ノマルは二部だが愛がある   作:rairaibou(風)

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314 彼女のアドバイス ②

 ポケモンの巣から現れたそのキョダイなポケモンを前にして、その名もなき少年トレーナーは腰を抜かしていた。

 目的があるわけではなかった。

 ただただ、度胸試しの一環として、自分は何があっても大丈夫なのだろうという根拠のない自信があった。自らが恵まれた立場に居続けたものだから気づけなかった、野生というものは、自らの手の中に収まるものではないのかもしれないということを、彼はようやく理解できるかもしれないという段階に来ていた。

 そして、もう遅いのかもしれないということも理解しかけている。自らの前にいるポケモンはなんとか虚勢を張ってはいるが、頼れそうにはない。

 諦めが早いのは、潔いからだろうか、否、そうではないだろう。彼の人生の中にこの様にどうしようもないほどのピンチがこれまで無かったから、どうすれば良いのかがわからないだけだ。

 そのポケモンが自らを視界に収めたことを認めたくなくて、ギュッと目を閉じようとしたときだった。

 

 はるか上空から、そのポケモンに攻撃するものがあった。

 そして、自らとキョダイなポケモンの間に割って入る小さな影。

 そして、声。

 

「準備はありますか!?」

 

 柔らかく、少女のように高い声だった。

 上空から攻撃したポケモンが、その影の前に降り立つ。ふくろうポケモンのヨルノズクであった。

 少年は、それに答えることが出来ない。理由は二つある、一つは、準備なんて無いから、そしてもう一つは、そう言ってしまえば怒られると思ったから。

 だが、その小さな影、ふわふわの髪をした女は、その沈黙を怒ることもなければ、その答えを求めることもしなかった。

 代わりに、彼女は少年の傍にモンスターボールを投げる。

 現れたのは、毛を逆立てて耳をピンと伸ばしたイーブイだった。

 

「逃げなさい!」と、その女は言う。

 

「そのイーブイが、逃げ方を知っています!」

 

 その言葉に、彼はようやく抜けた腰を上げることが出来た。もしかしたら助かるかもしれないという希望と、その女の不思議と安心がある声が彼を立ち上がらせる。

 イーブイはそれを確認してからキョダイなポケモンに背を向けてその場から逃げ出す。『にげあし』の良いポケモンだ、逃げ方を知っている。

 それを追おうと少年が体を捻った時、その女の横に立つトレーナーが視界に入った。

 彼はそのトレーナーを知っている。彼女はメジャージムリーダーのルリナだった。

 だが結局、彼は自らを助けてくれたその女が誰なのかはわからなかった。

 

 

 

 

 そのキョダイなポケモンから目線を切らぬように気を張りながら、ノマルは少年がイーブイを追って逃げたことに一先ず安心した。そのキョダイなポケモンもすでに逃げた小物には興味なく、自らを攻撃してきたヨルノズクとノマルに興味が移っているようだ。

 

「このポケモンは……」

 

 ノマルのそばでボールを構えながらルリナが緊張の面持ちでつぶやく。

 キョダイな果実に一体化したようなそのポケモンは、りんごはねポケモンのアップリューだ。それも特殊で強力なダイマックスであるキョダイマックスの姿である。

 

「私が指揮を取ります!」と、ノマルが叫ぶ。

 

 みずタイプのエキスパートであるルリナにとって、草タイプのドラゴンであるアップリューとの相性は最悪だ。状況からして、さらに年長者でありこういう状況の経験豊富さから言って、ノマルが指揮を取ることに問題はないだろう。

 

「はい!」とそれを受け入れながら、ルリナはボールを放り投げてカジリガメを繰り出した。相性は最悪、だが仕方がない。

 

「『リフレクター』!」

 

 ノマルの指示と共に、まずはヨルノズクが念動力で『壁』を作り出す。

 アップリューの必殺技である『Gのちから』を意識した対策技だったが、カジリガメの相性の悪さをそれで補えるかどうかはノマルも自信がない。

 ポケモンの巣からダイマックスしたポケモンはとにかくタフな上に、ダメージが通りにくい特殊なバリアを展開する、そのため単純な一個体のパワーよりも、いかにこちらの手数を切らさないかが重要となる。故に、相性が最悪であったとしても数を維持したい。

 

「来ます! 備えて!」

 

 ノマルはアップリューの動きを予測し叫ぶ。そして、その警告が正しいものであることを証明するかのように、アップリューが攻撃態勢をとった。体の周りの空気が歪んだように揺れ、竜巻のように形を作る。

 狙いはヨルノズク、まだ彼はルリナとカジリガメを視界の端に捉えるだけでそれを脅威だとは思っていない。

 巨大な竜巻がヨルノズクに向かって放たれた。それが纏う音は高い。空気を切るような速度を得た竜巻がヨルノズクを襲い、抜けた羽毛を巻き上げ天に吹き上げる。

 ヨルノズクは宙を舞ったが、すぐさまバランスを取り戻して地面に着地した。彼も負けず劣らずタフであるが、その前に貼っていた『リフレクター』が効果を発揮していた。

 

「『こおりのキバ』!!!」

 

 技の打ち終わりのスキをルリナは逃さない。

 すぐさまにアップリューの懐に潜り込んだカジリガメは、その尾っぽに思い切り齧りついた。

 ただの『かみつく』ではない。水ポケモンのサブウェポンとして代表的な凍てつく攻撃だ。

 アップリューはその攻撃に地響きのような悲鳴を上げて尾を振り回す。草タイプとドラゴンタイプである彼にとって、『こおり』タイプの攻撃は効果が抜群どころの騒ぎではない。

 だが、カジリガメも一度くらいついたら離さない顎の力が自慢のポケモンである。振り回されながらもその顎を離すことはなく、むしろ自身の重みを加えてダメージを与え続ける。

 しびれを切らしたアップリューは、それを地面に叩きつけることで問題の解決を図ろうとした。尾を高く振り上げ、痛みの箇所を再確認してから振り下ろす。

 

「戻って!!!」

 

 しかし、そこはルリナも実力者である。彼は相手の意図をすぐさま理解してパートナーに指示を出す。

 カジリガメもさすがはジムリーダーのパートナーだ。彼もまた彼女の意図を理解して、てこでも外れないであろう顎の力を緩めて地面に着地し、彼女のもとに戻る。

 叩きつけることが空振りに終わったアップリューは憤りながらルリナ達に視線を向けようとした。

 だから彼は一瞬気づくのが遅れた。もうひとりのトレーナーであるノマルがすでにヨルノズクをボールに戻し、巨大化させたボールを放り投げようとしていることに。

 

「よいしょっと!」

 

 重たそうに両手を使って下手から放り投げられたそれから、アップリューと同じく巨大化したヨルノズクが繰り出される。そして彼は相手を威圧するように巨大化した羽を広げ、地を這うほどに低くなった鳴き声を上げた。

 それもまたノマルの作戦の一部であった。こちら側のほうがより脅威であるように相手に見せかけ、ルリナ達から気をそらしたい。

 だが、そのアップリューも強力な個体であったのだろう。彼は目先のキョダイな相手よりも、先程凍てつく攻撃をしてきたルリナとカジリガメのコンビのほうが厄介であることを本能的に理解していた。

 目を彼女らに向けたまま、アップリューは動き始める。

 

「『ダイジェット』!」

 

 まずいと判断したノマルが指示を出し、ヨルノズクが翼を振って螺旋のように鋭く相手を切りつける風を送ったが、特殊なバリアによって威力を半減されたその攻撃ではアップリューの気を削ぎきれない。

 

「来ます!」と、ノマルが叫んだ。

 

 おそらくは草タイプの攻撃が来るだろう。と、ルリナとカジリガメは身構える。

 防御壁である『リフレクター』があったとしても、果たして耐えられるだろうか。

 アップリューが攻撃を放とうとしたその時だった。

 

「『ぼうふう』!」

 

 不意に、彼らの視界の外から、強烈な『ぼうふう』が吹き荒れ、攻撃態勢に入らんとしていたアップリューを攻撃する。

 そして、彼女にとって馴染みの声が、少し焦ったトーンと粗い息づかいと共に聞こえた。

 

「遅れてすみません!」

 

 救世主、ヤローは、ダーテングを引き連れてルリナの横に並ぶ。

 突然増えた敵にアップリューが考えを整理するよりも先に、その次の矢が飛んでくる。

 

「『ブレイブバード』!!!」

 

 ヨルノズクが作り出した『ダイジェット』の風と、ダーテングが作り出した『ぼうふう』の勢いを十分に活用しながらウォーグルがアップリューに突っ込む。

 それは特殊なバリアによって弾かれたが、アップリューの気を削ぐには十分だった。

 

「加勢します!」

 

 翻ったウォーグルを傍らに従えながら、同じくミスミが隊列に並ぶ。

 数が増えようと関係ない、と言わんばかりに低く威圧するアップリューに、ヤローが叫ぶ。

 

「ぼくが指揮を取ります!!!」

 

 ルリナはそれに驚いた。彼の大声を聞いたのは久しぶりだったから。

 ノマルはそれに頷く。

 

「わかりました! よろしくおねがいします!」

 

 メジャージムリーダー二人に、マイナーではあるがジムリーダーとジムトレーナー。

 彼はまだ気づいてはいないが、アップリューの形勢はだいぶ悪くなり始めていた。

 

 

 

 

 

 

「はい! それでは今日は皆さんお疲れさまでした!!!」

 

 ワイルドエリアは昼下がり。晴天のもとにカレー鍋から立ち上る香りがその周辺に漂っている。

 すでにカレー皿を手渡されたルリナとヤローは、傍らのカジリガメやダーテングと共にそれを堪能している。

 一仕事を終えたイーブイやヨルノズク、ウォーグルも一緒だ。

 

「ノマルさんのカレーはあいかわらず美味しいですなあ」

「えへへ、うれしいなあ」

 

 今日ノマルが作ったカレーは彼女の予定通り『ダイオウドウ級』、最高峰である『リザードン級』と比べてしまえば見劣りするだろう。だが、彼女の研究カレーには家庭で食べるような温かみがあった。ヤローの言葉はお世辞ではないだろう。

 思い通りのカレーが出来たのかノマルは上機嫌だった。非常にコストパフォーマンスのいい組み合わせを見つけたのかもしれない。

 

「愛して~るの~エールを~あげ~る~」と鼻歌を歌いながら、ミスミはお玉を片手にカレーを皿に装い続けている。

 

 客人はヤローとルリナだけではない。カレーの匂いに釣られる少し警戒心の弱いポケモンたちに対しても、ノマルは惜しむこと無くその研究カレーを振る舞うだろう。今日のレシピに対してどのようなタイプのポケモンたちがどのような反応を示すのか、彼女にとっては貴重なデータだ。

 さらに。

 

「あなたも災難だったよねえ」

 

 ノマルは傍らでカレーを貪るアップリューにそう言った。当然巨大化はしていない、彼らのよく知るアップリューの大きさだ。

 ダイマックスした彼を沈めた後、ノマルはアップリューを捕まえてこのキャンプに招待していた。

 何も仲間にしようというわけではない、戦いによって消耗したであろう彼を少しでも癒やしたかったし、決して人間というものが安息を侵略するだけの存在でないことを知ってほしかった。

 そもそも彼は悪意を持って人間を攻撃したわけではないのだ。静かに暮らしていたところに強烈なエネルギーを流し込まれて戸惑っただけに過ぎない。

 アップリューがカレーにご満悦なことが、ノマルにとっては幸いだった。

 

「ところで」とノマルがヤロー達に視線を向ける。

 

「今日のヤローくんかっこよかったね!」

 

 想像していなかったのだろう。その言葉に、ヤローは一瞬ハッとしたように体を緊張させてから顔を赤くした。ちなみに、その横ではルリナも同じ様に顔を赤らめながら小さくコクコクと頷いているがノマルはそれに気づかない。

 

「い、いやあそんな……」

「びっくりしちゃったなあ、結果、ヤローくんに任せて正解だったし」

「あれはその……相手がアップリューだったからつい思わず……」

 

 あの時、ヤローが集団バトルの指揮を取ろうとした判断は何一つ間違ってはいない。

 彼の言う通り、相手は草タイプのアップリューであったし、それは草タイプのエキスパートであるヤローの専門領域であった。

 だが、あの時あの瞬間、すでにダイマックスをしている年上のノマルがいる状況で、後から来た年下の彼が、自らが指揮をとったほうが良いと判断しそれを実行した胆力というものを、彼女は褒めているのだ。

 

「ルリナちゃんもタイプ不利だったのに堂々としてたし、二人共もう立派なジムリーダーだね!」

 

 その言葉に、ルリナとヤローはやはり顔を赤らめたまま小さく頭を下げた。

 立派も何も、二人はすでにメジャーのジムリーダーである。だが、自分達が本当に子供であった頃から付き合いのあるノマルにそう言われることが、彼女らは嬉しく、照れくさくもあった。

 

「あ、そうだ!」と、ノマルはそのままの流れのままに続ける。

 

「今日からヤローくんのライバルはルリナちゃんってことね!」

 

 ワイルドエリアの時が一瞬止まったような気がした。

 本当に何の気無しに、恐らくは百パーセントの善意で、そして、駆け引きの欠片もなければ文面上の意味しか持たれていないその言葉を聞いて、まずヤローは目を見開いて言葉を失い、ルリナは茹だったのかと思うほどに赤くした顔で何かを取り繕う言葉を探した。

 やがてお互いはなぜか顔を見合わせ、すぐにそれを反らす。

 厄介なことに、二人共ノマルの言葉から文面上以上の何かを感じ取っていた。そして、それは勘違いだ。

 

「これからもお互いに意識して仲良く頑張っていってね!」と、とどめを刺すような追加を放ちながら、ノマルはニコニコとカレーとポケモンたちに目を落とし、今日はいい日だなあとすでにその日のまとめのモードに入っている。

 

 唯一それを第三者目線で眺めることの出来ていたミスミだけが「あー、リーダーこれはアレだな、やっちまったやつだな」と、その二人を眺めながら推理しており、後で二人に花弁の数が数えやすい花でもあげようと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

『今日のワイルドエリア清掃は終了です! 途中トラブルも有りましたが強力な助っ人二人のおかげで問題なく終えることが出来ました! 友人でもありライバルでもあるだけあって素晴らしいコンビネーションでしたよ! 皆さんもワイルドエリアや草むらなどでピッピにんぎょうを見つけたら破れたりしていてもお近くのバックパッカーさんに預けてくださいね! ボランティアの皆様の手によって修繕されて初心者のトレーナに寄贈されます!!!』

 

 同日夕方、ポケスタグラムに放られたその投稿には、真ん中にノマルを据えてそれぞれが少し赤い顔と微妙な距離感で写るルリナとヤローの姿があった。

 

「ほら、二人共もっと寄って寄って!」と、恐ろしいなまでに無邪気で鈍感な善意によって本来ならば密着したツーショットになる予定だったその写真は、ノマルの事をよく知るミスミの「ノマルさんが真ん中に入ればいいんじゃないですか?」という素晴らしすぎるフォローによってなんとか最も恥ずかしい状況は逃れている。

 

 顔が赤いのは野外清掃の後だからとごまかせるだろうが、写真からでもわかる微妙な二人の『かたさ』は、果たして敏感なポケスタグラマーにどの様にうつっただろうか。

 

 ちなみにキバナはその投稿を速攻で『いいね』していたという。




感想、批評、お気軽にどうぞ、質問等も出来る限り答えようと思っています。
ここまで読んでいただけたらぜひとも評価の方をよろしくおねがいします!!!

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