デビルサマナー葛葉ライドウ対幻想郷   作:きゃべる

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第三話 遊郭の悪魔

 博麗の巫女を名も無き神社でヤタガラスに引き渡した翌日。ライドウはその後の経過を確かめるため、再び神社に向かっていた。

 

 

「あの巫女の処置は…」

 

《急な話だったからな。ひとまずは様子見になるだろう。その扱いがどのようなものになるかは儂にも分からぬ。だがしかし、殺しはしないはずだ》

 

「その根拠は?」

 

《博霊は幻想郷に欠かせぬ存在ゆえ、それをコチラが殺せば奴らには後がなくなる。そうなれば全面戦争は必至。それはどちらにとっても得策ではないからだ》

 

 

 死にかけの獣が最もおそろしい。それはライドウもよく知るところだ。命乞いをする悪魔に情けをかけ、だましうちをされたこともあった。だから博霊の巫女は殺さない。それは理解した。

 しかしひとつ納得のいかないことがあった。それはゴウトが超国家機関である「ヤタガラス」と一勢力に過ぎない「幻想郷」をいかにも同列であるかのように語っていたことだった。

 

 

《…そうだな、こうなった以上、幻想郷が脅威たる理由である八雲紫のことも教えねばならんか。幻想郷ははぐれ者の集団だが、長を決めるとすればそれは八雲紫だ。設立、管理、全てにおいて奴が関わっている》

 

「それは悪魔なのか」

 

《とびきり上級のな。だが問題はそこではない》

 

 

 ゴウトは一度そこで言葉を止めた。とびきり上級の悪魔。だがしかし、一体のみならばヤタガラスと同列に並べるまでにはならない。ヤタガラスはライドウを含む葛葉一族をはじめ、古今東西様々な悪魔召喚師を傘下においているのだ。はみ出し者の集団が勝てる存在ではない。だというのに幻想郷が国家機関と対等に語られる理由。

 

 

《八雲紫はな、画策する悪魔なのだ》

 

「画策…」

 

 

 画策。はかりごとを巡らすこと。密かに計画をたてること。

 戦う上で作戦を練る悪魔ならば無数にいる。つまりここでの画策とは。

 

 

《力を持つ悪魔は多いが、集団を率いての頭脳戦をする悪魔は希少だ。力ずくで排除できぬ政治家と例えればよいのか…》

 

 

 ライドウは思案する。己は強い方だと自負しているが、所詮駒の一つでしか無い。戦うだけなら簡単だが、もしもこの先「戦わせてくれない敵」に出会った時、自分はどうすべきなのか。答えはでない。

 

 

《…もっとも儂は奴と直接会ったことがあるゆえ、贔屓目で話しているやもしれんがな。どちらにせよ得体の知れんやつだよ、あの悪魔は》

 

「そうか」

 

 

 画策する悪魔、八雲紫。幻想郷の管理人。いつか出会うときは来るのだろうか。

 そうこう話しているうちに、神社に到着していた。ひとまずこの話題は終わりだ。

 

 

「お待ちしておりました、十四代目葛葉ライドウ」

 

 

 名も無き神社の境内に立っていたのは、ヤタガラスの使者だった。顔を隠している、謎の多い女である。

 

 

「彼女は?」

 

「現在あれが本物の博霊の巫女か調査中です。その間はこちらで保護をしています」

 

「……」

 

 

 保護。大方ゴウトの予想通り、様子見なのだろう。しかしその保護の仕方が問題だった。

 

 

「今はどこにいる?」

 

「ここに」

 

《何?》

 

 

 ここ、つまり博麗の巫女はこの名も無き神社にいるのだろうか。ヤタガラスの使者は神社の建物内に向かい、ライドウもその後に続いた。

 

 

「発言、能力共に矛盾は見られず、博霊本人の可能性が非常に高い。しかしそれだけでは納得しないものも多い。そのため実際にその力を示す必要がありました」

 

「と、いうと?」

 

「博霊は結界術の専門家。帝都の守護結界の張り直しを行わせることになりました」

 

「それは…」

 

 

 仮にも敵側の者にやらせる役ではない。ヤタガラスの意図が理解できず、ライドウは首をかしげた。

 

 

「形だけです。監視役もつきます」

 

「……」

 

《ライドウ》

 

 

 ライドウはゴウトを見た。察しろ、分からぬのなら今は黙せよ。そういう顔をしていた。

 

 

「……」

 

「博霊はこちらに」

 

 

 どうやら彼女のいる部屋についたようだった。お世辞にも美しいとはいえない名も無き神社。味方とはいえぬものにばかり囲まれ、彼女はどんな思いで過ごしているのだろう。鳴海探偵社にいる供倶璃の媛と重ねてしまわずにいられない。

 供倶璃の媛はMAGを貯めこむ体質からある組織に狙われているため、現在ライドウが護衛していた。しかし媛はその不自由な境遇に不満を持っており、つい先日も探偵社から抜け出し、危うく餓鬼に食われるところだった。供倶璃の媛は戦闘能力こそ低いため、多少のわがままがあってもライドウは十分に護衛することができた。しかしこちらの巫女は結界術の専門家で、その上仲魔の手を借りずとも単独で飛翔するすべを持っている。彼女が脱走を目論めば捕まえるのは一苦労だろう。

 少し心配しながらふすまを引いた。

 

 

「あら、えーっと、昨日の」

 

 

 しかしその心配は必要なかったようだ。博麗の巫女は熱い茶を飲みつつ菓子に舌鼓を打っていた。もともとこの場が博霊の家であったかのようなくつろぎぶりだ。

 

 

「……」

 

「戸、閉めて。風が入るわ」

 

「では私はこれで」

 

「……」

 

 

 ヤタガラスの使者は去っていった。ライドウは無言でふすまを閉める。

 

 

《…貴様には緊張感というものが無いのか》

 

「きっとここのお茶が美味しいからね」

 

 

 ふう、と霊夢は落ち着いた息を吐く。そこに昨日の異変解決に執着していたような様子は見受けられない。

 

 

「異変とやらはいいのか」

 

「んー、なんかやる気出ないのよね。今行動しても無駄ってことじゃないかしら」

 

《おい》

 

「それにほら」

 

 

 霊夢はお祓い棒をこちらに向け、ゆっくりと手を離した。重力に従い畳に落ちていく。

 

 

「動かないでしょ。異変の影響下から離れたみたい」

 

「なるほど」

 

 

 此度の異変は、道具が勝手に動き出すというものだった。その影響下から離れた今、起きてもいない異変を解決することはできない。だから何もしない、それが今の霊夢の結論だった。

 霊夢は再びお茶をすすり始め、沈黙が続いた。

 

 

《…おい、それだけか》

 

「結界の貼り直しをすれば身柄は保証するって言われたわ。面倒なことね」

 

「それは聞いた」

 

「そう」

 

 

 再び沈黙。会話が続かなかった。

 

 

「君は…」

 

「何?」

 

「不安ではないのか」

 

「…よく分からないわね。でも衣食住が保証されるなら別に問題はないし、結界だって短期間なら紫がどうにかするわよ」

 

 

 ライドウの問いに、霊夢はそう答えた。淡白というには自分勝手で、子どもというには大人びすぎている。彼女の感性をライドウはいまいち理解できなかった。

 

 

「嫌よ霊夢! 私暇で暇で仕方ないわ! 外に行きましょう!」

 

「めんどくさい」

 

 

 いつの間にかやってきたモーショボーが文句を言い出した。それをあしらいながら霊夢は聞き返す。

 

 

「そういうあんた達はどうするのよ」

 

「…これからこちらも別件の調査をしに行く予定だ」

 

「そう。だったら早く行ったほうがいいんじゃない」

 

「霊夢、付いていきましょ! 結界の張り直しのためにも地理をよく知っておくべきだわ!」

 

「一人で行けばいいじゃない。そもそも私サマナーとかいうのじゃないし」

 

 

 人質に近い状況で、この巫女は外にでることが面倒だという。ますます供倶璃の媛とは対照的だった。なんだか妙な気持ちになる。

 

 

「ふん、霊夢のバーカ! ねえサマナー、アタシも連れてってよ」

 

《ずいぶんと勝手な真似を…》

 

「構わない」

 

「さっすが、いい奴じゃない。霊夢とは大違いだわ」

 

「へーへー、さっさと行ってらっしゃい。あー今日もせんべいが美味いわ」

 

 

 モーショボーを緊急用の予備の管に封魔したあと、追い出されるようにライドウたちは部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 近頃、ゴミ捨て場で干からびたミイラのような死体が相次いで発見される事件が発生していた。状況からしてどう考えても悪魔がらみということで、ライドウは霊夢の元から去ったその足で調査に来ていた。現場に落ちていたかんざしの持ち主である花魁への聞きこみは終わったが、どうにもその店は怪しいといった様子だった。

 

 

「召喚 ポルターガイスト」

 

「わ~い、たんていゴッコ!」

 

《なるほど、こやつらをここに残すわけか》

 

 

 要するに密偵代わりである。自由奔放な性格のため少々不安だが、今いる仲魔では最適だった。ポルターガイストの三兄弟は、ライドウの指示を受けると早速店内に忍び込んでいった。

 

 

「おいあんた何やってんだ」

 

「君は…」

 

 

 背後から声をかけてきたのは、見覚えのない少女だった。服装は着物ではなく、もんぺというべきか、とても遊女には見えない格好だ。日本人にしては珍しい銀髪もその奇妙さに拍車をかけた。

 

 

「私はただの用心棒。アンタは調査にきてた探偵見習いだっけ。何か企んでるようなら…」

 

「なんでもない。すぐに帰る」

 

「…ふうん、なんでもないねえ。ならいいけど」

 

 

 聞き込み後もこの場に残り続けていたため、どうにも怪しまれているようだった。悪魔は一般人には見えないので何をしていたかまではわからないだろう。もっともこの用心棒が本当にただの人間であったのなら。

 

 

「コウちゃーん! ちょっとこっちきてくれよ!」

 

「はいよ! そういうわけだからさっさと帰ってよね」

 

 

 店内から呼びかけられた少女は、そう言い残してさっさと店に入っていった。

 

 

「……」

 

《あの体格、風貌で用心棒とは少々妙だな…少し調べておくべきか》

 

 

 

 MAGの保有量は一般人の域を超えていなかったものの、怪しい点が多すぎた。この遊郭街に住んでいてあの可愛らしい風貌であるにも関わらず遊女でない時点で珍しいのに、その上役職が用心棒。黒にしろ白にしろ、洗っておいたほうがいい相手だ。ゴウトの助言に従い周囲で用心棒の少女について聴きこみをしてから帰ることにした。

 曰く、少女はずいぶん前からあの店で用心棒をしているそうで、武道の心得もあり、その身に見合わぬ強さの持ち主らしい。奇妙なのがあの店の遣手である七生子が現役の花魁、その頃は松浪と名乗っていたそうだが、その時代から用心棒をしている割に全く年をとっているように見えないということだった。

 

 

《あの女からは悪魔の気配はしなかった気がするが…どうにも臭うな》

 

「ああ」

 

 

 

 年を取らない原因として考えられるのは、悪魔の擬態か契約の結果か。それとも新しい事件の手がかりか。警戒するには十分だった。ライドウはこの先起きるだろう騒動を想像し、気を引き締めた。

 

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