【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
『飛んで!』
連邦軍主力艦隊が展開している宙域から微かに見えた光点を確認した瞬間、ノエルは反射的にアクセルペダルを踏み抜いて、一気に高機動型ガンダムを上昇させた。
機体各部への負荷が跳ね上がり、レッドゾーンへ突入した事を示す警告音がコクピット内部に鳴り響くが、彼女はそれを全て無視して操縦桿を力一杯押し込む。
微かにしか見えていなかった光点は、既に右側のサブ・モニターを埋め尽くす程に巨大に成長していた。
(間に合って……!)
ティアンム提督がソロモン攻略の切り札として投入したソーラ・システムは多数の小型ミラーパネルをもって巨大な凹面鏡を作り、太陽エネルギーを集中して目標へ照射する兵器だ。
原理は原始的な太陽炉を大型化したようなものだが、ミラーパネルの枚数を増やすだけで容易に出力の増大を図ることが可能で、適切な制御がされた場合は、岩をも溶かす高熱が、目標の広範囲に襲いかかることになる。
ソーラ・システムの照射に巻き込まれてしまえば、ルナ・チタニウム製の装甲すらなんの用も成さない。
照射範囲から逃れる為にガンダムを上昇させるが、それによって発生した強烈なGがノエルの身体を真上から押さえつけてくる。
耐G性能を持つノーマル・スーツを着用していても、身体が悲鳴を上げているのが理解出来る程の痛みが襲ってくるが、歯を食いしばってノエルは耐えた。
身体全体がシートに押し付けられ、ベルトが身体に食い込む。酸素を十分に得られなくなった脳がエラーを起こし始め、ノエルの視界が激しく明滅するが──彼女は決して操縦桿を緩めない。
操縦桿を緩めてしまえば、生き残る可能性は完全にゼロになる事は間違いないからだ。
自分でも無意識のうちに叫び声を上げた瞬間、サブ・モニターからメイン・モニターまで侵食してきた閃光でコクピット内部が真っ白に染まった。
目も開けていられない程強烈な光を瞼越しに認識するが、苦痛は感じなかった。
(──生きてる)
ゆっくりと瞼を上げると、サブ・モニターを埋め尽くす程の警告が示されたコクピット内部の光景が目に飛び飛んでくる。身体全体を襲う酷い痛みも、今は生きている事の証明として嬉しく感じられた。
ふとガンダムのサブ・カメラが捉えた映像を見て、ノエルは思わず息を呑む。
(ソロモンが……焼かれているの……)
ソーラ・システムから放たれた膨大な太陽光線ビームは、艦隊の針路上に存在していた衛星ミサイルと浮き砲台を呑み込みながら、ソロモンのスペースゲートを粉砕しながら繋留艦隊もろとも一瞬で蒸発させた。
ソーラ・システムは焦点をずらしながら、要塞本体を抉るようにして照射を継続しており、宙域にいた守備部隊・要塞設備の双方に甚大な被害をもたらしたのだ。
『うっ……!?──貴方、まだ……!』
鋭い殺気に反応して直感的に構えた大型シールドにビームが着弾し、左腕マニピュレーターと共にシールドが砕け散る。ノイズが走るメイン・モニターに映るのは、ビーム・バズーカを握る右腕マニピュレーター以外の手足を失った青緑のリック・ドムの姿。
ノエルとガンダムがかろうじてソーラ・システムの太陽光線ビームから逃れたように、リック・ドムも同じように撃墜を免れていた。しかし、高機動型ガンダムよりも推力の劣るリック・ドムの限界を超えた代償なのか、熱核ロケットを搭載していた脚部は喪失している。
右腕以外を失った機体ではAMBACシステムを使う事も出来ず、ビーム・バズーカを放った際の反動を制御する事も難しい。──それでも爛々と輝くモノアイは、パイロットの狂気を宿しているかのように感じられた。
『諦めなさい。要塞本体と部隊にあれだけの損害を被ったのよ──ソロモンは陥ちる。投降しなさい』
『黙れ……!連邦という看板が無ければ何も出来ぬ有象無象どもが……!ソロモンは決して陥ちんのだ!ジオンの理想を理解せず、ただ歯車となって戦うだけの女には分かるまい……!』
リック・ドムのパイロットに向けて投降勧告を行うノエル。リック・ドムの機体各部からは火花が散っており、機体の損傷は見るからに深刻な状態だ。
もはやビーム兵器のドライブも出来ないのか、手にしたビーム・バズーカを撃ってくる様子も無い。
それでも、通信機に届いた声は頑なものだ。ジオンの勝利を信じて疑わず、決して投降勧告に応じようとする気配すら見せない。──もはや、狂信的とも言える。
『今こうしている間にも、お互いに多くの人間が死ぬ!こんな戦争が間違っている事が、なんでわからないの!?』
『我々は義によって立っているのだ!今更命を惜しむような兵など、ジオンの中にはいない!我々の後に続く者達の為にも、戦い続けなければならない!腐った連邦の捕虜になるような恥ずべき行為こそ、唾棄すべきもの!』
『そんな考えだから、いっぱい人が死んだの!人だけじゃ無い!貴方達は地球すら殺す気なの!?』
『重力に魂を引かれた俗物の戯言など、聞くに値しない!我々の真の戦いの後に残る結果として地球が滅びるならば、それも良い。どちらが正しかったのかは、後の世に生きる者が判断するだろう!』
ニュータイプして覚醒したノエルだが、自分でもニュータイプが何なのかという事を理解出来ているわけでは無いし、アムロ・レイすらそうだろう。
それでも
──この男を生かしておけば、いずれもっと多くの命を奪うだろう。軍人だけではなく、それに関係ない命すら。
『目の前の現実も理解出来ない男が!』
『我らの大義を理解出来ぬ女如きが!』
押し寄せる激情を抑えきれず、ノエルは叫びながらトリガースイッチを押した。右腕に装備されたガトリング・ガンが炎と弾丸を吐き出し、青緑に染められたリック・ドムの機体に、一瞬で無数の風穴が空いた。
まるで断末魔のように、一本だけ残った右腕がビクンと動いた後に、狂気じみた輝きを放っていたモノアイが黒く染まる。──もう、男の声は聞こえなかった。
■
バイコヌール宇宙基地から射出されるHLVで宇宙へ上がったジオン軍MS特務遊撃隊──レッド・チームの面々は事前にダグラス・ローデン大佐の
「無事に艦隊に回収されたのは良かったですが、我々は一体何処の戦場に回るんです?連邦軍に攻められてるっていうソロモンの援軍ですか」
「万が一ソロモンが陥落したら、次の目標はグラナダかア・バオア・クーだろう?それにしたって、今更ムサイ一隻で増援に行ってどうにかなるとは思えないがな。コンティ大尉。俺達はどこに連れていかれるんです?」
連邦軍の主力艦隊は軒並みソロモン攻略に出向いている事もあって、道中で攻撃を受ける事も無い。現在の主戦場はケンの言う通り宇宙要塞ソロモンだが、ガースキーの言う通り今更援軍に行く意味があるとは思えない。
行き先を知っているのは部隊の総司令官であるローデン大佐とコンティ大尉だけで、現状安全なのは良いものの、目的地がはっきりしないのはどうにもすっきりしない。
あまりコンティ大尉を好いていないガースキーが、ストレートに行き先を尋ねる。どうにもこの二人は相性が悪く、ケンとジェイクは毎回居心地の悪さを感じざるを得ないのが悩みだ。
「そうよ、コンティおばさんも知ってるなら教えてくれたって良いじゃない!格納庫にあったの、新型MSのゲルググよ。それも初期型の欠点を洗い出してブラッシュアップした高機動型。そんな貴重品をただのパトロール艦が載せてるなんておかしいわ」
メイの着眼点はメカニック特有のもので、ザクIIに続く本来の次期主力量産機であるゲルググがこのムサイに載っている事に注目していた。
ゲルググは高機動型ザクII後期型をベースに開発された機体で、カタログスペックではRX-78-2をも上回る性能を有しながらも、ザクIIの生産ラインを転用する事で高い量産性をも併せ持つ機体だ。
量産が急ピッチで進められている機体ではあるが、メイの言う通りたかがパトロール艦に配備される機体では無いし、まして彼女が一目で看破したように高機動型ともなれば尚更だ。
「コ、コンティおばさん……?」
「大尉は美人だが、メイからすればなぁ……痛ぇ!」
ボソリと呟いたジェイクの足を思い切り踏んだコンティ大尉の鬼の形相を見て、ユウキとケンは顔をしかめる。
ジェイクへの八つ当たりでおばさん呼ばわりされた鬱憤も多少は晴れたのか、息を整えたコンティ大尉がレッド・チームの面々に向けて話し始める。
「ケン少尉の言う通り、この艦はソロモンへ向かっています。ですが、それは援軍の為ではありません……ソロモンは陥ちるでしょう」
ソロモンが陥ちる。コンティ大尉の言葉を聞いて、レッド・チームは息を呑む。
ガースキーの言った通り、ソロモンが陥落すれば次の目標はグラナダかア・バオア・クーとなるし、そうなれば、サイド3での本土決戦すらありえない話では無い。
ケンはサイド3にジオンに人質にされている妻子がいるし、ガースキーも同様だ。彼らにとって、サイド3に攻め込まれる事だけは避けなくてはならない事態だった。
「我々はソロモンでサイド3から出港してくる予定のダルシア艦隊と合流。その後は、
「待ってくれ、コンティ大尉。いきなり過ぎて頭が追いつかないんだが……俺達は一体何をさせられるんだ。連邦軍の護衛艦というが、ダルシアとはジオン公国のお飾りの首相だろう?それをなんで連邦軍が護衛するんだ」
まるで予想していなかったコンティ大尉の言葉に混乱したケンが、矢継ぎ早に質問を投げかける。ジオン公国はその名の通りの公王制(君主制)を敷いており、権力を手中に収めたザビ家によって意思決定が行われている。
ダルシア・バハロはジオン公国の首相ではあるが、実質的な権限は殆ど無く、ケンの言う通りにお飾りに等しい存在だ。とても連邦軍が護衛しなくてはならないような人物とは思えない。
「
「し、しかし……どうして我々がそんな重要な任務に?」
コンティ大尉の言葉に驚かされるのは、部隊に所属してから何度目になるのか。彼女から聞かされた寝耳に水の和平交渉の話を聞いて、流石に狼狽えるケン。
戦争が終わり、家族の元に帰る事が出来るなら、それ以上に望む事は彼にとって存在しないが、それにしても何故外人部隊と呼ばれて蔑まれている自分達が選ばれたのか釈然としない。
──もっとも、その問いに対しての答えは簡潔だった。レッド・チームの面々が見た事の無い笑顔で、彼女はこう答えたのだ。
「だって、私達は全員ザビ家が大嫌いなんですもの」
少々遅くなりましたが、明けましておめでとうございます!
新年初めての投稿となります。
完結に向けてあと少しとなりますが、ソロモン攻略線はガトー達との戦いに焦点を当てて書く事を決めていたので、このような展開となりました。
(ちょっとガトーアンチみたいな書き方になってしまいましたが……)
アムロとアレックスを描写してしまうと、全部あいつ一人でいいんじゃないかな状態になりそうなので……