念のためご注意ください
10月31日。
木枯らしが身に沁みる季節になってきたわけですが、本日は晴天なり。
澄みきった青空から降り注ぐお日様の日差しは暖かで、冷たい北風を忘れさせてくれる。
お仕事に励むマスターに代わって我が家の留守を預かる私の一日は最近になってようやく段取り良くこなせるようになってきたと思っている。炊事洗濯にお掃除など、家事の類は正直のところ苦手な沖田さんなのですので日夜奮闘の繰り返しです。
剣しか取り柄のない半端者同然の生涯を経ておいて、自分がまさか英霊として現世に召喚され悲願を叶えられたばかりか、誰かの伴侶となる未来が待っているだなんて予想もしていなかったわけでこの冬木で暮らし始めたばかりの頃は随分と苦労しました。
こんなことになるなら、実家にいた頃にもう少し姉上にあれこれ習っておけばよかったと思ってしまう。
けれど、そこは最強無敵の美少女天才剣士の沖田さんです。愛するマスターのために努力して、家事スキルをEからB+あたりにまでは引き揚げて見せましたとも。
沖田さん大勝利ー!と言うにはまだまだ精進が足りませんけれど。とはいえ、今日もお昼前には洗濯や掃除を一通り済ませていまは商店街へとお買い物の真っ最中です。
馴染みの商店街は慎ましくも活気があり、思わずこちらまで賑やかな気分になってしまう。本日はハロウィンと呼ばれる西洋由来のお祭りの当日で、数日前から商店街全体が鮮やかに飾り付けされている。特に目を引くのが橙色の南瓜を顔の形にくり抜いた提灯だ――ジャック・オー・ランタンと彼は呼んでいた。
自然と歩調が軽やかになって、些か行儀が悪かもしれないが履き慣れたブーツで楽器でも奏でるように小気味よく靴音を鳴らしてみる。すっかり顔馴染みになった商店街の人々と他愛のない世間話などもしながら、面白おかしくお店を巡るいまこの傍らにマスターがいてくれないのが少しだけ寂しいと感じるのは贅沢なものなのだろう。
「あ! 着物のおねえちゃんだー!」
「こんにちわー!」
予めメモ書きしておいた食材なんかを買い終えたところで母親の買い物に同伴していたのか近所の子供たちが私を見つけて駆け寄ってきた。人斬りの私が相手でも特に気にせず朗々と、子供だけはいつの時代も変わらないものだと壬生の屯所で暮らしていた時を思い出して自然と顔が綻んでしまう。
「親御さんのお手伝いとは感心です。元気が有り余って遊び相手をご所望でしたら、沖田さんが受けて立ちますよー!」
腕をまくって高らかに言うと子供たちはキャッキャッと目を輝かせて、私の手を取ると商店街の片隅にある公園へと向かい出す。
その気になったら元気いっぱいにまるで暴れ馬のような勢いの子供たちを宥めつつ「いつもごめんね、沖田ちゃん」と意図せず子守り役を務める格好となる私へとお礼なんかを言ってくれる彼らの母親たちにも軽い挨拶を交わしたりと、いまでは完全にマスターと共に私もこの町内の住人の一員になっていた。
「そうだ! ねえねえ、沖田お姉ちゃん! トリック・オア・トリート!」
「お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞー!!」
公園で追いかけっこやだるまさんが転んだなど、定番の遊びをひとしきり楽しんでそろそろ今日のところはお開きかなといった頃合いに子供たちが示し合わせたかのように私に向かって高らかに声を上げた。
「ふふーん! いつ仕掛けてくるのかと待ち構えていましたとも! 順番にあげますから並んで下さいね。年少さんからですよ」
カルデアで経験したハロウィンにまつわる数々の奇特なイベントではあまり印象に残ってはいないが一般的に広まっているハロウィンとはこんな風に子供たちが呪文を唱えてお菓子をねだる行事だと言うことはマスターから説明を受けていた沖田さんは準備万端と懐からキャンディーの詰め合わせを取り出して、配っていく。
これらは全て商店街へ出掛ける予定だった私のことを案じてマスターが用意しておいてくれたものだ。お陰さまで準備不足で子供たちを悲しませるようなことにならなくて良かったです。本当に気配り上手なマスターを持って、沖田さんも鼻が高いですとも。
「わざわざごめんね、沖田ちゃん」
「いえ。私は何も、マス……立夏さんが用意してくれた物を持っていただけですので」
「たはー! 気の利くいい旦那くんじゃない。ウチのボンクラにも爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよ」
子供たちを呼び戻しに来た奥様たちの一人に返事を返して、思わず頬が熱くなる。
珍しく、彼のことを名前で呼んでしまった。
本当は自然なことなのにマスターと呼ぶことが当たり前になりすぎて、何だか彼の名前をハッキリと口にすることが無性にこそばゆい。加えて、奥様から援護射撃のような旦那さん発言に自分の体温が湯たんぽの様に高まっていくのを自覚する。
「あ、そうだ。沖田ちゃんの家では家族でコスプレはするのかい?」
「コスプレ……? ああ、ハロウィンの仮装のことでしょうか?」
「そうそう。子供たちがやりたいってうるさくてね。一緒になってネットで探して買ったんだけど数量ミスして一着余分に届いてねえ、迷惑じゃないならもらってくれないかい?」
「は、はあ……でも、よろしいのですか?」
「ああいうのは若くて綺麗な娘が着た方が映えるからねぇ! サイズは合うと思うし、それ着て仕事から帰った旦那くんを出迎えてやんなよ……あの優しそうな旦那くん、狼男になっちゃうかもよ?」
「へ? は……あ、はは」
にやにやと笑って耳元でささやく奥様の言わんとしていることの意味を理解して、動揺の余り愛想笑いしか出来なくなってしまう。すみません――どちらかというの狼は私の方で、彼は何と言うか調教師と言えば良いのでしょうか、とにかくそんな感じなのですが。
それにしても一切切り返す隙を与えない嵐のような弁舌、これが経験を積んだ奥方の実力と言う物なのでしょうか?
悪い気のしないお節介と勢いに押し切られて、あれよあれよと話が進み、我が家へ帰宅した私の両手には買い物袋に混じってコスプレ衣装の入った紙袋が握られていた。
※
日が暮れて、もうすぐマスターが帰ってくる時間。
晩ご飯の支度を済ませて。ちなみに今夜は初めてかぼちゃコロッケなるものを作ってみました。マスターが美味しいと言ってくれると嬉しいのですが……。
私は渡された衣装を身に纏って、一人で姿見の前に立っていた。
「変では……ないですよね?」
一人しかいない我が家の静かな一室で呟いて、ぐるりとその場で周ってみる。
紫を基調にした魔女帽子と羽織よりももっとゆったりとしたローブをベースにしたオーソドックスな魔女の仮装。いつぞやのエリザベートさんが着ていた水着のような鎧とかでなくて一安心。水着姿を晒すのには抵抗はありませんがあれは少しお門違いと言いますか。
「そう考えると、沖田さんこの恰好とっても似合っていません? ええ、バッチリです!」
あまり接点はありませんでしたがこの時期になると分裂したり、ロボの自分が現れたりと何かと騒動の中心人物になっていた彼女のことを思い返すといま姿見の前に映る自分にもちょっとは自信が出てきました。
「そうですとも! 素敵で可愛いハロウィン仕様の沖田さんキャスターの誕生ですとも! いやー、困りましたねぇ、これはサンタ沖田さんや沖田さんバニーなんかも用意しちゃった方がいい感じですかねー!」
晴れ着を着せられた童のようにパタパタと両腕を振って、それらしいポーズなんかを決めて、どんな風にマスターを出迎えるかと考えていると玄関の戸を開ける音と、大好きな気配が私の肌に伝わった。
「ただいまー……っと、おお!?」
「おかえりなさい、マスター。その、ですね……トリック・オア・トリート!!」
芸がないと言うべきか、当世風に言うとアドリブが効かないと言うべきでしょうか?
あれだけ、マスターを喜ばせる作戦を立てていたのに無意識に何時ものように縮地まで使って彼の目の前に真正面から現れて、どうにかこうにか噂のお呪いを言うので手一杯な私です。こういう時ばかりはノッブの大胆不敵な性格を見習いたいものです。
「すごいの着てるね沖田さん! 似合ってる、似合ってる! 可愛いよ」
「にへへ。お買い物の途中で縁あってご近所の奥様からいただきまして」
「そうだったんだ! ハロウィン沖田さんすごくいいよ。写真! 一緒に写真撮ろう!」
「は、はい!」
私の仮装を目にして、マスターは青い瞳をキラキラと輝かせて商店街で遊んだ子供たち以上に舞い上がったように喜んで褒め言葉を連発してくる。こんなに褒められ、喜ばれては私も押し寄せる幸福感のあまり思わず吐血しそうになってしまう。
気付けば玄関で即興の写真撮影が始まっていた。
私一人が色んなポーズを決めて映ったものを十数枚ほどパシャパシャと、そしてお次はマスターも私の隣に並んで器用にスマートフォンを構えて、自撮りというものでまたパシャパシャと私の姿を写真に収めていく。
不意に彼の頬が私の頬に触れて、ひんやりとした冷たさを感じた。
職場から家まで冷たい夜風を浴びながら帰ってきたのだから当然だ。お仕事でくたくたのはずの体をこんなに冷やして帰ってきた彼が無性にいじらしく思えて、思い切り彼と肩を寄せ合って、マスターと私の頬っぺたもくっつける。
「お、沖田さん?」
「折角のマスターとのツーショット写真ですし、見切れたくないので!」
嘘。
そんなんじゃなくて、ただあなたのことをいますぐ温めてあげたいだけです。
いつも頑張るあなたのことを、誰よりも私が温めてあげたいというちょっとした意地です。
「あの、マスター……ところでさっきの私の質問に対しての答えがまだですよね?」
「え?」
「お菓子がなければ、マスターのことを悪戯してもいいんですよね?」
か細い声で言ってみて、なんて都合の良い二者択一なんだと思ってしまう。
どちらにしても、私にはご褒美だ。
そんなことを考えているとマスターはフフフと笑いながら仕事の際に携帯している鞄から大事そうに紙製の箱を取り出した。
「どうぞ、沖田さん。ウチの店長の特製かぼちゃプリンだよ」
会心の笑みを浮かべて目の前に出された箱からは洋菓子独特の甘い香りが漂ってくる。
それにしても、かぼちゃでプリンとは?
かぼちゃと言ったらに煮物にするから天麩羅ぐらいしか思いつかない私が頭の上に?マークを浮かべて呆気にとられているとマスターがちょっと意地の悪そうな笑みを見せる。
「お菓子より、俺に悪戯したかった?」
「なっ……いえいえ、そんな! 沖田さんは最強無敵の良妻系天才剣士ですので、そんな不埒なことは考えていませんとも!」
「はは、冗談だって。それじゃあ、早く沖田さんの作ってくれた夕ご飯をいただいて、デザートにプリンといこうよ」
「承知しましたとも! 今晩のおかずは沖田さん自信作ですよー!」
少し血圧があってしまいましたがマスターの提案に従って、私たちは居間へと足を運んだ。マスターの前では大見栄を切ってしまったかぼちゃコロッケだが、彼は何度も何度も美味しいと言って平らげてくれた。私自身も食べてみたが出来栄えは悪くないと思う。そして、二人してあっという間に晩ご飯を食べ終え、本日の真打であるかぼちゃプリンなるお菓子をいただいてみる。
よくスーパーやコンビニで買う3個で1セットのお徳用プリンに比べるとキメが荒くて色の濃い表面の生クリームが添えられているところをスプーンで掬ってちょっとだけ恐る恐る、口に運ぶ。
「あーん……んふっ♪」
あまりの美味しさについ変な声が出てしまいました。
丁寧に裏ごしされて野菜としての食感を感じさせないかぼちゃの風味と味の濃さがプリンとマッチしていて本当に絶品です。底にある少し苦めのカラメルも甘くなり過ぎになりそうなプリンを見事に引き締めているようです。
夢のような美味しさにスプーンが止らなったのですがハッとして、マスターの方を見ると期待していた私の反応を見れて満足といったご様子。
「お味はどう、沖田さん?」
「最高ですとも! いやー、ハロウィンってこんなに素敵なお祭りだったんですね」
マスターが私の仮装を褒めてくれたこと。
初めて作ったかぼちゃコロッケがマスターから美味しいと言ってもらえるぐらい上手に出来ていたこと。
マスターが用意してくれたかぼちゃプリンのビックリするような美味しさ。
いろんな出来事が重なってハロウィンと言う祭日に既に私は浮かれきっていました。
不甲斐ないことに完全に油断し切っていたのです。
「ところで沖田さん」
「はいはい、マスター! なんでしょう?」
思えば、今日この時のマスターの笑顔ほど……肝が冷えたものはありませんでした。
「トリック・オア・トリート」
「は、い――?」
彼のひどく落ち着き払った雰囲気の声が確かにその言葉を発して、沖田さんの鼓膜の内でしばらく反響していました。
※
今日のハロウィン沖田さんは本当に可愛かったな。
かぼちゃのコロッケも本当ならもっと食べたかったぐらい美味しかった。
何より、プリンを食べる沖田さんの幸せそうな顔は心が癒されるレベルで素敵だ。
けど、ごめんね沖田さん。
ここからは俺のターンです。
「ほら、止らないで歩いてよ」
「……分かりました」
「暗いから足元気をつけてね、沖田さん」
「よくも、この期に及んでそんな口が叩けますね」
常夜灯の頼りない灯りだけが照らす廊下を二人で歩く。
彼女の両手首は赤いリボンで拘束してあるので転ばないように声をかけるが彼女の返事は険しく、棘がある。
ポニーテールに結い直した彼女の白金色の綺麗な髪が何度も揺れて、うなじがチラチラと視界に映るものだからつい魅入っていると侮蔑を孕んだ視線が度々突き刺さる。
何度も後ろにいる俺を睨んでくる沖田さんを先頭に前もって準備を済ませた寝室へと俺たちは到着した。
「そこに座ってね」
「あうっ……クッ!」
「ああ、ほら。大丈夫、沖田さん?」
「触らないで下さい!」
不本意そうに灯りもつけずに乱暴な足取りで中に入った沖田さんが案の定、敷布団に躓いて崩れるようにその場にへたり込んでしまった。浅葱のダンダラ羽織がぶわっとなびく。
支えようとして伸びた俺の手を縛られた両腕で突っぱねて、彼女の叫びが静かな寝室にビリビリと響いた。
「見損ないましたよ。こんな風に手の自由を奪って、わざわざ私にこの恰好をさせて……たかが行事の余興でこんな乱心をしてどういうつもりです!」
この為に浅葱の羽織袴の姿になってもらった沖田さんがありったけの軽蔑を込めた視線を俺にぶつけてくる。ここまで怒りを表に出す彼女を見るのは初めてかもしれない。
この計画を企てた時から予想はしていたけど、ここまであからさまに敵意を剥き出しにされるのはやはり辛い物がある。まあ、今更やめるつもりはサラサラないけどね。
「でもね、沖田さんも先に俺と同じことをしたんだよ? 俺は二者択一でお菓子をあげた。でも、沖田さんは俺に渡せるような物を持っていなかったんだから、二択のうちの残った方を選ぶのは当然の権利だと思うけど、俺は間違ったこと言ってるかな?」
「だからって、こんなことを……こんな下卑たことを選ぶような人じゃないって信じていたのに!」
普段の陽気さは消え失せ、凛々しい顔を怒りで険しく歪ませて沖田さんは今すぐにでも噛みついてくるような剣幕で喰ってかかって来る。
「一応言っておくけど、手首を縛ったのは沖田さんの体を気遣っているからだよ。無暗に暴れて、下手すれば怪我をしちゃうからさ」
「あなたは本気で私を……分かりました。もう、何も言いません。私を、沖田総司と言う人間を気が済むまで玩弄すればいい!」
全てに裏切られて、自棄になった口調で叫んで沖田さんは布団に身を横たえた。
俺の足元には両手を縛られた状態で凛々しい少年と見間違う麗しい天才美少女剣士が生気を失った瞳で転がっている。
その手の趣味の人からしたら垂涎の光景だろう。
実際、門外漢の自分でも凛々しい男装の沖田さんがこんな風に囚われの姫のような扱いで屈辱の表情を浮かべているのを見ると新しい世界の扉が開きかけてしまいそうだ。
けれど、これ以上は本当に誤解が解けなくなるレベルで嫌われそうなので種明かしに入ろうと思う。
「じゃあ、始めるよ沖田さん。道具を使うから、ここに頭をのせてね」
「クッ……この色狂い…め? あれ、あのぅ……マスターなに持ってるんですそれ? もしや、耳かき棒?」
「そうだよ。これから沖田さんにするのはただの耳掃除だよ?」
「はあーーー!?」
沖田さんの頭の近くに腰を降ろして、竹製の耳かき棒を取り出してあっさりとネタばらしをした俺にこの日一番の大きな声が彼女から飛び出した。うん。まあ、その反応は正しい。
「ただ、私に耳かきするために……こんな手の込んだお芝居をしたんですか?」
「うん! だって、それが悪戯のつもりだったんだから」
「そんな……あう、ごめんなさいマスター! 私、そんなこととは露知らず言いたい放題言ってしまって」
「こっちこそ、驚かしてごめんね。けど、沖田さんは俺に何をされると思っていたの?」
「バ、バーカ! マスターの変態! 助平! い、言えるわけないじゃないですか!!」
がばりと飛び起きて事の真相を究明しようとする沖田さんに俺は包み隠さず今回の悪戯のプランを話してあげた。すると彼女の顔は顔色が赤くなったり、青くなったりと忙しい。頭を抱えたかと思えば、次の瞬間にはブンブンと頭を振り回し呻き声のような感嘆の息を吐き出している。
最後に、我ながらこれだけは忘れずに質問を飛ばすと沖田さんは顔を真っ赤にしてプルプルと震え出すと怒涛の勢いで俺への文句をまくし立ててくる。
「納得してくれた?」
「はあ……まさかマスターが悪戯に対してこんなに貪欲な方とは思ってもみませんでした。これには絆レベルも減点ですからね!」
「反省してます」
「あと、どうしてこの恰好しなきゃいけなかったんですか私?」
「それは完全に俺の趣味だよ。一応、その髪形の方が耳がちゃんと出てるから耳掃除やりやすいってこともあるけど」
「うーん……まだ癪然とはしませんが、そういうことにしておきましょう」
仕方ないとは言え、まだまだ不機嫌モードの沖田さんを宥めるべく、計画の第二段階へと移行するとしよう。ここからは正真正銘、日頃の感謝を込めた彼女へのご奉仕だ。
「本当にごめんね。ほら、罪滅ぼしってわけじゃないけどいつも頑張ってくれる沖田さんを労って耳掃除してあげるからおいでおいで」
「そ、そこまで言われたらお願いしてみましょうか。よっと……!」
膝枕される側&耳かきしてもらう側という立場に抗えなかったのか沖田さんはそわそわと何かに期待する様子で俺の膝の上におもむろに置いた枕に頭をのせて右耳を天井に向けた。
「それじゃ、耳かきしていくからね、沖田さん。暴れると耳を怪我しちゃうかもしれないから、痛い時は声で教えてね」
「分かりましたけど、その余りまじまじと沖田さんの耳の穴を覗き込むのはやめてもらえると……いくらマスターが相手でも恥ずかしいですし」
「なるべく、善処するよ。では、失礼しまーす」
注意事項を伝えてから、いざ俺は沖田さんの耳に耳かき棒を入れていく。
カリカリ、しゃりしゃり、こりこりと優しく丁寧に彼女の耳に耳かき棒を這わせるとさっそく反応が出てきた。
「ん、くぅん……あはっ……これ、すご」
熱っぽい呼吸をしながら、時折ビクッ、ビクッと体を震わせて耳を襲う快感に悶える沖田さん。
うん、絶対的な自信があったけどものすごく刺激的で色っぽい艶姿に見えてしまう。これが全部、俺の耳かき捌き?によるものだと思うと少し誇らしい。
「ハァ……ハァ……あの! どうして、マスターってばこんなに耳掃除がお上手なんですかぁ!?」
「カルデアでジャックたち子供組にやって上げていたんだけど最初は上手く出来なくて結構厳しくダメ出しされてさ、それでやる気に火が付いてタマモ・キャットやマタ・ハリさんに弟子入りして修行したんだ」
「なんてものを修行しているんです……んあぁぁん!」
感じやすいところを刺激されたのか沖田さんは突然背中を大きく仰け反らせて、桃色の悲鳴を上げた。これは膝と沖田さんの頭の間に枕を挟んでおいて本当に正解だった。
ずっとこんな感じの彼女を見続けていたらこっちも辛抱たまらなくなってしまう。
「沖田さん、気持ちいい?」
「ふあっ……そんなの、見ればわかるじゃない、ですかぁ……ひゃん!」
浅葱の羽織と黒袴を身に纏った端正な顔付きの沖田さんが酔ったように頬を火照らせている姿は色っぽいとかの概念を通り越して綺麗だ。
蕩けた声を聞かれたくないのか縛られたままの両手首で口元を必死に押さえている仕草は本人には悪いけど、見れば見るほど悪戯心をくすぐられる。
「大体綺麗になったから、今度は梵天で細かいのを拭き取るね」
「はひゃぁあぁぁあっ」
ふわふわの梵天をくるくると回転させながら上下させると沖田さんは大きく目を見開いてビクンと跳ねた。慌てて梵天を彼女の耳から遠ざける。
よっぽどふんわりとした羽毛の感触が気持ちよかったのか沖田さんはバフっと枕に深く頭を埋めて、小刻みに体を震わせながら自由な両脚はパタパタとせわしなく動き回っている。
「沖田さん、いまのは流石に怖かったよ。怪我したら大変だから、もう少しジッとしていてね」
「ふー……ふー……ごめん、な……ひゃい」
今にも泣きだしそうなぐらいに目を潤ませて、紅く惚けた顔でそう漏らした沖田さんは喘ぎにも似た粗い呼吸を大きく肩を揺らしてするのが手一杯と言った様子だった。我ながら、長く苦しい研鑽を積んで手に入れた耳かきスキルの腕前が恐ろしい。そんなことを考えながら少し刺激を控えめにして手短に梵天で沖田さんの右耳の掃除の仕上げてします。
「はい。右耳はこれでお仕舞いだよ。お疲れ様」
「あ……ありがと、ございます」
もはや心ここに非ずと言った感じで耳かきの快感に撃沈寸前だった沖田さんはぐったりと俺の膝を枕に寝転がって伸びていた。さて、ここで今日の俺はちょっとだけ、意地悪に悪魔の一言を綺麗に掃除したばかりの彼女の右耳に囁く。
「さあ、今度は左耳だよ。ごろんってこっち向いてね沖田さん」
「んんん~~!?」
言葉にならない声を上げて、何か言いたげな視線を俺に送ってくるがその顔はもうだらしなくふやけきっていて、本人は凄んでいるつもりかもしれないけど大変微笑ましく映る。
「沖田さんがもう嫌ならここでやめるけど、どうしよう?」
これだけのことをやっておいて、この台詞は自分でもどうかと思うけどハロウィンの悪戯と言うことで目を瞑って欲しい。何せ、一年に一回のことなのだ。
俺のそんな鬼畜の所業すれすれの言葉に沖田さんは沸騰したお湯のように熱くなった頭でしばらく考えた末に、よろよろと生まれたての小鹿のような動きで寝返ると左耳を天井へと向けた。
「…………さいごまで、してください」
耳まで真っ赤にした顔を絶対に俺に見られまいと枕と俺のお腹に押し付けるように覆い隠してしまった沖田さんはこれから左耳に襲い来る快感に耐えようと丸く身を縮こまらせている。
随分前にリボンを解いて自由になった両手は俺の服の裾をギュッと強く握りしめている。
「それじゃあ、いくよ。沖田さん」
ほんの一瞬、チラリとこちらを見た彼女の熱く蕩けた眼差しが準備完了の合図と見て、彼女の左耳へと耳かき棒をゆっくりと挿入していく。
まだ耳の内側には触れていないけど、耳かきが入ってきた気配を感じ取って彼女の体がまたビクッと震えて、静かな夜の寝室に熱く荒い吐息だけが聞こえる。
沖田さんの名誉のために手短に終わらせるべきか、それとも自分の胸の高ぶりを優先して、時間をかけて丁寧にやり切るべきか難しい選択に悩みながら俺はもうしばし彼女への耳かき奉仕に勤しんだ。
次の日の朝から案の定、しばらくの間拗ねて口もろくに利いてくれなかった沖田さんの機嫌を元に戻すのに苦労したけど悪戯したことには後悔は無い。
そう、回顧する俺の頬には怒り心頭だった彼女のビンタで出来た赤い腫れ跡がいまもくっきりと残っている。
ごめんね、沖田さん。
でも、本当に可愛くて仕方なかったんだ。
言いそびれちゃったけど、沖田さんへハッピーハロウィン!
別にぐだと沖田さんは今回耳かきしていただけなんだからね
作者はえっちな描写とか苦手なのを無理して頑張って書いているんだから勘違いしないでよね(棒読み)
ご意見、ご感想お待ちしております。