じゃあね、と言って帰る曜の後ろ姿を千歌は声をかけることも無く、ただただ見つめているだけであり。
曜も振り返る事のないまま去っていく。
姿が完全に見えなくなった時、千歌は砂浜へと膝をつき、その目に涙をため。
「…………っ」
自分の手で大切なものを壊してしまったという事実がただ突き刺さり、もう以前の関係に戻れないことを認識させられていた。
側には誰もおらず、太陽さえも見放したかのように水平線へと沈んでいき。
暗くなった海辺には少女の嗚咽をかき消すように波の音が響いていた。
今、酷い顔をしていると分かっている千歌は誰にも顔を合わせないようにしながら自分の部屋へと向かい。
そこで気が緩んだのか再び涙が溢れ出し、拭ったところで自分が砂で汚れている事に気がつくほど弱りきっていた。
気持ち的に風呂へ入りたくない千歌だが、このまま部屋を汚すのも嫌であるため。
せめてシャワーだけでもと準備をし、部屋を後にする。
「…………あはっ」
想像以上に酷い顔だと、千歌は風呂場の鏡を見て自虐的な笑みが漏れる。
涙の跡や砂が付着し、髪も潮風によって乱れていた。
幸いにして千歌の他には誰もおらず、けれどもいまは虚しさが更に増すばかりであり。
髪を洗う気力も無い千歌はシャワーを流し、ただそれを頭から浴びるのみである。
「…………っ」
ドアの開く音が響き、驚いた千歌はビクッと肩を動かした後、なんでも無い風を装いながらゆっくりと髪を洗い始めれば。
隣に誰かが座り、シャワーを流す音が聞こえてくる。
こんなにも空いているというのに、わざわざ人がいる隣のシャワーを使う人へチラリと視線を向ければ。
そこには普段と変わらぬ様子の志満が同じように髪を濡らしていた。
だが話しかけてくることもないうえ、千歌が一方的に気まずいものを抱いているだけであり。
このまま会話せずにさっさと体を洗って出ていこうとすれば。
「ゆっくり温まっていかない?」
少し遅れて体を洗い終えた志満は立ち上がり、千歌に優しく微笑みながらそう促す。
「…………」
思わず足を止めた千歌は少し悩んだのちにコクリと首を縦に振り、志満から少し距離を開けて湯船に身を浸らせる。
「…………聞かないの?」
「話したくなったらでいいわよ」
あれから何も話しかけてこない志満に千歌はポツリと漏らすが。
帰ってきた優しい言葉に自分の惨めな部分がどうしようもなく暴れまわり、口をキュッと固く結ぶ。
膝を抱え、揺れる水面に反射する照明の光をしばらく眺めていた千歌はどのような気持ちの変化があったのか。
口を開き、ポツポツと何があったのか話し始める。
優がそこそこ人気あり、1度告白して振られた子に宣戦布告されたこと。
今まで3人の関係を壊さないようにしていたが、それで意識し始めたこと。
始めはそんなつもりなどなく、見送るだけだったのに浜辺で良い雰囲気になり、告白
曜にその場面を見られたこと。
そして前にした曜との約束で、優と上手くいくように応援すること。
それらを最後まで口を挟まずに聞いていた志満は少しの間をあけ。
「それで、千歌ちゃんはこれからどうしたいの?」
千歌の方へ顔を向けそう口にする。
「どうって……曜ちゃんと優くんが上手くいくように──」
「本当に?」
志満からの真っ直ぐな瞳に耐えきれず、千歌は再び揺れる水面へと目を逸らす。
「でも、他の誰かに取られるくらいなら曜ちゃんの方が……」
「千歌ちゃんは優くんと同じくらい、曜ちゃんの事も大切なのね」
「そうだよ! 幼馴染だもん! 小さい頃からずっと一緒に居たんだもん! ずっと一緒、だったんだもん……」
勢いよく立ち上がって口にした千歌は自分が壊してしまったということを思い返し。
俯き、湯に身を沈めて膝を抱える。
「なら、その思いを曜ちゃんにぶつけてみたら?」
「……今更そんなこと言えないよ。抜け駆けしようとしたのは千歌なんだもん」
「千歌ちゃんがそれでいいのなら、私からは何も言わないわ。ただ、後悔だけはしないようにね」
のぼせちゃうから上がりましょう。と言って湯から上がる志満に続いて千歌も立ち上がる。
その後、部屋に戻りベッドへ横たわった千歌は最後に志満から言われたことを考えているうちに、気付けば眠りについていた。
今のところ、予定通り20話いかないぐらいで終われそうです