【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記   作:B.I.G

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Intermission 4 「混迷の宇宙」

─ 地球連邦軍 宇宙要塞 ルナツー ─

 

 ルナツーは小惑星ジュノーを地球連邦軍が軍事基地化した連邦軍唯一の宇宙要塞である。

 地球を挟んで月の反対側に位置しており、月の裏側に存在しているサイド3からは最も離れた拠点となっている。

 菱形状の外観を有し、その全幅は180kmにも及ぶ月以外では地球圏最大の天体だ。

 

 かつてサイド7を出港したホワイトベースが立ち寄った場所であるが、実際の所ルナツーはジオン軍からは完全に()()()()()()()要塞だ。

 かつてマ・クベ司令の指揮の元で資源を採掘していたオデッサであるが、打ち上げられた資源を満載したパプア級輸送艦がよりによって護衛機も無しでルナツー近辺を通っていた。(戦闘能力の乏しい輸送艦にも関わらず!)

 

 しかしながら連邦軍でもMSの生産ラインが確立され、ジャブローとは別にルナツーでも様々なMSが設計、生産されていた。

 オデッサ作戦が成功した際は、敗北したジオン軍の一部がHLVで地球軌道上へ敗走。これ幸いとばかりに出撃したジムとボールの混成部隊がHLVを多数破壊する戦果を上げている。

 (最終的な結果としては、救援に来たジオン軍の第603技術試験隊の前に全機撃墜という手痛い損害を被った)

 

 戦争の大勢が連邦軍に大きく傾き、主戦場が宇宙へ移った事でルナツーの重要度は加速度的に増していた。ジャブローから打ち上げられたサラミスやマゼラン等、各部隊の集結地となった他、急ピッチで大量生産されたジムやボールが戦艦へ搬入されていったのである。

 

 今やルナツーは大反抗作戦の一大拠点となっており、基地の内外に連邦軍の戦艦やMS、そして兵士達がごった返している。そして地球から宇宙へ上がったトロイホースとデルタ・チームの姿も其処にあった。

 

 

 

 

「ちょっと!丁寧にパーツは扱ってよ!こいつはガンダムFSDの為の大事な武装なんだからね!」

 

 クレーンに吊り下げされたパーツを見て、丁寧に扱うようにと指示を飛ばすのは、健康的な小麦色の肌にボーイッシュな短髪の女性、アニー・ブレビッグ上等兵。

 宇宙へ上がるトロイホースへの人員補充で配属された叩き上げの整備兵で、その腕前は愛機の整備にうるさいエース・パイロット連中が「彼女に任せれば問題無い」と太鼓判を押す程だ。

 

「わかってるさアニー!それはそうと、仕事が終わったら一杯やらないか?俺が奢るぜ!」

 

「そういう台詞は整備で私を唸らせてから言うんだね!」

 

 ルナツーの工廠(こうしょう)で行われていたのは、ノエルの乗機である陸戦型FA・ガンダムFSDの換装作業だ。

 汎用型MSであるガンダムだが、原型機の局地型ガンダムは地球での対環境試験の為に試作された機体である。

 宇宙での空間戦闘を行うには、ランドセルを中心とした各部の換装作業を行う必要があったのだが、その()()()とばかりに新装備をトロイホース隊は受領していた。

 

「アニー!ガンダムの換装作業の進捗はどう?」

 

「順調順調!換装作業も後は武装の調整だけだし、クリスが機体各部のバランスやOSの調整は進めてくれてるよ。アレックスと陸戦型フルアーマーの戦闘データも入れてあるから、最高の機体になるように仕上げてみせるさ」

 

 工廠にやってきたノエルが見上げるガンダムのシルエットは大きく変化している訳では無いが、各部に増加パーツが取り付けられていた。

 

──高機動型ガンダム。それが換装作業を終えた彼女のガンダムの新しい姿。FSWS計画のスピンオフとして設計された機体で、ガンダムの背部及び脚部に補助推進装置を装備した宇宙空間専用機である。

 

「ベース機のRX-78と比較して出力は約10%増し。大型スラスターを装備したランドセルと脚部補助スラスターによる運動性の向上による基本性能の向上……機体各部のバランスも良好よ。これならいつでも出撃出来るわ」

 

 高機動型ガンダムのコクピット内で調整作業を行っていたクリスがノエル達の前に降りてくる。

 G-4部隊ではテストパイロットも務めていた彼女だが、あくまで本職はコンピュータ関連の技術屋だ。

 ハードウェアはアニー達メカマンが仕上げ、ソフトウェアはクリスを中心とした技術者が仕上げる。

 

──このガンダムと一緒なら、宇宙(ソラ)でも私は戦える。

 ノエルが見上げた愛機は、どこか誇らしげに見えた。

 それは良いのだが、彼女には気になる事が一つだけあった。愛機の肩に燦然と輝くパーソナルマークである。

 

「アニー……あのパーソナルマークって……」

 

「せっかく格好良い異名があるんだからってヘンケン艦長が考えたのさ。"ジャブローの凶鳥"っていうからには、やっぱり鳥のマークが良いって言い出してさぁ。なんでもジャパンの伝説に出てくる鳥らしくて……ええと、八咫烏(ヤタガラス)だったかな。足が三本あって、あんた達デルタ・チームみたいで。三位一体!とかなんとか」

 

 強面のヘンケン艦長がペンを握って一生懸命パーソナルマークを考えている光景を想像して、思わず三人の顔に笑みが浮かぶ。

 せっかく考えてくれたものを無碍にするのは気が引けるし、何より八咫烏のデザインはとても良く出来ていた。

 

──今度、お菓子でも作って差し入れに行こう。

 ヘンケンはいつも食堂で何を好んで食べていたか思い返しながら、そう考えるノエルであった。

 

 

 

 

「戦略物資輸送艦の護衛任務でありますか、ワッケイン司令」

 

「ああ。二日後に旧サイド1方面に戦略物資を積んだコロンブス級輸送艦を向かわせる事となっている。貴官ら第十八独立部隊はこれを護衛し、無事に送り届けて欲しい」

 

 ルナツーの司令部では、基地司令であるワッケイン少将と第十八独立部隊、トロイホース隊のヘンケン少佐の姿があった。

 コロニーの残骸で満ちた旧サイド1暗礁宙域は、ジオン公国の本国であるサイド3を守る重要拠点の一つである宇宙要塞、ソロモンにほど近い。

 

 戦略物資の中身は何なのかとヘンケンは疑問に思うが、わざわざ敵から捕捉され難い暗礁宙域を抜けるルートを取る事からも、相当に重要な代物である事は間違いない。

 

「護衛は我々だけで?我が艦には自慢の精鋭が揃っておりますが、万が一接敵した場合の数的不利は如何ともし難いと思われますが」

 

「ふっ、少佐も部下を自慢したくてたまらんらしい。……シャトルで地上から優秀なパイロットが上がってくる手筈になっている。道中でシャトルを回収し、そのまま旧サイド1方面へ向かってもらう。彼らのMSもコロンブスに搬入してあるから、万が一の際には戦力となるだろう」

 

 コロンブス級輸送艦は船体の両舷に大型のカーゴスペースを配置しており、弾薬や食料をはじめとする補給物資、更にはMSを多数格納する事も容易な構造となっている。

 コロンブスには既に戦略物資の積み込みが行われている他、ルナツーの工廠で製造されたMS──ジム・スナイパーllやジム・コマンドといった後期生産型ジム──が次々と搬入されていた。

 

「チェンバロ作戦が成功してソロモンが墜ちれば、この戦争も一気に終わりへ近づくだろう。戦略物資はその為に必要不可欠なものだ。必ず無事に届けてくれよ」

 

 これは責任重大な任務だ、と内心冷や汗をかきながら、ワッケインとのやりとりを終えて司令室を出るヘンケン。甘い物が食べたいと思いながら、彼は無重力の基地内で床を蹴ってトロイホースへ向かう。

 

──チェンバロ作戦の発動まで、あと五日と迫っていた。

 

 

 

 

 連邦軍の潜水艦を拿捕してキャルフォルニア・ベースから脱出した外人部隊は、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地を目指して陸路で移動していた。

 脱出する際にキャルフォルニア・ベースで受領したドムを彼らは継続して使用しており、ユウキ伍長やダグラス大佐は装甲カーゴ・トラックに乗っている。

 

「それで、メイが言ってる連邦軍とジオン軍のMSの違いってのはどういう事なんだよ。お前の言ってる事は良くわからねぇ」

 

「私がこんなに丁寧に説明してあげたのに!ジェイクったらノーマルスーツを脱がないものだから、耳が悪くなったんじゃない?」

 

「ノーマルスーツは関係ないだろ!」

 

 通信でジェイクと喧嘩しているのは、外人部隊のエンジニアであるメイ・カーウィンだ。

 メイはジオンの名家カーウィン家の令嬢で、わずか14歳にしてエンジニアとして天才的な才能を持ち、ジオニック社の一員としてザクの開発にも関わっていた。

 

 父親が親ジオン・タイクン派であった為、父の同志であり外人部隊司令でもあるダグラス・ローデン大佐の計らいで外人部隊に配属された少女である。

 

 事の発端は、ケンが連邦軍MSのバリエーションの話をメイに振った事だった。僅かな期間でザクを上回るMSを開発、量産した連邦軍だが、彼が見るからにジオン軍のMSとは根本的な考え方が違うように思えた。

 

 それは紛れもない事実だったのだが、メイの説明は些か専門用語が多かった事もあっていまひとつ(特にジェイクには)伝わっていなかった。

 

「要するに、設計思想が違うのよ。連邦軍のMSは例の白いMS──ガンダムを原型として、用途に合わせて派生させる設計思想。それに対してジオン軍のMSは、用途に合わせて完全に新規で開発する傾向が強いの。ザクの派生機と言えばせいぜいグフくらいで、ズゴックやゾックといった水陸両用機なんかはザクの技術的経験を多少は生かしてるくらいなものよ」

 

 助け舟を出したのは、ダグラス大佐の秘書官であるジェーン・コンティ大尉である。

 実はザビ家から派遣されたダグラス大佐の監視役なのだが、彼女自身もザビ家を好ましく思っておらず二重スパイ的にレッド・チームに協力していた。

 

 連邦軍の潜水艦を拿捕した際にズゴックに搭乗していたのは彼女で、護衛機のアクア・ジムの土手っ腹をアイアン・ネイルで貫く腕前は、レッド・チームの面々からしても逆らわない方が良いと思わせるに足るものだった。

 

「だから、水中戦のような局地戦ではジオン軍のMSは連邦軍のそれを凌駕する。でも汎用性とトータルバランスでは連邦軍のMSの方が優れているから、全体で見れば連邦軍の方が優秀……そんなところかしら?」

 

「へぇ〜、コンティ大尉ってMSの事にも詳しいのね。でも彼女の言う通りよ。鹵獲した連邦軍のMSを調べたけど、凄く余裕のある作りになってたの。初めから拡張性にゆとりを持たせた設計だから、基本フォーマットを大きく変えずに様々なバリエーション機を作れるのよ」

 

 成る程、とケンはジェーンの説明を聞いて納得する。

 確かにジオンのMSは良くも悪くもバリエーション豊かで、どこで使うのか理解出来ないMSも現場には送り込まれてきた話も聞いている。

 (アッグガイやゾゴックといった名前だったと彼は記憶していた。ジャブロー降下作戦に投入されたという噂を聞いたが……)

 

「そうなると、宇宙での戦いはかなり厳しくなるということだな……」

 

 ケンの呟きを聞いて、返事をするものはいない。

 オデッサに続いてキャルフォルニア・ベースを失い、地上での大勢は完全に連邦軍優勢である。

 今後の主戦場が宇宙になる事は間違いないが、圧倒的な物量と汎用性の高いMSに太刀打ちする事が可能なのか。

 

一抹の不安を抱えながら、一行はバイコヌール宇宙基地へ向かう。──彼らもまた、宇宙へ上がる為に。

 

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