【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記   作:B.I.G

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MISSION 2 「敵の哨戒部隊を叩け!」

【BRIEFING】

 

 ヨーロッパで行われる大規模反抗作戦、オデッサ作戦の陽動が今回のミッションである。

 現在、多くの友軍部隊がヨーロッパの集結ポイントに向かう為、出撃準備が進められている。

 各部隊が移動を開始した際、集結ポイント及び攻撃目標を特定されないよう、世界各地の戦線で陽動作戦を展開中である。

 

 我々はカナダ南西部ノーマンウェルズにて、敵の哨戒部隊を奇襲する。

 作戦エリアには巨大な湖や河川が多数存在しており、事前の調査で敵MSは水中用カスタマイズを施している事が確認されている。

 

 陽動が本作戦の任務の為、一定時間の戦闘後は戦闘エリアの離脱も許可されている。

 戦闘中の管制、索敵はホバートラック《ハウンド》が行い、貴官らのサポートを行う。

 戦闘の継続または離脱の判断は、部隊の損耗を考慮し、デルタ・リーダーの判断で決定する事を許可する。以上だ。

 

 

MS1 ノエル・アンダーソン中尉《デルタ・リーダー》

RAG-79 アクア・ジム 100mmマシンガン

 

MS2 ラリー・ラドリー少尉《デルタ・ツー》

RGM-79[G] 陸戦型ジム 180mmキャノン

 

MS3 アニッシュ・ロフマン曹長《デルタ・スリー》

RAG-79 アクア・ジム 100mmマシンガン

 

 

作戦成功条件:敵哨戒部隊との交戦後、一定時間の経過

作戦失敗条件:部隊の全滅

 

 

─ MISSION START ─

 

 

『きゃっ!流石に狙いが正確ね……デルタ・スリー、無事!?』

 

 敵のザクIIから放たれたバズーカの弾頭がノエル機のすぐ側に着弾し、硬い岩盤を粉々に吹き飛ばすと同時に衝撃が機体を襲う。

 アクア・ジムの装甲材はチタン・セラミック複合材で、陸戦型ジムに使用されているルナチタニウム合金よりも遥かに脆く、同じ感覚で敵の攻撃を装甲で受けるのは危険が伴う。

 衝撃と岩の破片からコクピットを左手に装備した小型シールドで守りながら、僚機であるアニッシュへ通信を飛ばす。

 

『なぁに、大したことはっ!しかしアラートが鳴りっぱなしです、包囲されつつありますよ!そろそろじゃないっすか、デルタ・リーダー!』

 

 ノエル機もアニッシュ機も直撃弾は避け戦闘を継続しているが、こちらに向かってくるジオンのMSはMS-06 ザクIIが4機。

 正面から対峙して勝てる戦力差では無いが、作戦はデルタ・チームの想定通りに進行していた。

 

『そうね、逃げるわよ!遅れないでね、デルタ・スリー!』

 

『了解!さぁて、上手く食い付いてくれよっ!』

 

 バズーカの砲撃が止んだ隙を見計らってノエルとアニッシュはペダルを踏み込んでジムを走らせ、二機の機体は巨大な湖の中へ水飛沫を上げながらその巨体を進めていく。

 

 中央部ともなれば18mのMSが完全に水没する程の深さの湖で、通常のMSであれば機動性の大幅な低下は免れないどころか、機体の状況によってはそのまま行動不能になる恐れすらあった。

 勿論、水中用の機体であるアクア・ジムであれば行動不能になる事は無く、本領を発揮出来るフィールドへ敵MSを引き寄せている事になるが、追いすがるジオンの哨戒部隊がその可能性に思い至る事はなかった。

 

 

 

 

『連邦の奴ら、慌てて逃げ出しているな?それも湖の方に』

 

 友軍のバズーカの砲撃に驚いたように機体を反転させ、よりにもよって湖へ逃げ込んでいく連邦のMSを確認し、ジオン哨戒部隊の隊長はほくそ笑んだ。

 突然現れた連邦のMSには驚いたものの、数でもパイロットの練度もこちらの方が上だと判断した。

 

『馬鹿な連中だ!こちらのMSが水中用カスタマイズをしてあるとも知らずに……よぉし!出来る限り敵MSの手足を狙って動きを止めろぉ!目的は敵MSの捕獲だ!野営地に連絡を入れて、出てないMSも出撃させろっ!』

 

 世界各地で連邦のMSが現れ始めたという情報は出回っていたが、遭遇するのは今回が初めてだ。

 ここで新型の敵MSを鹵獲出来れば大きな手柄になる、とMS隊へ指示を飛ばす同時に、哨戒に出ていなかったMSも出撃させるように通信を入れる。

 たかが連邦のMSなど恐るるに足らん、と息巻きながら、ザクIIがアクア・ジムを追って次々と湖の中へ侵入しながら、ザク・マシンガンやバズーカのトリガーを引く。

 

 ザクの関節部には水中での活動を見越してシーリング処理が施されており、ある程度の深度までは問題なく動く事が出来る。

 ネズミを追い立てる猫の様に逃げるジムを追撃するザクだったが、彼らに狙いを付けている大砲には、撃たれるその時まで気付く事が出来なかった。

 

 

 

 

《ハウンドより各機へ。ジムの機動力15%ダウンだ。湖底に足を取られるなよ》

 

 MSの状況をモニタリングしているホバートラック《ハウンド》から通信が入る。

 水上からでは湖底は目視出来ない為、MSのコンピュータには地形データを読み込ませてあるが、激しい戦闘の最中ではそこまで気を配る事も難しい。

 油断ならない状況だが、あくまで機械的にジムの状況と注意事項を伝える《ハウンド》の声色は変わらない。

 

『水陸両用機と言っても……っ!デルタ・ツー、準備は良い!?』

 

 水陸両用機であるアクア・ジムであるが、ジオンの水陸両用機の様に初めから局地戦を想定した機体では無い。

 あくまで高い汎用性を誇るRGM-79 ジムをベースにして再設計された機体であり、水中移動の要であるハイドロジェットユニットを十分に使用出来ない浅瀬での機動性は、ノーマルのジムとそう大差のあるものでは無かった。

 

 水面に着弾して上がる水柱を被りながら、100mmマシンガンを撃ち返して敵機を牽制しつつ、ノエルは対岸で待機しているラリーへ通信を入れる。

 

『デルタ・ツー、敵を捕捉してますよ。……いつでもどうぞ』

 

 陸戦型ジムのコクピットの中で射撃用スコープを覗きながら、冷静な声でノエルに返答を返す。

 スコープの照準はラリー機に横っ腹を無防備に見せながら、ノエル機とアニッシュ機に向けて射撃するザクをしっかりと捉えていた。

 ラリーの陸戦型ジムが装備している180mmキャノンの有効射程距離はおおよそ600m。

 ザクを狙うにはギリギリの距離だが、ノエルの『撃って!』と叫ぶ声を聞いた瞬間、ラリーは冷静にトリガーを引いた。

 

 

 

 

『な、なんだっ!何が起こったっ!』

 

 轟音と同時にラリー機のジムから放たれた180mmキャノンの砲弾は、狙いと寸分違わずにザクの腹部に直撃して吹き飛ばした。

 驚き慌てて周囲を索敵するザクだったが、対岸で砲撃するジムをカメラに捉えた瞬間、砲弾でメインカメラごと上半身を破壊され、黒煙を上げながら湖に沈んでいく。

 

『敵の伏兵だぞっ!このままじゃ狙い撃ちにされるっ!散開だ、散開しろっ!』

 

 狼狽えながら散開する二機のザクだったが、その動きは鈍い。

 隊長機はラリー機の最初の砲撃をまともに受けて吹き飛び、その勢いで湖畔に激突して機体が燃え盛っており、到底パイロットが生きていられる状態では無い。

 

『たかが、たかが連邦のMS如きにジオンはやられんのだ……あっ』

 

 MS戦の素人である筈の連邦の罠にまんまとハマり、一方的に追い詰めていた筈の自分達が逆に狩られる立場になっている。

 動揺を押し殺しながら背部スラスターを吹かせ、果敢にもアニッシュ機に格闘戦を仕掛けようとするザク。

 ヒートホークを白熱させながら突貫するも、二機のジムから放たれたマシンガンの攻撃がコクピットに直撃し、突貫した際の勢いのままに前のめりに水中に倒れ込んだ後、その動きを止める。

 

瞬く間に三機のザクが撃破され、残るザクは後一機。

 

 

 

 

《ハウンドより各機へ。敵の増援、恐らくグフ1機。水中を移動していると思われる》

《司令部から撤退を許可すると指示も出ている。判断はデルタ・リーダーに一任する》

 

 ホバートラック《ハウンド》から各機へ通信が入る。

 ホバートラックは高度な通信・電子戦設備を搭載しており、通信能力はMSよりも遥かに高く、管制や索敵、哨戒などが主な役目だ。

 アンダーグラウンド・ソナーを使用する事で周囲の振動をキャッチ、解析し敵機の機種特定や音紋索敵を可能にする。

 ミノフスキー粒子下かつ目視では戦況の解析が難しい地上戦に於いては、部隊の目とも言える重要な役割を担っていた。

 

『水中戦ならこちらが有利ね!戦闘続行。増援のグフは私が迎撃するわ。デルタ・ツー、デルタ・スリーは残りのザクを叩いて!』

 

 《ハウンド》からの指示を聞いて、戦闘継続を判断。

 増援のグフは戦況不利を鑑み、恐らく水中から奇襲をかける魂胆だろうが、水中戦であればアクア・ジムに地の利はあった。

 水深の深いエリアにアクア・ジムを進め、水中で敵MSの迎撃態勢に入るノエル。

 

『デルタ・ツー了解。180mmの射程距離外だ。接近して援護する』

 

『デルタ・スリー了解!任せてくださいよ!』

 

 遠距離で援護していたラリー機が距離を詰め、アニッシュ機が100mmマシンガンを撃ちながらザクへ接近する。

 友軍機が次々と撃破され狼狽るザクが投降するのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

『水中での機動性は、陸戦型ジムとは比べ物にならない……見つけた!』

 

 水中に入ったアクア・ジムは各部に増設されたハイドロジェットユニットをフルに活用する事で、汎用MSと比較すれば高い機動性を確保する事が出来る。

 水中用カスタマイズを施しているとはいえ、グフは陸戦用の機体であり、不得意な環境ではその高い機動性や格闘能力を十全に発揮する事は難しい。

 そのような意味で言えば、水中から奇襲する戦術を取った時点でグフに勝ち目は無かった。

 

『目標ロック……当たって!』

 

 ハイドロジェットユニットの機動性でグフの側面に回ると、肩部に装備されたミサイル・ランチャーユニットから魚雷型ミサイルを発射する。

 水中での機動性に乏しい機体が避ける術は無く、コクピットへの直撃弾こそシールドで防いだものの、両足を失ったグフ。

 まだ諦めないのか、ミサイル着弾の衝撃で破損し、水中故に発熱させる事も出来ないヒート・サーベルを突き出して応戦する。

 

『まだやると言うのなら……ごめんなさい、墜とさせてもらうわ!』

 

 致命的な損傷を負い、緩慢な動きでヒート・サーベルを突き立てようとするグフの攻撃を難なく避けると、腰部に装備されたビーム・ピックを装備し、コクピットに向けて逆に突き出す。

 ビーム・ピックはビームの減衰が激しい水中戦で使用する為の装備で、相手の機体に直接グリップを接触させた瞬間、ピック(針)状のビーム刃が瞬時に形成される特殊な装備だ。

 一瞬の後、ビーム・ピックの刃がグフのコクピットを貫き、ようやくグフはその動きを止めて湖底へ沈んでいく。

 

『こちらデルタ・リーダー、敵機を撃破。そちらは?』

 

ふぅ、と息を吐きながら首元を緩め、僚機へ通信を送るノエル。

 

『こちらデルタ・ツー。最後のザクのパイロットは投降しました。《ハウンド》のソナーでも周囲に反応はありません。これで終わりのようです』

 

『了解!作戦終了よ、帰投します!』

 

 最後のザクのパイロットが投降したと聞き、作戦終了の号令を出すノエル。

 鹵獲したザクと捕虜にしたジオン兵のパイロットの移送手続きは《ハウンド》に一任し、僚機と共に帰投する。

 オデッサ作戦の陽動任務は、無事に終了する事が出来たのだった。

 

 




水陸両用MSって凄く浪漫を感じます。
ジオン水泳部には質でも量でも劣る連邦水泳部、後付けでも良いから増やして?

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