ノマルは二部だが愛がある   作:rairaibou(風)

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アスチル(オリジナルキャラクター)
 過去編での現ガラルリーグチャンピオン
 視界に入るもの未来と心を見ることのできるサイキッカーで、エスパージムを運営する一族不世出の天才
 人と話すのが嫌いなわけではない

ダンデ(原作キャラクター)
 後のガラルリーグの絶対王者だが、このときはまだハロンタウンのどろんこ少年。すでに才能の片鱗は見せつつあるが、それに気づいている人間は少ない。
 幼馴染のソニアとリザードを振り回しながらジム巡りをしているが、生まれついての奔放さからスピードは遅め。

ソニア(原作キャラクター)
 ダイマックス研究の第一人者であるマグノリア博士の孫娘であり、ダンデの世話をする幼馴染
 ダンデとはくっついたり離れたりしながらジム巡りを行っており、道に迷うことがないのでダンデより少し攻略スピードが早い。
 本人も分析力と貯蔵する記憶に強みのある優れたトレーナーであるが、ノマルとのジム戦ではすぐにピッピにんぎょうを投げた。


過去編 新人ジムリーダーノマル 39 種①

 その男、ガラルリーグチャンピオンであるアスチルは、久しぶりにブラウン管の前に姿を現していた。

 今季のジムチャレンジをまとめているある特番、その番組に彼が『現チャンピオン』として登場することになんの不思議もないだろう。

 しかも、それは生放送であった、アスチルは自身の言動を編集されることを非常に嫌っていることで有名だったし、彼がテレビ局にそれを強要することができる立場であることにもなんの疑問もない。彼はチャンピオンであり、誰も彼を従えさせることなどできない強さがある。

 

「ローズ委員長による新体制を、チャンピオンはどのようにお考えですか?」

 

 司会者であるその男は、年齢的には高齢であるにも関わらず、それに似合わぬエネルギッシュさを隠すことのない肌ツヤであった。それは彼が満たされぬ飢えを常に抱えた男であることの証明でもあるだろう。

 

 どこかのホテルの一室だろうか、画面に映る部屋は質素であったが、かといって貧相というわけでもない。絢爛であることがだけが格の表現ではないことを知る場所だ。

 

 アスチルはそれに少し微笑みを返しながら答える。彼には珍しいことではあったが、機嫌がいいのだろう。

 

「ローズの運営に現段階で問題はないですよ。彼はジムチャレンジのエンタメ化を進めているが、それも悪くないと私は想う。尤も、私がそれに協力する義理はないですがね」

「ローズ氏の急速な改革にはリーグの私物化だと批判もありますが……?」

 

 司会者の男は狡猾であった。有名人の和やかな一面を引き出すことと、愚かな面を引き出すこと、そのどちらがより自分の利益になるかを彼は経験から知っている。

 この生放送は、彼にとっては餌場も同然だった。

 

「それになんの問題があるんです? ローズはリーグを改革することができる立場にあるし、それが彼の役職だ。それが気に入らないなら彼からその立場を奪えばいい」

 

 それに、と、アスチルは続ける。

 

「彼にとって最も厄介な存在は私だろうが、ローズはすでに種を蒔いている」

「種……というと?」

「それを知らないのはあなた達の努力不足だ。ローズがリーグを自由にしたいこと、そのためには私の存在が面白くないこと、そこから『彼が私の立場を追うための布石』を打つことは簡単に考えられる。未来など視えなくともね」

 

 未来が視える。時折アスチルがそうほのめかすことは有名であった。そして、司会者はそうやってすべてを分かっているかのように煙にまくアスチルという若造が個人的に気に食わないと思っていた。

 

「その未来が視えているのなら、どうしてそうして落ち着いていられるんです?」

 

 口調こそ穏やかだったが、その言葉のイントネーションにアスチルに対する挑発的な含みがあることは、その場にいる全員が、そして、それをリアルタイムに眺めている視聴者たちにも理解することができた。

 ベテランの、その業界でも力のある人間だからこそできる挑発であった。

 だが、アスチルはそれを意に介さない。

 

「能力が強すぎてね、私の視える未来を変えることはできないんですよ。例えばあなたに『スキャンダルに気をつけろ』と言っても、それは未来を変える金言ではなく、ただの遅い忠告でしか無い。私達はこの世界に身を任せているだけで、私はそれをあなた達より僅か先に眺めることができるだけ」

 

 アスチルの言葉の意味をガラルが理解することになるのはそのインタビューの一月後、その大物司会者があるスキャンダルによってその力を失うという報道を知ってからだ。

 当然、それはアスチルがそのスキャンダルが公になることを知っていた、とか、その大物司会者ならばその程度のスキャンダルはあるだろうと容易に想像していたからだ、とか、もっと乱暴な考え方をすれば、そのようなスキャンダルをアスチルが作り出し、彼をハメたのだという考え方だってできただろう。

 だが、そのどれにしろ、アスチルというトレーナーが、凡庸な人間では太刀打ちできない『力』を持っていることに変わりはなかった。

 

 彼はそのインタビューをこう締めくくる。

 

「ローズの種も、ジムリーダー達の希望も否定はしないが、私が負ける日は当分来ないでしょう」

 

 

 

 

 

 その少年の快進撃は、ジムチャレンジに対して並々ならぬ興味を持つ、いわゆるマニアや業界人の間でしか話題にはなっていなかった。

 それは、彼の故郷がガラル地方のハズレもハズレであるハロンタウンであることが大きく影響していた。故郷が田舎であることから彼はこれまでその実力を都市部で発揮することがなかった。故にリーグ関係者すら彼の実力というもの知らなかったのだ。

 また、その情報の少なさから彼がハロンタウンでどのようなトレーナーであったのか、どうしてポケモントレーナーになったのかというバックボーンすら全く知られていない。そして、実力の割にゆっくりとしたジム巡りのスピードは、田舎者ゆえの移動の不慣れさであるとされていたのである。

 

 まだ推薦状のシステムにまで人々の興味が向いていなかった時代だ、少数を除いてその片田舎の少年をジムチャレンジに推薦したのはガラルリーグ委員長のローズであることはまだ知らなかったし。そして、その少年が将来的にガラルリーグを背負って立つ無敵のチャンピオンになることも、当然知らなかった。

 

 少年の名前はダンデ、この年のジムチャレンジが彼を中心に回ることになるとは、このときは本人もまだ思ってはいなかった。

 

 

 

 

 ラーノノタウン、ラーノノ大聖堂。

 ラーノノタウンの中でも随一の歴史を誇るその大聖堂は、当然、来るものを拒まず、来訪者の選別などあるはずもない。

 だが、不意に現れたその少年は、どう考えても大聖堂には不釣り合いであった。

 ラーノノ大聖堂はその敷地内に小中学校を構える、だが、その少年をそこの学生だと思うものはただ一人もいないだろう。

 雑に被ったキャップ、にじむ擦り傷が見える膝小僧、服と髪は乾いた泥にまみれ、それでいて爛々と輝く瞳は大きく、長いまつげは瞳を保護するというその役割を誇らしげに全うしている。

 彼の傍らに立つかえんポケモンのリザードは、しきりにTPOを踏まえた小さな声でキュウキュウと鳴き声をあげながら、その少年のシャツの裾を引っ張っている。リザードは荒々しい性格で知られるが、彼のリザードは慎重か臆病なようだった。

 

「しまった」と、その少年は周りの人間が物珍しそうに自分を見ていることを知ってか知らずかそうつぶやく。その見た目と、その声だけならば、併設された学校の聖歌隊にいてもおかしくないのだがなあと思われていた。

 

「どうやら、迷ったみたいだぜ」

 

 どう考えても、そのラーノノ大聖堂は少年の目的地ではなかったし、そもそも、目的の場所で少年と待ち合わせをしていたはずの少女がいないのだ。

 

「早くしないと、ソニアに怒られちまう」

 

 口ではそう言うが、体はなぜか大聖堂奥へ奥へと進む。彼は理性より探究心のほうがまさる体質のようだ。

 シャツを引っ張りながらそれを止めようとするリザードも、彼の探究心を止めることなどできなかった。

 

 

 

 

 

「すっげぇ……」

 

 ラーノノ大聖堂が誇るステンドグラスを見上げながら、その少年はつぶやいた。

 彼は教養のある方ではなかったが、その分感性に優れているところがあった。すごいものを見てすごいと思う、それだけあれば人間として十分だ。

 

 だが、やはりそこは彼の目的の場所ではない。ついに彼が裾の力に観念して踵を返そうとしたときだった。

 

「どうかしましたか?」

 

 女の声に、少年は引き止められた。

 少年がその方に向くと、そこには自分より少し大きい程度の背丈しかない、彼から見れば年上の女性がいた。

 彼女は少年とリザードとを交互に眺め、少年をしっかりと見据えながら続ける。

 

「ここはジムチャレンジをするトレーナーが来るところではありませんよ」

 

 少年は、彼女が自身をジムチャレンジ中だと見抜いたことに少し驚いたようだったが、よく考えれば見え見えだ。

 

「ごめんなさい、その、迷っちゃって」

「この町で迷うのは珍しいですね」

「見たことのないものが一杯で」

「そうですか、どこから来たんですか?」

「ハロンタウンから」

「ハロン……それは随分と遠くから」

 

 彼女は少年に右手を差し出して続ける。

 

「私はラーノノジムリーダー、ノマルです」

「わっ! ジムリーダー!?」

 

 少年はそれに随分と驚いたようだった。大きな目をさらに大きくさせている。

 珍しい子だな、とノマルは思った。新人だが、カブを倒したことで顔は売ったほうだ。

 

「お名前は?」

「ダンデです。ハロンタウンのダンデ」

 

 右手をギュッと握ったダンデに、ノマルは表情を引きつらせながらもなんとか笑顔を保とうとする。

 ダンデ、とは、確か委員長のローズが推薦状を書いたトレーナーのはずだ。

 そのダンデは、ジムリーダーに会えた興奮で、その表情の引きつりには気づいていない。

 

「よろしく、いいポケモンを連れていますね」

 

 ノマルはリザードに目を向ける、その言葉に嘘偽りはない。見るからに引き締まっている、今この状況においても周りを気にする臆病さを持っている。

 おそらくこの子がエースだろうなと、ノマルはそこまで当たりをつけた。

 

「ああ、俺の相棒だぜ!」

 

 相棒を褒められてテンションが上ったのか、ダンデはついうっかり敬語を忘れ、その事実にも気づいていないようだ。

 悪い子ではなさそうだな、とノマルは思った。少なくとも含むところのある男であるローズ委員長が推薦したとは思えない。

 リザードの目線に手のひらを写すようにしながら彼女はリザードに語りかける。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。ラーノノは来るものを拒みません」

 

 少し目線を泳がせてから警戒を解いたリザードの顎を撫でる。

 

「この子と、バッジをいくつ集めましたか?」

 

 その言葉に、ダンデが誇らしげにバッジの数を宣言し、ノマルはそれに頷く。

 

「それなら、次はラーノノジムですね」

「はい! だから友達とジムで待ち合わせしてたんですけど」

「なるほど」

 

 そう言ったノマルにダンデが問う。

 

「ところで、どうしてノマルさんはここにいたんです?」

 

 ノマルはその問いに一瞬言葉をつまらせたが、すぐに答えた。

 

「……祈りを捧げていたのですよ」

 

 彼女は空気を変えるように「もう用事は終わりました、一緒にラーノノジムに行きましょう」と、ダンデの手を引いて一緒に歩こうとしたが、ダンデは慌ててその手を引っ込める。

 

「あら、ごめんなさい」

 

 少し顔を赤くしたダンデにノマルが苦笑した。

 

 

 

 

「もう、ダンデくんったら!」

 

 ラーノノジム前、我先にと突き進んでいたダンデに頬を膨らませながらそういったその少女とワンパチを、ノマルはよく知っていた。

 

「ソニアちゃん……?」

 

 驚くノマルに、ソニアは一つ頭を下げる。

 

「ソニア、ジムリーダーと知り合いなのか!?」

「ダンデは会ったことなかったっけ? ノマルさんはおばあさまによく話を聞きに来ていたのよ」

 

 彼女の言葉通りだった。

 その少女、ソニアはブラッシータウンに研究所を置くマグノリアという博士の孫娘であった。聡明なマグノリア女史はポケモンのダイマックスにおける研究の第一人者として知られ、ノマルは時折彼女に直接意見を問うために研究所に顔を出していた。故に、ノマルがソニアと顔なじみであることに不自然はない。

 さらに。

 

「それに、私はもうラーノノジムをクリアしたんだから!」

 

 それを言うソニアは誇らしげだった。

 事実、数日前に彼女はラーノノジムにチャレンジをし、ジムバッジを手に入れていた。

 顔なじみだからといってノマルが彼女に手を抜くことはなかったが、ソニアはマグノリア譲りの聡明さで冷静に戦局を理解し、どうあがいても駄目だと判断できる状況でピッピにんぎょうを投げ、条件をクリアしたのだ。

 

「そうなのか!?」と、驚くダンデにノマルが答える。

 

「はい、非常に優秀な挑戦者でしたよ」

 

 それは贔屓目なしの意見であったし、ソニアとダンデもその言葉をそのまま受け取り、片方は照れ、片方はすげー、と感嘆した。

 

「二人はお友達ですか?」

「はい、幼馴染です」

「子供の頃から一緒なんだよな!」

 

 それぞれ頷く二人をノマルは可愛らしいなと思った、子供の頃から、というが、ノマルから見れば彼女らは未だにまだまだ子供であった。

 だが、ソニアの機嫌が良かったのはそこまでだったようで、今度は眉をひそめ、唇を尖らせながらダンデに言う。

 

「今日も急にいなくなるからびっくりしたんだよ! ラーノノ駅からラーノノジムまでってほとんど一本道なのに、どうしてダンデくんは道に迷うんだろうね」

「俺もよくわからないんだぜ!」

「ラーノノ駅から迷って大聖堂に?」

 

 ノマルは首を捻った。ソニアの言う通り、ラーノノ駅からジムまでは大通り一本だ。迷いようがない。

 

「いつもそうなんですよ!」と、ソニアは味方を増やしたいように言う。

 

「ダンデくんったらいつもいつも道に迷うんです! 私がいないとどこにもいけない」

「まあ、いつもソニアには助けられているな!」

「友達がいなければ道に迷うようではいけませんね」

 

「大丈夫だぜ!」とダンデがいって続ける。

 

「俺とリザードが一緒なら何があっても大丈夫だ!」

 

 その言葉に、ソニアは「そりゃそうだけど……」と同調しようとした。彼女はダンデが相当に強いトレーナーであることを最もよく知っている人間の一人であったし、事実、彼は道に迷ったとしてもトレーナーとしての強さでこれまで事なきを得てきたのだ。

 

 だが「それはいけません!」と、ノマルが少し強い口調でそういったものだから、彼女はビクリと背筋を震わせるだけでその言葉を出すことができなかった。

 ソニアと同じくダンデもノマルの突然の叱責に体を固まらせていた。つい先程までは、声を荒げる事など無い優しい人だと思っていたのに。

 その口調が強かったことに、叫んでから気づいたのだろう。ノマルは一旦自身を落ち着かせる努力をし、二人をたしなめるように続ける。

 

「何事も強さで解決しようとする考えには感心しません。その考えを持ったまま『その考えが通用しないモノ』に出会ってしまえばとんでもないことになってしまいます」

 

 彼女はダンデに背を向け、ラーノノジムの自動ドアを開かせながら続ける。

 

「そのような考え方では、このジムをクリアすることはできませんよ」




後編は同日夜投稿します

感想、批評、お気軽にどうぞ、質問等も出来る限り答えようと思っています。
ここまで読んでいただけたらぜひとも評価の方をよろしくおねがいします!!!

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