沖田さんと暮らす/ぐだぐだアナザーデイズ   作:マフ30

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薄紅狼

 

 

 ある日の仕事終わりの帰り道。

 ふと、自分一人では縁のない女性向けアパレルショップの軒先で足を止める。

 理由は何てことない。本当に偶然のことだけど、お店に飾られている商品の中に俺の大切な人を思い起こさせる桜色が視界に飛び込んできたからだ。

 

「……沖田さんが着たら似合うよな」

 

 ハンガーラックに他の商品と一緒に並んでいるソレと睨めっこをしながら、小さく呟いてから値札を確認する。彼女への贈り物なのだから財布と相談なんてせずに即断即決で購入するぐらいの気概を見せたいところだけど、そう言うわけにもいかない歳相応の一般的な経済環境なのが少し情けない。

 とはいえ、今月は大きな出費も無くそこそこ余裕はある。

 幸い、目当ての品も高級ブランド物というわけでもないようなので俺はソレを迷わず手にとってレジへと向かい、無事に商品を購入の運びとなった。

 ショップの若い女性店員さんが少しだけ俺に生温かい視線を送ってきた気がするんだがどうかしたのだろうか?

 いや、別に俺が着るわけじゃないからね、レジのお姉さん!?

 それとも――これを自分の大事な彼女に着せようとする俺の趣味趣向は実は世間的にはマニアックなのだろうか?

 

 一抹の不安を抱えながらも俺は沖田さんにプレゼントする服を小脇に抱えて、彼女が留守番をしてくれている我が家へと歩調を早めた。

 

 

 

 

「おかえりなさい、マスター。本日もお疲れさまでした」

「ただいま沖田さん」

 

 家に帰ると得意の縮地を使ったのか、目にも映らぬ速さで玄関に現れた沖田さんが満面の笑みで出迎えてくれた。

 見慣れた桜着物の袴姿が雅で美しく、可愛らしい。その上から爽やかな浅葱色のエプロンをしているところを見ると夕飯の支度をしていたのだろう。

 

「おや、そちらの袋はなんでしょう?」

「これだろ。衝動買いって言ったら聞こえが悪いけど沖田さんへのプレゼントです!」

「これを私に?…………こふっ」

 

 俺が手に提げている覚えのない袋に首を傾げる沖田さんに、浮かれた声で袋の中の正体を発表すると彼女は透き通るような白い両手で口元を押さえるような仕草でたいそう驚いて――三秒後には祝福のクラッカーが鳴るように、我が家の玄関には彼女の吐血が飛び散った。

 

 

 久しぶりに吐血した沖田さんを介抱して、スプラッタな玄関を掃除したりと少しバタバタを経て、無事に二人で晩ご飯(おかずはニジマスの塩焼きに、白和え、茄子の味噌汁。魚の塩加減が絶品でしたとも)を食べ終えると改めて、袋の前でそわそわしている彼女に先程買った服を手渡すことにした。

 

「いやー、先程はすみませんでした。嬉しさのあまりつい……」

「平気、平気。それより、沖田さんの体の方は大丈夫?」

「ご心配なく。さっきのは何と言うかその、喜びがちょっと許容量を超えてしまったようなものなので。ところで早速なのですが頂いたこれ、開けてみてもいいでしょうか?」

「もちろん。気に入ってもらえるといいんだけど」

 

 簡単に施された包装を沖田さんは恐る恐る丁寧に解いて、淡い桜色のそれをまじまじと見つめる。小さく口を開けたまま、無言だがころころと表情を変える彼女が可愛らしくて、こちらまで楽しくなってしまう。

 

「これは洋服ですか?」

「うん。いままでも何着かは一緒に買いに行ったりしていたけど、最近肌寒くなってきたし部屋着にどうかなって」

 

 今回購入したものは女性用の長袖パーカーだ。

 薄めのチェリーブロッサムカラーがこれからの季節は見ているだけでも、まだ先の春の陽気を感じさせてくれる色合いをしている。

 それから、このパーカーにはフードと腰のあたりにちょっとしたアクセントが付属している。正直、それが沖田さんへ買ってあげたくなった決め手だったりする。我ながらちょっと安直過ぎる理由だったかもしれないけど。

 

「ほら沖田さん外出用はともかく家でのんびりしている時に着るようなのはあの緑のTシャツしか持ってなかったでしょ?」

「はあ……我ながら、どうしてノッブなんかと揃いの服なんて拵えてしまったのでしょうか。沖田さん、少し浮かれすぎでしたね」

 

 そんな風に言う彼女だが、その表情は遠く離れてしまった旧友を懐かしむような柔らかい微笑みを浮かべていた。

 かの織田信長と沖田総司が遥か未来で腐れ縁の悪友になった。だなんて、誰も信じない与太話にしか受け取られないかもしれないけど、かつてのカルデアでの日々を振り返ると彼女たちの関係は言葉では説明できないぐらいに様々な想いが織り込まれていて、こうして沖田さんとは相思相愛で結ばれている俺だけれどちょっとだけ、二人の間柄には羨ましいとも思えてしまう。

 

 そして件の緑のTシャツ――またの名をクソダサクイックTシャツ。

 かの水着ノッブが愛用しているクソダサバスターTシャツの別バージョンだ。カルデアを発つ時に沖田さんが持参した数少ない私物の一つだったりする。

 

 外出時ならいざ知らず、自宅ではいつもの和装や寝間着を除くと彼女はこのTシャツにハーフパンツという極めてラフな姿で過ごしている。

 これからますます気温が低下していくというのに、あの露出強な服装しかないというのはいくら彼女がサーヴァントでも、見逃せない。

 彼女のマスターである以上は暖かい恰好をして欲しいし、さらに言えば可愛い恰好も沢山して欲しいわけだ。

 

「どう……かな?」

「あ、ありがとうございます、マスター! 一生大事にしますとも!」

 

 さっきからずっと黙り込み、目を凝らしてパーカーを見つめていた沖田さんだが俺の声に反応すると、一瞬でぱあっと明るい笑顔を浮かべて喜んでくれたので一安心。

 両腕でひしっと大事そうにパーカーを抱きしめている姿を見ると思い切って買って来た甲斐もあったと実感できる。

 

「いまから袖を通してみてもいいでしょうか!」

「そうしてくれると俺も嬉しいな。いろんな恰好の沖田さんを見てみたいから」

「では、失礼して!」

 

 意気揚々と立ち上がった沖田さんは何の迷いも無く袴の紐に手をやった。

 それなりに長い付き合いで彼女が次にどうするのかの見当が付いた俺はすぐさま両目を瞑って彼女を呼び止める。

 

「や、待って、ちょっと――!」

「あ……はは。その、隣の部屋で着替えてきますのでしばしお待ちを」

 

 その声にギリギリで止ってくれた沖田さんは若干頬を赤くしながら恥ずかしそうに、そそくさと着替えるために居間から出て行った。

 一人きりになって静かになった部屋で俺は安堵の息を盛大に吐き出した。

 俺が止めなかったら沖田さん、絶対にあの場で生着替えする気だったのだろう。

 彼女は無自覚隠れダイナマイトボディの持ち主なのに、おかしなところで羞恥心がすとんと抜けているところがあるので少々心臓に悪い。

 一度意識してしまうと悶々とけしからん妄想を捗らせてしまいそうなので深呼吸して気持ちを鎮めていると、どこか緊張して躊躇い気味の足音が近づいてきた。

 

「お、お待たせしました。こんな感じ、なのですが……どうでしょうか?」

「ほおおっ!!」

 

 顔もスタイルも大変素晴らしい物を持っているのに、あまり自分に自信の持てない彼女の性格だからか、少し不安そうな声を漏らして着替えて戻ってきた沖田さんの姿に思わず感嘆の声が出てしまう。

 桜色のパーカー姿の沖田さんは和装がデフォルトなこともあって、とても新鮮で可愛らしさの新境地と言ったところか。

 そして、極めつけの二大ポイント。今回俺が買ってきたパーカーはフードにオオカミ風の獣耳、腰の部分にふさふさした尻尾が縫い付けられている。ちょっとパンクファッション調のデザインなので可愛さと微かにワイルドさが同居した感じの沖田さんが出来上がっているわけだ。

 可愛い。本当に可愛い。もうずっと見ていられるよ、沖田さん。

 

「どうですか、マスター……似合っていますでしょうか?」

 

 思わずそんなことを考えながら、ずっと沖田さんを無言で見つめていたら俺の反応がないことを不安に思った彼女の方からか細い声で感想を求められた。おずおずと目を泳がせて、萌え袖気味の右手で口元を隠す仕草がまた可愛らしい。

 

「いやぁ……本当に、もうね……沖田さん可愛いやったーって感じ」

「本当ですか? はは、そんなにハッキリ言っていただくとなんだか照れてしまいますね」

 

 普段なら「沖田さん大勝利ー!」と高らかな声を上げて目一杯に喜びの気持ちを出すところを着慣れない服装をしているからか沖田さんは顔を微かに紅潮させてふにゃりとした笑顔を見せてくれた。

 パーカーそのものと素体からしてカッコ可愛いをカンストしている沖田さんのマッチングは言うに及ばず。丈の長さの都合上、お尻まですっぽりとパーカーに包まれてはいるが、そこから彼女自慢の瑞々しい健脚がすらりと生足で伸びている。

 何と言うか、いまの沖田さんの格好は見方によっては穿いていない状態と言うか、裸パーカーみたいな感じにも見えてしまえる一歩間違えれば劇薬になってしまいそうな魅惑の姿なのだ。

 紳士ぶるのは止そう。いまの沖田さんは健康的なエロスの化身と言うか、すごく目に毒だ。

 ショップの店員さん、ごめんなさい。やっぱり俺はちょっとマニアックな趣味の持ち主かもです。

 そんな悶々とした煩悩と水面下で戦いながら、俺は春爛漫な雰囲気でウキウキしている彼女を健全な言葉を選んで褒めまくる。

 

「すごく良く似合ってるよ、沖田さん。買ってきて大正解だった。最高! 最高過ぎるよ!」

「いえいえそんなぁ。ところでこの動物の耳と尻尾のような物は?」

「特に深い意味はない飾りなんだけど、それ一応狼のものを見立てているらしいんだ。だからね……」

「なるほど、壬生狼と掛けてくれたわけですね。天晴れなチョイスですともマスター! お陰で全く新しい装いの沖田さん誕生です! 新撰組だけに、新撰組だけに!」

 

 少しずつ、普段の明るく陽気な調子を取り戻してきた沖田さんはよっぽどパーカーを気に入ってくれたのは俺の目の前で踊るようにくるくると回ったりしておニューな恰好の姿を全身余すところなく見せてくれた。

 沖田さんが余りにも満面の笑みで喜んでくれるので被ったフードのオオカミ耳まで本物の耳の様にぴくぴくと動いている様な錯覚を覚える。

 大切な人が決して高価というわけでも珍しいものでもない贈り物でこんなにも幸せそうに喜ばれては、マスターである自分も変な意地が出て、せめて愛情だけは惜しみなく注ぎたくなってしまう。

 

「沖田さん」

「はい?」

「おいで」

「……はい!」

 

 そういって、胡坐をかいた自分の膝をポンポンと叩いて言うと沖田さんは深く被ったフードで少し隠れた薄い琥珀色の瞳をとろんと熱くさせて、するりとその上に座って身体を俺に預けてきた。

 見た目よりもずっと軽い沖田さんの体と嬉しさで興奮しているのか少し高めの体温を全身で感じて、彼女がここに居てくれる幸せを改めて実感する。

 

「あの、沖田さんってば重たくないでしょうか?」

「ちっとも。むしろ、抱き心地がすごくいいよ」

 

 本当のことだから、当たり前のように本当の気持ちを彼女に伝える。

 安心しきった顔で上目遣いにこちらを見てくる彼女をそっと抱きしめて、毛繕いでもするかのように優しく撫でてみる。

 

「ふふ、くすぐったいですよ……マスター」

「ごめん。沖田さんが可愛いから、つい」

 

 そんな言葉をぽつぽつと交えていると俺の腕の中で満足げな笑顔の沖田さんはまるで人懐っこい子犬のようにスリスリと頬っぺたを胸板や首筋にくっつけてくる。

 その反応が愛らしくて、もっと満足そうな彼女の顔が見たくて、俺も調子が良くなって愛撫の手を止めずにいると一瞬、彼女が何かを思いついたように怪しい笑みを見せた。

 

「ん……あむっ! がぶ……っぷぱぁ!」

「あだ……お、沖田さんなにしてるの?」

「クス。すみません、マスターが優しいのでつい」

 

 沖田さんが突然にずいっと身を乗り出して俺の首筋に顔を埋めたと思ったら、小さな刺激が走る。何事かと視線を向けると、どんな企みが芽生えたのか沖田さんが狼よろしく俺の肩を噛んでいた。

 

「だからって、噛みつかなくても……あ、ほらまた。いたい」

「いまの沖田さんは可愛い壬生の狼なので」

「じゃあ、しょうがないか」

 

 戸惑いながら真意を聞いてみると沖田さんはフフンと妙に得意げに相変わらず朱色に顔を染めたままそんな風におどけていた。そして、ガシガシと俺の肩や首筋、腕なんかを甘噛みしてくる。

 なんだろう。お酒に酔ったり、場の空気に酔うというのは聞いたことがあるけどこの場合の沖田さんは服に酔っているというべきなのだろうか。

 最初はチクリと痛みもあったが慣れてくるとその絶妙な噛み加減がクセになってきてなんだか痛気持ちよくなってくる気分だ。

 

「むぅ……抵抗してくれないと張り合いがありませんね。ほらほら、頑張らないと沖田さんに食べられちゃいますよ、マスター」

「だって、狼の真似してる沖田さんなんて珍しくて面白いから観察するのに気がいっちゃうよ」

「へえ……では、これならどうです」

「――お?」

 

 彼女からの愛撫に浸っていた俺だがその反応が少しお気に召さなかったようだ。

 俺が膝の上に沖田さんを座らせて抱っこしている体勢だったのが一瞬で押し倒されてしまった。

 

「これならどうですマスター? 先に言っておきますが沖田さんは素敵な贈り物のお陰で少し狂化が……もとい理性のネジが緩んでいるようでして……何をするか自分でも分からないかもですよ?」

 

 両手首を抑えつけられて、沖田さんに馬乗りにされている。

 狼パーカーの彼女の顔つきは先程までの朗らかなものとは打って変わって、冷ややかな刃のように険のあるものへと引き締まっている。強いて言うなら戦闘時に何度も見てきた人斬りの時の顔に似た雰囲気だ。

 試しに少し両腕に力を入れてみるが彼女もそれなりの力を込めて押さえているようでぴくりとも動かない。

 驚きはなかった。

 サーヴァントと欠片も魔術師の才能のない人間の力の差なんて文字通り、天と地ほどの差があるんだから彼女に力づくという手段を取られたら太刀打ちできるわけがない。 

 なので、俺に出来ることはというと彼女の瞳をじっと見つめるということだけだ。視線を固定すると熱っぽい彼女の大きな瞳も同じようにジッと俺のことを睨むように見つめていた。

 

「なにも、しないのですか? 本当にあなたのことを食べてしまうかもしれませんよ? こう、首筋からがぶっと」

「沖田さんになら、食べられてもいいかもね」

「え、なっ……」

「俺の血や肉が沖田さんの体の一部になって、俺のことをずっとずっと忘れずに沖田さんが覚えていてくれるのなら――沖田さんに食べられても俺はいいよ?」

 

 嘘偽りのない声色でそう彼女に言ってみる。

 これが戯れなのか真剣なやり取りなのかは一先ず置いておこう。

 だけど、沖田さんの言葉が本心から出た想いなのならば、俺は同じく本心で答えるようにとずっと前から――そう、彼女が生前の後悔と聖杯に託した願いを俺に聞かせてくれたあの日から決めていることなので、今回のこの言葉も本気の言葉だ。

 

「ぐぐぐ。むうぅぅ……そんなこと、できるわけないじゃないですかぁ!」

「おっと」

 

 爛々とした眼差しで俺に覆いかぶさっていた沖田さんだがこの言葉を受けると虚を突かれたように驚いたご様子。しばらく彼女は一人であれこれと百面相を見せながら云々と唸っていた。そうした末についには向こうの方から根負けしたのかいつもの調子に戻った様子で、ボフっと俺の胸に顔を埋めた。

 

 

「ズルいです。意地悪ですよ、マスター……あんなことをあんな真剣な面持ちで言われてはこちらから降参するしかないじゃないですか」

「危なかったけど、俺の勝ちってことでいいのかな?」

 

 ふくれっ面を俺に見せないように顔を隠しながら、ポカポカと胸板を軽く叩いて抗議する沖田さん。余裕ぶってみたはいいけど、越えてはいけない一線を越えることなく事が収まってくれたことにほっと胸を撫で下ろす。自分も他人のことは言えないがこう見えて沖田さんも思い切りが良いところがあるわけで、本当に危なかった。

 

「置いて行かれるのも、置いて行くのも私は絶対に嫌ですからね」

「うん。俺だってもう、沖田さんがいない世界なんて考えられないよ。ずっと一緒だよ」

 

 ぽつりと寂しそうな声の彼女に、出来るだけ優しい声で答える。

 フードの耳と尻尾がまるで本物のようにしゅんと垂れ下がっているように見えて、堪らずポンポンと彼女の背中を優しく叩いて慰めるとまたぽつりと彼女の声が返ってきた。今度は少し元気が戻ってきているようだった。

 

「本当ですか?」

「信用してくれないの? ちょっとショックなんだけどな」

「それなら、ちゃんと形で証明してください」

「よろこんで」

 

 言葉よりも行動でと、沖田さんの華奢な体を強く抱きしめながらその唇にそっと自分の唇を重ねる。果たして彼女の期待に応えられただろうかと少し不安になりながら彼女の顔を見てみると、そこには顔を真っ赤にして満ち足りた顔で目を細めている沖田さんがいた。

 

「……まだ足りない?」

「今夜はもうちょっと、欲張り沖田さんでもいいですか?」

「望むところだ……なんてね」

「にへへ。マスター……改めまして本当に素敵なプレゼント、ありがとうございます。私、大事に使いますからね」

「どういたしまして。俺の方こそ、これからも可愛い沖田さんを沢山見せてよ」

 

 照れ臭そうに自分の願いを口に出してくれた彼女に、応えずにして何がマスターかと一人静かに気合を入れ直して、俺は彼女の全部を受け止める。

 二人の甘い夜はまだまだこれからだ。

 もう一度沖田さんをぎゅっと抱きしめながら、薄紅色をした可憐な狼の可愛さに酔ってしまおう。そんなことを思いながら狼パーカーな装いの沖田さんと俺は夜が更けるまで目一杯に愛し合った。

 

 

 

 

 ちょっとした後日談。

 

 そんなやり取りがあってから翌日。

 今日も沖田さんは心から嬉しそうに狼パーカーに身を包んで、誇らしげに作り物の尻尾を振り振り我が家の留守番をこなしながら家事に勤しんでくれた。

 それから三日目、四日目も沖田さんは飽きることなくニコニコの笑顔を浮かべて狼パーカーモードで楽しそうに過ごしていた。

 翌五日目。

 朝起きるとすでに隣で寝ている彼女の姿はなく。身支度を整えてからキッチンへと足を運ぶとそこには見慣れた桜色の和装に身を包んだ彼女の姿は――なかった。

 

「おはようございますマスター。もうすぐ朝食が出来上がりますのでしばしお待ちくださいね」

「あ、う……うん」

 

 今日も元気よく楽しそうな沖田さんは変わることなく狼パーカーを着ていた。

 おめでとう、五日連続着用でパーカーもさぞ誉れ高いことだろう。

 

「ごちそうさま。美味しかったよ」

「ふふ、お粗末さまでしたとも」

 

 朝ごはんを食べ終えたところで、意を決してこれ以上先延ばしに出来ない俺と彼女の問題について切り出すことにした。

 

「ところで沖田さん……あのさ、そろそろ一度着替えたらどう? というか、洗濯しようよ」

「え!? マ、マスターはもういまの私に飽きてしまったと……」

「言い方ァ! そうじゃなくて、気候も涼しくなったとはいえ同じ服を部屋着とはいえ五連着というのはいかがなものかと」

「い、嫌です。折角いただいた洋装ですし、そんな簡単に脱ぎませんからね」

 

 これもある意味で想定通りと言うべきか沖田さんはわなわなと立ち上がり、ショックで顔を曇らせながら愛用のパーカーを死守せんと両腕を掻き抱いて守りの姿勢だ。

 

「沖田さん、あのね流石に衛生的にもそれはどうかと……今朝も正直なところ婦長がここに単独顕現する夢まで見ちゃったわけでして」

「どうしてもというのなら、沖田さんを捕まえて無理やりにでも脱がしてみることです!」

「あ! こら沖田さん! 逃げちゃだめだってば!」

 

 不意打ちで居間から飛び出して行った沖田さんを追って廊下を出るが既にそこに沖田さんの姿はおろか気配すらなかった。

 敏捷:A+に加えて縮地:Bの神速のセイバーが大人げなく本気で逃げに出たのだ。

 まさか彼女がここまで強硬的な手段に出るとは思わなかった。流石に家の外に出るようなことはないと思うがそれでも広い敷地を誇る和屋敷だ。

 探し出して捕まえるのは至難の業だろう。カルデアに居た頃なら強制的に目の前に召喚するような手段も取れたがいまの自分には令呪なんてものは無い。

 

 いまの自分と沖田さんとは契約による主従では無く、心からの絆で結ばれている仲なのだから。

 

「沖田さーん! 敵前逃亡は士道不覚悟じゃないのー!」

『いまの沖田さんはマスターのお嫁さんですので特別に例外なんですー!』

 

 彼女が釣られて姿をみせるような言葉を飛ばしながら廊下を早足で進んでいると何処からかそんな彼女の声が聞こえてきた。

 こんな駄々っ子のような沖田さんは本当に珍しい。

 だからだろうか、とても難儀な状況に直面しているはずなのに思わず笑ってしまう自分がいた。

 

「それじゃあ俺も遠慮なく、本気で行くからね。人類最後のマスターだった足を甘くみないでよ」

 

 柄にもなく自分を鼓舞する意味でもそんなことを口走りながら、いまは姿の見えぬ彼女を追って走り出す。童心に帰っての追いかけっこもたまには悪くない。食後の良い運動にもなるだろう。

 

「うちの可愛いオオカミさんはどこいったかなー」

 

 こうして本日は朝から少々ご機嫌斜めの我が家の可憐な薄紅狼を探すべく、俺は広い廊下を駆け出した。

 

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