【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
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「戦況はどうなってる!艦砲射撃で援護は出来んのか!」
「無理です艦長。この状況では」
トロイホースのキャプテンシートで、ヘンケンが焦れたように声を上げるが、オペレーターに冷静に返される。
戦況としては、奇襲を受けて総崩れになりかけていた状況を何とか持ち直したと言って良い。
それでもオーガスタ基地の守備隊の被害は少なくなく、トロイホース隊がいなければアレックスは難なく奪取されていた事に間違いは無いだろう。
MSをトロイホースの砲で援護したいところではあるが、北米での重要拠点であるオーガスタ基地の施設を無闇矢鱈に破壊する訳にもいかないのが辛いところだ。
「ええい、ノエル中尉達を信じる他無いと言う事か……!」
■
『私が敵を引きつける!隙があればっ!』
陸戦型フルアーマー・ガンダムFSDの圧倒的な火力は、他のMSとは比べ物にならない程に高い。
右肩部360mmキャノン砲に加えて、左肩部スプレー・ミサイル・ランチャー。右腕部にはガトリング、左腕部には二連装ビーム・ライフルを装備した重装備の機体だ。
本来のフルアーマー・ガンダムと比べれば妥協案とも言える仕様ではあるが、それでもMS一機が持ち得る火力としては十分すぎた。
中距離でこちらの隙を伺う様子の敵機を前に、ノエルは積極的に攻撃を仕掛ける。この機体の火力が有れば、多少の数的不利は問題にならない。
面制圧をするようにスプレー・ミサイル・ランチャーで段幕を張り、土埃を貫いて飛んでくる敵機のビームをステップを踏んで回避する。
『馬鹿みたいに撃ちまくるだけなら!やらせてもらう!』
『待てアンディ!焦るな!』
ノエルがビームを回避した隙を狙って飛び込んできたのはアンディのハイゴッグだ。
功を焦ったのか、それとも時間が無い事を理解して捨て身となったのか……隊長であるシュタイナーの制止を振り切って、二機のガンダムに突撃してくる。
ハイゴッグはゴッグが腹部に搭載していたメガ粒子砲を腕部に移設し、ジェネレーター直結方式ではなくECAPを採用。連射性能を高めたビーム・カノンを装備している。
ビーム・ライフルよりも威力は劣るものの、まるでマシンガンのようにビームの粒子をばら撒き、牽制しながらFA・ガンダムFSDに肉薄するハイゴッグ。
コクピット目掛けて右のバイス・クローを突き出し、至近距離でビーム・カノンを発射しようと目論むものの──
『このフルアーマー・ガンダムを火力だけだと思ったら……大間違いよ!』
『な、何だとっ!ぐおっ……!?』
脚部に増設されたスラスターを全開にして、その勢いを利用してFA・ガンダムFSDはハイゴッグに強烈な膝蹴りを見舞う。
新技術であるマグネット・コーティングを関節部に施されたガンダムの動きは滑らかで、増加装備で重量が増していながらもノエルのイメージ通りに機体が動く。
予想だにしていなかった格闘攻撃に面食らったハイゴッグの腹部に膝蹴りが直撃。あまりの衝撃に一瞬水色の機体が宙に浮いた後、仰向けに力無く機体が転がった。
ハイゴッグの腹部装甲は無惨に凹み、動力の伝達回路に何かしらの損傷を負ったのかモノアイが点滅を繰り返す。
動く度に軋むような異音を立てるハイゴッグだが、まだ立ち上がろうとしている。ノエルは自分で驚く程に冷静にガンダムのガトリング・ガンを横たわる敵機へ向けた。
『──悪いけど、やらせてもらうわ』
轟音と共に発射される無数の弾丸が、ハイゴッグを無惨にも穴だらけにしていく。
腕部に外付けされたガトリング・ガンと言っても、その口径は通常の手持ち武装であるマシンガンとさほど変わりは無い。至近距離で撃たれれば、装甲が厚くないハイゴッグならずとも致命傷になる事は間違いなく──
『こちらデルタ・リーダー。敵機を一機撃破。戦闘行動を継続します』
一斉射の後、そこに転がっていたのは胴体部を蜂の巣にされたハイゴッグの姿だ。
完全に機体が破壊され、もう二度と動く気配は無い。
──残り二機の姿を捉えたままのFA・ガンダムFSDのデュアルアイが、血のような赤色に輝いた。
■
『これが、実戦……』
容赦無く敵機を破壊したFA・ガンダムFSDとノエルを見て、クリスは思わず呟く。
クリスとて軍人であり、敵を倒す事に躊躇いは無い。躊躇すれば、その間にもっと多くの人が死ぬ。
彼女は今まで実験部隊として働き、テストパイロットとは言っても実戦に出た事も無ければ敵と戦った事も無い。
──それでも、クリスはそれを理由に臆するような人間ではない。
ノエル達に元
『私だって、やってみせる!』
(敵の練度は高い……だったら反応してくれる筈!)
僚機を失って動揺しているように見えるもう一機のハイゴッグに、アレックスが仕掛ける。
両腕の90mmガトリングは既に弾切れになっているが、それを敵は知らない。
ハイゴッグに左手のガトリングを向けると、危険を察知したガルシアはスラスターを吹かせて右へ機体を滑らせるように動かして回避行動を取る。
当然だ。左手側には燃え盛る倉庫があるのだから、避けるなら右しかない。
『な、なにぃ!?オレの動きを読みやがったのか!?冗談じゃねぇ!』
ガルシアが
これまでの戦闘で、敵の部隊が恐らく特殊部隊の類である事をクリスは理解していた。それも相応の経験を積んだ手練れだ。そうでなくては、奇襲とは言っても数機のMSで連邦軍の基地へ仕掛けては来ない。
アレックスのバケモノ的な推進力と敏感すぎるまでの反応速度を、クリスは痛い程知っている。
半ば強引に機体を操作し、ビーム・サーベルを突き出したまま突撃するアレックスと、咄嗟にバイス・クローを突き出したハイゴッグが交差する。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ……て、敵は……』
──生きている。
そう実感したクリスは無意識のうちに止めていた呼吸を再開し、何度も荒い息をつく。
後ろを振り向けば、横一文字にビーム・サーベルで両断されたハイゴッグの上半身がグラリと傾き、そのまま落ちて地面に転がる光景。
ほんの紙一重。少しでもズレていたなら、死んでいたのは自分。──これが、実戦。
■
『アンディ、ガルシア……!』
一回の攻防で二人の部下を失い、シュタイナーは慟哭しそうになる衝動を抑えて歯を食いしばる。
陽動部隊もミーシャのケンプファーを除き、全て撃破されている。ミーシャにしても手練れのジム二機を前にして、倒されないまでもこちらを援護出来る状態では無かった。──こうなれば、せめて
『滅び行くものの為に、か』
覚悟を決めたシュタイナーが、ズゴックEの姿勢を低くして突撃体勢を取った。
こちらの狙いを把握しているのか、出来損ないを守るように黒いガンダムタイプが立ちはだかる。
アンディのハイゴッグを手玉に取ったガンダムを突破して、出来損ないを破壊する──割に合わない仕事だと、コクピットの中でシュタイナーは笑った。
■
『──来る』
戦闘の趨勢は決まった。残るジオンの襲撃部隊のMSは二機。まだラリーとアニッシュは戦闘中だが、あの二人を突破してこちらに援護しに来る気配は無い。
目の前の機体も撤退や投降する気配は無く、むしろ捨て身でこちらに特攻してくる様子だ。
(そこまでの覚悟で……)
所属は違えど、同じ軍人としてノエルは名も知らぬ敵機のパイロットに想いを馳せる。
例え刺し違えてでも任務を果たす。軍人として覚悟はあるが、自分に同じ事が出来るだろうか?
『──中尉!ノエル中尉!聞こえているか!
『っ!?アラート!』
目の前の敵機に集中し過ぎていたのか、ヘンケンからの幾度かの呼びかけでようやくノエルは反応する。
やかましく音を鳴らすアラートが示すのは、飛来するミサイルの存在だ。躱す事自体は造作もないが、ミサイルを発射したのは?
『ノエル!上空にドダイを三機確認!MSが乗ってるわ!』
『このタイミングで……!?迎撃を!』
アレックスのセンサーが捉えたのは、基地上空からミサイルを放った爆撃機、ドダイYS。
三機のドダイが確認出来るが、MSが搭乗しているのは二機。伏兵にしてはおかしなタイミングだし、なにより数も少ない。
疑問を抱きながらも肩部360mmキャノンで迎撃するが、ドダイは見事な操縦テクニックで飛来する弾丸をかわし切る。
敵の意図が読めないが、かかる火の粉は振り払わなければならない。ノエルは操縦桿を握る手の力を強めるが──
『煙!?スモーク・ディスチャージャー!──クリス!』
『了解……!』
ドダイに乗るMS──旧型ザクが射出したのは弾丸では無く、スモーク・ディスチャージャー。即ち煙幕である。
レーダーの効かない有視界戦闘において、煙幕は古典的だが有効な戦術だ。ただし、お互いに視界が利かなくなる以上、
反射的にクリスに呼びかけるのと同時に、自分もペダルを踏み込んでトロイホースが待機している方向へガンダムを走らせる。一刻も早く煙幕から抜け出さなければ。
──このままでは、自分達が狩られる。
■
そうしてノエルとクリスが煙幕を抜けたのと時をおなじくして、シュタイナーのズゴックEを回収した三機のドダイは空の彼方へと飛び去った。
ラリーとアニッシュが対峙していたMSも、一連の混乱の流れに乗じて撤退。
"アレックスの護衛"という任務こそ達成したものの、オーガスタ基地の受けた被害は少なくない。
敵部隊の大半は撃破したものの、生き残った二人は再び仕掛けてくるだろう。
コクピットハッチを開けたノエルの目には、闇夜の中で燃え盛るMSの残骸が映っていた。