早くも遊ぶ日となり、現地集合で水族館に来たはいいものの。
「ほら、優くん次見ていこうよ」
「先行ってていいよ」
「もうすぐショーやるみたいだよ」
「見てきていいよ」
初めは一緒に見て回っていた優だが、クラゲの場所から1歩も動こうとしなくなっていた。
半ばこうなることが分かっていたので千歌と曜は顔を見合わせて苦笑し、優へ一言かけて先へ進むことに。
「3人で見て回りたかったのに」
「まあ、水族館を選んだ時点でこうなるのは分かってたわけだし」
「それはそうなんだけどさ」
1人自由な幼馴染に対して本来の目的からズレていると不満を口にする千歌。
曜の言い分も分からなくはないが、それでもやはり3人で一緒に見て回りたかったと漏らす。
春休みということもあり、普段よりも多くの人が来ているが。
それでも移動するには十分な広さがあり、人が多すぎて魚が見れない、なんて事もなく。
「このお魚、お父さんが刺身にしてるの見たよ」
「千歌ちゃん……」
水族館で遠慮ないことを言う幼馴染に若干の呆れを抱きながらも、曜は曜で食べたことのある魚であったため。
「この魚、美味しいんだよね」
「曜ちゃんも千歌と一緒だよ」
互いに顔を見合わせ、笑みをこぼすのであった。
まだ水をかぶるには肌寒い季節であるためか、もうすぐショーの始まる時間だが空席が目立っている。
2人も水がかからない程度に距離をとった席を選び、千歌が持ってきたお菓子を一緒に食べながらその時を待っていたが。
「あ、ちょっとトイレ行ってくる」
「えっ、もう始まっちゃうよ?」
「すぐに戻ってくるから!」
飼育員がステージに現れ、もう始まるという時。
曜は立ち上がり、トイレへと走って向かってしまう。
「これじゃ一緒に来た意味あまりないじゃん!」
残された千歌はもうどうにでもなれと、持ってきたお菓子を片っ端から口に放り込んでいくのであった。
用を足し終えた曜はそのままショーへと戻るのではなく、未だクラゲを見ている優の元へと向かう。
「千歌は?」
「ショー見てるよ」
「戻んなくていいの?」
「少し、クラゲ見たくなって。すぐ戻るよ」
横に立った曜をチラリと見た後、優は再びクラゲへと視線を戻し。
そのまま気になったことを聞いた後は口を閉じてしまう。
変わらない様子の優にクスッと笑みをこぼしながらも曜はクラゲではなく、クラゲをジッと見ている優の横顔を眺める。
薄暗い館内の中、水槽からの淡い光に照らされて見えるその表情に、曜は胸の内から広がる暖かさを感じ。
「やっぱり、好きだなぁ」
「……曜?」
思わず呟いてしまったその言葉は隣に立つ優の耳へと届いてしまい。
曜へ向けられた目とばっちり合ってしまう。
「へぁっ、うん、うんっ? 優くん、やっぱりクラゲが好きなんだなって」
「ああ、なるほど? うん、好きだよ」
クラゲに対する好きであることは曜も十分理解しているが、それでも面と向かって好きと言われ、胸の高鳴りを感じていた。
「優くんがクラゲを好きなのはよく知ってるんだけどさ。……やっぱり一緒に来てるんだから、一緒に見て回りたいな」
「……そっか。それじゃ、行こっか」
普段、自身の気持ちをあまり表に出していない曜がそう口にしたことに優は微笑みを浮かべ、クラゲの前から離れる。
「曜が自分の気持ちを口にしてくれて、嬉しいね」
「……もしかして、そのためにずっと?」
「いんや、普通にクラゲが好きだから。たまたまだね」
「……そう」
曜のテンションが下がったことに気がついていない優はその手を取り、引っ張って歩いていく。
「わっ、わわっ!」
「ああ、ごめん。少し歩くの速かったか」
突然のことに嬉しさと驚きが混じってよく分からない状態の曜だが、優は単にはぐれないようした措置であり。
嬉しさから思わず出た曜の声も進むのが速くて慌てたものと勘違いしている。
「ショーも半分は終わってるだろうし、千歌もカンカンだろうね」
「そ、そうだね」
「昼でも奢れば許してくれるかな?」
「ど、どうだろ」
なんとか言葉は返せているが、今の曜は繋がれている手に意識が持っていかれた状態である。
このまま2人で見て回りたい気持ちが曜の中に湧き上がってくるが。
「…………ぁ」
目的の場所にたどり着いてしまい、繋がれていた手は解かれてしまう。
曜はその場に立ち止まり、少しだけ、残った温もりを逃さないようにと手を握り締めた後。
1つ深呼吸をして気持ちを切り替え、拗ねている千歌を優と一緒になだめるのであった。