ガラルリーグ委員長にしてダイマックスエネルギーをガラルのバトルに組み込んだ革命者
人と話し込んでしまう悪癖があり本人も自覚しているがまだいい秘書に巡り会えていない
アスチルの使いづらさに少し困っている
アスチル(オリジナルキャラクター)
過去編での現ガラルリーグチャンピオン、かつてのエスパージムのジムリーダーだった。
エスパージムの一族の例にもれずサイキッカーであり、人間の未来が突発的に視えてしまう能力と相手の心を読む能力に長けている、その能力のおかげかどうかはわからないがチャンピオン就任後はエキシビションも含めて無敗だが、無用な戦いを嫌う
メロン(原作キャラクター)
メジャーリーガーであり、氷タイプのエキスパート。かなり長い年数ジムチャレンジを担当しており、ジムチャレンジに参加した殆どのトレーナーを覚えている。
原作では子持ち人妻だったが、過去編でもやっぱり子持ち人妻
ポプラ(原作キャラクター)
アラベスクジムリーダーにしてフェアリータイプのエキスパート。過去編では78歳
実力いまだ衰えず、チャンピオンアスチルと肉薄した戦いを展開することのできる数少ないトレーナー
エンジンシティ、エンジンスタジアム。
そこを主戦場とするカブはマイナーリーグに降格してしまったが、それでもそこがガラルにとっては歴史と伝統あるスタジアムであるという事実は変わらない。
ガラルポケモンリーグにとって最大の祭典の開会式を生で見ようと、当時は世界的に見ても最大のスタジアムであったはずのエンジンスタジアムは、立ち見が発生するほどの満員の観客で埋め尽くされていた。まだ彼らの注目を一点に集め、共通する話題があるはずではないのに、彼らそれぞれの期待の雑談が、信じられないうねりとなって対戦場に響いている。
一人の男が、対戦場の中央に向かっていった。その男は見るからに高そうなスーツを身にまとい、特徴的に整えられた口ひげが目を引く。それに気づいた観客達からの歓声を、彼は余裕を持って受け止めている。
ガラルポケモンリーグ協会の委員長、ローズはまだ就任して日が浅いが、一人の炭鉱夫から世界でも屈指の大企業を作り上げた才能とバイタリティをポケモンリーグの舞台でも遺憾なく発揮し、ガラルリーグに成功とダイマックス戦術をもたらした。
彼がガラルのカリスマであることに異論のある人間はほとんど存在しないだろう。たまに逆張りで彼を否定する人間もいるかも知れないが、彼らとて、ローズがこの世界に持つ影響力を否定することは出来ない。
やがて、対戦場中央にたどり着いた彼は、ぐるりと観客席を見渡して自身の存在を知らしめた後に、大きく手を広げて言った。
胸元に付けられたピンマイクが、その声をスタジアム中に、世界中に届ける。
だが、本当はそんなモノ必要ないのではないかと考える人間もいるだろう。ローズという人間が持つ勢い、それはそう思わせるに十分なものだった。
『レディースアンドジェントルメン! わたくし、リーグ委員長のローズと言います!』
今更その自己紹介が必要な人間などほとんどいないだろう。
『お集まりの皆様も、テレビで御覧の皆様も、本当におまたせしましたね!』
大きな手振りで、全世界に向けてジェスチャーを行う。
『いよいよ! ガラル地方の祭典、ジムチャレンジのはじまりです!』
その号令に、観客達は大きく湧いた。その興奮を共有するために集まったのだ。それがマナーというものなのだろう。
『八人のジムリーダーに認められ! 八個のジムバッジを集めたすごいポケモントレーナーだけが、最強のチャンピオンが待つチャンピオンカップに進めます!』
そのルールも、今更解説するほどのものではない。だが、その説明によって、チャンピオンカップというものが、その先に待つチャンピオンというものの存在を神格化される。
一息ついて、ローズは少し頭に手をやってから続ける。ここまでは毎年変わりのない挨拶であったが、ここからはまだどうするべきかというセオリーが決まっておらず、毎年少しずつマイナーチェンジをおこなっている。
『それでは! チャンピオンカップの先に待つチャンピオンを皆様に紹介しましょう!』
その言葉を合図に、花火とスモークが片方のゲートから焚かれ、一人の青年が不服そうな表情を隠そうともせずに現れた。
陶器のように白い肌に、スラリと長い手足を強調するようなスキニーパンツ。癖のある明るめのパープルの髪が、スモークを撹拌させる風に揺れていた。
紹介が真実であるならば、ポケモンリーグチャンピオンであるはずの彼は、その肩書が冗談のように思えるほどに端麗な青年だった。
だがどうだろう、観客達が彼に向ける歓声というものは、その肩書や容姿を考えるとあまりにも小さい。
観客に女性が少ないわけではない、むしろワイルドな男性ジムリーダーや、希望に満ち溢れる少年少女トレーナーに心奪われる女性は多い、同じように男性がバトルに心を奪われていることを考えても、観客の性別比は半々と言っていいだろう。
歓声を煽るようにローズが手を広げて彼を紹介する。
『彼こそが『サイキック一族最強』ガラルの未来を見通すことのできる男、チャンピオン、アスチルです!』
ローズの横についたアスチルは、やはり不満げな表情のまま目線を下げている。そして、握手するように差し出されたローズの右手を気だるそうに握った。
☆
エンジンスタジアム、もう片方のゲート。
他のジムリーダーたちと共に並んでいるノマルは、すでに退場したアスチルと同じように不満げな表情だった。
多少の緊張はあった、周りのジムリーダー達はテレビやメディアでよく見る顔であったし、彼らがあまりにも緊張していないものだから、反対にピリついている。
だが、不満の大きな要因はまるでアイドルのように扱われる事にもあった。
拒否できるものならば、拒否してしまいたかった。
だが「どうせなら」とそれをすすめるフッツと「僕も観客席から見てます!」と目を輝かせていたミスミの期待を裏切ることが出来なかったのだ。
『それでは! ジムリーダーの皆さん、姿をお見せください!』
拡声器を通したローズの声を合図に、ジムリーダー達の列が動く。
新参者らしく一番端に彼女は並んだ。
一歩スタジアムに姿を見せれば、地鳴りのような歓声と、照りつけるようないくつもの強いライトが浴びせられる。
それに対するジムリーダー達の反応は様々だ。
手を振ってそれに答えるもの、そんなモノ関係ないとばかりにまっすぐに前を見つめるもの、列のスピードから遅れることを恐れずにマイペースに進むもの。
ノマルは早足に列を先導するように歩いていた。緊張がないわけではなかった。しかしそれ以上に、観客が自分たちに向けている期待が、羨望が、肯定が、これまでの彼女の人生からはあまりにもかけ離れすぎていて、心が落ち着かなかった。
出てよかったかもしれない。
フッツのアドバイスが有効であったことを彼女は感じ始めていた。この熱気は、狂気は、入れ替え戦のそれを遥かに超えている。将来を見据えるならば、慣れておいたほうがいい。
ポニーテールをまとめる黒いリボンに、果たしてどれだけの人数が気づいているだろうか。一瞬、そう考えた。
拡声器から、ローズのものではない女性の声が響く。
『まずはファンタステックシアター、フェアリー使いのポプラ!』
女性アナウンサーによる、各ジムリーダーの紹介が行われる。どのような順番で紹介を行うのが最も優れているのか、これもまだセオリーが決まっていない。
『ジ・アイス、氷タイプの使い手メロン!』
その後も次々とジムリーダーの紹介が行われた。やがて、紹介が行われるよりも先に規定の位置にたどり着いたノマルの紹介が行われる。
『ノーマル・ビューティ、ノーマルタイプの申し子、ノマル!』
ノーマルビューティ! と、ノマルは自らの二つ名を頭の中で復唱した。
なんともへんちくりんな名前だ。そもそもそれが褒め言葉であるのかどうかすらわからない。
だがまあ、代わりに自分がなにかいい二つ名を思いつけるのかと言えばそうではないし、まあ、仕方がないだろうな、と、彼女は照りつける照明に目を細めながらため息をつく。
『彼らこそが、ガラル地方の誇るジムリーダーたちです!』
一列に並んだ自分たちに歓声を向ける観客達、そして、それを満足気に眺めるローズをちらりとみやりながら、ノマルは思った。
これだけの、否、テレビを通せばこの数倍の人数を、今から自分達は敵に回すのだ。
☆
開会式も無事に終了し、それぞれのジムリーダーが着替えやシャワーを終えて大部屋控室に戻ってきていた。
予定のあるものなどは挨拶のためにそこに訪れていたし、予定のないものは顔なじみと雑談に花を咲かせている。
戦う者の集団とは思えないような朗らかな空間だった。
ノマルは、やはり少しばかり気持ちをピリつかせながら、扉のない開け放しのそこに足を踏み入れた。
本来ならば、そこには寄らないつもりだった。だが、開会式前に持ち込んでいた手帳をそこに忘れていたことに、今になって気がついたのだ。
「失礼します」
一瞬、彼女に視線が注目したが、ジムリーダー達はすぐに雑談に戻った。冷たくしようとしているわけではないが、成人の中年が多いこの世代のジムリーダーたちにとって、二十歳前のノマルには声をかけづらかった。
だが、ノマルもそれになにか思うわけではない、むしろ余計な詮索が入らないことにホッとすらしていた。
自分が腰掛けていたロングベンチに目を向け、その周りを探す、
しかし、間違いなく持ち込んでいたはずの手帳はそこにはなかった。
「あれ、あれ?」
周りを見渡しながら、ノマルは段々と焦り始めていた。アレだけ散々探しても無かったのだ、それがここにもないとなれば、もう心当たりがない。特別貴重なものであるわけではないが、記入されている個人情報を考えれば、ほうぼうに迷惑をかけてしまうかもしれない。
少しめんどくさい展開が脳裏に浮かんだ瞬間だった。
「あんたが探してるの、これかい?」
少し低い女性の声が、ノマルを呼んだ。
その方を見れば、先程自分と同じくジムリーダーとして紹介されていた女性。キルクスタウンのジムリーダー、メロンだった。白いセーターに身を包み、同じくジムリーダーのポプラと雑談中だったようだ。
ひらひらと振られる右手には、イーブイがプリントされた可愛らしい手帳。見覚えしか無い、ノマルの手帳だった。
「……そうです」
少しばかり沈黙をもってから、ノマルはそう答えた。まだメロンのその行動の真意を掴みきれていなかったのだ。
一歩、二歩と警戒しながら近づくノマルにメロンは手帳を差し出す。どうやらそれを渡すことに交換条件は必要ないようだった。
「ありがとうございました」
「かまやしないよ。まあ、見た目であんたのだってわかってたからさ。あたしが管理しとかないとオジサン共が何するかわかったもんじゃない」
ジロリと、他のジムリーダー達に目線を変えたメロンに、中年のジムリーダー達は「メロンちゃんはきついなあ」と笑い混じりに答えた。それがどこまで本気のやり取りなのかノマルにはわからなかったが、少なくとも自分に比べれば、メロンは他のジムリーダー達と良好な関係を築いているように見えた。
「今更だろうけど、あたしゃキルクスのメロンだよ」
「……ラーノノのノマルです」
差し出された手を握り、ノマルはポプラの前にもそれを差し出す。
「よろしくおねがいします」
「ああ、よろしく」
ポプラはそう言って何も続けず、会話の主導権は再びメロンに握られた。
「あんたの試合見させてもらったよ、基本に忠実で判断の思い切りが良い試合だった。あんたみたいな子がジムリーダーになってくれるなら安心だ、あたしの子供達にも教えてほしいもんだね、世辞じゃないよ」
「ありがとうございます」
「それから、あんたジムチャレンジの経験ないだろう?」
その言葉に、ノマルは再び緊張を感じた。
「どうして知ってるんです?」
「どうしてって、あたしが知らないからさ」
返答に、ノマルは一応納得する。
単純だが明快な理屈であった。二十代の頃からメジャージムリーダーであったメロンは、それ以降マイナー落ちを経験していない。ジムリーダーがジムチャレンジ挑戦者を把握するというシステム上、ノマルのように若い世代のジムチャレンジ挑戦者は必ず彼女の目を通る。例えば自分が戦ったトレーナーしか覚えていないようなジムリーダーならば違ったかもしれないが、ノマルがジムチャレンジに参加したことがないと断言することのできるということは、メロンが優れた教育者であることの証明だろう。
「……トレーナーになったのが遅かったので」
「別に責めてるわけじゃないさ、あたしゃあんたの実力をかってる」
メロンは笑って続ける。
「ジムチャレンジについて、これからわからないことも色々出てくるだろうと思うけど。わからないことがあったら何でも聞きな、これ、あたしの電話番号だよ」
手渡されたメモを受け取り手帳に挟んでから「ありがとうございました」と、ノマルは頭を下げ、その会話を終わらせようとした。
これ以上、探られるような質問をされたくなかった。彼女らとは、いずれ戦うことになる。
だが、そのような空気を感じたのだろう。黒いリボンでまとめられたポニーテールがくるりと振られるよりも先に「あのね」と、メロンが少し眉を傾けて言う。
「確かにあたし達は見ようによっちゃあ敵同士かもしれないけどさ、同時に仕事仲間でもあり友人でもあるんだ。なにか困ったことがあったら、あたしゃ必ず聞いてあげるから、何でも相談するんだよ」
その言葉が、単純に彼女の優しさからくるものなのか、それとも狭い社会の中で生きるために協調性を強要するものなのか、ノマルは考えないようにした。
ただ「失礼します」と言ってから、彼女はそこを後にしようとする。
「待ちな」と、それが引き止められる。その声はポプラのものだった。
「一つ言わせておくれ」と、彼女は続ける。
「応援してるよ、世界を変えるのは難しいかもしれないが、動かなきゃ、世界は変わらないんだからね」
ノマルはそれを純粋な応援だと受け取っただろうか。
否、ノマルは激励のように聞こえるその言葉を喜べなかった。
『魔術師』に見透かされ、憐れまれているように感じたのだ。
「ありがとう、ございます」
彼女は礼を区切って言うことしか出来なかった。
☆
「いいピンクだね」
ノマルが控室を後にした後、跳ねるポニーテールを思い出しながらポプラが呟いた。
「すこし、思いつめてるように見えましたけど」
メロンはそれを否定はせずともその意見に対して疑問を投げかける。ポプラの意見を真っ向から否定することなどない。相手は六十年近くジムリーダーの職につく教育者としての大先輩であるし、女性としても一周りも二周りも大きい尊敬できる人物であったし、何よりメロンを含めジムリーダー達はポプラのいう『ピンク』という言葉の概念をまだ掴めないでいる。
「それも含めてピンクというものさ。いいじゃないか、真っすぐで、それでいてよく悩んでる」
はあ、とため息を付いて続ける。
「フッツにゃもったいないよ」
「引き抜いちゃいますか?」
笑いとともに出てきたメロンのその返答は受け取りようによっては物騒であったが、彼女らの中にそのような感覚はなかった。メロンはフッツがポプラにとって可愛い後輩であったことを知っているし、ポプラが『引き抜き』のような行為をするようなことのない人格者であることも知っている。
「いや、辞めとくよ。あの子はあたしの手には負えないだろうからね」
彼女はそのまま杖を手に取ると、メロンに軽く挨拶をしてから控室を後にする。
「じゃあ、あたしはお先するよ。坊や達、新人いじめるんじゃないよ」
最年長のその言葉に、中年のジムリーダー達は苦笑した。自分たちを坊やと言う彼女に、一体誰が逆らえようか。
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