【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
『ここで墜ちてもらうわ、シャア・アズナブル』
目の前に現れた"ザクもどき"の機体色からして、敵は"赤い彗星"──シャア・アズナブルに違いない。
父の仇だから墜とすのでは無い。恨みが無いとは言わないが、これは戦争なのだ。年若い彼女であるが、数多の戦場を生き抜いてきた立派な戦士だ。
内心の激情を押し殺し、あくまで冷静に"赤い彗星"と対峙する。
『弾幕を張れば……!』
ガトリング・ガンの照準を
無数の弾丸が横に薙ぐように連射されるが、滑らかな動きで機体の軌道を変化させ、その攻撃を避ける敵機。
避けられる事は想定通り。照準を合わせずに弾丸を放ったのは、敵機の進路を限定させる事が目的だったからだ。
普通のパイロットであれば、横に薙ぐように放たれた弾丸を躱す時には機体を上下のどちらかに移動させる。
それがわかっていれば、避けた所をビーム・ライフルで狙い撃ち出来れば撃墜する事は難しく無い。
(やる……!他の相手とは明らかに違う!)
しかし敵機は上下のどちらに避けるでも無く、螺旋の軌跡を描くように機体を回転させて、ガトリング・ガンの無数の弾丸を難なく躱したのだ。
こちらの意図を見透かしたような回避を見せつけられ、無意識のうちに舌打ちしながらノエルは操縦桿を引いて機体を沈ませる。
"ザクもどき"が手にしたビーム・ライフルから放たれた光弾を紙一重のところで躱すが、機体表面に掠めたようでコクピットに警報が鳴り響く。
圧倒的に物量、資源共に連邦軍に劣るジオン軍は、開戦当初から兵器の高性能化を図る事で対抗してきた。
即ち"量より質"の考え方だ。
事実、科学技術においてジオン軍は連邦軍の十年先を行っていると科学者の間では言われているのだが、連邦軍がジオン軍よりも先んじていた数少ない要素の一つがビーム兵器の小型化だった。
ノエルが地上で戦ったゴッグやゾックもビーム兵器を内蔵していたが、その動きは鈍重で内蔵された武装故に射角も制限されていた。
それに対して、目の前の"ザクもどき"が手にしているビーム・ライフルの性能はこちらが装備しているものと遜色無いとノエルは判断した。
『射撃戦が駄目なら……!』
右マニピュレーターにビーム・サーベルを装備させると、ノエルは操縦桿を前に倒しながらアクセルペダルを踏み込んだ。機動性を生かした格闘戦だ。
高機動用バックパックに装備された大型スラスターを全開にして、高機動型ガンダムが一気に前に出る。
圧倒的な機動性をフルに活用してビーム・サーベルを突き出し、"ザクもどき"をくし刺しにしようと突貫するが、サーベルの鋒は胸部装甲の表面を掠りながらも空を斬る。
明らかにザクとは次元の異なる機動性で機体を回転させ、突き出されたビーム・サーベルを紙一重で避ける"ザクもどき"。
いつの間に装備したのか、右マニピュレーターには刃を灼熱させたヒート・ホークを握っており、回転して避けた際の遠心力を利用しながらガンダムの胴体目掛けて切り上げられる。
(速い!)
ぞわり、と悪寒を感じたノエルは咄嗟にもう一本のビーム・サーベルを抜き放ち、二本の光刃でヒート・ホークの灼熱の刃を受け止めていた。
ビーム・サーベルとヒート・ホークの刀身が干渉し合い、二機の間にプラズマの閃光が迸る。
『フフ……中々やる。アムロ・レイほどでは無いにしてもな。ガンダムに乗るだけの事はある!』
コクピットに同年代と思われる男性の声が響いた。レーザー通信波が同調しているのだろうが、これが"赤い彗星"、シャア・アズナブルの声か、とノエルは唇を噛む。
メインモニターに大映しになる"ザクもどき"のモノアイが不気味な輝きを増すが、呑まれないようにノエルは四肢に力を込める。一瞬たりとも油断出来る相手では無い。
『この機体の慣らし運転として丁度良い相手だ。ここで私に出会った運命を呪うがいい!』
『何を!その傲慢さ──後悔させてあげるわ』
操縦桿を引き、思い切りアクセルペダルを踏み抜くと胸部に増設されたバーニアが火を吹いた。
一瞬の目眩しを行うとともに、強大な推力を用いて強引に鍔迫り合いの状況から脱出するが、シャアと"ザクもどき"の反応は俊速を極めていた。
(デブリを蹴って加速してる!)
モニターの光度補正を瞬時に終え、ガンダムの姿を捉えて"ザクもどき"が飛翔する。
単純な推力では高機動型ガンダムは"ザクもどき"のそれを上回っているが、その差をシャア・アズナブルは技量で埋める。ノエルが見たのは、浮遊する無数のデブリを次々と蹴る事で加速する敵機の姿だ。
これだけのデブリが浮遊する暗礁宙域でスラスターを全開にして戦闘機動を取る事は、一歩間違えればそれだけで死に繋がる。にも関わらず、デブリを避けるどころかそれを利用して加速までするとは。
『三倍のスピード──赤い彗星は伊達じゃないのね』
高速で宙域を飛び回るうちに、二機はトロイホースたちのいる宙域からいつの間にか遠ざかっていた。
自分がシャアを引き付けなければ、ジオンの艦隊を殲滅するどころかそのままコロンブスを撃沈されるかもしれない。その危惧からノエルはあえてシャアを釘付けにする為、単機で囮を勤めていたのだ。
しかし、彼女の想定外が一つあった。ガンダムのコンピューターが"Unknown"判定した機影は二機。
──ジオンのエース・パイロットはシャア・アズナブルだけでは無かった。
■
MS-11 アクト・ザクはジオンを象徴する名機であるザクIIの総合性能向上を目的として、軍事計画《ペズン計画》によって開発されたMSである。
ザクIIをベースとしながら、機体の関節駆動にフィールド・モーター及びマグネット・コーティングを採用。
ジェネレーター出力の強化によってビーム兵器の携行も可能となっており、その機体性能はジオン公国の工業力の全てを注ぎ込んだと言われるMS-14 ゲルググをも上回るハイスペック機だ。
完成した試作機がキシリア・ザビ少将の名によってシャア・アズナブル大佐の専用機として調整され、テストの名目でパトロール艦隊に同行していたのだ。
──フィールド・モーター及びマグネット・コーティングは連邦系の最新技術であり、何故それがペズン計画で設計されたアクト・ザクに採用されたのか。
何故軍の上層部しか知らない輸送ルートに
それを知るのは、月面基地グラナダに居を構えるキシリア・ザビ少将だけだ。
■
『デルタ・ツー!敵艦隊への直接攻撃にいけるか?』
『デルタ・スリー、目の前のコイツをお前だけで捌けるか?俺は厳しいと思うがな!』
ノエルがシャアと対峙しているのと同じ頃、ラリーとアニッシュもまた難敵と相対していた。
もう一人の"赤"。ジオン突撃機動軍所属のエース、ジョニー・ライデン少佐。搭乗する機体を真紅のパーソナル・カラーで塗装し、"真紅の稲妻"の異名を取る男だ。
彼の乗る機体こそ、ガンダムのコンピューターが捉えたもう一機の"Unknown"。真紅に彩られたMS-06-R2 高機動型ザクIIこそがその正体である。
《ザクの皮を被ったゲルググ》とまで謳われる性能を誇る一方で、量産機としてのコストパフォーマンスは劣悪。加えてピーキーな操作性故にコンペティションに敗れ、僅か四機しか製造されなかった"幻のザク"。
『赤い色のMSってのは厄介な奴だって相場が決まっていますよ!デルタ・ツー、俺が仕掛けます!援護を!』
『わかった!焦るなよ、デルタ・スリー!』
アニッシュのスナイパーカスタムが頭部バイザーを降ろし、頭からぶつかる形で敵機に向けて突入する。
高機動型ザクIIが持つザク・マシンガンの銃口から光が瞬く。飛来する弾丸を左マニピュレーターに装備したシールドで逸らしながら、敵機へスナイパーカスタムが肉薄し、右前腕部に装備されたボックスタイプ・ビーム・サーベルを横なぎに振るう。
高機動型ザクIIが大型化した脚部スラスターを吹かせて回避した隙を狙って、ラリーはトリガーを引いていた。
真紅のMS目掛けて白光が走る。スナイパーllの装備したR-4ビーム・ライフルが火を吹いたのだ。
R-4ビーム・ライフルはRX-77向けの武装として開発されたXBR-L-79をベースとして、狙撃用MS向けに再設計されたビーム・ライフルだ。
中・長距離からの精密射撃に特化する為に、従来のビーム・ライフルと比べてビーム弾の収束率は極めて高い。
大気や塵によるビームの減衰率が大きくなる大気圏でも狙撃用ライフルとして使用出来る武装で、殆どビームが減衰しない宇宙空間での威力は絶大。
MS配備当初からコンビを組み、連携を磨いてきた二人の攻撃には一部の隙も無い。
しかし敵もさるもので、右肩のシールドを犠牲にしながら二機の連携攻撃を凌ぎ切る。高出力のビームがシールドを半ばから溶断するが、機体本体への損傷は見受けられなかった。
『やるな!だが、これで真紅の稲妻を止められると思ってもらっちゃ困る!──受けてみるかい?閃光の一撃を!』
『こいつ……!だがまだ!』
高機動型ザクIIの加速性能を十全に発揮し、スナイパーカスタムの死角へ機体を躍らせるジョニー。
その動きに反応するアニッシュだったが、スナイパーカスタムのボックスタイプ・ビーム・サーベルの欠点が露呈する。前腕部にあらかじめ装備された故に瞬時にビーム刃を展開出来るのだが、手持ちに比べて稼働範囲が狭い。
そしてその欠点を先程の攻防で見抜いていたジョニーは、隙とも言えない隙を突いてスナイパーカスタムの右腕をヒート・ホークで両断する。
瞬時に脚部にマウントしているビーム・スプレーガンで牽制しながら距離を取るアニッシュだが、有効打を与える事は叶わない。
本来であれば、自分がシャアを抑えている間にラリーとアニッシュが艦隊上部から直接攻撃を仕掛け、コロンブス隊のMSと協力して敵艦隊を殲滅する。それがノエルがあの一瞬で描いたプランだった。
しかし、艦隊へ攻撃を仕掛ける筈だったラリーとアニッシュはジョニーに抑えられ、攻撃に転じることが出来ないでいた。
最初の艦隊射撃で何箇所かを被弾しているものの、ザンジバルとムサイは全て健在だ。
コロンブス隊が艦載機のザクとリック・ドムの混成部隊と戦闘を行なっているが、時間をかけていれば更に追い詰められる事は明らかだった。
もう一手必要だ。ジオンの艦隊を退けて、コロンブスを無事に送り届ける為には。
部下が命をかけて戦っている今、それを無駄にする事だけは避けなくてはならない。
──ブリッジで戦況を見守るヘンケンの視界に映るのは、一辺が数十メートルはあろうかという、巨大なコロニーの残骸だった。
シャア専用アクト・ザクは股間に2と書いてあるタイプでは無く、マレット機をシャアカラーにしたものを想像していただければ……
感想、評価切にお待ちしております。