中二病の黒魔術師   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第3話 下級悪魔

バーテック王国の第二軍に属する中隊長のクマランは命の危機を感じていた。蟲の化け物に拘束され、連れて来られた場所にはその蟲の化け物と思い出したくもない極太ビームを放った巨大なドラゴンがいる。そして中央には、大量のレッサーインプに囲まれた黒髪黒目の女子。

 

どこからどう見ても魔王かその手先だと思えるその少女は、レッサーインプから槍を奪い、その槍で魔法陣を描く。恐怖で動けなかったクラマンは、やがてその魔法陣からどす黒い瘴気があふれ出て、自身の身体に巻き付いてくるのを呆然と見届けるしかなかった。

 

「どう?傷とかは治ったと思うけど」

「あ、悪魔の手先め!どんな拷問だろうが私は屈しないぞ!」

 

確かに先ほどまで感じていた痛みは無くなり、傷が治ってはいたが、あまりに突然の展開過ぎてついて行けないクマラン。そんなクマランを見て霞は、どうせならと槍を構えて女兵士を抱き寄せる。

 

「動かないで。この女兵士を殺されたくなかったら、話を聞いて」

「なっ、っく……」

「まずあなたの名前は?」

「……バゼルだ」

 

霞からの質問に、クマランは偽名で答える。どうせ名前など、何を名乗っても大差ないだろうと高を括ったのだ。しかしその直後に、霞とクマランの間に魔法陣が現れ、巨大な漆黒の角を2本宿した黒い身体の悪魔が現れた。

 

「嘘を吐くなア!貴様が今、主に向かって行ったことは」

「ハイハイ。エレシオンさんは帰って帰って。またややこしくなるから」

 

畏怖を振り撒くその悪魔に、思わず震え上がるクマラン。しかしその悪魔の上半身が出切ったところで、上から霞が2本の角を持ち押さえつけ、逆に魔法陣の中へ押し込む。

 

「あるじぃい!せっかくこんなに魔力が豊潤な世界に来たのに私を出さないのかぁあああ!」

「嘘を見抜くだけの悪魔なのに現界させると魔力消費量が半端じゃない悪魔さんはお帰り下さい」

「痛い痛い痛い!角が抜けるぅう」

 

悪魔を押さえつけ、腕力で魔法陣まで押し切った霞はふぅと額の汗を拭うと、クマランの方へ向き直って話す。

 

「で、自称バゼルさんの名前は何かな?」

「クマランです」

「……本当みたいだね。この女兵士さんの名前は知ってる?」

「フィアーナです」

 

悪魔を押さえつけるという恐怖映像を見せられたクマランは、真顔になって霞の質問に答えるしかなかった。

 

「あなたはどこの国の、どこから来たの?何のために、あそこに軍が集結していたの」

「……バーテック王国の王都バッソから、北の前線に予備兵力と兵糧を運ぶためです。我が国は戦争中ですし」

 

嘘偽りのないクマランの言葉に、少し考え込む霞。全く知らない国名、自身に経験のない戦争。異世界に来たんだと改めて実感した霞は、空中に浮かぶ下級悪魔の背に乗る。肘を別の下級悪魔の背に乗せ、どうしようかなあと考える霞に対し、その姿を見てクマランは震え上がる。

 

レッサーインプは1匹だけであれば討伐推奨ランクがDランクの下から数えた方が早い魔物だが、成熟した個体であればDランクの冒険者だと勝てないことがある。成熟していないレッサーインプは身長が50センチなのに対し、成熟したレッサーインプは身長が60センチを超える。魔法を使うこともあり、無傷で勝つにはCランク相当の冒険者が必要だ。

 

そしてこのレッサーインプが群れを為した場合、Bランクの冒険者でも手に負えないことがある。そんなレッサーインプを椅子の代わりに、肘掛けの代わりに使う少女に対し、畏怖の念を抱いても仕方のないことだろう。

 

「うーん、ここは何処ですか?」

「あ、起きた。フィアーナさんこんにちは」

「ひっ!?レッサーインプ!?」

「ふーん?下級悪魔はこの世界だとレッサーインプと言うのね。……めっちゃ弱そう」

 

クマランと共に霞が連れ去った女兵士、フィアーナも目を覚まし、霞の周囲にいるレッサーインプに怯える。彼女はDランクの冒険者でもあり、レッサーインプの怖さをよく知っていた。

 

そんなに怖いかな、と思った霞はレッサーインプを一匹捕まえ、血を寄越せと言う。頭をガシリと捕まえられ、ブルブルと震えるレッサーインプは自身の持つ槍で二の腕辺りを斬り、血を霞へと献上した。

 

その血に魔力を通し、霞は魔法陣を描く。霞が何を行うのか全く分からないクマランとフィアーナはただただ恐怖で震えるばかりだったが、やがてその恐怖は無くなった。

 

大きな蟲がいる恐怖も少女の周囲に小さな悪魔が飛び交う違和感も、なぜ自身がここにいるのか、その理由すらも頭の中から抜けたのだ。ようやく普通に会話できるようになったと息を吐いた霞は、次に知っておきたかった質問を行う。

 

「異世界から人が来るって、よくあることなの?」

「昔は数年に一度のペースで来ていたそうです。ここ十数年はそういう類の話が無かったですが」

 

それは異世界から人が来ているかの確認であり、クマランの回答のお蔭で、霞は最後に異世界人が来たのは十数年前だという情報を得ることが出来た。


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