ネウロイ+デイリー建造   作:haguruma03

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運というものは益にも害にもなりうる。そして唐突である。

運はひょんな時に転がってくるもので、それを運命なんて言葉で言い換えることもできる。

大事なのはその運をどう生かすかだと私は思う。

もしその運がいいものなら、それをうまく生かすことが重要なのだ。

 

そして、いざチャンスが来た時、思い切りが必要だ。

 

 

そう思う私の前には『イカくん』の触手によって四肢を縛られているウィッチがいる。

彼女は現在進行形で洗脳作業中である。

 

そのせいなのか時折、寝言のような声を出す。

「ウッ・・・」や、「ンッ・・・」などの声はどこか蠱惑的で・・・・・・

・・・・・・うん。これ以上の想像はやめよう。なんか戻れなくなる気がする。

 

 

はてさて、この可愛らしいウィッチを捕まえて1日が経過した。

本来ならばこの時間帯は真昼のギラギラとした日差しが私と目の前のウィッチを照りつけているはずなのだが、分厚い雲が煩わしい日差しを防いでくれている。

これは運が良かったと思いたい。もし日が照っていたら今頃目の前の可愛らしい白い肌を持ったウィッチが、可愛らしい肌が焼けたウィッチになっていただろう。

 

それにしても、この可愛らしいウィッチを『イカくん』が連れて帰ってきた時は驚いたものだ。

『イカくん』が連れ帰ったこの子はなんなのだろうと慌て、怪我しているのがわかって、『イカくん』に触手による圧迫止血を命じて、どうしたらいいのか分からなくなってダメ元で上司に連絡を入れてみたのが始まりだ。

 

まぁいつもと同じ「我らが使命を果たせ(仕事しろ)」が帰ってくると思っていた。

 

だが帰ってきたのは、膨大で様々な情報であった。

 

送られてきた情報を簡単にまとめると

この子たちはウィッチといい、私たちの敵である。

そもそも私たちの敵は人間という種族であり、ウィッチ私たちの敵である人間の中の種類の一つである。

そして我々は人類からネウロイと呼ばれているらしい。

 

ウィッチの数は多くはないが、ウィッチは魔法力と呼ばれる我々に致命傷を与えうる毒を持つ。

これにより数多の仲間や『巣』が彼女たちによって倒されているという。

 

ウィッチには、地上型と飛行型の二種存在する

彼女らと戦う場合、小型ネウロイでは単体でウィッチに歯が立たず中型ネウロイからやっと勝負できるようになり、大型ネウロイなら特定個体のウィッチ以外なら倒せる

だがウィッチは単体行動することはなく、ウィッチ以外の人間や他のウィッチとともに行動するため、かなり厄介な相手である。

 

それだけではなく、一部はトチ狂った強さを持っており生半可な個体だと一瞬でチリにされるという。

 

 

だが、厄介ではあるが利用価値もあるという。

ウィッチを捕獲した場合、洗脳して操り人形にしたり、コアと合体することでウィッチの力を自らのものにすることも可能らしい

 

そして、私が捕獲したウィッチは近くの人間たちの基地に住む3人の飛行型ウィッチの一人。

 

だから、そのウィッチをうまく使って敵を殲滅せよ

そう最後に上司は私に教えてくださった。

 

そんな情報を私はもらって、

ほぁーなるほどな、と頷いた。

 

頷いて、思った

 

いや、最初から教えてくださいよ

 

これ知ってたら私、威力偵察する必要なかったよね?

『イカくん』以外全滅したよ?

結構な量の資材を消費したよ?

え?私の今までの努力は?

は?なめてるの?

 

などと思ったが、以後いくら罵詈雑言を上司にぶつけようが、上司から送られてくるのは「いつもと同じ文言(仕事しろ)」のみ

 

その後私は小一時間思いの丈をぶちまけた後、とりあえずウィッチの状態を見ようと『イカくん』に縛られている彼女を見た

 

傷だらけの体。

だがもう傷はふさがっているのか、血は流れてはいない。

しかし、服や足についている機械に生々しい血の跡が付いていた。

 

だが、そんな戦士の傷跡を残してもなお

短く切り整えられた赤毛

綺麗な白い肌、

そこまで大きくない『イカくん』の触手で縛り上げられている小さな体

戦うには若すぎる子供

兵士とは思えないような穏やかに眠る可愛らしい表情。

 

このような姿を見てしまえば、彼女は血で汚れてもなお、美しく可愛らしく、ただの子供であった。

 

私と彼女は同じ種族ではないはずだ。

だが彼女を見ればみるほど、なぜか私は彼女に対して慈愛の念を覚えていた。

 

そう思うと同時に私は自らの思考の中にある思考が浮かんでいることに気がついた。

 

 

『この子を守らなくては』

 

 

それに気がついた時は驚いた。

 

たとえ美しく可愛らしくても目の前のこの少女は敵なのだ。

巣が教えてくれたように、洗脳するか、素材にすることで自らの戦力にするべきなのだ。

 

私がやるべきことは、使命を果たすこと。

これは絶対であり、私も望むことだ。

 

だがその使命を果たすという事柄と同じぐらいに私の思考は『この子を守らなくては』という事柄を重要視している。

 

なぜかは分からない。

 

だが、心の底からこの子は守らなければならないと、この子を守るために私はここにいるのだと、私のあるかも分からない『心』が私に呼びかけてくる。

 

『この子を守れ』と

 

もしかしたら、この『この子を守れ』という願いは私が無くしてしまった記憶に関係する事柄なのかもしれない。

ならば今はこの私の中から湧き出したこの願いに従うのが正解なのではないだろうか?

 

そう思った私はその時に決めた

『ネウロイとしての使命を果たす』『この子を守る』この二つの目的を達成する。

 

二つの目的を達成しなければならないというのは大変なことだ。

だが、そのためにやらないといけないことは簡単。

彼女を保護した状態で再び戦力をため、再び海の向こうの基地に攻め入る。

 

つまりはいつも通りだ。

 

いつもと違うのは、上司が基地の情報をくれたこと。

 

あの基地のウィッチたちは威力偵察の部隊を全滅させる強さを持っているとはいえ、やられたのは所詮偵察部隊。

そんな偵察部隊ですらウィッチ一人を捕まえることができたのだ。

そしてウィッチを一人捕まえたことによって、基地に残るウィッチは二人

つまり敵はそこまで強くないのだ。

 

偵察部隊とは違う本格的に戦闘することを前提とした部隊を送れば、敵の基地を殲滅することができるはずである。

 

前までの訳も分からない敵と戦っていた時とは違う

敵の戦力も敵の数もわかっているのだ

 

情報は手に入れた後は倒すだけである。

 

そうその時の私は結論を下し、心中で大いに笑ったものだ。

 

内心とても愉快だった。

それが目の前にこの子がいるせいなのか、それとも今まで手に入らなかった情報が手にはいったからなのかは分からない。

 

だが、その時の私は『うっかり』を起こしてしまった。

 

その時の私は早速戦力の補給を行う下準備をしようと思い。

いつもと同じように資材の摂取に取り掛かった。

 

だがわざわざ輸送機の残骸を取ってくるのも面倒だったので、一番近くにある金属を食べることにしたのだ。

 

そう、目の前の子の足についている機械のことだ。

イカくんに私の目の前にウィッチを連れてきてもらい、丁寧に足についた機械を私は食べ始めた。

 

結果どうなったか

 

 

数刻後、目の前の子が目覚めた。

そりゃそうだ、気絶してからかなりの時間が経ったからだろう。

 

彼女が最初に目にするのは何か

怪しげな触手に縛られた自らの体

足の先に鎮座するコア

そのコアによって食われていく足の機械

 

逃げることも動くこともできず、足の先から食われていく。

 

私は機械にしか興味がなかったが彼女はどう思ったであろう。

 

それは当然であり必然の答え

 

「いやぁああああああああ!!!!!!食べないでぇええ!!!

 

凄まじい音量の悲鳴が孤島に響いた。

休憩していた渡り鳥がバサバサと声に驚き飛んでいった。

 

私は別に彼女を食べようなんて万に一つも思っていない。私の目的は機械の捕食であり、守りたいと思っている子を食べるような狂気的な愛は持ち合わせていない・・・・・・・はずである。

 

だがそんなことは目の前の彼女には分からない。

 

彼女は全力で叫び暴れた。

頭にアンテナのようなものが現れ、あたりに魔法力を巻き散らかし、体をばたつかせる。

 

だが、その力は弱く、魔法力も心もとない。だがそれでも目の前の食われるという、生物の原初の恐怖が彼女の体を動かしていた。

 

その火事場の馬鹿力のような力は自らの体を鑑みないほどに強く、彼女が暴れるたびに、止まっていた傷が再び開き、縛られているのに無理に体を動かすせいで関節や筋肉が悲鳴をあげているのがわかる。

 

 

このままではまずい、彼女の体が傷ついてしまうと思い、彼女を落ち着かせるための方法を私は考えた結果。

 

早速私は上司から送られてきた情報を使うことにしたのであった。

 

それは、洗脳

 

練習なしの突然の本番。

情報頼りの一発勝負

失敗が許されないぶっつけ本番

 

成功するかもわからないがやるしかないと私が心を決めた時

 

彼女が私を注視するのがわかった。

 

その瞬間、今まで狂乱していた彼女の動きが止まった。

まるで信じられないものを見るかのように、呆然と私を見た。

 

何を見たのかはわからない、だがその瞬間を私は好機と見て洗脳を開始した。

 

すると彼女はまるで、逢いたかったものに手を伸ばすかのように腕を私に向けて眠りについた。

本当、よくうまくいった。ホッとしたものだ。

 

 

そんな日々のことに思いを馳せ、私は目の前の少女を改めて見る。

「ンッ・・・・」や「アッ・・・」と口から声が漏れ悶えてはいるものの眠っている彼女の表情は穏やかであった。

 

彼女は今夢を見ている。

彼女が望む夢。

それは彼女の姉と共にのんびりと日常を暮らすというものであった。

 

今私は彼女の夢の中で、彼女の姉の姿を借り、彼女の意識を深く深く夢の底へと落としていっている。

 

彼女の姉の姿を借り、彼女の姉を演じるのは思いのほかうまくいった。

彼女の姉の姿を借りるのは何故かしっくりきた。

そのお陰か、夢の中の()を彼女はまったく違和感を覚えることなく私に甘えて来たのだ。とてもかわいい

 

そして彼女は今、とても幸せな日々を夢で過ごし、夢から離れられなくなっていっているのがわかる。

 

カールスラントの平原に立つ小さな家。

そこで二人で住む姉妹。

穏やかで誰にも邪魔されない永遠の優しい夢

そんな夢の中楽しく二人で暮らしている。

朝は散歩をして、昼はお仕事、夜はゆっくりと家で過ごす。

そんな普通の生活。

 

このままゆっくりと眠っていってほしいと私は心から思う。

 

また私のところに来た時のように傷つくのは嫌だし、それにこんな可愛い彼女には戦って欲しくないからだ。

 

そう、彼女を、この子を私が守らなくてはならないのだ。

この可愛い子を。

 

私はそう思い、洗脳と並列して作業を進める。

 

建造で消費する資材料は前回の強行偵察部隊を作った時よりも多く。

もはや、後のことは考えない。

前回の強行偵察部隊とは比較にならないほどの兵力を整える。

それに加えて極端に一部の資材の量を増やしエース機を作る。

この部隊が負けたら身の破滅を覚悟する量の資材をつぎ込む。

 

残る資材を全て使う勢いだ。

 

こんなことをする理由は一つ。

 

早く叩かなければ、とらえたこの子を取り返しにウィッチが来る。

私にはわかる。この子を取り返しに『あの人』が来る。

『あの人』が誰かはわからないし、なぜそんな事を考えてしまうのかは分からない。だがわかるのだ。

 

これもまた私の無くした記憶によるものなのだろう

だから先に叩き潰さなくてはならない。

 

今、夢の中で()に甘えるこの子。

私と同じ思考するのが好きで少し内気なこの子。

大人しそうで実はやんちゃなこの子

私に甘えたがりなこの子

めちゃくちゃ可愛い私の妹

 

この子を再び戦わせてはいけない

 

この妹は私が守るのだ。

私がこの可愛い私の妹を守るのだ。

 

だから、今日のデイリー建造は制限なし!

大盤振る舞い!!資材大出荷!!自暴自棄!!

くらえ!今までにないぐらい資材をつぎ込んだこの建造!!

今までのチマチマとしたしみったれた建造とはちがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

なんで!デイリー建造くん(うんこマン)なんだよ!!最後ぐらい決めさせてよ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

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カンカンッという階段を降りる音が先ほどまで静寂に包まれていた階段に響く。

一人の少女が薄暗い階段を、ランタンを片手に降りていっていく。

彼女の制服に縫い付けられた階級章から彼女が曹長であることがわかった。

 

彼女は迷いなく薄暗い階段を降りていく。

石やレンガでできた中世の建物のような内装。あかりは彼女の持つランタンのみ。

彼女ぐらいの年頃の少女なら少しは怯えそうな薄暗さだったが、曹長は気にした様子もなくはっきりとした足取りで下に降りていく。

その表情はまるで人形のように無表情であった。

 

そしてある程度降りたところで立ち止まる。

階段の先、そこには部屋があった。

鉄格子によって区切られた部屋。地下牢がそこにあった。

そして地下牢の中には見るからに固そうなベッドとボロボロの机と椅子。

そんな椅子に座り顔を俯いている一人の女性の姿があった。来ている服はブリタニア軍服。肩に貼られた階級章は少尉である。

 

その姿を確認した曹長は、はぁとため息をついた後、先ほどの無表情が嘘のようにこやかに笑い鉄格子の前まで近づき足元にランタン置いた。

 

「随分なところにぶち込まれましたね少尉!!」

 

 

声をかけられたことでやっと気がついたのか、少尉が顔を嗅げる。

その瞳は淀み、表情は絶望に彩られていた。

少尉は曹長を認識すると、諦めたかのように皮肉げに笑う

 

「よくここがわかったな曹長・・・」

 

「秘密の通路の秘密の地下牢なんてどこのファンタジー?って感じでしたようもう!古い建物を基地にするのも考えものですね!平面図の入手に時間がかかりましたよ!!」

 

そんな溌剌とした笑顔をした曹長に少尉は視線を合わせ、諦めたかのように皮肉げに笑う

 

ここはこの基地の隠された地下牢

元々、放棄された古城だったものを改築して基地にしているためこういった隠し通路や隠された部屋などはいくつか存在している

 

この地下牢もその一つであり、少尉は基地司令達によってこの場所に捕まっていた。

 

少尉が収監されている表向きの理由は命令違反と上官暴行による懲罰である。

 

基地司令は少尉が再三申請した他の基地への救援要請と『定期便』の情報共有の嘆願を否決し、それが准尉が敵に捕まったという緊急事態が起こってもなおその考えを変えることはなかった。

それだけではなく「唯の雑兵一つに我ら派閥を危険に晒す必要がない、どうせあのMIAになった雑兵は死んでいるだけだろうし、救援なんぞ時間の無駄、それよりもこの事が問題にならないように工作する方が大事である」と言う言葉を彼は笑いながら吐いた。

 

その言葉は今までこの基地を守って来た准尉への裏切りであり命を張ったものへの裏切りである。

守るべき部下を守れなかった、逆に守られてしまった少尉にその言葉は禁忌であり、残虐非道のネウロイに捕まった准尉が生きている可能性がほぼない事実を突きつけるその言葉を耳に入れた時には、いつの間にか自らの拳が基地司令の顔面に突き刺さっていたのだ。

 

少尉は分かっていた。この基地がこの基地の上層部の人間達がそういった存在であるということを。

少尉は分かっていた、MIA、作戦行動中行方不明の意味を。

なぜなら今回MIAになった彼女の姉もMIAとなっているからだ。

 

そうして自分は懲罰の名目の元ここに監禁されている。

基地司令からしたら自暴自棄を起こして他の基地にこの基地の罪を知らせるのを防ぐための処置だろう。

あの基地司令もわかっているだろう、私が守ろうとしていた彼女の安全が彼らに協力する条件だったのだから。

それがなくなれば、それは自暴自棄にもなる。

だからこそ、こうやって私を一部のものしか知らないこの場所に監禁したのだ。

 

 

そんな監禁場所にあっさり来ているこの目の前のブリタニア軍曹長の少女。

曹長の正体は自ずとわかる。

 

 

「そんな古い建物の平面図を見つけれるなんて優秀じゃないか、さすがはMI6だな」

 

少尉の確信を持った答えが口から放たれた。

 

「あれ?気がついていたんですね。お褒め頂きありがとうございます」

 

その答え、自らの巣穴を言い当てられる答えを聞いてもなお曹長は笑顔の仮面を外さず笑い続け、まるでお姫様のように、わざとらしくお辞儀をする。

少尉はその笑顔をじっと見つめた後、飽きたかのように苦笑を漏らした。

 

気がついたのは最近のこと、『定期便』が出はじめた頃。

曹長に怪しい動きが増え、飛行訓練ではまるで一瞬で成長したかのような熟練の飛び方をはじめた頃。

曹長はおそらくわざと私に示したのだろう。理由は察することができる。

それなのに、まるで正体がばれたかのように語る曹長は本当にいい根性をしている。

 

 

その様子はじっと曹長は見つめながら口を開いた。

 

「それにしても少尉!随分派手にやりましたね!!上官の顔面をぶん殴るなんて!!基地司令の鼻がもうめちゃくちゃですよ!」

 

そう彼女はいうと、自らの鼻に手を伸ばして引っ張り変顔を少尉に見せる。

そんな道化の仕草に苦笑を続けながらも少尉は答えた。

 

「鼻だけで済んだか、もっと私に筋力があれば、鼻だけでなくあいつの脳みそも一緒にぐちゃぐちゃにしてやりたかったがな」

 

少尉はそう語り腕をふるう。薄暗さに隠れてはいたがよく見ると拳は赤く腫れていた。

魔力も使わず、腕の保護もなく人間の顔面を殴ればその拳も無事では済まない。

痛々しくその拳は腫れているものの少尉はそんなことを気にしていなかった。

痛みはあれど、少尉にとってはそんなことどうでもよかった。

守るべき部下、戦友から託された妹を守れなかった、死なせてしまった今の自分には痛みなんてどうでもよかったのだ。

 

そんな気力の抜け落ちた少尉を気にせず笑顔の道化は、大振りにハンドジェスチャーと大袈裟な反応をしながら会話を続ける。

 

「おー!!随分と物騒なことを言いますね!処罰が重くなりますよ?」

 

「構わんさ。私の『定期便』に対しての警告を無視し、准尉の救出を邪魔し、それどころか私が他の基地に救援を求めるのを防ぐために私のユニットを破壊するようなクズだ。あんなクソ野郎を罵倒しぶん殴って処罰されるなら私は喜んでその処罰を受けよう」

 

少尉は諦めたかのようにそう語ると脱力し椅子にもたれかかった。

 

その姿は自らの部下である准尉と共にいた少尉、もとい上官殿の姿とはかけ離れている。

今ここにいるのは准尉が憧れた格好のいい軍人ではなく、全てを諦め全てを絶望し、もはやのぞみのなくなった奴隷のような死んだ表情をした一人の女性であった。

 

「随分とやさぐれちゃっていますね!でも少尉もわかっていたことでしょう!この基地のことをよく知っている少尉なら!」

 

曹長はそんな様子を気にせず語り続ける。

その表情は先ほどと変わらず笑顔である

 

そんな仮面のような笑顔を気にせず少尉は薄暗い天井を見上げ会話を続ける。

 

「まぁな。この基地は終わった派閥の尻拭いと罪から逃げ続けている」

 

「なら何故わざわざ答えがわかっていることを基地司令に聞いたんですか?」

 

そう曹長は聞くと、少尉は再びため息を吐く。

だがそのため息は今までのため息とは違う。心の底からの後悔による息であった。その一息の呼吸に彼女の深い後悔が染み付いていた。

 

ため息ひとつのわずかな時間。だがその時間は短いはずなのに何故か長く、そして重く聞こえる。

 

一テンポおいてから少尉は後悔を言葉にして口にした。

 

「見誤ったんだよ」

 

「見誤った?」

 

「派閥のトップのマロニーが捕まって、マロニーの洗い出しは始まっているんだ。いつかはこの基地まで捜査の手が伸びるのはわかりきっていた。ウォーロックの実験場だったここに手が伸びないわけがない。ここの基地の連中も全員わかっているはずなんだ、逃げれるわけないって。なのに、他の基地と関わらないようにして、この基地の情報を出来るだけ外に出さないようにして、影が薄いように振る舞って、隠れて、そうしてここまで罰を先延ばしにするなんて考えていなかったんだ。」

 

「全くですよ。おかげでこっちまで面倒な仕事をさせられているんですから」

 

「それはご愁傷様だな。」

 

曹長のやれやれというハンドジェスチャーに対して、心のこもっていない気遣いが少尉の口から溢れる。

そして続いてその口から少尉の懺悔と後悔が紡がれる

 

 

「で、だ。『定期便』が来た時はさすがに観念するだろうと思ったんだよ。小型が海を渡ってくる?バカを言うな、ネウロイは水を嫌う。大型や中型でもなければ海は渡れない。もし小型で渡れるなら、今頃扶桑やリベリオン、ブリタニアは大騒動だ」

 

ネウロイは水と低音を嫌う

だからこそ人類はネウロイの進行を止めることができているのだ

もし水を嫌うことがなければとっくに欧州はネウロイの手に落ち、リベリオンも扶桑もただでは済まなかったであろう。

大型か中型でなければネウロイは海を越えられないのだ。

 

そんなわかりきったこと一般人でもほとんど知っており、軍人ならなおのことだろう。

 

ならばだ。

 

「なら何故、『定期便』はこの基地に来ることができたのでしょうか?」

 

曹長が疑問を投げかける。

少尉は呆れた顔をしながら曹長の顔を伺う。

その表情はまるでクイズを投げかける子供のような表情。つまりは曹長は答えがわかっていることを聞いている。

 

なぜそんな無駄なことを聞くのか?何故会話を続けようとしているのか?少尉はわからなかったが、もはやどうでもよかった。

少尉は曹長の無駄話に付き合おうと思考し口を開く

 

「そんなの簡単だ。近くに小型を運ぶやつか小型を生み出すやつ。最悪のパターンは近くに巣ができている」

 

そう、それしかありえない。

だがもしそうならば、緊急事態である。

この基地はネウロイに襲われることがほとんど無い場所。そんな場所に小型ネウロイを撒き散らす敵が現れるのだ。

人類からしたら予想外の場所からの襲撃。下手をしたら致命傷になりかねない。

 

なのにだ

 

「なのに、この基地の連中はそんな状況に目をそらし、他の基地に『定期便』の情報が漏れないようにしてまで、まだ罪から逃げるなんてな。しかも最後は自らを守るはずのウィッチのストライカーをぶっ壊してまでだ。そして地下牢にそのウィッチをぶち込む。笑えるだろ?」

 

そう少尉は言うと笑い始める。

かすれた笑い声は薄暗い地下牢に響き渡る。

それにつられて、クスクスと曹長も笑う。

溌剌とした声と死んだ声が地下に響く。

 

他に人がいればこの状況は異常に見えたであろう、だが二人の少女は気にした様子もなく笑う。

 

「俺は、あいつに頼まれたのに、守ると誓ったのに、マロニー派閥に入ってまで、戦場に妹ちゃんを出さないようにしてたのに、ウォーロックがあればウィッチが戦わなくて良くなると思ったのに、ウィッチの仲間たちを裏切るような真似までして、軍人としての誇りも自分の信念まで曲げたのに、結局死なせて・・・・はははっ」

 

断片的な声が少尉の口から漏れる、

それは少尉にとっての悔いであり懺悔であり、自らへの憎しみであった。

今この場に自殺するための道具があれば少尉はすぐに大罪人である自らの頭を撃ち抜いていたかもしれない。

だが少尉はそれをやりたいがしないだろう。

彼女には自らの罪の自白という、行わなければならないことが残っているからだ。

自らは一つのことを守るために多くの罪を犯した。

ウィッチ否定派のスパイとして動く罪

ネウロイのコアを使った禁忌の兵器であるウォーロックを知って、その禁忌に手を貸した罪

それは一人の子を守るためであったが、最後に残ったのは罪のみ。

ならば、その罪の清算だけは行わなければならない。

 

だから少尉は笑う。

それはもはや終わってしまったことへの諦めの笑い

守るものを失い罪だけ残った笑い

少尉はそんな笑い声をあげ曹長を見る。いや視線は向けてはいるがその瞳に光はなかった。

もはや気力というものが抜け置いていた。

 

ここにいるのは軍人ではなく一人の少女であった。

 

あまりに痛々しいその姿を曹長は笑顔の無表情で見つめる。

そしてランプの明かりを消した。

 

明かりひとつない中、愚者の笑い声が響く

それはまるで聖書に書かれた煉獄のようであり、ひどく虚しく愚かであった

 

 

「准尉助けられますよ」

 

だがその笑い声は一つの声で止まる。

その声は先ほどまでの溌剌とした声ではなく無機質な感情ひとつこもっていない小さな声。

だがその声は希望に満ち溢れていた。

 

少尉はその声を聞き思考を停止していた。

 

夜間に敵に捕まった新人ウィッチ

もはやどこに連れ去られたのかもわからない

そして自分のストライカーは基地の連中によって壊されている。

なのにこいつはなんと言った?

 

様々な思考が少尉の頭をめぐる。その頭に畳み掛けるように無機質な声が響く

 

「先ほど、他の基地のナイトウィッチが准尉のSOSと座標を捕らえました。まだ准尉は生きています。まだ失っていません」

 

 

ガシャン!という金属音が辺りに響く。

曹長は真っ暗の中見えないが、その音が檻の中にいる諦めていたものが鉄格子を掴みこちらに迫ろうといる音だと容易に想像できた。

 

「それは!本当なのか!」

 

少尉からの声、信じられないような、それでも信じたいような声。

曹長はそんな声を無視して口を動かし続ける。

 

「少尉のストライカーは壊れていません。少尉は一人でかかえこみすぎで人を信じなさすぎなのです」

 

「信じ・・・なさすぎ?」

 

何をいわれているかわからない声が暗闇に響く

 

曹長はその声を聞き内心ため息をつく。

この女は本当ダメな女だ。

ウィッチに憧れと誇りを持っていたくせに、自らの相棒が託した妹をどんな手を使っても守ろうとして、トレヴァー・マロニーの反ウィッチ派閥のスパイになった。

反ウィッチという歓迎されない派閥で、本来なら自らが愛し誇りに思っているウィッチ達のスパイをするという自己矛盾。

それを抱えながらマロニーが進めていたウォーロックというウィッチの代わりになるはずだった兵器に希望を持ち、ウォーロックが開発成功すればウィッチは、相棒の妹は戦場に出なくて済むと思い、ウォーロックの開発を手伝い、そしてそれと同時進行で託された妹を鍛える。

調べる限りマロニー派からは酷い仕打ちを受けているはずなのだ、なのに彼女はそれに耐えた。耐え従順に命令に従った。

ウォーロックがウィッチの希望になると信じて。

だがその裏でマロニー派の様々な証拠を集め保管していた。

ウォーロックが完成した後に自らを裁いてもらうために

 

それらをこの女は全部一人で行ってきた。

 

どこかで誰かに助けを求めればこんなことにならなかったであろうに、いなくなった相棒は彼女に一人で妹の面倒を見てくれとは言わなかったはずなのに、

妹が戦わなくなれるような世界を作ってなどと言わなかったはずなのに

全部一人で解決しようとしたバカな女だ。

 

だが、そんなバカを私は羨ましく思う。

 

私と違い誰かのためにここまで必死になれる人を私は羨ましく思う。

 

私はこんなバカが救われるのを見るのが好きだ

だから本来こんなしなくてもいいことに時間を費やすのである。

 

 

曹長がそう思言った時である。

 

ガコンという音が響くとともに石が擦れるような音が響く。

「な、なんだ?」

少尉の困惑した声が聞こえる

 

それに対して曹長は答えた

 

「言ったじゃないですか、この建物の平面図を手に入れたって」

 

そんな曹長の声とともに再び地下牢に明かりが差し込まれた。

 

地下牢の壁、それがまるで扉のように開いていく。

そして扉の先にはツナギを着てランタンを持った幾人かの男がいた。

 

「整備班のみんなー!遅いですよー!」

曹長の声と共にやって着た男達、この基地の整備班を出迎える。

 

「うるせぃやい!こちらとら冒険家じゃねーんだぞ!」

「隠し通路って本当にあるんだな・・・」

「入り口探すの大変だったんだぞ!」

「少尉殿!助けに来ましたぜ!」

「曹長ちゃんが鍵をなくさなければこんな通路使わなくてよかったんだよ!」

「そうだ!そうだ!」

 

男達がブーブーと曹長に口々に文句を言い、先ほどまで静寂が支配していた地下牢が一気に騒がしくなる。

 

そんな状況に、何が起こったのかわからないと少尉は目を白黒させる。

 

 

本当仕方のない人ね

 

「少尉!基地司令はあなたの敵ですけど、この基地のみんなが敵なわけないじゃないですか!」

「そうだ!誰が今まで面倒見て着たストライカーをぶっこわせなんて命令聞けるか!」

「当たり前だよなぁ!」

「森の方に少尉のストライカーは隠してあるので安心してください!

「整備も万全ですぜ!」

 

地下牢が騒がしくなる

それは夢のようで現実であった。

まだ、終わっていなかったんだ。

少女はそう思うとひとしずくの涙が頬から落ちる。

 

その様子を見て曹長は最後のひと押しをする

 

「今からこの基地に対して一斉捜査の名の下にウィッチの増援が来ます。おそらく基地司令は最後のあがきをするでしょう。ですがそんなことはあなたにとっては今はどうでもいいこと。それよりも外に私の協力者を待たせています。彼女らとともにお姫様を救出に行ってください」

 

そう語る曹長の表情は笑顔。だがいつもの溌剌とした笑顔ではなく優しく柔らかい笑顔であった。

 

様々な声が先ほどまで絶望し諦めていた少女の耳に入り心に染み渡る。

まだ終わっていない。その確信が彼女の冷え切っていた心のエンジンに火を灯す。

 

少女は頬を伝う涙を振り払い、軍人に戻った。

 

「ありがとう。みんな感謝する」

そう軍人は言うと整備班に連れられて隠し通路に入っていく。

一歩踏み出そうとした少尉は、ふと途中で足を止めた。

周りの皆がその行動に疑問に思う中、少尉は曹長に振り返り、少し悩んだ後口を開いた

 

「そういえば曹長。今先ほど、整備班のものがお前が鍵をなくしたと言っていたが?」

 

「うぇ・・・」

その問いに対して曹長は先ほどまで変わらなかった笑顔を初めて歪める。

 

それとともに整備班達が次々に声をあげる。

 

本来なら曹長が鍵を開けてそのまま外に出るはずだったと、だけどうっかり鍵をなくしてしまったせいで隠し通路を使って救出する羽目になったと。

 

 

口々に聞こえる曹長のポカに対して、曹長は顔が赤くなっていく、その様子があまりにおかしかったのか少尉が笑う。

今度の笑いは先ほどまでの乾いた笑いとは違う、明るいいつもの笑い声であった。

 

「よし曹長、帰ったら詳しく聞かせてもらうぞ」

「えー!勘弁してくださいよ〜!」

 

曹長と少尉は顔を合わせ笑い見つめた後。

互いに背を向けた

 

「行ってくる曹長。留守は任せた」

「基地は私に任せてください少尉。お二人の帰還を祈っています」

 

二人はそう言うと、互いに走り始めた。

互いのやるべきことのために

 

 

 




*曹長ちゃん
MI6に所属する一人。幼く見えるが童顔なだけで実は結構なベテラン
普段は溌剌とした元気な子供のように見えるが、それは彼女の多様な表情の一つ。
どれが本当の彼女なのかはわからないが、一つわかることは彼女はMI6に向かないほど感情的で仲間思いが強い人間であること。


*整備班のみんな
政治ごとには全く興味がなく、関わらないようにしている整備第一な人たち。
毎日黙々と同じ基地のウィッチ達のストライカーユニットの整備をしている。
最初は整備しか興味がなかったが、毎日頑張るウィッチ達を実は微笑ましく思っていた。
そんな中、ウィッチ達が愛用しているユニット壊せなんて言われたらキレる。
少尉ちゃんが地下牢に閉じ込められたことを曹長ちゃんに聞いた時はクーデターが起こりそうになったぐらい。
ちなみに曹長ちゃんの正体は知らないけど、なんとなく察してはいる。だけどわざと無視している。

*ウォーロック
かっこいい
(出自:アニメ〜ストライクウィッチーズ〜1期)

*トレヴァー・マロニー
鍋に入れると美味しい。
声優が秋元羊介さんであることをこの頃知った
第一期見返そうかな
(出自:アニメ〜ストライクウィッチーズ〜1期)
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