ノマルは二部だが愛がある   作:rairaibou(風)

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ルリナ(原作キャラクター)
 メジャージムバウジムリーダーにしてモデル。褐色のモデル体型でみずタイプのエキスパート。
 同じくジムリーダーのヤローを強烈にライバル視しているが、周りは温かい目で見守っている。

ヤロー(原作キャラクター)
 メジャージムターフジムリーダーで草タイプのエキスパート。背は低いが全身に筋肉の鎧をまとった優しい男
 ルリナからライバル視されていることは知っているが『最大のライバルは自分』と大人の対応をしている


314 彼女のアドバイス ①

『今日のワイルドエリアは雲ひとつない晴天ですね! 今日はラーノノジムのメンバーでワイルドエリアの清掃ボランティア! 今日は強力な助っ人も参加していただけます! 皆さんもゴミを見つけたら拾ってみましょう!』

 

 月末の早朝、ポケスタグラムに放り投げられたその投稿には、キバ湖をバックに、白黒メッシュの髪型の青年、ラーノノジムトレーナーのミスミが火ばさみを片手に野生のホルビーと戯れている写真が添付されている。

 インディー業界では少し名のしれた彼のもう一つの顔がたまに出るということで『ノーマルエールパワーズ』の熱心なファンにもフォローされているラーノノジムのアカウントは、出だしこそキバナ絡みで炎上したものの、その後くべられる薪がなかったことや、ジムリーダーノマルの毒にも薬にもならない投稿にすでに落ち着きを取り戻し、本来彼女が望んでいたような規模にまとまりつつあった。

 だが、まだイマイチSNSというものに慣れぬノマルは、やはり少しずれた感性でそれを利用している。例えばミスミの管理する『ノーマルエールパワーズ』アカウントの投稿に対して『ミスミ君、明日イーブイ達の下見に行くからポケじゃらし持ってきてね』と思いっきり業務連絡をしてしまう程度に。

 

 

 

 

 

 その写真が投稿されてわずか数分後、早朝のワイルドエリアでは清掃のボランディアのために集まった四人が顔を合わせている。普通、有名人が公共の場で何かをするときにはSNSに何日かずらして投稿するのが常識というものなのだが、残念ながらノマルにはそのような常識は通用しないようだった。

 

「改めて! 本日はよろしくおねがいします!」

 

 ノマルはふわふわした髪の毛を揺らしながらその二人に頭を下げた。それと同じく横のミスミも「よろしくおねがいします」と頭を下げる。本当は若者らしく「おねしゃあす」とか「しゃーす」とか言ってもいいのだが、それをするにはノマルは恐ろしすぎる。

 

「いえ、こちらこそよろしくおねがいします」

「よろしくおねがいします」

 

 同じく強力な助っ人の二人も頭を下げる。

 その片方はルリナ、バウジムリーダーとして活躍するメジャージムリーダーであり、モデルとしても活動している。最も、どちらが兼業であるのかわからないほどにどちらでも成功を収めているのだが。

 普段は水着やモデルの衣装などでスラリと長い手足を惜しむこと無く晒す彼女も、流石に屋外の清掃ということもあって、長靴に作業着、顔をすっぽり覆うサンバイザー付きの頭巾と、清掃の本気の姿を見せている。

 

 もう片方はヤロー、同じくメジャーであるターフタウンジムリーダーであり、普段は農園で働いている。やることは大して変わらないのだろう、彼は普段と変わらず農園での作業着を着用していた。農作業で鍛え上げられたパツパツの筋肉などを見ると、ミスミは男として少し悔しい気持ちになってしまう。

 

 この二人は、ノマルと比べればジムリーダーとして破格のポジションに居る存在であった。ノマルがついうっかり先程の投稿に名前を出してしまえば、もしかしたらややこしいファンなどが二人に会うためにワイルドエリアに突撃してしまっていたかもしれない。ノマルのSNSにおけるいい意味での目立つ意識の薄さが二人には幸いだった。

 

 頭を上げ「えー」と、一つ声を出してからノマルが言う。

 

「二人共いつも参加してくれてありがとーねー」

「いえいえ」

「ワイルドエリアの環境維持もトレーナーの立派な仕事ですからねえ」

 

 ワイルドエリアの清掃活動をおこなっている団体や企業は数多く年に数回大々的に行われることもあるが、ノマルのそれは月に一度少数精鋭のメンバーで行われる。ワイルドエリアを闊歩して良い実力者というものを、ノマルが自らスカウトするのだ。特にノマルは厳しく参加者を選ぶ、例えばジムトレーナーのミスミは彼女に言わせればギリギリの最低ラインだそうだ。

 

「それでは今日の予定を発表します。本日の拠点となるテントはすでに私とミスミがセッティングしました」

「どうも」

 

 ペコリとミスミが小さく頭を下げる。もう何度もノマルには付き合っている。テントだろうがタープだろうがお手のものだ。

 

「今日はこのままお昼までペアで清掃活動を行います」

 

 それを合図に、ミスミが二人に火ばさみと背負いかご、大きなビニール袋を手渡し、二人もそれを素直に受け取った。ビニール袋と背負いかご役割被ってない? という疑問は二人共発さない。

 

「その後は私の研究カレーをお昼ごはんに食べてから解散です」

「楽しみじゃあ、うちの子達はノマルさんのカレーが大好きじゃからなあ」

 

 目を細めるヤローに照れたのはノマルだけで、ミスミとルリナはその言葉に疑問は持たなかった。

 

 ノマルの研究カレーとは、その名の通りノマルが研究しているカレーである。

 ガラル地方伝統のカレーが、組み合わせる食材と具材となる木の実、そして調理の腕によってポケモンの体力や状態異常を回復させる効果があることは有名であり、特に最高級の美味しさとされる『リザードン級』を極めるために幾多ものトレーナーや料理人が切磋琢磨しているが、ノマルが目指すのはそこではない。

 彼女が目指すのは『ダイオウドウ級』、最上級からは一段階落ちるが、体力の回復や状態異常の回復はさせることができる。

 ノマルは最小の効率、最小のコストで『ダイオウドウ級』を作ることのできるレシピを常に模索している。というのも『リザードン級』はある程度食材や木の実のコストがかかり、実戦的ではないと考えているのだ。

 ワイルドエリアでのキャンプはポケモンセンターに駆け込むことと同義だ、一刻を争う状態であるのならば、食材にこだわる暇はないだろう。どのようなトレーナーでも手の届く安心を彼女は探る。

 そして、他の料理はてんで駄目だが、この研究カレーだけはやたら美味いというのが評判だった。

 

「それでは早速ペアを決めて清掃に向かいましょう! 途中『獲物』があったら遠慮なく回収してくださいね!」

 

 

 

 

 

 

「なんかほんと、うちのリーダーがすみません」

 

 ミロカロ湖北。わたわたと野生を楽しむように彼らを先導するイーブイの後をゆっくりと追いながら、ミスミは隣のヤローにそう言った。はしゃぐイーブイを優しく見守る彼の目に、それを切り出すのは今だと思ったのだ。

 

「なんのことです?」

 

 ヤローは首を捻った。ミスミの気遣いを彼はピンときていない。

 

 それにミスミが首をひねるより先に、先を行くイーブイが高く嬉しげな声を上げながら草むらの中に飛び込んだ。彼は二、三度ぴょんぴょんと飛び跳ねながら草を踏み鳴らして音を鳴らし、自身がそこにいることをパートナーのミスミにアピールする。すでに鳴き声には甘えがまじり、褒められることを期待している。

 

「お~よしよし、よくやったなあ」

 

 ミスミは一旦話題を切ってその方向に向かった。そして、腰をかがめて期待にムンムンのイーブイの頭をなでてやってから、彼の『獲物』であったそれを火ばさみで取り上げる。

 

「お、結構形残ってるな」

 

 それは、すでに誰かが使った後であろうピッピ人形だった。

 すでに元の可愛らしい姿は殆ど残っておらず、食いちぎられたであろう頭部からは綿がはみ出し、朝露を吸ったのだろう、火ばさみにかかる重みはずしりと重い。ポケモンのマーキングによる臭いがないのがまだマシだった。

 

「そのへんに欠片あります?」

 

 慣れた手付きでピッピ人形だったものをひょいと背負いかごに放りながら、ミスミはヤローに問う。

 

「いやあ、見当たりませんねえ」

 

 ヤローは火ばさみでガサガサと周りの草むらを漁ったが、ピッピ人形の欠片は見当たらない。

 代わりに火ばさみで空き缶をひろった彼は、それを手持ちのビニール袋の方に入れた。

 

「そっちは?」

 

 問うミスミに、イーブイも同じく草むらを漁ったが、やがてわかりやすく落ち込んだ声で鳴きながらミスミの足元にすり寄った。彼は意外と仕事に対する意識が高いようだった。

 

「まあ、協会の人達に任せとけばなんとかなるでしょう。次、次」

 

 協会、とは『ガラル遺族協会』のことだ。

 ピッピにんぎょうの有効性はかなり高い。放り投げることで必ずと言っていいほど野生のポケモンから逃げることができる。

 だが、その値段は意外と高い。故に、他のアイテムと比べて優先度が低いのが現状だ。

 ガラル遺族協会はその状況を打破するためにピッピにんぎょうのリサイクルをボランティアとして行っている。ボロボロの状態から有志の手によって修繕されたそれが野生のポケモン相手に効果を発揮するのはノマルがすでに実証済みであり、効果は信頼されている。そして、それらはノマルのような初心者を相手にするトレーナーやイベントなどに寄贈されるのだ。

 

 しばらくゴミやピッピにんぎょうを探した後に「いやね」と、ミスミが再び切り出す。

 

「ヤローさんとルリナさんをバッティングさせるのはまずいって言ったんですよ、一応」

 

 それにヤローは一瞬キョトンとした後に「ああ、なるほど」と笑った。

 ヤローとルリナの関係性は、少しややこしい。

 彼女がヤローをライバルとして強烈に意識していることは雑誌のインタビューやリーグカードなどを通してすでに周知の事実だ。年齢が近く、タイプ相性による勝敗がヤロー側に傾きつつあるのは事実だが、それにしてもと思うファンも居る。

 片やヤローはライバルを『自分自身』だと当たり障りのない回答をしており、ルリナ側の挑発には乗らない状況となっている。

 もちろん、ルリナのライバル意識が一種の『プロレス』であろうことはミスミも理解しているところではあるが、かと言って仲良くボランティアに参加させても良いものかと思うところもあった。

 

「僕は気にしとらんですよ」

「まあ、それなら良いんですけどね」

「ノマルさんはなんて?」

「仲良さそうだから良いじゃん、の一点張りでしたね」

「ははあ、あの人らしい」

 

 ヤローはそういうほかなかった。彼もルリナも、ノマルがメジャージムリーダーであった世代であるし、新任のジムリーダーであった頃にはジム運営についての手ほどきもされている長い付き合いだ。

 

「どうなんです? 実際のところ」

 

 ヤローが険悪な雰囲気ではないことに安心したのか、ミスミはそこに切り込んだ。

 彼は頬を一つ掻いてから答える。

 

「ルリナさんは、昔から真っ直ぐで感情をごまかさないところがありますから。むしろ、ライバルだと思ってもらえて嬉しいと思っとりますよ。僕のことが憎いとか、そういうことではないと思うてます」

 

 へえー、と、ミスミは頷いた。どうやらヤローもルリナのそれが『プロレス』であることは理解しているようだ。

 

「それなら、どうして乗ってあげないんです? ヤローさんがそのフリを透かしちゃうとルリナさん宙ぶらりんじゃないですか」

 

 ミスミの疑問に、ヤローは「んー」と、少し考えてから答える。

 

「だって、それを受けてしまったら、ぼくがルリナさんを意識してることが冗談みたいになってしまうじゃあないですか」

 

 その返答に、ミスミはしばらく沈黙した。興味を持って踏み込んだそれが、思いの外深く踏み込んでしまっていたことに気づき、気まずくなった。

 ヤローも、うっかりそう言ってから顔を赤くし、自分たちの他に誰もいないかとキョロキョロと周りを見回した。幸いなことに周りにはミスミ以外誰もおらず、仕事の意識が高いイーブイが「はよ次行こうや」と、足元に擦り寄り急かすばかりだ。

 

「忘れてください、変なことをいってしまったようじゃ」

「いや、俺の方こそ申し訳ない。いらないことを聞きすぎました」

 

 もうしばらく沈黙し合った後、赤くなった顔をごまかすようにタオルで拭ったヤローがつぶやく。

 

「本当は、ノマルさんにこういうのを相談したいんですが」

「ええっ!?」

 

 彼の言葉に、ミスミはこれまでのムードを吹き飛ばすほど大声で驚いた。どのくらい大声かと言うと、それに驚いて飛び上がってしまった仕事熱心なイーブイが「こいつやる気あるんか?」と不機嫌フェイスを晒すほどに。

 

「いや、辞めたほうが良いっすよそれは」

「やっぱりプライベートなことすぎるかなあ」

「いや、そうじゃないくて」

 

 ミスミは息を整えてから続ける。

 

「あの人本当にそういう事わからない人なんで、ほんと、なんというか、その、ほんとにそういうの無理な人なんで」

「そんなにですかい?」

「そんなにです。長年一緒にいる俺がその空気すら感じたことないんでそれは間違いないです」

 

 更に彼は続ける。

 

「そういうことをノマルさんに聞くくらいなら、多分そこらへんで花占いしたほうが良いと思います。ほんと、ノマルさんにそういう相談するのは判断ミスも良いところなんで、相当切羽詰まってるときにやることなんで」

 

 

 

 

 

 

「ノマルさん、実は相談したいことがあるんですけど……」

 

 ワイルドエリア、こもれびばやし。

 カチカチと緊張を和らげるように火ばさみを鳴らしながら、ルリナがノマルに近づいて小さな声でそう言った。恥ずかしいことなのか褐色の肌を少し赤くしている。全く同じ頃に『相当切羽詰まってる人』と認定されていることなど欠片も知らない。

 対するノマルはようやく見つけたボロボロのピッピ人形を拾い上げていた。かつては自身もピッピにんぎょうの修繕ボランティアをやろうとしていたこともあったが、そこで学んだことは適材適所という言葉の重みだけだ。傍らのイーブイはあまり仕事熱心な方ではないのか、あくび混じりにそのピッピ人形をつまらなさげに眺めている。

 

「ん~? どうしたの?」

 

 それに集中していたのだろう。ノマルは少し気の抜けた返答を返した。

 しかし、ルリナがそれにむっと思うことはない、ヤローと同じくノマルとはジムチャレンジの頃からの付き合いだ。子供扱いなんてものではない、ノマルから見ればまだまだ自分は子供なのだ。だからこそこうして、切羽詰まって相談している。

 

「あの……ヤローくんのことなんですけど」

「ヤローくんの?」

 

 ノマルは一度獲物を探す手を止めた。傍らのイーブイもそれは満更でもない様子で、すでに足を折って一眠りの体勢だ。

 

「はい、あの、ノマルさんはわかってると思ってるんですけど、どうやったらヤローくんに意識してもらえるかなって」

 

 それを聞いて「ははーんなるほど」と、ノマルはほくそ笑んだ。ルリナとヤローの微妙な関係性についてはすでにジムトレーナーのミスミから確認済みだ。

 彼女はそのアドバイスに極力答えてあげようとしていたし、極力協力しようとした。それが姉貴分としての役割だろう。

 

「うんうんわかるよ。ルリナちゃんとヤローくんは昔から仲良かったけど、そういうこともあるよね! 私にできることなら何でも協力するから、頑張ってね!」

 

 頼もしく胸を張る小さな姉貴分に、ルリナはホッとし、ノマルに相談してよかったと思った。

 だいたい分かるように、ルリナは姉貴分としてノマルの能力をかなり過信しているところがある。仕方のないことだ、彼女の心に残るノマルは、あまりにも強い女すぎる。

 

 ノマルが話を詰めようともう少し踏み込もうとしたときだった。

 

 不意に天を貫くような光の柱がワイルドエリアから突き抜け、その後に、地響きとポケモンの巨大な鳴き声。

 

「ダイマックス!」と、ノマルが光の方向を見上げながら叫んだ。同じくルリナもそれを見る、足元のイーブイなどは不意に跳ね起きてノマルの影に隠れる。

 

 それは、紫色の強い光であった。ワイルドエリアの中にあるポケモンの巣から、強力なポケモンが現れたときに生まれる強烈なエネルギーの塊だ。

 距離は遠くはない、ワイルドエリアに点在するポケモンに詳しいノマルならば、それがドコにあるのかもわかるだろう。

 

「行きましょう!」と、気づけば背負いかごも火ばさみも投げ捨てたノマルが、すでにイーブイをボールに戻してそれに向かおうとしていた。先程までの温和な雰囲気がまるで嘘であるように、その足取りには迷いがない。

 手におえるトレーナーたちならば良いのだが、と、僅かな希望が無いわけではなかったが。だが、あの規模のポケモンを扱えるだろうか。

 

「はい!」と、ルリナもそれの後についていく。ワイルドエリアでの身の振り方に関しては、ノマルのほうが一日の長がありそうであった。




感想、批評、お気軽にどうぞ、質問等も出来る限り答えようと思っています。
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