【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記   作:B.I.G

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今年最後の投稿となります。
後書きまで読んで頂ければ幸いです。



MISSION 18 「覚醒」

『くっ!速いけど……避けれない程じゃない!』

 

 アナベル・ガトー。

 それがノエルの対峙しているパイロットの名だ。宇宙攻撃軍302哨戒中隊長であり、エース・パイロットとして連邦宇宙軍から恐れられた男である。

 

 パーソナル・カラーの青と緑に塗り分けられたMS-09R リック・ドムには試作段階の大型ビーム・バズーカが装備されており、ビーム・ライフル程の連射性能は無くともその攻撃力は絶大だ。 

 

 加速と減速を繰り返して浴びせられるビームを躱しながら、左腕マニピュレーターに装備された二連装ビーム・ライフルのトリガーをノエルは引く。──酷く頭痛がする。帰投した際に薬を服用したおかげで治っていた筈なのに、まるで戦場で人が死ぬ度に痛みがぶり返すようだ。

 

『腐った連邦の犬が……!貴様らのような信念なき有象無象共の弾が、この私に当たるものか!』

 

『犬呼ばわりされる筋合いなんて無い……!同じスペースノイドを虐殺しておいて、何を言う!』

 

 ビーム・ライフルの光弾を難無く躱したリック・ドムのヒート・サーベルと、高機動型ガンダムのビーム・サーベルが交錯し、閃光が迸る。

 よほど自信過剰な性格なのか、どこまでも自分の義を信じ切っているのか。傲慢とも言える物言いのガトーの言葉にノエルが声を荒げた。

 

『──女だと!?まさに連邦の脆弱さを象徴しているようなものだ。貴様のような愚かな女が戦場に出てくるなぞ……恥を知れ!戦場は女の出る幕では無い!』

 

『っ!女で悪いのっ!!』

 

 ガトーの言葉に思わずカッとなったノエルが思い切り操縦桿を押し込み、強引にガンダムのパワーでリック・ドムを押し切ろうとする。だが、逆にガトーは操縦桿を引いてリック・ドムを慣性のままに宙返りさせると、見事にガンダムの勢いを利用して攻撃をいなした。

 

 すぐさまノエルもガンダムのAMBCシステムを稼働させて、機体の姿勢をコントロールする。コクピットの中に聞こえる自分の荒い呼吸が酷く煩く感じられる。

 いくら頭痛が酷いとは言っても、女である事を揶揄されて怒る程自分は短絡的では無かった筈だ、とノエルは違和感を感じるが、その思考をかなぐり捨てて操縦桿を操る。

 

 目の前のリック・ドムの頭部は十字型の独特のモノアイ・レールを備えていて、爛々とそこに輝くモノアイがガンダムを捉えているのがわかる。人間に近いデュアル・アイを持つガンダムとは違い、ジオンのMSが備えるモノアイはどこか怪物じみた印象すら与えるものだ。

 

 じっとりと嫌な汗をかいている事に不快感を感じ、ノエルはヘルメットのバイザーを上げた。

 ──この宇宙は酷く息苦しい。

 

 

 

 

『おい、デルタ・スリー!デルタ・リーダーはああ言ってたがどうする!艦隊が衛星ミサイルに襲われてるが?』

 

『冗談でしょう、デルタ・ツー。俺達がデルタ・リーダーの背中を守るって決めたんじゃなかったんですか?命令違反上等ってやつですよ』

 

『勿論冗談だ。危なっかしくて放って置けないんだよなぁ、あの隊長は』

 

 ノエルに敵迎撃部隊を攻撃しに行くように命じられたラリーとアニッシュだったが、その命令には従わずにガトーの部下と思わしきMS隊と戦闘を続けていた。

 

 ソロモンの第二防衛ラインに達した艦隊には衛星ミサイルが襲いかかり、艦載機のジムやボールの迎撃をすり抜けた衛星ミサイルが着弾したサラミス級の戦艦が、巨体を真っ二つに折りながら爆炎を上げる。

 

 本来ならば艦隊の先頭で戦っているホワイトベース隊に合流すべきだっだが、デルタ・チームの二人は敢えてノエルの命令を無視した。

 

 初めは二十歳の、しかも女性の新人士官になにがわかるものかと馬鹿にした。どうせすぐに最前線で戦う事が嫌になってジャブローに逃げ帰るか、それとも戦場でパニックになって死ぬか。──勿論、死なれるのは目覚めが悪いとは思っていたが。

 

 それでも彼女は腕自慢で鳴らしたエリート・パイロット様が次々と根を上げるような環境で戦い続け、いつの間にかラリー達も彼女を認めていたのだ。過酷なミッションを終えた後にも関わらず、後方支援部隊の連中と一緒に握り飯を振舞う姿を見て、部隊の全員が手伝いを志願するなどという一幕もあった。

 

 ──デルタ・チームの隊長に相応しいのは、ノエル・アンダーソン以外にはいない。そう彼等は信じていた。

 しかし、両軍合わせて数千機もの機体が入り乱れる戦場において、感傷に浸る暇などありはしない。 

 

『──デルタ・ツー!後ろだ!』

 

 アニッシュの叫び声に反応して、ラリーの身体は頭が考えるよりも早く反応した。操縦桿を引き、ブレーキペダルを踏み込む事で機体を半身にする。

 

『ぐっ!──何だ、コイツは!』

 

 ジム・スナイパーllの背後から突如として現れた巨大な影から振るわれたクロー攻撃をすんでのところで躱したラリーだが、左腕マニピュレーターに装備していたシールドが完全に破壊されていた。

 

『MAだぞ……こいつ、ホワイトベース隊の戦闘記録にあった奴だ!』

 

『高機動型MAだ!平面での戦闘は不利だぞ、デルタ・スリー!コイツに奇襲でもされれば、デルタ・リーダーが危ない!俺達で仕留めなきゃならん!』

 

 MA-05 ビグロ。宇宙戦用に最初に実用化されたMAで、推進器に2基の熱核ロケットエンジンを用いたことで機動性が非常に高く、高速で移動できるためパイロットはGに耐性のある者でなければならない程。

 幅広の本体に接近戦用のクローアーム2基を装備している他、メガ粒子砲やミサイルも装備しており、高火力、高機動を実現した強力な機体だ。

 

『ところでデルタ・スリー。絶体絶命な状況だが、俺を信じるか?』

 

『愚問ですね、デルタ・ツー。──来ますよ!』

 

 一度目の攻撃に失敗したビグロが大きく距離を取った後、旋回して再びラリー機とアニッシュ機に向けて加速する。熱核ロケットエンジン二基から生み出される推力は莫大で、MSとは一線を画する機動力だ。

 

 あの大型のクローで攻撃されれば、MSといえども簡単に機体を引き千切られる事は目に見えている。一言二言、ラリーとアニッシュが言葉を交わした。綿密な打ち合わせなど出来る余裕は無いが、二人にとってはそれで十分だ。

 

 ビグロから数発のミサイルが立て続けに発射される。迎撃にアニッシュのジム・コマンドがブルパップ・マシンガンを放つが、その全てを撃ち落とす事は出来ず──ミサイルが着弾し、ジム・コマンドとジム・スナイパーllが一瞬炎に包まれてその姿が消える。

 

『二機とも仕留めたか!多少は腕に覚えがあったようだが……何ぃ!?』

 

 ビグロのパイロットであるケリィ・レズナー大尉は、放ったミサイルの爆発に二機のジムが飲み込まれた時、完全に仕留めたと判断した。数発は撃ち落とされたようだったが、あの爆発なら生きてはいまいと。

 

 だが、新型MSを撃墜したと思った瞬間に感じた高揚感は一瞬にして霧散した。

 

 ──半壊状態のMSが一機しかいない。もう一機は跡形も無く爆発したのか?そんな筈は無い、確か青い機体は後ろにいた筈……!そこまで考えた瞬間に、ケリィはビグロのコクピットの中でラリーの声を聴いた。

 

『悪いな。これでジ・エンドだ!』

 

 ケリィの失敗は二つあった。一つはミサイルの爆炎で二機のMSの機影を一瞬見失った事。もう一つは一瞬とは言え、アクセルペダルを緩めてビグロの速度を緩めた事。

 

 二人のとった手段は単純で、ミサイルを迎撃しつつシールドが残っているアニッシュのジム・コマンドを囮にして、油断したビグロをラリーのジム・スナイパーllで仕留めるというものだ。

 超高速で移動するビグロだが、相対速度を合わせてしまえばその巨体は丸見えで、かつビグロの上部には武装が無く、無防備となる。

 

 ガンダム2号機をも凌駕する推力を最大限に発揮したジム・スナイパーll。ほんの一瞬の隙を突いてビグロの上を取ると、軋む機体を動かして構えたR-4ビーム・ライフルの銃口から一筋の白光が走り、緑色の異形を貫いた。

 

 

 

 

『デルタ・ツー、デルタ・スリー!返事をしなさい!早く、早く返事を……ラリー、アニッシュ!』

 

 ノエルの眼下に映るのは、()()の爆発だ。

 ミノフスキー粒子が濃くなっている状況では、離れた場所で戦闘していた二人との通信が繋がらない。だからきっと、ノイズまみれになりながらも微かに映るレーダーから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その所為だ。

 

 息が苦しい。暗礁宙域で感じたような声が聴こえる。密閉されたコクピットにいるにも関わらず、ノエルは裸で宇宙空間へ放り出されたような恐怖を感じた。

 

(──撃たれた?)

 

 下腹部にずん、と圧力を感じてノエルは思わず下を向いた。まだ撃たれたわけでは無い。マシンガンを構えたザクIIが二機、スラスターを吹かせて接近していた。

 その銃口はガンダムに向けられ、ノエルが撃たれたと感じてから数秒経ってから弾丸が発射された。

 

 避ける事は容易かった。数秒前に撃たれる事を知っていたからだ。敵が驚愕したような気配を感じると共に、ビーム・バズーカを構えたリック・ドムから感じるプレッシャーがまるで化物のように大きくなるのを感じた。

 

 敵から感じるプレッシャーは酷く不快なものだ。まるでねっとりとした手が自分の身体を無遠慮に弄られるような、そんないやらしい感触を感じる。敵機から伸びる手が絡み付いてくる不快感に耐えかねて、ノエルは叫ぶ。

 

『私に触るな!』

 

 モニターを見るまでも無く、自分を狙う敵の存在を感じる。まとわりつく手の先にある気配を感じて、トリガーを引くだけで良かった。

 ビーム・ライフルの光弾がザクのコクピットを貫き、機体が炎に包まれた球体と化す。一つの手が消えた瞬間、他の手から伝わる力が強くなったように感じる。

 

 無意識のうちに噛んだ唇から血を流しながら、ノエルは操縦桿を押し込んでガンダムを飛翔させ、追い縋ってくるMSのコクピットに向けて正確に銃口を向けてトリガーを引き絞る。──敵機が爆散すると共に、機体から伸びていた手が霧散する。

 

『これ以上はやらせん!我が友ケリィ・レズナーを良くもやってくれた……この屈辱、報仇雪恨の念を持って晴らさせてもらおう!』

 

『この……っ!コロニー落としであれだけ殺しておいて、まだ足りないとでも言うの!?』

 

『我々の受けた屈辱を知らぬ賢しい女が何を言う!戦いの始まりは全て怨恨に根ざしているのだ!地球に蔓延る悪を根絶やしにする為ならば、私は何度でもこの正義の剣を振るうだろう!』

 

 二機の機体が螺旋を描くような軌跡を描きながら、無数のMSが混戦状態で戦い続ける戦場を駆ける。

 ビーム・サーベルの刃がリック・ドムの左腕マニピュレーターを肩口から両断し、ビーム・バズーカから放たれた閃光がガンダムの頭部を消し飛ばす。

 

 ガンダムの頭部が消滅した瞬間、思わずノエルは声を上げた。まるで自分の頭がなくなったような感覚を覚え──彼女は正気を取り戻した。

 コクピットのサブ・モニターに表示されていたカウント・ダウンの数字は0になり、警告音を発していた。警告音は、主力艦隊が展開しているソーラ・システムの照射時刻を知らせている。

 

 鍔迫り合いをしていた敵機を蹴り飛ばし、ノエルは主力艦隊がいる宙域を振り返った。──小さな光と悪意が生まれている事を、彼女は感じた。

 




今回の展開は、この作品を書こうと思った時に考えついた事でありつつも最後の最後まで悩んでいた展開です。

そもそもノエルをニュータイプとして覚醒させるべきか、そうでないか。
単純にデルタ・チームとしての物語としてなら、彼女はオールドタイプのままでも良かった。
それでも彼女を主人公として一年戦争を生き残らせる話としてなら、これはこれで良いのではないか、と悩みながらも決断しました。

……ガンダム戦記をプレイした事のある方ならわかると思うのですが、ラリーとアニッシュ(ガースキーとジェイクもですが)は機体が大破しても絶対に脱出するエキスパートです。この作品はノエルの笑顔で締めくくります。
来年もまた、この作品の完結までお付き合い頂ければ幸いです。

暗い事ばかりの世の中ですが、良いお年を迎えられる事をお祈りいたします。
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