全4話の予定でしたが全5話になりました
月明かりが一切見えない曇天の空。
本来なら光ひとつ見えないはずの夜の一時。
そんな夜を眩い光が彩る。
夜空ではビーム光線やらマズルフラッシュが星々のように瞬き、地上ではキャンプファイヤーのように基地が赤々と燃えていた。
そんな夜の馬鹿騒ぎを引き起こしているのは、何十もの小型ネウロイと幾人かのウィッチであった。
空を飛ぶウィッチ達がロッテ編隊2個による4機編隊であるシュヴァルムを組み、次々にネウロイ達を夜空から叩き落としていく。
だがネウロイの数は膨大で、そしてやすやすと落とされてくれるようなボーナスバルーンではない。
その数を生かした多方面攻撃でじわじわと空で戦うウィッチを追い詰めて行っているのが見て取れる。
そんな戦場の中、一人のウィッチが超低空飛行で数多の小型ネウロイを引き連れていた。
背中にトレンチガンを背負い、同種のトレンチガンを構え、地上を這うように飛ぶウィッチ。
燃え盛る基地の中、建物や瓦礫をうまく盾にして、多勢に無勢な状況を持ちこたえている。
また低すぎる高度によって、時折ネウロイが地面に体を引っ掛け土埃を上げながら派手に自滅していく。
それを流し目で見ながら、曹長の階級章をつけた一人のウィッチ、曹長は自らの獲物であるトレンチガンのリロードをして思考する。
後ろに見えるのは、まだまだ数が減ったようには見えない小型ネウロイ、『定期便』の群れ。
その種類は様々、だが今まで出会ったどの定期便達よりも性能がいいのは見て取れ、こうやって手加減抜きで全力飛行しているのに遅れることなくついてきているのがその証拠である。
そしてその攻撃もいつもの豆鉄砲ではない。
そこまで考えたところで曹長はすぐに横に体を傾けた
すると後ろからいくつもビームが夜を彩り始める。
小型特有の実弾攻撃ではなくビーム兵器。
後ろを追ってきていた小型ネウロイ達による一斉攻撃だ
多勢に無勢な攻撃。
そんなネウロイ達の攻撃を曹長は、地面スレスレであるにも関わらずエルロンロールやバレルロールを駆使して避ける。
はたから見ていたら今にでも地面に当たりそうな曲芸飛行。だがその動きは洗練されており、真下に地面があるのにも関わらず地面にカスリもしない。
ある程度後方からの攻撃を避けたところで彼女は体を後ろに翻した。
頭が地面に向き足が天に向いた状態
そして腕には自らの獲物。
曹長に攻撃が当たりそうになるがその全てがシールドによって始まれる。
そのシールドを突き破ろうと、小型ネウロイ達が攻撃を苛烈にしようとしたときにはすでに、曹長の持つ獲物はネウロイをとらえていた。
とっさに小型ネウロイ達が避けようとするがもう遅い
曹長はニヒルに笑い引き金を引く。
「BANG!BANG!」
曹長の声とともにトレンチガンから12ゲージのショットシェルが放たれる。
発射されたおびただしい数の散弾が追ってきていたネウロイにばらまかれ、瞬時に何体ものネウロイ達に直撃する。
その瞬間まるで榴弾が爆発したかのように小規模かつ大量の小さな爆発がネウロイを包み次々と白いチリとなって行くネウロイ達。
これが曹長の固有魔法。『起爆』
自身の魔力を付与した弾丸が着弾した瞬間小規模の爆発を起こさせるという殲滅に特化した優れもの。
トレンチガン、つまりは散弾銃との相性は抜群で打てば、その実包(ショットシェル)の中に入った大量の小さな弾(散弾)一つ一つが小さな爆弾に早変わりする殲滅兵器。
多数の小型ネウロイを殲滅するにはめっぽう強い
だが数は暴力である。仲間を盾にして後ろから次々と新たなネウロイが次々に姿を表す。
そんな死にたがり達を歓迎するかのように曹長は愛用のトレンチガンで死にたがりの彼らに散弾のプレゼントを渡して行く。プレゼントを渡されたネウロイ達は爆炎とともに次々に白いチリとなり消える。
そんな様子を見て曹長は小型の撃破数だけ見れば今日だけで荒稼ぎ出来るのでは?なんてことを考えるが、自らの所属ゆえに公式にこの撃墜数は認められないとすぐに諦め、再び体勢を立て直しトレンチガンのリロードとネウロイとの鬼ごっこを再び始める。
後ろから付いてくるネウロイ達を目に留めながら、曹長はついでにあたりを見渡した。
もうこの基地はしっちゃかめっちゃかである。
先日まで住んでいた我らの基地はすでに真っ赤に燃え上がり、瓦礫まみれだ。
幸い、必要な書類や証拠はすでに持ち出しているし、避難はすでに済ませているし、同僚MI6の部隊が基地司令達を捕らえているから問題ないのだが、本当にひどいもんだ。
それもこれも、先ほど襲撃して来た定期便のせいである。
本来なら基地司令達を捕らえるだけの作業が、まさかの『定期便』達の大軍勢。しかも今までの『定期便』よりも、多い数と強さを持った今回の『定期便』
もしものためと、他の基地のウィッチに来てもらっていたから助かったが、もし救援を呼ばずこの軍勢を一人で相手していたなんて想像すると背筋が凍る。
まぁ結局、私の飛び方と武器が武器なので結局一人で戦うハメになるのだが。
低空飛行での曲芸飛行が好きで、しかも愛用の武器がレバーアクション式の散弾銃という自らも納得する奇知なウィッチ。
即席のロッテなんて組んだら、仲間が地面とキスしたり、仲間を誤射する自信がある。
というかこの基地に来る際に偽造で出した経歴書、その誤射の経歴だけは本当なので確実に誤射する確信がある。
ならば武器を変えればいいかもしれないが、どうしてもこのトレンチガン以外だと調子が出ない。おかげでずっとこの武器を使い続け、同僚から「トレンチガンマニア」やら「リベリオンかぶれ」などと揶揄されたほどだ。
「トレンチガンマニア」はいいが「リベリオンかぶれ」は酷言い草である。まぁ確かに使っている武器がリベリオン製の最も人気のある散弾銃でそれを嬉々として延々と使って給料叩いてまで収集しているせいなのだろうが。
武器ぐらい好きに選ばせてほしいものだ、一部では投石機やサムライソードで戦っているウィッチもいるぐらいのなのだから。
そんなどうでもいいことを曹長は考えていると、突然前方に小癪にも先回りをして待ち伏せしていた『定期便』が現れた。
それと同時に後ろから明確な殺気を感じる。
なるほど、追いかけ回しているだけだと拉致があかないから挟み撃ちに切り替えたか。
待ち伏せされているところを見ると私の逃げる進路を誘導されていた?
そう思い曹長は感心する。
やはり前までの『定期便』とは違う。今回の『定期便』達は連携が取れており作戦を駆使して来る。
確かに厄介だ。
頭を押さえられては速度を落とさざるをえず、速度を落としては後ろの攻撃で穴だらけ。
ターンを行おうにも、結局前後ろの敵が変わるだけで意味がない。
そして上に逃げようなら障害物がなくなり、一人で戦う私はすぐに数の暴力で押しつぶされるだろう。
そう曹長は考え笑う。
『定期便』のそのあまりのお粗末な考えに、甘く見られた自身に
そんなお粗末な連携でやられるほど私はやわじゃない。
曹長は右手でトレンチガンを構え、左手で背中のトレンチガンを取り出し同じように構える。
「BANG!BANG!」
曹長の掛け声とともに二丁のトレンチガンが火を吹き、正面のネウロイ達を駆除する。
一丁でさえ過剰な火力。それが二丁にも慣ればどうなるか想像は容易い。
一瞬のうちに正面のネウロイ部隊の多くが爆炎に飲まれてチリとなっていく、流石にこの攻撃だけで正面の全てのネウロイを倒すことは不可能だ、だがそれでも敵部隊は半壊、生き残っているネウロイも半壊か、爆風で態勢を崩してすぐには動けない。正面の部隊から走り抜けるなら今しかない。
しかし、頭を押さえられたこととトレンチガンの反動で飛行速度を落としたことで、その隙を狙われ後方のネウロイ達に曹長は狙いを定められた。
このまま悠長にトレンチガンの弾を込めていてはリロードが間に合わず穴だらけ。シールドで後方からの攻撃受けようにも、後ろの攻撃を受けているうちに態勢を立て直した正面方向の敵に攻撃され、結局は穴だらけ。
詰みに近いこの状況
だがこの状況は曹長も予想済みであった。
曹長は両手に一丁ずつ持っているトレンチガンを、銃のレバーに指をかけたまま、その指を支点にしてくるりと回転させリロードを完了させ、すぐさま背面の敵に対して向けた。
スピンコックと呼ばれるレバーアクションの特殊射法。別名スピンローディング。
銃を片手のみで構え、発射後に片手のみで指をレーバー部のループに入れたまま銃を一回転させてレバーを動かし、装填する方法。
それを両手で同時にやる理外な曲芸。
ネウロイはその理外であり早すぎるリロード速度に適用できず個々に回避運動や、打たせる前にレーザーを打とうとする。
だがその動きのどれもが遅い。
「BANG!」
曹長のおきまりのセリフとともに後方に多数の花火を咲かせた。
二度目の二丁のトレンチガンによる殲滅射撃。
追って来ていたネウロイ達はたまらずその攻撃により半壊していく。
それを曹長は確認するとすぐにその場を離れる。
あのまま頭を潰した追っ手のネウロイを追撃した方が後々が楽になるのだが、曹長はそれができなかった。
理由は自らの利き腕の人差し指の痛み
曹長は左腕に構えていたトレンチガンを再び背負い、利き腕である右手に目を向ける。
するとそこには先ほどスピンコックを行う際に視点にした人差し指が赤く腫れ始めていた。
おそらく飛行中に無理に行ったのが原因だろう、下手したら折れている可能性がある。
スピンコックは片手で高速にリロードできる技ではあるが、その技は銃を痛め、慣れていなければ指に強烈な負荷がかかり、下手をすれば銃を肩や顔にぶつけて地獄を見る。
昔宴会芸で練習した技だが、もっと練習しておけばよかった。
そんなこと曹長は内心後悔しながらトリガーを引く指を腫れた人差指から中指に変えた。
多数の『定期便』達は倒されてはいるもののまだまだ敵の数は多い。
上層部に救援は出しているため近いうちに救援は来てくれるだろうが、それが一体いつ来るのかもわからない。
そんな時、インカムから声が聞こえる。
上空で戦っているウィッチの声だ
「敵多数の援軍を確認!!種別は全機小型!!数は20を超えています!」
そんな最悪な報告に曹長は苦笑いをする。
これならもっと弾を持って来るべきだった。
最初の目的どおり、基地司令の罪の証拠や基地司令を確保してさっさと逃げればよかったかもしれない。
そんな思考が頭の中に浮かぶが、曹長の胸には一つも後悔がなかった。
曹長は残弾を確認する。
まだまだ、戦える。
そう確認して、後ろから再び迫る『定期便達』目を向けトレンチガンを構える
脳内に浮かぶはクールに見えて少尉にべったりで少し変態的な准尉、戦友から託された妹のためになんでもするヤンデレが混じってそうなバカな少尉、そしてそんな少尉の道案内を託した銃を撃つのが死ぬほど下手だが、逃げ回り隠れることならトップエース級の同僚の双子
まったく、自分の周りにはろくなウィッチがいない。
だが、それがその事実が曹長にとって、とても愉快だった。
「さーて、王子様。こんだけ『定期便』をこっちで惹きつけているんです。さっさとお姫様連れて帰って来てくださいよ?こっちは思ってた以上の貧乏くじです、よっと!!」
その誰にも聞こえぬつぶやきとともにトレンチガンから散弾が発射された。
BANG!BANG!
そんな銃弾の音が響き合う、赤々と照らされた夜に起こるネウロイとウィッチの殺し合い。
それが終わりはまだ見えない。
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薄く聞こえる小さな波の音以外聞こえない夜の海。
雲が空を覆い、月明かりすらない漆黒の海。その上空に一人ウィッチがいた、
そのウィッチはまるで墜落するかのように頭を下に足を上に向ける。
意識を失ったのか?
否
足にはめたストライカーユニットは回り続けている。
つまりは意図的行為。
そう、一人のウィッチが地上に向けて一直線に急降下を開始した。
月光すらない漆黒の空。明かりという道しるべが存在しない空を、そのウィッチは手に持ったブレン軽機関銃を構え、ストライカーユニットのエンジンを全力で回し、一切のブレーキをかけず直下に翔ぶ。
地面や海に落ちたら即死。迫り来る落下死。
そして明かりひとつないためどこまでが空でどこからが地上なのか検討もつかない。いつ激突し死ぬかもわからない死へのチキンレース。
そんな死への恐怖を本来なら感じるべき凶行を行うウィッチ、だがそのウィッチには、少尉にはそんなもの存在しなかった。
その理由は二つ。
一つはこの暗黒の空を少尉は目ではないモノで正確にとらえていた。
それは少尉の頭には魔法で作られた一つのアンテナ
レーダー魔導針。
今のナイトウィッチのほとんどが使う夜の目。
レーダー魔導針は本来ならばウィッチ固有の能力だったが、1943年初秋にカールスラントが開発したレーダー魔導針をユニット側で擬似的に発現・増幅するシステムが開発された。そのため少しでも適用があるものはシステムが入ったユニットさえあれば,
レーダー魔導針を使えるようになったのだ。
そんなシステムが入ったユニットを少尉は愛用している。
昔から使っていたのではない、近年使い始めそして愛用し始めた。
その理由と、垂直落下という凶行を行う理由は同じもの
戦友から託された、戦友の妹にナイトウィッチの適性があったため、つまりは『戦友の妹を守る』という理由である。
この理由、いや使命は少尉の心をいかなる時も支えている。
この胸中にある一つの使命感が恐怖など感じさせない。
ほとんど暗闇で見えない中、確実に地上に向かって突き進む。風切り音が聞こえエンジンの振動が体を揺らす。
激突するという危機感がガンガンと脳に警告を鳴らす。
しかしその警告も、それにつられて出てくる恐怖感も、少尉の使命感の前には意味をなさない。
だが生物としての本能が呼び起こすのか、脳内で過去の出来事が過去のことを思い出させた。
孤児院にいた頃。
ウィッチの適性が見つかり士官学校に入ったこと。
戦場でともに戦い友愛を育んだ戦友のこと。
そんな戦友とその家族との優しい日々のこと
家族の温かさを知ったこと
ベルリンから避難が始まったこと
妹にウィッチの適性が見つかり落ち込む戦友のこと
ベルリンが陥落したこと。戦友の両親が死んだこと。
裏でどうにか妹が徴兵されないように裏で動く戦友を見つけたこと
そして表向きではない組織に戦友が協力しているのを知ったこと。
そんな戦友を詰問し喧嘩し、最後には妹を託されたこと。
戦友がその組織が命令した輸送機護衛任務から帰ってこなかったこと。
妹ちゃんを守るために、託された約束を履行するために、必死に一人で頑張ったこと。
戦友が入っていた組織に入ったこと
その道が間違っていると思いながらも進んだこと。
妹ちゃんと曹長と私で訓練に励んだこと。
妹ちゃんがさらわれたこと
そして、先ほどのこと。
「私たちが連れて行けるのは座標までです」
「戦闘はダメダメですが、隠密は得意です」
「だから戦うのはあなた」
「彼女を助けるのはあなた」
「がんばって」
「やりきって」
曹長の同僚と名乗る双子はそういっていた、
怪しい二人であったが、それでも言葉通りに彼女達は敵機に見つかることなく俺を敵の直上まで連れて来てくれた。
そんな走馬灯を脳内に浮かべながら少尉は直下にいる敵を見る。
眼下に見下ろすは小さな孤島に鎮座する三角錐のコア。
なぜ外皮を覆っていないのかはわからない。
だがわかるのは、コアの横に置かれた金属とコアによって次々に作られる小型ネウロイ『定期便』
やはり敵は子機を生み出す型のネウロイだったと、少尉は確信する。
それも金属を消費して自在に小型ネウロイを生み出すネウロイの巣じみた怪物。
このままだとこのネウロイだけで大軍勢が作られてしまうだろう。
だが、子機を出現させるネウロイは総じて本体が倒されると子機も消滅する。
ならばやることは一つ。
奇襲による本体のコアの殺害。
そう思った時、少尉の体が光に照らされる。
おそらくは月光。運悪く雲に裂け目ができたのだ。
そしてその光によって照らされた少尉に気がついたのかネウロイの独特な鳴き声が聞こえる。
その声を聞いたのか、基地の方向に飛ぼうとしていた『定期便』達が少尉の方向に進路を変えようとする。
しかしもう遅い。魔導針で捉えるコアとの距離はもうすぐ600ヤードを切る。
600ヤードそれはブレン軽機関銃の有効射程距離。
つまりは少尉の攻撃範囲である。
コアをかばうことができる距離に『定期便』はおらず、万が一小型ネウロイがコアの盾になろうとも小型ネウロイごときではブレン軽機関銃の猛攻を防げるはずがない。
必殺の状況。確殺の距離。
それを逃すほど少尉はバカではない。
「くたばれぇえええええええ!!!」
少尉の絶叫とともに必殺の銃弾が三角錐のコアに降り注ぐ
ブレン軽機関銃によって放たれる毎分520発の.303ブリティッシュ弾。
弾丸径7.9mmの牙は瞬く間に銃口から飛び出し空を飛ぶ。
その攻撃は動くこともできない三角錐のコアが避けることは叶わず、小型が守ることもできない必殺の攻撃だった。
・・・・そう、小型ネウロイなら防ぐことができない攻撃だった。
弾かれる
弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる弾かれる
放たれた21発の必殺の.303ブリティッシュ弾が全て弾かれる。
コアを貫くはずだった牙は力を無くし孤島の地面に無為に散らばる。
ブレン軽機関銃の1マガジン量は30発、まだ1マガジンを撃ち尽くしたわけではないが、それに気がついた時、少尉はトリガーから指を離さざるをえなかった
少尉は呆然とした。
それは弾丸が全て弾かれたことか?
それもある。奇襲による軽機関銃の攻撃が防がれるとは思いもしなかった。
だがそれが理由ではない。その弾丸を防いだ存在がその理由である。
それはコアを守るように貼られていた青く光るシールド
シールドに見える魔法陣は見慣れたもの、戦友が、戦友の託した妹が張っている術形式のもの。
一人の赤毛のウィッチがコアの前に浮かび、必殺の弾丸を防いでいた。
連れ去られたはずの准尉がシールドでネウロイをかばった。
少尉と准尉の視線が合う。准尉のその目は虚ろではあったが確実に准尉であった。
だが魔道針の反応は彼女を小型ネウロイだと認識している。
助けるべき存在に、守る存在に、敵に放たれた攻撃が防がれた。
その事実に少尉の脳内が真っ白になる。
思考が停止する。
だが思考が止まろうとも速度の乗った少尉の体止まらず、地面にどんどん近づいていく
そんな少尉に対し准尉の背中から急速な速度で何かが伸びる。
少尉を受け止めるに伸ばされたのか?
否、その行為に少尉は殺意を感じ取る。
絶体絶命のその時、少尉の思考は止まろうとも少尉の体が勝手に動いた。
それは今までの経験から来た勘、思考ではなく反射とも言える行動。
体をそらし、准尉の背後から迫る攻撃を避ける。
その無理な体勢変更により体感が崩れ、墜落しそうになるが長年の直感で体をさらによじりそのまま斜めに上方宙返りし速度を高度に変える。
途中、ガリッという引っ掛けた音が少尉の耳に入る。
おそらくは地面にユニットの先を引っ掛けた音。
あと少しでも行動が遅れていたら地面にあたりミンチになっていたという事実。
そんな事実が、恐怖が少尉の心中に湧き上がる。
だがその恐怖はまた別の恐怖によって塗り替えられていた。
少尉は知っていた。
トレヴァー・マロニー大将の派閥で行動していた時に知った情報
ネウロイがウィッチを洗脳し操るという事実。
心のどこかでその可能性があることは思っていた。
だがこうも目の前にその事実を提示されるとここまで動揺するものなのか。
少尉はブレン軽機関銃のリロードをしながら、下を見る。
そこには、月光に照らされコアの傍に浮かぶ一人のウィッチがいた。
見慣れた赤髪と制服。だが彼女の四肢や体には触手がまとわりついていた。
その触手の根元は彼女の背中に続き、背中には虫のようなネウロイが触手を伸ばし張り付付いている。
ストライカーユニットをつけてもいないのに宙に浮かんでいるのは彼女の背中にいるあのネウロイの仕業だろう。
そして少尉はその触手も見覚えがあった。そのネウロイには見覚えがあった。
近づかなければ魔導針で捉えることができないステルス性を持ち、虫のような体から触手を生やし、准尉を捉え、誘拐した憎きネウロイ。
そんなネウロイを体に貼り付け、虚ろな目で自信を見上げる准尉
そう、妹ちゃんが敵に操られている。
その悪夢が目の前に広がっている。
未だ混乱している少尉にいち早く戻って来た一機の小型ネウロイが迫り来る。
この小型ネウロイは速度に資材を多く使用したネウロイもどき。攻撃方法は乏しいが、頭部が鋭く尖り、速度を生かした体当たりを行うことができるネウロイもどきであった。
そのネウロイもどきは未だ准尉を見続ける少尉の背中から急速に忍び寄ってる。
ネウロイもどきが狙うは後頭部。
後ろからの不意打ち。人間は正面しか見ることはできず、視覚から多くの情報をえる。そのため背後からの不意打ちは古来より有効な手段として取られている。
だが、それは普通の人間に対してのもの。
今ここにいるのはウィッチ。それもベテランのウィッチであり、戦友から託された妹を守るために魔導針の使用法に慣れナイトウィッチの適性を得たウィッチであり、今、抑えきれないほどの怒りが心中に湧き出ているウィッチである。
今にもネウロイもどきが少尉の後頭部に当たるかと思った瞬間、そのネウロイはひしゃげた。
側方からの強い一撃。
それは少尉によるシールドを張ったまま行われた強烈な裏拳。
高速で飛んでくる個体を魔導針で捉え見もせずに振るわれた一撃。
ネウロイもどきは裏拳の一撃でふらふらと飛び、そこに少尉の銃撃が叩き込まれ白いチリとなる。
少尉の心中に達成感はない。
むしろ無限に怒りが湧き出てくる。
ああ、ネウロイのクソ野郎!妹ちゃんを人質にするどころか操りやがった!
あの子が正気を取り戻した時、どれほど傷つくと思っていやがる!
そう思考する少尉の眼前には大量の小型ネウロイがコアを守るために自身に迫って来る。その様子はまるで蜂の巣を叩いたかのようだ。
多勢に無勢。1対多数。
そんな状況下であり、怒りに身を焦がしながらも、冷静に少尉は武器を小型ネウロイ達に構え思考する。
幸い、妹ちゃんはコアの守りを任されているのか、コアのそばを離れる様子はない。
つまりはコアに対して銃撃しなけれ誤射をすることはないだろう。
ならばやるべきことは、小型ネウロイ達をブレンで殲滅しながら、妹ちゃんの背後に張り付く虫ネウロイを殺す、またはそれを無視して先にコアを殺す。
コアを殺せば虫ネウロイを含めて全ての子機は死ぬだろう。だが妹ちゃんを無視してコアを殺すことは難しい。先ほどと同じようにシールドや触手で守られてしまう。
ならば、先にあの虫ネウロイを殺すべきだ。
だがあの虫ネウロイをブレンで狙い撃つことは無理だ。妹ちゃんにシールドで防がれるか、下手をしたらシールドをぶち破り、妹ちゃんを撃ち殺す可能性がある。
それならば、残された選択肢は接近戦だ。
妹ちゃんにゼロ距離まで近づきナイフで虫ネウロイを仕留める。
そこまで考え少尉は苦笑した。
大量の小型ネウロイとそれを生み出すネウロイに対して、操られているウィッチに取り付き、ナイフでそのウィッチに取り付いたネウロイを仕留めなければならない。
馬鹿げている、無茶だろう。不可能だろう。
だが、やらねばならない。
戦友と約束したのだ。妹ちゃんを守ると
曹長から言われたのだ、准尉を連れて帰ると。
大量の敵が自身に向かってくる。
その向こうでこちらを見上げる洗脳されている少女。
少尉は気合を入れ直す。
彼女の内に秘めるは、友から託された想い
ならば、やらなければなるまい。
やれるに決まっている。
そう心に決意して、少尉は声を張り上げ迫り来る小型ネウロイ達に銃弾を発射する
「准尉ぃいいいいいい!!!助けに来たぞぉおおおおおおおお!!!」
その声はブレン軽機関銃の銃声よりも大きく、夜空に響き渡る。
そして今、『定期便』ネウロイとの最後の戦いが始まる。
少尉は思う。
不可能なんてありえない
何故ならば、私たちがウィッチだからだ
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「いや、諦めて帰ってください・・・・・本当にお願いですから・・・」
そう私は呟いて、ため息を吐く。
さっきは本当に危なかった。まさか私の居場所がバレており、直上から奇襲を受けるとは思わなかった。
エンジン音が聞こえ上を向いた時、悪魔のような眼光でこちらを睨みつけ武器を私に構えてくる『あの人』を見たときは悲鳴を上げた。
月明かりに照らされ見えた、あの悪鬼のようなあんな姿。トラウマになるわ。なったわ。
あれは確実に死んだと思った。だけれど、私はがむしゃらに放った「助けて!!殺される!!」という命令に私は救われたのだ。
私が放った命令は、近くで私の前に残骸を運ぶ仕事をしていた『イカくん』が受け取り、『イカくん』経由で私の妹が命令に従って私を守ってくれたのだ。
目の前のシールドが私を凶弾から守ってくれたときの『イカくん』と私の妹の姿は女神様のように見えた。
本当に可愛く、頼りになる仲間である。
で、その結果どうなったかというと現在私の直上では『あの人』と私の作ったネウロイもどきの死闘が繰り広げられている。
私は『イカくん』と妹に守ってもらいながら随時戦力補給。
鉄壁の守りと無限の戦力(資材は有限)で裏打ちされた勝ちが確定した戦いなのだが・・・・。
・・・・・・いや、何あのバグキャラ?
速度に限界まで特化したもどきは裏拳で叩き落されるし
飛行性能が限りなく高い機体でも振り切られ後ろを取られて叩き落されていくし
高火力の攻撃はそもそも当たらないし、
数で押してもヒラヒラと空中機動を行いろくに攻撃が当たらず、わずかに命中する攻撃もその全てがシールドで防がれる。
そうしているうちにネウロイもどき達がボロボロと撃墜されていく
ははーん、なるほどウィッチって情報で聞くよりも大概やばいな?????
それがよく実感できる光景だ。
というか卑怯である。あんな縦横無尽に素早く飛ぶだけでなく、当たりそうな攻撃も鉄壁のシールドで守られる。
それだけではなく、ウィッチの攻撃力は異常に高く、そしてその攻撃もこちらに対して特効がかかっている。
どんなに走行を高く設定しても、『あの人』の持つ連射性能が高い武器のせいで一瞬で穴だらけ。
あんなの小型ネウロイもどき部隊でどうすればいいのだろうか??????
もはや鴨撃ちである。
一人でこれなのだ、こんなのが小隊を組んだら一体どんな化け物軍団ができるのやら考えたくない。
そんな風に現実逃避をしたいが、私には逃げる足はなく、私が作り出すネウロイもどき達が『あの人』を叩き落としてくれることを祈るばかり・・・・・
・・・って、『あの人』・・か・・・・
うん。私は何故か、今私を殺そうとしているあのウィッチが、前に私が思った『あの人』であると認識できる。
そして『あの人』がエースと呼ばれるまでの力量をもっていることも思い出せる。
やはり、『あの人』は私の知り合いなのだろうか?
それにしては、あの私を殺すときの表情は怖すぎた。それほどまでに私は恨まれていた?
真実はわからない、聞いてみるが一番だが、あの様子だと、無理である。
仮に話しかけたとしても
「はぁい、わたし記憶喪失なんだけど。私のこと知ってる?」
「死ね」
ズドンッ!!
で終了に決まっている。
はぁ・・・と口からため息が溢れ気を紛らわすためにコーヒーを飲んだ。
今、私の視界には二つの光景がある。
一つは「あの人」が私の作ったモドキたちに対して無双をしている視界。
そしてもう一つは、私がソファーに座り手に持ったホクホクと湯気がたっているコーヒーが入ったマグカップが見える視界だ。
この場所は、私が洗脳している子の夢のなか。
彼女が夢に見た、失われたはずの実家のリビング。
その夢で私は相変わらず『姉』の姿で夢の中を過ごしている。
今日の妹の夢は、外が雨なので家でゆっくりする夢だ。
今彼女は自室に本を取りに行っている。
私と一緒に読みたい本があるから取ってくるとあの子は言っていた。めっちゃかわいい。
夢の中のあの子は、現実の体より幼く小さい。多分実家があった頃の年齢まで体が小さくなっているのだろう。
現実も可愛いが、小さな彼女もまた可愛かった。
それにしてもだ。
片方の視界では銃弾やビームが飛び交う世界があり、片方の視界ではのんびりとした幸せな世界がある。
温度差が酷すぎる、温度差が酷すぎて風邪をひきそうだ。
だがまぁ、だからこそ私は現実で冷静な判断が下せているのかもしれない。
こんな幸せな世界を壊させないという強い思いと安らぎを覚えるからこそ、現実で頑張れるのだ。
・・・あ、めっちゃ資材使ったもどきが落とされた
いや前面装甲かなり硬かったはず拳で叩き落さないでくれます??????
ゴリラですか??????
人類なら道具を使ってください、小型でモドキとはいえ殴ってネウロイ壊さないで????
はぁぁ・・・・・
ため息が溢れる。
そうしていると、ドタドタと走る音が聞こえてきた。
あの子が自室から本を帰ってきたのだろう。
だがそれにしても、慌てすぎである。慌てると転ぶので気をつけてほしいがそんなところもかわいい。
私はコーヒーを机に置き、笑顔で彼女を迎えることにした。
ドタドタという音はすぐにリビングの扉の前までやってくる。
そして扉のノブがぐるりと回転するのが見えた。
「やぁ、慌てると転びますy・・・」
「お姉ちゃん。上官殿の声が聞こえたですが知りませんか?」
開け放たれたリビングの扉。その向こうには予想どおり妹がいた。
だがその妹の姿は、現実世界と同じ軍服で、手にライフルを持ち、その銃口を私に向けている
・・・・・
・・・・
oh・・・・現実世界との温度差がなくなりましたね
*双子
隠密と逃走、そして夜間飛行に適した固有魔法を持つナイトウィッチ。
ただ射撃能力は酷いを通り越して芸術の域なので戦闘能力は低い。
MI6にいる理由は色々流された結果行き着いたため。
*Ju-88C-6
ユングフラウ社が開発した大型爆撃ユニットを長距離戦闘用に改造されたユニット
C-6型は擬似レーダー魔導針発生装置が組み込まれている。
1943年にヘルミーナ・ヨハンナ・ジークリンデ・レント中佐の協力のもと、ブリタニアにあるカールスラント夜戦航空団基地にて実用化されたユニットである(出自:ワールドウィッチーズ 魔女たちの航跡雲 Contrail of Witches3巻)