後のガラルリーグチャンピオンだが、過去編ではまだジムチャレンジの途中。
ノマルに負けたことでよりバトルを楽しく感じ始めている。
マツム(オリジナルキャラクター)
ジムチャレンジ中の息子を亡くした過去を持つ『ガラル遺族協会』会長。社会的にノマルのサポートを続ける。
その気になればローズと戦うこともできるそうだ。
ラーノノタウン、町を流れるムスム川が湖となっているボルド自然公園は、ワイルドエリアほどではないが野生のポケモンが闊歩するほど野生の残る場所であり、ラーノノタウンがいまいち近代化に乗り切れていない原因とも要因と呼ばれている場所であった。
野生のポケモンが闊歩するということは、当然トレーナーたちが彼らと出会うこともあるということだ。近年まであまり野生のポケモンと戦うことの需要はこの町にはなく、もっぱら観光が主であった。ラーノノジムがメジャージムに昇格しても、ノマルの方針から初挑戦でジムバッジを取得するチャレンジャーがほとんどであり、あまりトレーナーの修行場としての機能は果たしていない。
だが、ここ数日、ボルド自然公園は随分と騒がしかった。
その少年、ダンデは、ラーノノジムを攻略するその日まで、ボルド自然公園で自身を鍛えることに決めていた。ラーノノジムリーダーであるノマルの柔軟な戦略感は、この自然公園で培われたものだろうというのがダンデの理屈であり、そうなれば、この地を修業の場所とすることに彼の中でなんの不思議もなかった。
もちろん、彼の幼馴染であるソニアが言ったように「それってあんまり関係ないんじゃないの?」という言葉も一理ある理屈であろうし、そもそもノマルの生まれはシュートシティであるし、彼女はあまりボルド自然公園に足を踏み入れたことがないというのが真実というものなのだが、大抵こういうものは行動するための動機づけが最も重要であり、ダンデが成功者となれば破天荒なエピソードとなり、ダンデが失敗者となれば、失敗者が失敗者となるべくしてなったエピソードになるだけである。
ボルド自然公園に存在するポケモンたちのレベルは、ワイルドエリア序盤よりは強く、ワイルドエリア終盤よりかは弱いと言った程度、中盤のジムであるラーノノジムを目安にするのならば、丁度いいレベルだった。
☆
ラーノノ大聖堂に付属する学校の生徒たちで構成される聖歌隊の歌声は、不意に聖堂に現れた泥だらけのダンデを拒絶することなどない。
「まいったぜ」と、キャップのつばをいじりながらダンデがつぶやいた。
「また迷っちまった」
ボルド自然公園で練習をしていたらいつの間にかラーノノ大聖堂に迷い込んだ。
それは、ラーノノの住民からしたらありえないようなことであるのだが、現にこうして彼は迷い込んでしまっているのだからしょうがない。
特に、修行のためだとソニアと一旦別行動になってからダンデのそれは顕著であった。疲れたリザードがモンスターボールに入っているからなおさらである。
「まあ、いいか」
ダンデはキャップを被り直した。
すでに日は遅い、ホテルに帰るには十分な時間だろう。このようなトラブルがなければ休まない、ダンデはそういう少年であったし、そういう青年になるだろう。
それに、聖歌隊の歌を聞くのは久しぶりの、否、もしかしたら初めての経験かもしれなかった。ダンデの興味はすでにそこにある。
耳は抜群にいいほうだ、彼はそこに立ったまま耳を澄まし、その歌の意味を感じ取ろうとした。
「あれ?」
しかし、彼は首をかしげる。
ダンデは歌を知らない方ではない。だが、その歌はダンデの記憶に無い、否、もしかすればかすか遠くにあったかもしれないが、その意味はわからない、そのような歌だった。
ダンデがもっとよくそれを聞こうとしたとき、彼を呼ぶ声があった。
「僕ちゃん、こちらへいらっしゃいな」
優しい声であった。そして、その声に「僕ちゃん」と呼ばれることのなんとくすぐったいことだろう。
見れば、一人の婦人が長いすに座ってダンデに手招きをしていた。
田舎育ちのダンデでも彼女がただの中年女性ではないことを理解できた、彼女の身なりは非常に良かったし、それをひけらかすような装いでもない、身につけるものがたまたま良いものであるという風な品の良さを感じた。
「僕ちゃん、お名前は?」
促されるままに彼女の横に座ったダンデに婦人が問うた。
「ダンデです」と、彼はすぐに答える。知らぬ人間に名前を言ってはいけないと母親やソニアに散々聞かされていたのだが、その身なりの良い婦人が悪い人間だとは思えなかったし、何より、今後「僕ちゃん」と呼ばれ続けることを考えれば安いリスクだろうと思ったのだ。
ついでに、ダンデはおずおずとキャップを脱いでそのままの跡がついた髪の毛を晒した。室内では帽子を脱ぐというマナーを彼が忠実に守るタイプではなかったが、何よりその婦人の雰囲気が彼にそうさせたのだ。
「そう、ダンデちゃんはジムチャレンジ中なの?」
ダンデの服装を見れば、彼がジムチャレンジの最中であることは容易に理解できるだろう。
「はい」
「どこから来たのかしら?」
「ハロンタウンです」
「あら、ずいぶん遠くから来たのね」
彼女は自分の胸に手を当てて続ける。
「私はマツム、シュートシティから来たのよ」
「シュートから? どうして?」
「人と待ち合わせをしてるの」
へえ、とダンデが相槌を打ち、彼女に質問する。
「この歌、なんて歌なんですか? 聞いたことがあるような無いような」
その問いに、マツムは一瞬沈黙を作ってから答える。
「これは安息を願う歌よ。ダンデちゃんはきっと聞いたことがないでしょうね」
マツムの言う通り、安息を願う歌と言われてダンデにはピンとこない。
「ジムチャレンジは楽しい?」
話題を変えるようにマツムが問うた。
「楽しいぜ!」
ついつい敬語を忘れる。そして彼は聖堂にふさわしくない大声を出してしまったことに気づいて少し顔を赤くした。
「ここにいるということは、次はラーノノジムに挑戦するのかしら?」
「いや、ノマルさんには負けちまったからここで修行しているんだ」
「ノマルに負けた? ピッピにんぎょうを投げればバッジはくれるんじゃありませんでしたか?」
「らしいけど、俺は投げたくない」
「どうして?」
「だって、投げたらノマルさんに勝てないじゃん」
ダンデの言葉に、マツムは小さく笑った。
「だけど、ノマルは強いでしょう?」
それに、ダンデはぱっと表情を明るくさせる。
「強かった。あんなところでダイマックスを使うなんて全然予想してなかったし、最後のヨルノズクも強かった……ハロンにはあんなトレーナーはいなかった」
「それでも、ノマルに勝つつもりなんですか?」
「勝つぜ、絶対に勝つ」
そうですか、と、マツムは微笑んだ。
「応援してますよ。ですが、あまり無理はしすぎないように」
更に続ける。
「あなたにもしものことがあれば、必ず悲しむ人がいるのですから」
気がつけば、聖歌隊の練習は終わったようで、指揮役の年配の老人が楽譜を片付けるのと同時に、歌っていた子供たちもバタバタと騒がしくなる。
「マツムさん」と、静かに聖堂に入ってきたノマルが彼女らに声をかけたのはその時だった。
「ジムリーダー!?」
声に振り返ったダンデはノマルに驚き、マツムは微笑んで彼女を迎えた。
ノマルはダンデにさして驚くこと無く問う、ここで会うのは二度目だ。
「ダンデくん、一体ここで何をしていたのですか?」
「道に迷ってしまったようですよ。ボルド自然公園から」
マツムが代わりに答え、ノマルはため息をつく。
「ボルド自然公園からここに迷いますか普通」
呆れるノマルにダンデは気まずそうにしたが、マツムが「聖歌隊の歌に誘われたのでしょう。練習とは言え、今日も素晴らしかったですよ」とフォローした。
「ワイルドエリアに比べれば平穏とは言え、ボルド自然公園にいる野生のポケモンたちも危険ではないわけではありません。暗くなってから……今から入るようなことはないように」
わかりました、と、ダンデは少し小さな声で答える。
「じゃあ俺、ホテルに戻ります」
「待ちなさい」
ノマルはダンデを引き止めボールを投げた。繰り出されたのはイエッサン。
「また迷ってはいけません。ホテルまでは私のポケモンが送ってあげましょう」
「この子、俺と戦ったときのポケモンですか!?」
深々と礼をするイエッサンにダンデは目を輝かせる。
「ええそうですよ。ダイマックスした子です」
「すげえ!」
ダンデはイエッサンの頭を撫で回す。
「暗くなります。早く送ってあげなさい」
イエッサンがダンデの手を引く。
ダンデは慌ててマツムの方を向く。
「マツムさん、ありがとうございました!」
「いえいえ、私も楽しかったですよ」
マツムと手を振りあった後に、ダンデはノマルの方を向いて言った。
「ノマルさん! 俺、絶対に勝ちますから!」
☆
「ローズはなんと言っていましたか?」
聖歌隊のいなくなった聖堂、声を響かせないように小さく、マツムがノマルに問うた。
「もう少し、自由にやっていいと言っていました」
ノマルも同じく小声でそれに答える。
別に誰かに見られて困る組み合わせではない『ガラル遺族協会会長』と『ラーノノジムリーダー』が会話をしてはいけない決まりなど無いし、それを縛る倫理も存在しない。
だが、やはりその二つの勢力は、世間的に見れば水と油のように思えるだろう。
「ローズもただのワガママな成金ではないということでしょうね。私達の関係にも気づいているでしょうに」
マツムの口調は優しいままであったが、そこにはローズに対する強烈な嫌悪があるように思えた。
その話題はそこで終了したのか、二人の間に少し沈黙が流れた後に、マツムがふふっと笑う。
「元気な子でしたね」
「ダンデくんですか?」
マツムとダンデがどのような会話をしたのかノマルは知らないが、話の流れからして、その子がダンデのことを指していることは容易に想像できる。
はあ、とため息をついてノマルが続ける。
「元気過ぎます」
「苦労しそう?」
「私は全力を尽くします……ですが、ジムチャレンジ中のジムリーダーには手持ちレベルの制限があり、どうしても限界はあります」
「ジムリーダーのあなたでは止められないと?」
「おそらく……あの子は天賦の才能があるでしょう」
ノマルはダンデとの試合を思い出しながら続ける。
「手持ちとのコンビ―ネーションは当然として。判断力、決断力。そのどちらもズバ抜けているから行動によどみがなく、理論か感性かはわかりませんがその行動も間違いは犯さない……私が勝利したのは試合途中のダイマックスという彼の理屈の外の行動をできたからでしょう」
ノマルはダンデとの試合に勝利できたことをそのように分析していた。ダンデの才能はこれまで戦ってきたどのチャレンジャーよりも抜きん出ており、ポケモンバトルというものが年齢による経験値というものだけのものではないことを物語っている。
「なるほど」と、マツムは頷く。
「わたくし、思わず彼を応援してしまいました。あの子によく似ている子でしたから」
マツムのその言葉に、ノマルは少しうつむくように沈黙した。
それは、ノマルの中にもあった感情であった。
だが、マツムの前で、少なくとも彼女よりも先にそれを言うわけには行かなかったのだ。
「……だからこそ、です」と、ノマルが呟く。
「だからこそ、彼にピッピにんぎょうを投げさせることが必要なのです」
「わかっていますよ……何か困ったことがあればいつでも相談してくださいね。ローズと戦うのならば、私にはその準備もあります」
ノマルがそれに何かを返そうとしたその時だった。彼女らの背後からパタパタと上履きが跳ねる足音が近づいてきた。
「リーダー!」
見れば、ラーノノ大聖堂に付属する学校の制服に身を包んだミスミが、同学年であろう女の子の手を引いて駆けてきていた。
ミスミは聖歌隊の一員であり、つい先程まで聖堂で歌の練習を行っていた。撤収する寸前にノマルが聖堂に入ってきたのが見えたから、急いで着替えてきたのだろう。
「聖堂を走ってはいけませんよ」と優しく注意するノマルに「ごめんなさい」と頭を下げ。マツムにも「こんにちわ!」と満面の笑みで言ったミスミは、女の子の手を引いて言う。
「あのねリーダー! この子にポケモン見せてあげて!」
女の子は少し怯えながらノマルを見上げ、ペコリと頭を下げた。
「聖歌隊の子ですか?」
「うん! この子歌うまいんだよ」
「私も聞いていましたよ、高音がキレイでしたよね」
マツムがそう褒めると、女の子は少し顔を赤くした。
「いいですよ」と、ノマルは腰のボールに手をやりながら答える。
「特別です、ミスミくんのガールフレンドですものね」
今度はミスミのほうが顔を真赤にしてその手を離したが、すぐに女の子の手は埋まるようになる。
現れたポケモン、スカーフポケモンのチラチーノは、突然の使命であるにも関わらずに変わらぬ毛並みの美しさを女の子に披露した。
「かわいい!」
先程までの緊張はどこに言ったのだろうか、女の子はフリーになった両手でチラチーノの体毛を撫で回す。チラチーノもまんざらではないのか彼女の好きにさせていた。
「良かったですね」と、ノマルはミスミ、女の子、チラチーノそれぞれに言った。
だが、ミスミの欲求はそれだけでは無いようで、彼は顔を赤らめたまま少しもじもじしてノマルに言う。
「あのねリーダー、この子、自分のポケモンが欲しいらしいんだけど……リーダーなら良いポケモンを知っているでしょう?」
ははあ、と、ノマルとマツムは微笑ましく思った。
女の子の前で得意げにノマルのことを喋っていたミスミの姿が目に浮かぶ。
「考えておきましょう」と、ノマルはミスミの頭をなでながら言った。
「今は忙しいですから、ジムチャレンジが終わったらね」
二人は目を輝かせた。
今作では前書きに人物紹介を入れていますがいかがですか?
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今後も必要
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今後は必要ない
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どちらでもいい
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