【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
─ 地球連邦軍 オーガスタ基地 ─
コーウェン准将からの指令を受け、ノエル達第三小隊改めトロイホース隊は、オーガスタ基地でロールアウトした新型ガンダムの輸送任務に当たっていた。
オーガスタ基地は旧アメリカ合衆国ジョージア州オーガスタに設置された地球連邦軍の基地で、大部分をジオン公国軍の支配地域とされた北米で,連邦軍の数少ない拠点のひとつとして機能している基地である。
航空基地としての機能だけでは無く,MSの開発や研究を行う研究施設や,連邦軍におけるニュータイプ研究のための研究所も併設されている。
今回輸送する新型ガンダムや、ジャブローから委託されていた「セカンドロット・ガンダム」の開発を担当していたのもこの基地だ。(サラブレッドの艦載機であるガンダム4号機、5号機がこれに当たる)
トロイホースへの搬入準備が進む中、ノエル達は件の新型ガンダム──RX-78NT-1 ガンダムNT-1を前にしていた。RX-78 ガンダムの発展機だという話だが、外見からは特筆して特別な装備が見受けられる訳ではない。
特徴的なトリコロールカラーであるガンダムと比べて、白と黒のツートンカラーであるガンダムNT-1はより洗練された印象を一行に与える。
「これがホワイトベース隊に届ける新型ガンダムですか、隊長。ニュータイプ専用機って聞きましたが、そもそもニュータイプってのはいったい何なんです?」
「ラリー少尉、ちょっとは勉強もしないと。ジオニズム曰く、ニュータイプとは"過酷な宇宙環境に進出・適応し、生物学的にも社会的にもより進化した新人類"と言ってますね」
「アニッシュ。それを空でスラスラと言えたら大した物だけど、こそこそと端末で調べながらじゃ駄目ね?……まあ、軍としては並外れた認識力や直感力、感応波と呼ばれる特殊な脳波を持った人間の事をそう呼ぶらしいわ」
ガンダムNT-1の資料に目を通しながら、ノエルはそう答える。ジオニズムで言われているニュータイプ論は漠然としていてノエル自身ピンとくるものが無いが、アムロがニュータイプかもしれないというのは連邦軍上層部で言われている事だ。
ニュータイプの本質はともかくとして、軍としては並外れた戦果を上げているアムロの実質的な専用機として調整したのが、今回輸送する新型ガンダムという訳だ。
(感応波……黒海で聞こえたアムロ君の声……?)
ノエルが思い返すのは、黒海で黒い三連星と戦った時に聞こえたアムロの"声"だ。あの状況で彼の声が聞こえなければ、自分は間違いなく死んでいた。
あれがニュータイプの感応波によるものだとすれば、ニュータイプは本当にエスパーのようなものなのだろうか?
■
「ニュータイプ論は私には良くわからないけど……久しぶり、ノエル。最前線の実験部隊に志願したって聞いた時は驚いたけど、無事で安心したわ」
「クリスさん!紹介するわ。こちらはクリスチーナ・マッケンジー中尉。私の士官学校時代の先輩よ」
少し考え込むノエルに声をかけたのは、赤いロングヘアが特徴的な女性──クリスチーナ・マッケンジー中尉だ。ノエルの士官学校時代の先輩であり、主席卒業を果たした秀才でもある。
見慣れないタイプのノーマルスーツの右胸には"G4"のマークがあしらわれているが、これは彼女の所属しているニュータイプ専用MSを研究、開発しているG-4部隊のエンブレムだ。
「中尉、ラリー・ラドリー少尉であります。質問なのですが、NT-1はニュータイプ専用機との事で既存の機体と比べて何か特殊な装備が?外観からはわかりかねますが……」
「よろしくお願いします、少尉。アレックス……ああ、この機体のコードネームです。アレックスはホワイトベース隊のRX-78-02の実働データをフィードバックした機体ですが、基本的にはパイロットであるアムロ・レイ少尉の驚異的な反応速度に追従出来るように仕上げた機体です」
「つまり……めちゃくちゃ早く動けるって事ですか?」
ラリーの質問に丁寧に答えるクリスだが、アニッシュの身も蓋も無い要約を聞いてクスッと笑う。
事実アレックスの出力はRX-78-2と比較し1.3倍の向上。加えてスラスターの増設・大型化による運動性の向上といった基本性能の底上げがなされ、高出力化に対応するためダクトが増設されている。
それに加えてアムロの操縦に追従出来るように、操縦性は過敏と言える程にピーキーな仕上がりになっているのが特徴となっている。
単純に機体性能が上がったと言えば聞こえは良いが、その性能を十全に発揮出来るパイロットが乗らなくては意味がないどころか、むしろマイナスだ。
車で例えるなら、普通車に乗っている人間がフォーミュラーマシンに乗って良いタイムを出せる訳では無いという事だ。過剰なパワーと敏感な操作性は、時に重大な事故を引き起こす要因となる。
「私はアレックスのテストパイロット兼シューフィッターを勤めていますが、この機体は動きが速すぎて怖いくらいです。本当に実戦で使えるのか……」
クリスは新米らしからぬ操縦技術を買われて試験部隊に配属される程であり、決して腕前が悪い訳では無い。
その彼女をしてそうまで言わせる程にピーキーな機体を扱える人間が本当にいるのか。アムロとガンダムの実働データは隅々まで目を通しているが、半信半疑なんですと話すクリスだが……
「まあ、アムロ用だし……」
それが三人の率直な感想であった。
■
『ノエル中尉!緊急事態だ!直ぐにデルタ・チームはトロイホースへ戻ってくれ!』
「ヘンケン艦長!?一体何が……敵襲!?」
ノエルのインカムに緊急通信を入れてきたのは、ジャブローで配属されたトロイホースの艦長であるヘンケン・ベッケナー少佐だ。
連邦宇宙軍第7艦隊所属サラミス改フジ級輸送艦スルガの艦長を務めていたが、コーウェン准将の声かけで転属してきた男である。
強面で豪快な性格の男で、第三部隊のメンバーとも相性が良かった。……が、顔合わせの際にノエルに一目惚れしており、そのあからさまな態度から部隊の男性メンバーからは早くも冷やかされる事が多くなっていた。
突然の通信に驚いたのも束の間、基地内にけたたましい警報音が鳴り響く。──敵襲だ。
─ オーガスタ基地 管制塔 ─
「敵は新型ガンダムを狙っているのは明らかだぞ!……ヘンケン少佐か?アレックスの搬入は一時中断し、トロイホースもMS隊を出してくれ!」
G-4部隊指揮官であるスチュアート少佐が吠える。本来アレックスは北極基地からシャトルでサイド6のリボー・コロニーへ移送される予定だった。
それが急遽独立遊撃部隊であるトロイホース隊へ輸送任務が回ってきた理由は、基地内部のスパイによって移送予定がリークされた事がわかったからだ。
「ええい、この状況で基地を襲撃とは!ジオンもよほど切羽詰まっていると言うことか……!」
本来のシャトル発射場所だった北極基地は文字通り辺境の基地で、配備されている戦力の数もオーガスタ基地とは比べ物にならない程に小さい。
いくらジオンが新型ガンダムを恐れているとは言え、まさかこのタイミングで基地を強襲するとは思いもよらなかったのだ。
「スカーレット隊を出せ!敵機を直ちに殲滅するんだ!」
■
【BRIEFING】
こちらはトロイホース艦長、ヘンケン少佐だ!現在オーガスタ基地は敵の襲撃を受けている。
敵の狙いは間違いなく新型ガンダムだと考えられるが、我々は何としてもこの機体を守り切らなくてはならない。
現在基地守備隊のスカーレット隊が緊急発進して迎撃に当たるように動いているが、敵機の中にはドムも確認されている他、データに無い新型機の報告も上がっている。
デルタ・チームも発進し、スカーレット隊と共同戦線を張って新型ガンダムと基地の防衛に当たってもらいたい!
───無事に帰ってきてくれよ!幸運を祈る!
MS1 ノエル・アンダーソン中尉《デルタ・リーダー》
FA-78-01[FSD-G]フルアーマー・ガンダムFSD(陸戦型) 二連装ビーム・ライフル
MS2 ラリー・ラドリー少尉《デルタ・ツー》
RGM-79SP ジム・スナイパーll 75mmスナイパー・ライフル
MS3 アニッシュ・ロフマン曹長《デルタ・スリー》
RGM-79SC ジム・スナイパーカスタム 二連装ビーム・ガン
作戦成功条件:敵部隊の全滅
作戦失敗条件:部隊の全滅、防衛目標の破壊
─ MISSION START ─
『そこね!直撃させる!』
ノエルの乗る機体はようやく修理の完了したガンダムFSDに、FSWS計画で製造された増加装備を装着した陸戦型フルアーマー・ガンダムFSDだ。本来であれば更に重装甲、高火力を追求した機体だが、地上で運用するには重すぎる重量が問題となり、機動性低下を避けるため追加装甲面積を70%に縮小し、55%までの重量低下に成功した。
素体であるガンダムFSDにも新技術であるマグネット・コーティングが施された他、増加装備という特性上、損傷した装備のパージや戦場に合わせた換装も可能としている。
『隊長が一機撃墜、俺も負けてらんねぇ!』
先手必勝とばかりにノエルが発射した肩部360mmキャノンの弾丸がザクに直撃し、構えていたシールドごと左腕を吹き飛ばす。衝撃で倒れ込んだザクからパイロットが脱出し、一足遅れて機体が炎上。
遠距離狙撃用の武装を装備していないアニッシュのスナイパーカスタムは、先行しているスカーレット隊のジム・コマンドを追って敵機に接近していく。
『隊長、足が速い奴が接近中。スカート付きが2、青い色の新型が1』
頭部光学センサーを下ろして狙撃体勢を取っているスナイパーIIから通信が入る。ジャブロー防衛戦とは違い、今回は流体炸薬を使用した75mm実弾狙撃用ライフルをスナイパーIIは装備している。
光学照準器を装備し、ジム・スナイパーIIのコンピューターと連結して高い命中率を誇る武装は卓越した狙撃技能を持つラリーにはうってつけだ。
『了解、デルタ・ツー。私が前に出て迎撃するわ。後ろから援護を──なに!?』
アニッシュのスナイパーカスタムに追従するように、敵機との距離を詰めようとしたノエルだったが、背後から聴こえた轟音に思わず振り返る。
アレックスが格納してある場所では無いが、MS用の部品が保管されている倉庫が燃え盛っている──伏兵だ。
『ノエル中尉!基地裏手の湖からジオンの水陸両用MSが三機!こっちも新型だ!ええい!機銃を使って応戦、敵機を何としても食い止めろ!』
ヘンケンからの通信を聞いて、やられた、とノエルは唇を噛む。此処オーガスタ基地はクラークヒル湖のほとりに建設されている。敵は二手に分かれ、防衛部隊を誘い出す腹づもりだったに違いない。基地外周に現れたのはあくまで陽動、本命は湖の中に潜んでいた水陸両用機だ。
基地の背後に警戒しなかったのは迂闊だった。
トロイホースや戦車は残っているとは言え、MS相手では長くは持たない。
『ガンダムの機動性なら……!』
思い切りアクセルペダルを踏み抜いて、ランドセルや機体各部に増設されたスラスターを全開にして格納庫へ舞い戻るノエルとフルアーマー・ガンダムFSD。
ラリーのジム・スナイパーIIも後に続くが、高速移動している状況では狙撃用ライフルは役に立たない。
背後からの奇襲を受けて慌てて起動しようとするジムの頭部を踏みつけ、コクピットにメガ粒子砲を撃ち込む敵MS。
射程外だと分かっていながら、遮二無二ビーム・ライフルを格納庫に迫る敵機に向けて乱射するノエルだが、このような状況では精密射撃など望むべくも無い。
トロイホースも機銃を使って応戦しているが、大口径な砲台やメガ粒子砲を撃てば逆に基地やアレックスに被害を与える状況では迂闊に攻撃をする事も出来ない。
『間に合わない!』
必死の抵抗を掻い潜り、遂にアレックスが隠されている格納庫へ辿り着く敵MS。格納庫の壁を鋭い爪で突き破り、中を覗き込んだ瞬間。
──轟音と共に無数の弾丸が敵機へ向けて乱射され、暗闇にデュアルアイの光が輝いた。
『戦わなければ、もっと多くの人が死んでしまう……イチかバチか、いけ!』
今作のアレックスは戦記の特殊カラー(νガンダムカラー)です。
アムロに届ける事が決定した際に、劇中の青と白のツートンカラーから塗り替えられたという設定となっています。