマン)ではなく、ある程度の強さを持ち、戦闘後に帰って来ることができるモドキ達だ。

そしてそれらのモドキの攻撃手段や機動性、耐久性はバラけさせなければならない。

それには理由がある。

 

改めて語るが私は知らないのだ

敵が地にいるのか、空にいるのか、それとも両方なのか、敵の機動性どうなのか、敵の火力はどれほどのものなのか

 

それを知っている上司に情報提供を求めてもいつもの「我らが指名を果たせ(仕事しろ)」という念しか帰ってこないため無駄である。ほんとクソである。

だからこそ私自身で情報を収集しなければならない。

 

製造するモドキたちの個体性能をばらけさせる。

これにより

 

機動性が低いモドキがやられていれば恐らく高い対空性か高い機動性を持つ敵がいる。

装甲が高いモドキが生き残っていれば敵の火力を推測できる 

帰還したモドキたちの対地装備が多く使用されているのなら敵は恐らく地上にいる

 

などの情報を知ることができるはずだ。

 

まぁ、かなり雑で不正確で穴だらけな情報収集手段だが、それでも現状の無知の状態よりは、はるかに良く、情報さえ手に入ればある程度の敵への憶測は立てることが可能になるはずだ。 

 

 

という事で早速建造に入ろう。

使うのはもちろん金属。今日摂取した金属を作って20機ぐらいの部隊を作ろうと思う。

 

建造に関してだが、これには7つのステータスがある

装甲、機動、旋回、火力、対空、対地、特殊。

 

これらの各ステータスに資材を注ぎ込み私の能力を使う事で同胞モドキを作る事が可能なのだ

 

そして、注ぎ込んだ資材の偏りに合致した、モドキがランダムに作られる。

そう、できるモドキはランダムだが、性能をある程度揃える事が可能なのである。

 

特殊に関しては本当にその名の通り特殊な性能や特殊な部位が付くステータスなので本当何が出るかわからない。

 

ちなみに私がこの前から欲していた飛行機の残骸を運ぶための輸送性能は、この項目である。

 

まぁ今回は特殊には資材を振り分けなくてもいいだろう。変な能力がついた時、情報収集の阻害になるかもしれない

 

そのため今回の威力偵察を行うのなら、特殊以外のステータスにはデイリー建造くん(うんこマン)の二倍の数値を振り込み、そのうち一つはさらに倍の数値を振り込む。

これによりデイリー建造くん(うんこマン)よりも強く性能の一つが尖ったモドキが作れ・・・

 

 

あぁああ!!!!

なんで!!金属使って!いつも以上の資材を使って!いつもと同じ性能のデイリー建造くん(うんこマン)ができるの!!!

計画的に資材消費してるんだからやめてよ!そういうの!!ランダム本当にクソ!!

岩よりも遥かに効率はいいとはいえ金属は有限なの!!わかる!?

 

次!!次こそ・・・

あぁああ!!!!!なんでぇ!どうしてぇ!?

こうなりゃヤケよ!二倍じゃない三倍よ!今日のデイリー建造は威力偵察を行うって言う大義名分があるの!いつものみみっちい最低値建造とは訳が違うわ!!

こい!こいっっっ!!!!!

 

 

あああぁあああ!!!!!

 

 

 

******

 

42機ほどの大部隊が夕焼けに向かって飛んでいく。

いつものデイリー建造の14倍の数の、数十倍の資材を使った部隊だ。

私が今ヤケクソ気味に周囲にいるモドキ達に命令を与えて出撃を命じた部隊だ

 

私の心には虚無感しかない。

なぜこんなにも資材を使ってしまったのか、途中でやめておけば良かった、などと今更遅い考えが浮かんでは消える。

どこからか聞こえる波の音と海鳥の鳴き声がひどく儚く聞こえた

 

 

・・・・・・・今更後悔しても、もう遅い。

私の意思は私の能力のランダム性に負けたのだ。

計画性を謳っていたのに計画以上の資材を消費するためになってしまった。

 

まぁいい様に考えれば、あれほどの部隊での威力偵察だ。いい結果が得られるに違いない・・・・

部隊の三分の一ほどはいつもと同じデイリー建造くん(うんこマン)なのだが・・・・・

 

はぁ

ため息しか出ないと言うのはこう言うことか

だが落ち込んでいてもしょうがない

威力偵察に出た彼らの成果によっては今回以上の部隊を作らなければならないのだ

そのために私は出撃していった彼らの戦果を祈りながら再び資材の補給に入ろう

取り敢えず手元に金属が無くなった

 

イカ君、新しい金属を持って来てくれ

 

 

・・・・?

イカ君?

 

あれ?イカ君?

 

背筋が凍る

すぐさま私は視覚を夕焼けに向けた

 

よく見てみるとそこには部隊に紛れているイカ君の姿が・・・・

 

『イカ君の戦闘能力はゴミ』

『命令の上書きは私の近くにいる時にしか出来ない』

『一定時間または一定数撃墜された場合撤退する事を事前に命令』

『私はヤケクソ気味に周囲にいるモドキ達に命令を言い渡した』

 

・・・・・・

・・・・・

・・・あ、詰んだわ

 

***********************************

 

 

コトコトと何かを煮込む音と美味しそうな料理の匂いがキッチンから漂い、私の鼻腔をくすぐる。

 

もうすぐ完成するであろう料理の匂いに私は懐かしさを感じた

 

あたりを見渡すとそこは、今はなき私の家。

暖炉の周りにはソファーがあり、あたりには物は少ないものの質素ながら飾られた部屋が広がっている。

棚にはものづくりが好きな姉が作った様々な動物の木彫り人形が置かれてある。

なつかしい

あれはリスの木彫り人形、リスくん

あれは熊の木彫り人形、熊くん

あれは犬の木彫り人形、犬くん

今思えば随分と姉のネーミングセンスは安直だったと思う。

だけど鮭の木彫り人形だけ、『美味いくん』だったのは未だに疑問だ。

 

そんな懐かしい光景を見ながら、私はあまりふかふかではないが座り慣れたそのソファーに座り隣の部屋であるキッチンへ続く扉をじっと見つめていた。

 

「さーて、そろそろあいつの料理ができるが妹ちゃんはあいつの料理好きかな?」

 

そんなハスキーボイスが聞こえ私は後ろを振り返る

 

ああ、上官殿だ

だがいつもの上官殿ではない。

胸についた階級章がいつもの上官殿より低い

 

「うん!あたしね!お姉ちゃんの作るご飯好きなの!」

 

勝手に私の口が動く

それも舌足らずな声だ。

 

そして私は私の事を「あたし」と呼んだ

 

「そうかそうか、俺もあいつの料理が好きなんだ。空を飛んで体が冷えて帰って来た時、あいつの料理を食うと体が温まってより一層上手いんだ」

 

私が「あたし」から「私」に変えたのはあの時だ

 

「お姉ちゃんの料理がもっと美味しくなるの!ならあたしもウィッチになる!お姉ちゃんみたいなウィッチになる!」

 

姉がいなくなり、いなくなった姉の様な立派なウィッチになるために、まず私は姉の一人称を真似て「あたし」は「私」に変わったのだ

 

「お、それは将来有望だな。だけどあいつみたいになるのは難しいぞ?あいつは固有魔法持ちでエースだからな。固有魔法がない妹ちゃんはかなり頑張らないといけないぞ?」

 

上官殿が少し意地悪な表情をしながら私にいう。

私は頬を膨らませながら反論していた

 

「ん!ならすーごい頑張るもん!!准尉ちゃんが驚くぐらい頑張るもん!!」

 

「なかなか根性あるじゃないか妹ちゃん。その時は俺がみっちりしごいてやるからな」

 

「わかった!その時はお願い准尉ちゃん!」

 

「おう!まかせろ!」

 

上官殿が笑いながら昔の私の頭を撫でる。

その少々荒っぽい撫で方に懐かしさと温かみを感じる。

 

上官殿は約束通り私をみっちりしごいてくれた。

だが、私が上官殿の部下になってからはこういった頭を撫でることはなかった。

おそらく上官殿なりのけじめだったのかもしれない。

 

ガチャリと扉の開く音が聞こえる。

自然と私の視線がそちらを向く。

 

「ご飯ができましたよ2人とも」

扉の向こうには姉がいた。赤毛の長髪を靡かせて軍服の上にエプロンをつけている

姉だ。

懐かしい姉の姿がそこにあった。

 

「お姉ちゃん!」

私が姉に飛びつく。

それがこの夢の私の行動なのか、今の私の行動なのかはわからない。

だけれど、飛びつかざるおえなかった。

抱きしめたかった。離したくなかった。

そして抱きついた姉からは、もう嗅ぐ事はない懐かしい優しい匂いがした。

 

「あたしね、あたしね、お姉ちゃんみたいなウィッチになる!」

 

そう言う私の頭を撫でる手の感触がする

優しく懐かしい安心する感触

 

「成程、私の様にですか。ならいっぱい食べて大きくならないといけませんね」

 

「うん!」

 

ああ、懐かしい

懐かしい思い出

 

ならば、これは

 

この光景は

 

 

 

走馬灯か

 

 

 

**********

 

「准尉!!!起きろ!寝るな准尉!!」

絶叫が聞こえる

それと共に聞こえる断続的に聞こえる発砲音と風切り音

そんな轟音の中ですら聞こえる絶叫

 

ああ、そんなに叫んで仕舞えばあなたのカッコいいハスキーボイスが枯れてしまいます。

 

それに准尉は貴方でしょう?

 

そう思うと同時に身体がぐらつく。

私が体を動かしているわけでもないのに右へ左へ下へと急速に移動しているのがわかる

 

なぜこんなにも動くのだろう?

それにここはどこだろう?

妙に眠いのだけはわかる

准尉ちゃんの声をこんな近くで聞けるのは幸せだが何故こうもさけんでいるのだろう

目を開けてみると、そこは夜空が広がっていた。

満月と満天の星空が夜空と夜の海を照らしている。

そんな中私は体を動かしてもないのにこの夜空を高速で動いているのがわかる

 

准尉ちゃんが舌打ちしながらシールドを貼るのが見えた

するとすぐにそのシールドに何が当たる

 

准尉ちゃんらしくない、彼女ならこの程度避けれるはずなのになぜ?

准尉ちゃんが攻撃をシールドで受けながら、今准尉ちゃんに射撃して来た敵に反撃し撃墜する

近くで断続的な発砲音が聞こえる。

だがこんな大きな音なのになぜか遠くに聞こえる。

眠い。

なんでだろう?

このまま眠っていいだろうか?

 

そう私が、眠気に襲われていると准尉ちゃんの叫びが再び聞こえた

 

「いくなよ!お前まで俺の前からいなくなるな!准尉!...妹ちゃん!」

 

・・・・

・・・・ああ、そうか

・・・・・何を私は呆けているのか

 

その言葉に私の思考は眠気から、いや過去から解き放たれたような感覚を覚えた。

そうだ、あれは過去だ。

優しく、暖かで、大事な、もう戻ることはない過去。

 

「懐かしい呼び方ですね准尉ちゃん」

 

私は笑いながら准尉ちゃん・・・いや上官殿に語りかけた。

 

上官殿の目が見開くのがわかる

綺麗な瞳だ。そんな綺麗な瞳が潤んでいるのがわかる。

真横だからよく見える。かっこいい

どうやら上官殿は私を背負いながら戦っていたらしい

気絶している人間を背負いながら戦うなんて本当に無茶苦茶な人だ

かっこいい

 

「・・・准尉は今のお前の階級だ馬鹿者。今の俺は少尉だ」

 

上官殿が薄く笑いを浮かべ私を見る

確かにそうだ

どうやら先ほどまで見ていた懐かしい思い出に思考が引っ張られていたらしい

 

「そうでしたね。ちょっと昔の事を思い出していました」

「そうか、お前は姉と一緒で1人で考えたりすることが好きだからな。ただ状況は考えてくれよ?」

 

そう上官殿は言うとニヒルに笑いながら体を傾ける。

旋回行動

そう私は認識し上官殿に強く抱きつく

それと共に横方向に強い力がかかる

 

すると目の前に「定期便ネウロイ」が現れる

いや現れたのではない、上官殿が後ろに回り込んだのだ

 

「じゃあな」

そんな上官殿の決め台詞と共に「定期便ネウロイ」が穴だらけとなる

・・・・今が危機的状況でよかった。いつもならあまりの格好良さに悶絶していたかもしれない

 

 

「状況はわかるか?准尉」

上官殿が離脱行動をとりながら私に問いかける

 

「はい、なんとか。今頭の中を整理してます」

 

あいも変わらず眠気に私は襲われながらも、頭の中を整理する。

思い出すのは数刻前

 

私は『いつもと同じ』様に夜間哨戒をして『定期便ネウロイ』の撃退に向かった。

 

そして、私はいつも通りの航路に、いつもの時間に、いつもの様に狙撃銃を構え、

 

『いつもより早い』時間に、『いつもよりも多い』数の『いつもと違う』形態のネウロイ達を発見した。

その数おそらく5体。

 

それを見た瞬間私は背筋が凍ったのを覚えている。

私はすぐに上官殿に連絡し、狙撃を開始した。

 

新たな形態の『定期便ネウロイ』は通常よりもはるかに早く、私の狙撃では当てることすらままならない。

 

これならば使い慣れた機関銃を持って来るべきだったと後悔した。

私の人生は後悔の繰り返しだ。

家のことも姉のことも初出撃での無謀な戦闘のことも、そして『定期便ネウロイ』に慣れきっていたことも

 

そんな後悔を頭の中で反復したのを覚えている。

 

だが、昔を今後悔しても今は良くならない。

今を良くするためには今を動かなければならない。

その思いを元にその時の私は行動した

 

私はもはや撃墜は不可能と判断し、増援の上官殿が来るまでの足止めに移行しようとしたのだ。

 

たしかにその判断は間違っていなかったと今思い返してもそう思う。

 

実際に私は5機のネウロイ達とドックファイトに挑むことになったが、敵の火力はかなり貧弱であり旋回速度もかなり悪い様であった。

 

その為、お互いの攻撃が決定打になり得ない不毛な戦い。

だが、敵はどうしようもないがこちらには上官殿が来てくれる。

 

内心、上官殿の増援と勝利への確信に私は笑っていたと思う

 

だがそれが私の愚かな卓上の空論であることの証明はすぐに来た

 

数十機の『定期便ネウロイ』の編隊が私の魔導針に引っかかった

その数おそらく20、いや30を超えていた。

 

 

今までの『定期便ネウロイ』はこの大軍のための布石?

これはネウロイによる大侵攻なのか?

なぜ私は今狙撃銃しか持っていない?

この大軍を通した時私の後ろにある土地はどうなる?

私は生き残れるのか?

私はここで死ぬのか?

私にできることはないのか?

 

 

私は私の悪い癖である一人語りを頭の中で反復しながらやるべきことをなしていた。

これも上官殿の教育の賜物だったのかもしれない。

 

すぐに敵の大軍の存在を基地に連絡。

そして私は敵の先行部隊に囚われているため離脱不可能なこと

敵はおよそ30、もしくは40の大編成の部隊であること。

まだ視認できていないが反応からしておそらく小型ネウロイの軍勢であること。

そして上官殿が今から来てもおそらく敵の大編成の方が先に到着して間に合わないこと。

 

それをいった時、耳が痛いほど上官殿の叫びが聞こえたのがわかる。

それに対して私はどんな返答をしただろうか?

今も眠い頭では思い出すことができない。

 

だがその後私は、またもや無謀な戦闘。

数十機の敵機に対する一人っきりの足止め作戦を行ったのだけ覚えている。

そして会敵した時、もはや思考ではなく反射で動き逃げ回り、敵の情報を送り続け、不用意な敵を撃墜したのだけおぼろげに覚えている。

 

私の持つ記憶の最後は、敵機に体当たりされそうになった為至近距離で撃墜し、目の前で爆発が起きたこと。

 

そうか、私はその時に記憶を失ったのか。

 

よかった、ユニットが壊されたわけではなさそうだ。

 

 

「邪魔だ!!」

再び聞こえる上官殿の咆哮。

それとともに無謀にも上官殿に特攻を行おうとした敵が穴だらけにされていく。

いや、あの形は・・・

 

「上官殿!あれは自爆します!!」

 

「知っている!!」

私が警告を言い終えるよりも前に上官殿は返事をしてすぐさま離脱する。

すると穴だらけにされたネウロイが爆散するのが見える。

 

そうか、上官殿は私があれにやられたのを見ていたのか。

そう私が思考すると上官殿は、今度は急降下を行い始める

後ろから付いて来るネウロイの数は8。奴らは後ろを取ると各自攻撃をばら撒き始める。

 

雨の様な攻撃が後ろから降り注ぐ。

数が多すぎる。

 

本来の上官殿の飛行能力ならばこんな相手の豆鉄砲の雨あられなど掠りすらしないが今は私という重石を抱えてしまっている。

 

上官殿に無駄な魔力を使わせるわけにはいかない。

私はすぐにシールドを展開しそれを受け止めた。

 

私も消耗しているのか展開されたシールドは弱々しい。

だがそんなシールドでも敵の豆鉄砲を受け止めることはできていた。

 

 

「准尉!無理をするな!」

「大丈夫です!これくらいできます!」

上官殿の心遣いに感謝をしながら私はシールドを張り続ける。

こんな時まで私の心配をしてくれるなんて本当にこの人は伊達女だ

 

「大丈夫って・・お前そんなわけがないだろ!」

 

その声を聞くとともに上官殿はくるりと後ろを振り返り後ろにまとわりついていた8機の敵を迎撃する。

 

その時ふわりと赤い液体が中に舞うのが私の視界に入る。

 

血液?

 

「上官殿!?怪我をされているのですか!?」

「それはお前だ准尉!!馬鹿野郎!!」

 

その時、ぬるりという感触とともに目が赤く染まる。

いやこれは頭から血が垂れている?

 

それを認識して私はやっと気がついた。

足の感覚がない。

 

さすがに足が弾け飛んでいることはないのは視界にちらほら映る私の足。もといストライカーユニットの存在からわかる。

だけれど私は自分のストライカーユニットを赤色に遜色した覚えはない。

 

もしや、多分だが、私の頭と下半身は結構な傷を負っているのではないだろうか?

 

そう私は思考するが、自らの頭は見ることができず、足は見る勇気がわかない。

というか今私が足を確認し、そこにエグい傷があることを認識すると、なんか痛みが襲って来そうな気がする。

昔、曹長が話していた足を吹っ飛ばされた兵士が自らの足が吹っ飛ばされているのに気がつくまで生きていて認識した瞬間死んだ話を思い出した。

 

本当にあの子は余計なことを話してくれたものだ。

足を見る勇気がわかない。帰ったらあのモチモチの頬を引っ張ってやる。

まぁ、それよりもまずはいうことがある。

 

「上官殿・・」

 

「なんだ准尉!!」

 

「私はもしや、結構な重症では・・・?」

 

「そういってんだろう!この馬鹿野郎!!呑気に分かり切ってることを話すな!!お前たち姉妹はいつもそうだ!!」

 

上官殿は声を枯らしながらまとわりついていた8機の最後の一機を叩き落とす。

 

早い。もうあの数を落としたのか

だけれど敵はおおよそ30機の敵部隊、まだまだいくらでも敵がいる

 

そう思ったところで私は気がついた

 

妙に、敵が少ない?

私はすぐに魔導針を展開する。

確かにまだまだ敵がいるのだがその数は30もいない。むしろ十数機だろう。

 

もしや

 

「上官殿!もしや敵機が基地に!?」

 

「んぁ?ああ、それは大丈夫だ。というか准尉。お前は俺と曹長を舐めすぎだ」

 

その呆れを含んだ声が聞こえた時、視界に入っていた複数の敵機が突如撃墜された。

いや、この魔導針の反応、マズルフラッシュにより闇夜に一瞬見えたモチモチした頬は

 

「・・・曹長?」

 

夜の空の中、魔導針の反応がする方向に私が目をこらすと、曹長が笑顔で笑いながらこちらに手を降って入るのが見えた。

彼女の片手には散弾銃が握られている・・・って

 

「上官殿。あのトリガーハッピーに散弾銃持たせて良かったのですか?」

「状況が状況だから仕方ない。」

「あの子、前の基地で上官を散弾銃で撃ち落としたからこの基地に来たのでは?」

「あいつの弾丸に当たるほどまだ俺は落ちぶれていないぞ?」

「そのせいであの子が散弾銃を持つのは禁止されていて、持たせるのに基地司令の許可が必要だったような・・・」

「准尉・・・・・俺を信じれないのか?」

きらめく上官殿の笑顔。キラリとひかる真っ白な歯。それはまるでパリにいる女ったらしの伊達男が浮かべる笑顔と同じであり

 

「まさか、上官殿を私は信じます」

私は一瞬であっさり自ら上官殿に騙されることにした。

いや、しょうがない。上官殿があんな顔をしてなびかないウィッチがいないわけがない。

 

だがそれにしてもだ

「曹長がここまで掃除したのですか?」

 

確かに曹長のトリガーハッピーと散弾銃の組み合わせは敵殲滅に適している。だが曹長の飛行能力はそこまで高くない。そんな曹長がここまで敵を掃除できるとは思えない。

 

そんな疑問に呆れたのか上官殿がはぁとため息を着くのが聞こえた

 

「あのなぁ、准尉」

上官殿はそう言い、月に向かって飛び上がる。

その上官殿に追いすがり明かりに近寄る羽虫の様な数体のネウロイたち。

 

「確かに敵は膨大で強い。だけどな」

 

上官殿が語りながら次々に敵を潰していく

上官殿の持つライフルから放たれる発射音は夜の静寂を細かく刻んんでいき、一つの音がライフルから奏でられると同時に、紅茶に溶ける砂糖粒が如くみるみる敵が消えていく。

 

「それと、同じ様に。俺は、いやお前の姉は」

 

私という重石があるのにも変わらず、数をものともしないその姿。

そうかこれが

 

「エースってのはな、敵の数なんて、強さなんて関係ない。それ以上に強いんだよ」

 

これがエースなのか

 

訓練だけでは完全に知ることができないその姿、その強さ

 

ああ、なるほど。

これが私が目指す姉と同じ高みか

 

「だからもうちょっとエースってのを信用しろ」

 

 

とてもカッコよく・・・・・とても安心する。

その姿に私は感動し、口を開き

 

 

「そうですよ先輩!もうちょっと私を信用してくださいよ!」

 

・・・・・やかましい声に口を閉じる

 

「あなたはエースではないでしょう。曹長」

 

「でも、すっごい敵落としてますよ?総撃墜数だって普通のウィッチには負けません」

 

そんな曹長の能天気な声が通信機越しに聞こえる。

それとともにひっきりなしに聞こえる射撃音とリロード音。

 

どうやら久しぶりの散弾銃にハッピーになっている様だ。

 

「そのほとんど全部が定期便でしょう。あれはノーカウントですノーカウント」

 

「えー!!あれがノーカウなら先輩は撃墜数0じゃないですか!私よりしょぼい!」

 

「・・・・基地に帰ったらあなたの頬で餅つきでもしてやりましょうか」

 

「東洋の神秘!?」

 

そんなバカな会話が夜の空に響く。

私たちのバカな会話がおかしかったのか上官殿の笑い声が聞こえる

 

ああ、安心する

 

「まったく、戦場でなんの漫才しているんだ。漫才するなら基地に帰ってからするぞ」

 

「はーい!!」

 

二人の明るい声が聞こえる。

 

夜の空に似合わぬ明るい会話

私はもしかしたら彼女たちのことを仲間として信頼して信用していたが。

彼女たちの強さを、彼女たちの強力さを、信用できていなかったのかもしれない

 

 

「まぁ、そういうことだ。お前はナイトウィッチとしての訓練ばっかりして哨戒や探査ばっかりいたからな。俺と曹長の実力を完全に知っていなかったんだろう」

 

上官殿はそう言い私に微笑む

 

「この程度の雑魚ども、私たちなら楽勝だ」

 

ああ、安心する

 

そんな、かっこよく頼りになる上官殿に

いつも明るい曹長に

いつもの様に安心する。

そういつもの様にだ。

 

 

わたしはいつもの通り安心して

確信する。

 

私は思う。

いつもの通りっていうのは言い換えればいつか『いつもとは違うことが起こる』からこそいつも通りなのではないか。

 

そしてそれを含めて『いつも通り』なのではないだろうか

そんな哲学じみたことを私は思う。

 

なぜなら、こうやっていつも通り安心している後に起こることはいつも一緒だ。

 

家族とともにいつも通り日々を過ごしていた時も

姉がいつも通り輸送機の護衛任務について飛び立つのを見送った時も

定期便ネウロイたちをいつも通り撃破していった時も

 

その後に起こることはいつも一緒だ

 

 

 

私は突然魔導針に現れた反応を認識するとともに反射的に上官殿を突き飛ばした。

 

上官殿の惚けた表情が目に入る。

ああ、背中に血がべっとりついているではないですか。早く洗わないと上官殿の制服に跡がついてしまう。

 

そんな呑気なことを考える私の腕に、首に、顔に、

イカの触手の様なものが幾十も巻き付くのがわかる。

 

 

ああ、ごめんなさい准尉ちゃん

 

貴方に、姉妹揃って貴方に同じ苦痛を味あわせてしまう、あたしを許して。

 

 

 

 

***********************************

 

あぁー

 

あああー

 

少しずつ青く染まり始めた夜の空。

深淵と形容すべき夜の海に光が満ち始める。

そんな海の孤島で私は虚無になっている。

 

私に口があれば、無為な私の独白があたりに響いていたことだろう

 

いや、どうすればいいんだ?

またあの虚無のデイリー建造くん(うんこマン)製造日々に戻るのか?

ああ、イカくん・・・・

 

そんな無為な思考が私の頭に堂々巡りする。

 

やはり、ひと時の衝動というものは後悔するものだ。

イカくんを失うという絶望が私の心を覆う。

 

そしてもう一つ。

そろそろ威力偵察部隊が帰ってきてもいい頃なのに一向にその姿を見せない。

 

ほら、日が登ってきているのがわかる。

夜の孤島を照らし、朝が来たことを海鳥の鳴き声がそれを知らせる。

 

だが、登る日と逆方向に見えるのは水平線のみ

 

・・・・・・?

あれ・・・・は

 

あれは・・・まさか

 

陽に照らされ見えてくる水平線。

そこに一機だけ見える機影

 

カブトムシの様で・・・触手を生やしている、その機影!!!!

 

イカくん!!!!!!

イカくん!!!!!!生きていたのか!!!

 

私の心の瞳から滝の様に涙が溢れる

 

イカくん!!!ごめんね!!本当にごめん!!君を戦場に出してしまって!!

ありがとう!!帰って来てくれてありがとう!!!

君は私にとっての!!

 

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・ん?

 

え、あの・・・・・・・

イカくん・・・・・

ねぇイカくん・・・・

その・・・触手に絡まってるの・・・・・・なに

 

 

 




*イカ君
大きなカブトムシにイカの触手が生えた様な奇怪な姿のネウロイもどき
基本的な命令は、本体である『私』が望むものを持ってくること

飛行能力はそこそこ高いが、武装はなく、装甲も魔力が付与されていない拳銃ですら容易に貫通する。
だがステルス性能を持っているため、実は生存能力はかなり高い。
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