【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記   作:B.I.G

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Intermission 3 「蒼い死神」

「ジャブローにホワイトベースが到着し、ガンダムの教育型コンピュータから得られたデータは膨大かつ良質なものだ。諸君らの本来の任務であるMSによる実戦における運用データ収集はこれで終了となる」

 

 ジオンのジャブロー降下作戦から2日、ノエル達第三小隊(デルタ・チーム)は部隊司令官であるジョン・コーウェン准将の呼び出しを受けていた。

 

 先日ようやくジャブローに辿り着いたホワイトベース。艦載機であるRXシリーズのMSには教育型コンピュータが搭載されており、度重なる実戦を潜り抜けてきた事による素晴らしいデータが蓄積されていた。

 (戦闘データは複製・共有が可能であり、アムロ・レイの戦闘データをコピーし、複数機のジムに移植する事も出来る。練度の低いパイロットばかりである連邦軍にとっては、この戦闘データは何物にも変えがたい代物だった)

 

「勿論、諸君ら程のパイロットを遊ばせてはいられん。MS特殊部隊第三小隊は実験部隊(モルモット)としての任を解き、今後は独立遊撃部隊として活躍してもらう」

 

「独立部隊ですか。そうなると今後の作戦行動は……准将?」

 

 実験部隊でも独立部隊でも、実際のところは名前が変わるだけでやる事にさして変わりは無い事は明らかだ。

 アニッシュなどは「また激戦地を転戦させられる」と後ろでボヤいているが、そう言いたくなる気持ちはノエルもラリーも同じだった。

 とは言え軍人である以上命令には従わなくてはならないのは勿論の事。今後の事を尋ねるノエルを制して、コーウェンは立ち上がる。

 

「まあ座ってばかりでもなんだからな。宇宙船ドックで見せたいものがある。ついてきなさい」

 

 

─ ジャブロー 宇宙船ドック ─

 

 

「これは……ペガサス級の戦艦ですか?ホワイトベースとサラブレッド、あと一隻は……?」

 

 宇宙船ドックに案内された三人の前に現れたのは、ペガサス級の戦艦が三隻。

 (連邦軍の戦艦で最も多く配備されているマゼラン級と比べても、ペガサス級はひどく特徴的な外観をしている。ジオンが"木馬"などという渾名を付けて付け狙うのも納得だ)

 

 宇宙への出港準備も大詰めなのか、大急ぎで物資や機体の搬入作業をしているのが見て取れる。

 以前共闘したホワイトベース、シミュレータールームで一悶着あったフォルドとルースの所属しているサラブレッド。そして見慣れない艦が一隻。

 

「ペガサス級強襲揚陸艦の五番艦"トロイホース"だ。この艦がこれから君達の母艦となる。まだエンジン周りを中心に調整中だがね」

 

 全体的なシルエットはノエルもすっかり見慣れたホワイトベースと良く似ているが、全体的に少し黒みがかった色が特徴的だ。

 ペガサス級に属する戦艦は地上でも運用できる汎用戦艦だが、基本的には宇宙艦である事に疑いの余地は無い。

 

「……詰まる所、私達は宇宙(ソラ)へ?」

 

「まだ地球でやってもらいたい事が多少はあるが、想像通りだと言っておこう。ただし現在はホワイトベース、サラブレッドの二隻を優先して出港準備を行なっている所だ。補充人員の件も含めて、今後の作戦行動については追ってミルスティーン中尉から伝えさせるとしよう」

 

 

 

 

「アムロ君!!ブライト艦長!」

 

「ノエルさん!お元気そうで!」

 

 コーウェンとのブリーフィングが終了した後、ノエルは出港前で慌ただしいホワイトベースの元へ向かっていた。(慌ただしいとは言え、実際に動いているのはジャブローの整備班や補給班であり、ホワイトベースのクルーと話す分には支障は無かった)

 

 話をしているアムロとブライトを見つけると、ノエルは二人の元へ駆け出していく。真剣な顔でチェックリストを見ていたブライトも思わず顔を緩ませ、アムロも嬉しそうに声を上げる。

 

「ホワイトベースの皆が無事で本当に良かった!オデッサでも先日のジャブローでも、随分活躍したって聞いたわ。すっかり差を付けられちゃった。ブライト艦長もね?」

 

 ホワイトベース隊のクルーはジャブローで正式に任官式を終え、アムロも少尉となっていたが、ノエルは元来そういった事(階級の差)をあまり気にしない。

 黒海での護衛任務の際もそうだったが、偉ぶらずにフランクな感じで接する彼女はホワイトベースクルーの中でも人気が高い。

 (クルーの中でマチルダ派とノエル派は半々と言ったところだ。アムロがこっそり撮影したツーショットはあえなくバレる事となり、カイを筆頭としたノエル派に吊し上げられたのは余談である)

 

「中尉こそ、先のジャブロー防衛戦での戦果は聞いています。MS五機撃墜はエース・パイロットと言っても過言では無いでしょう?アムロも負けていられんな」

 

「こ、光栄ね。アムロ君とは比べるものじゃないと思うけど……」

 

 先のジャブロー防衛戦でノエルは水中型ガンダムを駆り、MS五機撃墜の戦果を上げている。

 (一度の出撃で五機撃墜はノエル自身初めてで、大戦果と言っても良い。もっとも、その代償として酷使した水中型ガンダムは見事に()()()()になった)

 

 アムロの撃墜数は激戦地を転戦していたホワイトベース隊のパイロットの中でも群を抜いており、先のジャブロー防衛戦での戦果を加えて約99機を既に撃墜している。(ドップやマゼラ・アタック等を含む)

 

 いかにガンダムが連邦軍の技術の粋を集めた高性能機とは言え、アムロの戦果が常軌を逸したものである事は間違い無い。ノエルとて実験部隊で数多の戦場を潜り抜けて来たベテランパイロットだが、アムロと比べるのは些か部が悪すぎた。

 

「ブライト!ちょっと良いかしら?」

 

「ああ、すぐに行く。それじゃあアムロ。三十分後にはブリーフィングだから、それまでに用事は済ませておけよ。アンダーソン中尉も、ご武運を」

 

 ホワイトベースの操舵手であるミライ・ヤシマに呼ばれて、ブライトは話を切り上げてその場を離れる。お互いに敬礼して彼の背中を見送るノエルだが、ホワイトベースの今後の道のりは険しい。

 

 連邦軍司令部は討議の末、ジオンからその実力が「ニュータイプ部隊」と評されているという実体不明な期待と捨て駒にも適するという観点から、ホワイトベースを陽動に最適であると判断した。

 その結果、ホワイトベース単艦のみによる囮専門部隊"第13独立戦隊"として再編され、チェンバロ作戦の為に一路ルナツーに向かう第4艦隊からジオン軍の目をそらす役割を与えられたという訳だ。

 

 言うに及ばずであるが、囮部隊となればこれまで以上に危険な目に合うのは火を見るよりも明らかであり、連邦軍としては結果としてホワイトベースが沈んだとしても痛くも痒くも無い。あくまで本命は第4艦隊なのだから。

 

「ノエルさん、これは……?」

 

「お守り。まだわからないけど、私たちも宇宙(ソラ)に上がるの。──また無事に会えるように、ね?」

 

 ノエルはネックレスを軍服の胸ポケットから取り出すと、ドギマギするアムロにそれを付ける。

 アムロならホワイトベースを守りきって、また無事に再会できるとノエルは信じているし、それまで自分も死ぬつもりは無い。どれだけ激戦地に送られても、必ず部隊全員で生き残ってみせる。

 

──その日の夕方、ホワイトベースはジャブローを出港し、囮部隊の任を果たすために一路月へ向かう。

 

 宇宙港でそれを見送るノエルの首元には、アムロにプレゼントしたネックレスと同じものが月の光を浴びて煌めいていた。

 

 

 

 

「すげぇ……本当に勝っちまった。俺達全員、あっという間にやられちまったのに」

 

「だから言ったろ?ユウはウチの部隊のエースってやつよ。腕が違うのよ、腕が」

 

「なんでフィリップ少尉が自慢げにしてるんですか……」

 

 ジャブローのMS格納庫はいつにも増して賑やかで、第三小隊のアニッシュとラリーに加えて、第11独立機械化混成部隊のユウ、フィリップ、サマナの五人が集まっていた。

 本来であれば来るべき宇宙での戦いに向けての無重力下での戦闘シミュレーションを行う予定だったが、お互いに実験部隊(モルモット)として最前線で戦ってきたもの同士。

 仲間意識が芽生えるのは当然の事として、フィリップの「腕試しといこうじゃねぇの」の一言でシミュレーションでの模擬戦を行う事となったわけだ。

 

 とは言え隊長であるノエルが居ない為、模擬戦として選ばれたのは今ジャブローで話題の"対ガンダム"シミュレーター。

 アムロとガンダムのデータははっきり言ってあまりに強すぎるデータであり、今まで勝利出来るパイロットは一人としていなかった。

 

 パイロットの間では「いったい何分持つか」ということを対象としてギャンブルとして利用もされていた。シミュレータールーム以外にもMSに搭載されているコンピュータに各種シミュレーション用の設定を入力するだけで、簡単にアムロとガンダムに戦いを挑む事が出来たのだ。

 (中には勇敢にもガンタンクで戦いを挑み、僅か0.005秒で撃破されたパイロットもいるとの噂だ)

 

 そんな超高難易度のほとんどの者がもって1分と言われるシミュレーターで、初めてアムロとガンダムのデータに勝ったパイロット。

 

──その名はユウ・カジマ。かつてノエルの父であるポール・アンダーソン艦長の指揮するサラミス級艦サンタフェ所属の戦闘機パイロットとして戦った男である。

 

 

 

 

「全く……宇宙へ上がると言っておきながら!」

 

 不機嫌そうに足音を鳴らしながらMS格納庫へ歩を進めるノエル。その手には先程レーチェルから手渡された命令書が握られていた。

 ノエルとしてはホワイトベース、サラブレッドを追って宇宙へ上がるものと思い、部下にも空間戦闘のシミュレーターをやっておくようにと指示を出していたのだ。

 確かに「地球でやってもらいたい事が多少はある」とは言っていたが、()()は多少どころの話では無い。

 

(……蒼いジム?)

 

 格納庫に入った瞬間に目に入ったのは、鮮やかな蒼色に染められたジムタイプのMSだ。

 到底戦場で戦う兵器らしい色では無いな、とノエルは思うが、アムロの乗るガンダムなどよりにもよってトリコロールカラーなのだし、自分が乗った水中型ガンダムだって青い。

 

 蒼いジムのコクピット付近にラリーやアニッシュ、そして他部隊の兵士と思われる二人のパイロットが集まって騒いでいる様子が見える。

 おおかたアムロとガンダムのデータに挑んでいるのだろう、とため息を付きながら近づくノエル。

 (ちなみにノエルもガンダムFSDで挑戦してみたが、善戦虚しく2分で撃墜された。それを嫌味のようにアムロに話し、困らせていたのはご愛嬌)

 

(何か、私を見てる……?)

 

 ぞくり、と鳥肌が立つのを感じてノエルは思わず背後を振り向く。()()()()()()()()()

 周囲を見ても、誰も彼女を見ている様子は無い。

 気のせいか、と頭を振って再び歩き出すノエルは蒼い死神(ブルー・ディスティニー)の不気味な()()()が光った事には気がつかなかった。

 

──ノエルの受け取った命令書は二つ。オーガスタ基地でロールアウトした新型ガンダムの輸送。そして、キャルフォルニアベース奪還作戦への参加命令が記されていた。

 




トロイホースは色々設定が錯綜してる艦で、グレイファントムに名前が変わったりトロイホースとしてもう一隻ある設定があったりとハッキリしません。
今作ではトロイホースとグレイファントムは別の艦である、という設定となります。

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