【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
読んでいただける事が自分の原動力です。
評価、感想切にお待ちしております!
─ 地球連邦軍第三艦隊 旗艦マゼラン級レナウン ─
「囮!?トロイホース隊とコロンブスが、でありますか?しかし、あのコロンブスには重要な戦略物資が積み込まれていると……」
「本来はな。ティアンム提督すら作戦開始の前日に変更を伝えられたとの事だ。本来の戦略物資は今頃本隊の連中の元に届いているだろう」
レナウンのブリッジで話しているのは、第三艦隊の司令でありこの艦の艦長であるワッケイン少将と副官だ。
チェンバロ作戦は連邦軍が所有する十三個の艦隊から、レビル将軍直率の第一連合艦隊と、ティアンム提督指揮の第二連合艦隊で行われる手筈となっていた。
レビル将軍率いる第一連合艦隊は予備として後方に控え、第二連合艦隊がソロモンの攻略に向かう事となったのだが、宇宙要塞ソロモンは衛星ミサイルと浮き砲台を全方位に張り巡らせた鉄壁の防衛ラインを築いており、正攻法での攻略が困難な事を悟った連邦側は一計を案じた。
太陽光を反射させた膨大なビーム束を放つソーラ・システムの投入を決定したレビル将軍だったが、ここにきてエルラン中将に続く軍上層部に蔓延るスパイの存在を疑わざるを得ない証拠が浮上する。
それが、最新技術である筈のマグネット・コーティングを施した試験機が、月の裏側に位置する月面第二の都市──キシリア・ザビ率いる突撃機動軍の本部としてジオン本土最終防衛ラインの一角を占める重要拠点、グラナダに運び込まれた形跡有りとの情報だ。
万が一にでもソーラ・システムを輸送中に失う事があれば、負ける事は無いにしてもソロモン攻略の代償は大きくなり、残るア・バオア・クーを突破してサイド3へ侵攻する事は困難を極めるとレビル将軍は判断。
急遽トロイホース隊とコロンブスを囮とし、敢えて情報を流す事で安全にソーラ・システムを輸送する作戦を立案、決行したのである。
「その事はトロイホース隊の面々は……」
「知る筈が無い。私とてそれを知ったのはつい数時間前の話だ。命を賭して艦を守ろうとする味方を騙して囮にするなど……」
内心憤りを感じるワッケインであるが、軍隊という組織に所属している以上は上官からの指令は絶対。
彼に今出来る事は、せめてもの増援として一隻の艦を差し向ける事だけだ。──そう、第三艦隊に編入された第十三独立戦隊を。
■
「アレックスの出撃準備を急ぐよ!ボサッとしてるんじゃないよ!武装はハイパー・バズーカとシールドだ!」
ルナツーの工廠で最終調整を行い、後は第十三独立戦隊のアムロ・レイ少尉に引き渡すのみと言うところまで仕上げた機体であるが、状況を打開出来るのはアレックス以外にないとヘンケンは即座に決断した。
第一デッキではヘンケン艦長の名を受け、アレックスの出撃準備を急ピッチで行うメカニックマンの声が響き渡る。パイロットのクリスは既にノーマルスーツに着替え終わり、コクピットの中で確認作業をしている最中だ。
アレックスの腰部ラッチに強力な実弾兵器であるハイパー・バズーカ。左腕マニピュレーターに高純度のルナ・チタニウム合金製のシールドが装着される。出力調整を行う時間は無いが、今回の作戦に関してはそれで問題は無い。
『マッケンジー中尉、頼むぞ!』
『了解。必ずやり遂げてみせます。──各部チェック完了。クリスチーナ・マッケンジー、ガンダムアレックス!出撃します!』
カタパルトから勢いよく宇宙へ飛び出したアレックスとクリスの目的は、シャア・アズナブルと戦うノエル機の援護でも、ジョニー・ライデンと戦うラリー機、アニッシュ機の援護でも無い。
『これね。お願い、アレックス……!』
アレックスが向かった先にあったのは、一辺が数十メートルに及ぶ巨大なコロニーの外壁、その残骸だ。
クリスはアレックスを残骸に取り付かせ、バーニアの出力を一気に向上させる。メイン・モニターをふさぐ巨大な鋼鉄の塊に向かって、操縦桿を力一杯押し込んだ。
たかだか外壁の一欠片と言っても、その大きさはガンダムの機体と比べても圧倒的な質量を誇る。宇宙空間とはいえ、
ガンダムNT-1 アレックスをロケットエンジンに見立て、その常軌を逸した推力を使って巨大なコロニー片を移動させる。それがクリスがヘンケンから聞かされた作戦の第一段階。
(動け動け動け……動いて!みんなを助ける為にはこれしかないの!)
歯を食いしばったクリスが更にアクセルペダルを踏み、アレックスのバーニア出力を最大まで上げる。バーニアから噴き出す青白い炎の輝きが一際強くなり、クリスの願いに応えるようにアレックスのデュアル・アイが眩く光る。
アレックスのスラスター総推力は174,000kg。
ガンダム2号機の総推力55,500kgの三倍以上の推力を誇り、セカンド・ロットかつ宇宙空間で高機動戦闘を行う事を想定して設計されたガンダム4号機、5号機の総推力70,500kgすら上回る。
『動いた!これならいける!』
びくともしなかったコロニーの巨大な破片が、アレックスの力でゆっくりと動き始める。一度動いてしまえば、空気抵抗の存在しない宇宙空間であればその移動速度は加速度的に増加していく。
これほどの大質量な物体をどうするのか?ヘンケンが思いついたのは作戦は単純明快だった。──即ち、コロニーの破片をジオン艦隊にぶつけて殲滅する。
それは皮肉にも、ジオン軍が宣戦布告直後に行った"ブリティッシュ作戦"で行われた人類史上最悪の行為である"コロニー落とし"からヒントを得た作戦だ。
『狙いは端のムサイ……!頑張って、アレックス!私たちがみんなを助けるのよ!』
ハイパー・バズーカを放ってコロニーの破片に着弾させ、微妙に角度を変えながらいよいよクリスはジオン艦隊の直上に到達した。コロンブスのMS隊も流石は地上でエースとして鳴らしただけの事はあり、初めての空間戦闘にも関わらず戦闘を継続している。
ザンジバルは戦闘宙域を離脱しようとしているようだったが、ザンジバル程足の速く無いムサイはこちらに機首を向けて迎撃を行う態勢を取っていた。
『座標計測、突入角度を再計算……スラスター全開!』
クリスが狙うのは、艦隊の一番端にいるムサイだ。地上とは違い、宇宙空間では敵は同じX座標(横軸)にいるわけではない。狙いを付けたムサイは近くの艦に対して斜め上に位置しており、計算通りの角度で突入する事が出来れば一気に艦隊を殲滅する事が可能だった。
メイン・モニターがコロニー残骸で覆い尽くされている中、情報はモニターに表示された宙域をスキャンした擬似的なデータを見て行わなければならない。
微細な調整が必要な作業であるが、クリスの本職はパイロットではなく技術屋である。特にコンピューター関連の調整作業はお手の物だ。
不規則な振動に機体ごとシートを揺さぶられながら、クリスはアクセルペダルを緩めない。おそらくジオンの艦隊が
こちらに注意を向ければ、艦隊下部で戦闘を行なっているMS隊に無防備な底面を見せると分かっていながらも、迎撃せざるを得ないのだ。
──だが、それが無駄な抵抗であり事を一番理解しているのは、他ならぬジオン軍だろう。ブリティッシュ作戦の折に数百からなる大艦隊で連邦軍はコロニー落としを阻止しようとしたにも関わらず、まるでそれを意に返す事もなく──コロニーは落ちたのだから。
■
『撤退信号だと!?ええい、一体何があったというのだ!──なに、ムサイが三隻とも墜ちる!?』
突如として旗艦であるザンジバルから打ち上げられた信号弾を見て、シャアは歯噛みする。
視線を艦隊がいる筈だった宙域に向けてみれば、その目に映るのは光り輝く巨大な球体。真空状態での爆発は音もなく、炎がただ丸く広がるだけだが、MSが爆発した規模でない事は明らかだった。
(まさか私が敵の戦力を見誤るとは……やむを得んか!)
おおよそ部隊の三割(戦闘担当の六割)の喪失で全滅として見做される事を考えると、ジオン軍艦隊の被った被害は甚大だ。ガンダムさえ抑えれば、後はどうとでもなると考えていたシャアの目論見は大きく外れた。
不幸中の幸いとでも言うべきか、いち早くコロニー片を利用した攻撃に気付いた旗艦ザンジバルに損傷は無く、宙域の離脱には支障が無い。
ノエルの駆るガンダムとの戦いに夢中にならなければ、このような失態を犯す事も無かっただろうが、それを言っても後の祭りだ。残存戦力がザンジバルに集まるのに続いて、アクト・ザクのスラスターを全開にして高機動型ガンダムから離れるシャア。
シャアにとっては、アムロに続いて仕留め損なった相手である。つくづく"ガンダム"に対する因縁を感じつつ、彼は操縦桿を握りしめた。
■
『敵が撤退していく……』
モニターに映る球体を拡大して見れば、そこに見えるのはコロニー片を受け止めて爆散するジオン艦隊の姿だった。懸命な迎撃も回避行動も間に合わず、巨大な鋼鉄の塊をその身に受けたムサイの艦体は簡単に引きちぎられる。
クリスの計算通りの角度で突入したコロニー片は、初めに犠牲となったムサイの斜め下に位置していた残り二隻を巻き込むだけでは飽き足らず、艦隊の側で迎撃していたMS隊をも無惨に破壊して、物言わぬ宇宙に漂う残骸へと変えたのだ。
三隻の艦と多数のMSを巻き添えにして破壊したコロニー片もまた炎に包まれ、ムサイに搭載されていたミサイルの誘爆でその巨大な鋼鉄の身体に亀裂が入る。
宇宙空間で無ければ、耳をつんざくような轟音が響いているだろう光景を見て、ノエルは無意識のうちに固く握りしめていた操縦桿から手を離した。聞こえない筈なのに、脳内に見知らぬジオン軍人の悲鳴が聞こえるような感覚。
たかだかコロニーの破片だけでこれ程の被害が生まれる。コロニー本体が落ちた後の地球の状況と、それを決行したジオンの神経が彼女にはわからなかった。
(──こんな戦争は、早く終わらせなきゃ)
不意に感じた吐き気を抑えつつ、トロイホースから打ち上げられた信号弾を確認して艦に帰投するノエルの胸中にあるのは、早くこの戦争を終わらせなければならない、その想いだけだ。──この戦争は、生命を殺しすぎた。
暗礁宙域を抜けた先に微かに見える、懐かしく感じる白い艦体……ホワイトベースの姿を確認して、思わずノエルの唇が緩む。ジャブローで出港を見送ってから、もう随分経ったように感じたのだ。
──ノエルは無性にアムロに会いたいと思った。それが何故なのかは、彼女自身にもわからなかった。
今回はクリス&アレックスの活躍回でした。
スペックを詳しく調べ直しましたが、アレックスだけおかしいスペックをしてるので、こんな芸当も可能かな、と。
次回からソロモン戦に突入しますが、年末年始は仕事が忙しいので投稿が遅れるかもしれません……