ノマルは二部だが愛がある   作:rairaibou(風)

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ビート(原作キャラクター)
 現アラベスクジムリーダー、フェアリータイプのエキスパートであるが、エスパータイプの扱いにも長ける。
 ジムチャレンジには当時委員長であったローズの推薦で参加したが、ラテラルタウンの壁画レプリカを破壊したことで失格となる、その後ポプラに見いだされて猛特訓のもとにジムリーダーに就任する

ポプラ(原作キャラクター)
 元アラベスクジムリーダー、今はビートに立場を譲り隠居状態だが、今でも毎日ジムに顔を出しているようだ
 意地悪なクイズを出すことで有名


319 彼女は助手 ①

「プレミアムミルクティーを一つくださいな」

 

 早朝、ラーノノタウンは野外市場。

 そこに溶け込んでいる移動式のキッチンカーにて、ラーノノジムリーダー、ノマルはその『占い』を注文していた。

 市場の朝は早い、温かいサンドイッチやちょっとした軽食を提供するその店は、行列ができるほどでは無いが、あまり客が途切れることはない程度には繁盛している。

 

「ゆっくりでいいんで」

 

 その言葉に店主は親指を立ててミルクティーを作り始める。

 

「今日、アラベスクタウンに行くんですけど。何かあるかなって」

 

 そう相談したら、後は待つのみ。首から下げたスマートフォンを両手で操作しながら、ノマルはSNSをチェックしている。最近のお気に入りはイーブイの写真を投稿しているアカウントだった。

 やがてサインペンがボール紙を撫でる心地よい音が響き、ノマルの前にそのカップが置かれる。

 

「ありがとうございます」と、彼女がそれを手に取る。

 

 カップカバーには『かつての自分に会うでしょう』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 アラベスクタウンは不思議な町だ。

 巨木を中心とした森と一体になった町の構造の歴史は古く、古い施設の一部はすでに成長した木に半分取り込まれている。だが、住民の誰もがそれを目に入れたくもないほどうっとうしいとは思っていないだろう。その生活スタイルに嫌気のさした人間はすでに何百年ほど前にこの町を後にした。町が人を選んだのではなく、人が町を選び、生きているのがアラベスクタウンの特徴であった。

 

 町中には蛍光色に光るきのこが至るところに群生し、素人目には何であるかさっぱりわからない巨大な結晶も色とりどりの光を放っている。ノマルはそれらの配置に気を取られ、同じ目線を共有していたチョンチーとぶつかりそうになった。

 

「おっとっと、ごめんね~」

 

 別に構わんよ~、とでも言うように尾びれを揺らすチョンチーに手を振りながら、ノマルはその光景にひどく驚きはしなかった。

 本来ならば水中にいるはずのチョンチーが、なぜかこの町では宙を闊歩する。常識に縛られていれば縛られているほどに首を傾げざるを得ない状況であるのに、この町ではそれが常識であるから誰も気に留めない。この巨木に関連するダイマックスエネルギーの一部が作用しているのではないかという説がないわけではないが、ダイマックスエネルギーの第一人者であるマグノリア女史ですら、常識外の世界の常識を理論化させることには苦労しているようだった。

 

「え~っと、こっちでいいのよね……?」

 

 紙の地図を片手に、ノマルは一先ずポケモンセンターを右手に見やる。

 ひどい方向音痴なわけではないが、来るたびに配置や光の色が変わるこの町を自由に闊歩するのは難しい。

 最近はスマートフォンを少し弄るだけで位置情報を利用した道案内サービスが利用できるというのに、『なんか怖いから』と理由でスマホの位置情報サービスを切断している彼女がその利便性に気づくことはない。

 しかし、その角を曲がれば、さすがのノマルでもアラベスクスタジアムを眼下に捉えることだろう。

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 アラベスクジム、ジムリーダー控室。

 アラベスクジム新任ジムリーダーであるビートは、仕事前に現れたノマルに思わずそう漏らした。

 

「やっほー、ビートくん久しぶり~」

「は? はい? あの……」

 

 なんでもないことのように挨拶をするノマルに、彼は思わず同室にて紅茶を楽しんでいたポプラに助けを求める視線を飛ばした。当然だ、この状況にたじろがず、涼しい顔をしているということは、仕掛け人はポプラ以外にはありえない。さすがエリートらしく頭の切れる男だった。

 

「あたしが呼んだよ」

 

 カップを置き直し、カップケーキにフォークを入れながらポプラが答えた。

 

「あんたの初仕事の助手をやってもらおうと思ってね」

「ちょっとポプラさん! 聞いてないですよ!?」

「言ってないからね。言ったら断ってたろ?」

「当たり前じゃないですか!!!」

 

 決して照れからではない、戸惑いと少しばかりの怒りに白い肌を真っ赤にゆだらせながらビートが叫んだ。

 だいたい想像できる通り、ビートはノマルのことが苦手であった。

 決してそれは、ノマルが妙齢の女性だからであるわけではない。

 ある事件によるジムチャレンジを失格になった彼が当時アラベスクジムリーダーであったポプラにスカウトされ猛烈な座学と特訓により将来のチャンピオンと肉薄する戦いを展開するほどのアラベスクジムリーダーとなったエピソードは今更説明する必要がないほどに有名であるが、実はその座学にノマルが外部講師として一枚噛んでいることはあまり有名ではない。

 

「それでは問題です!」と、ノマルは得意げに人差し指を立てて問う。そのスキにポプラはカップケーキを口元に運んだ。

 

「『すなあらし』『サイコフィールド』下で対戦相手はイワパレス、警戒すべき戦略とその対処法は?」

 

 ビートからすれば、突然のその問題に答える義理なんて欠片もないだろう。相手は不意に現れているし、その説明もない。

 だが、条件反射というものは恐ろしいもので、彼はすぐさまに背筋を伸ばしてそれに答える。答えを知っているのに答えないということが納得できない性分でもあったし、何より、それを答えなかったときの手取り足取りの指導がうっとうしくてたまらないのだ。

 

「脅威となるのはイワパレスの特性『がんじょう』による『からをやぶる』戦略、その対処法は『からをやぶる』後のイワパレスの素早さを上回る素早さのポケモンで先手を取ることか、状態異常もしくは『あられ』状態によるスリップダメージを狙うこと、『でんこうせっか』などの技は『サイコフィールド』の特性から無効化されるために不利……です」

 

 その素晴らしい解答に「すご~い!!!」と手をたたきながらノマルがぴょんぴょんと跳ねるようにビートに近づいてその頭を撫でる。

 

「ちょっと難しい問題を出したんだけど、完璧な正解だったね! 勉強は続けているようで感心感心!」

「当然です! 僕はエリートですからね!」

 

 誇らしげにそう言いながらも、彼は頭を撫でる手をなんとか引き剥がそうと両手を振った。だが、それでも諦めずに髪の毛をクシャクシャにすることを目論むその可愛がり方が、クールでありたい彼にとっては苦手な部分であった。

 もうしばらく髪の毛を巡る攻防を繰り広げた後に「そうじゃなくて!」と、ビートがバックステップでノマルと距離を取りながら続ける。

 

「助手なんて必要ありません! 今日はただの初心者教室ですよ!?」

「まあまあそう言わず、もう来ちゃったし」

「そうだよ、レディの気遣いを無駄にしちゃあ駄目だよ」

 

 ポプラは隣の椅子を引いてノマルにそれを促した。

 

「おじゃまします」と、彼女は一礼してからそれに腰掛ける。

 

「大した歓迎も出来ずに申し訳ないね」

「いえいえ、ポプラさんの焼き菓子私大好きです」

「嬉しいこと言ってくれるね。あの子もそのくらい素直になってくれればね」

「まあビートくんにとっても突然のことですし、素直じゃない子ですしね」

「あなた達ね……」

 

 本人が目の前にいるのにも関わらず無茶苦茶言う年上の女性二人にビートは恐れと呆れを抱いた。

 

「まあとにかく」と、ポプラが焼き菓子をノマルに勧めながら言う。

 

「何でも初めてってのは緊張するもんさ、ノマルはこういう活動に慣れてるし、横に並べておいて損じゃないよ」

「まかせてね! 庶務雑務何でもやるよ! 当然ビートくんの指導には口出ししないから安心してね!」

「あたしとしてはがんがん口出ししてもらって構わないんだけどね」

 

 彼女らの会話からもわかるように、今日はアラベスクジムリーダー、ビートによるフェアリータイプの初心者教室の日であった。リーグやトーナメントで輝かしい成績を残す彼ではあるが、初心者教室は初めてだ。

 基本的にメジャーリーガーは忙しく、普及活動を行える日程は限られているが、少なくとも普及に全力を尽くさなければならないことはすべてのジムリーダーに共通させなければならない概念である。最も、実力も普及も伴わないジムリーダーがいなかったわけではないが。

 ポプラがビートの補助としてノマルを呼び出したことはセオリーとしては全く間違ってはいないし、ノマルも快くそれを承諾した。尤も、彼女らはビートがこのことを知れば確実に何らかの反抗をしてくるだろうことも想定して彼に何も伝えなかったし、その考えは概ね正しいのだが。

 

 しばらく腑に落ちない表情を見せ続けていたビートも、やがてひとつため息をついてから、テーブルの上においてあったバインダーを手にとってパラパラとめくり、そして諦めた。

 そもそも彼のような若い新任のジムリーダーが、ポプラとノマルという経験ある女性ジムリーダーを出し抜こうというのが、土台無理な話なのだ。

 

「わかりました、ノマルさんには助手として僕のサポートをしていただきます」

「わかった。ありがとね! 私も今日は勉強させてもらうよ!」

「……それじゃあ、講義の内容についてミーティングを行いたいのでよろしいですか?」

「ああ、それならここでやっていきな」

 

 ノマルとは逆側の椅子を引き、ポプラがそれを促す。

 すでにビートにそれに逆らう気力はなかった。

 

 

 

 

 

 

「皆さん、おはようございます」

 

 アラベスクスタジアム。その中心でビートは子供達を相手に彼ができる限りの大声で言った。

 パラパラと元気よくそれに返す子供達に一先ず満足してから、彼はバインダーにクリップしてあるプリントをめくる。

 

「今日はアラベスクジム主催の初心者教室に来て頂きありがとうございます。僕はジムリーダーのビート、彼女は今日助手を務めていただくラーノノジムリーダーのノマルです」

 

 それぞれが頭を下げる。ノマルは「よろしくおねがいします!」と大きな声ではっきりと伝え、それにつられてビートも「よろしくおねがいします」と早口に言った。

 ビートは少し高飛車なところがある性格だったが、流石にアラベスクジムリーダーとして子供たちの前に立つときにはそれを我慢できるエリートであるようだ。

 

 さて、と一旦区切ってからビートが続ける。

 

「それでは皆さん。自分のパートナー達をくり出して僕に見せてください」

 

 その言葉に、子供たちは一斉に立ち上がってそれぞれの持つボールからポケモンをくり出した。ポケモンがボールから現れる小気味の良いリズムが流れ、その後にはフェアリータイプのポケモンたち特有の高く柔らかい鳴き声がいくつも聞こえる。

 そのすべてのポケモンが進化前であった。ビートは一先ずそれにホッとする。子供たちの手に負えないようなポケモンはとりあえずいないようだった。

 

 

 

 

 

「良いですか皆さん」

 

 正しいポケモンの触り方、傷薬の使い方、ポケモンとの連携を可能にするためにトレーナーが取るべき位置取り、初歩的なことをおおよそ教えた後に、ビートはバインダーに目を通しながら少し離れたところにあるサンドバッグを指差して続ける。

 

「攻撃というものは、ポケモンバトルにおいて最も基本的な技術であり、同時にポケモンバトルにおいて最も深く、最善の無い技術でもあります」

 

 ビートの攻撃評に、ノマルはウンウンと頷いた。子供たちには少し難しいかもしれないが、間違ったことは言っていない。

 ノマルはこれまでのビートの先生っぷりを「悪くはない」と思っていた。決して口には出さないが、彼女はもう少し独りよがりな先生っぷりになるかもしれないと危惧していたのだ。

 もちろん、ビートが優れたトレーナーであることは今更再認識するほどのことではない、外部講師として教えていたときから、彼は事バトルにおいては飲み込みの早い生徒だった。自分で自分のことをエリートと称するだけのことはある。

 だが、優れたトレーナーすべてが、優れた先生であるとは限らない。特にビートのようなエリート、若くして感覚でポケモンやバトルを掴んでいる天才型は、持ち得ぬ人間に教える際に『わからないことがわからない』という状況に陥りかねないのだが、彼はそこのところをよく理解しているようだった。

 初心者に攻撃を教えることは方針は違うが、そこは言わぬ約束だったし、答えの出る議論ではない。

 

「今日皆さんに経験していただくのは最も原始的な『こうげき』です」

 

 そう言って、ビートはモンスターボールを投げる。

 現れたのは、いっかくポケモンのポニータだった。現れた彼は子供たちのポケモンたちのようにソワソワすることはなく、軽いステップで地面を捉え、サンドバッグを見据えている。

 

「『たいあたり』」

 

 ビートがそう指示を出すや否や、ポニータはすぐさまに地面を蹴った。あっという間にサンドバッグとの距離がつまり、そして、体全身をぶつけるように『たいあたり』した。

 サンドバッグは重量感を表現するように低い音を立てながら地面を転がった。

 

「このように」と、ビートは戻ってきたポニータをボールに戻し、新たにブリムオンをくり出してから続ける。

 

「技術とポケモンとのコンビネーションがあればただの『たいあたり』でも十分な威力を持つことが出来ます」

 

 ふわり、と、ブリムオンの『ねんりき』がサンドバックを元の状態に戻す。

 ビートはバインダーに目を通しながら続ける。

 

「『こうげき』は難しい技術ですが、ポケモントレーナーになるのであれば避けては通れないものです。今日は一先ずその感覚だけでも掴んで帰ってください」

 

 ちょっと子供相手だと硬い言葉遣いになっているかなとノマルは思ったが、緊張からか少し顔を赤くしているビートにそれ以上を要求はしなかった。




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